ジェネリック小壺 in リムベルド   作:棘棘生命(一旦再考中)

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掴む影

 雨から逃れるため、崖を登り坂を下って、時間が経った。リムベルドの崖には墓石が密集して建てられており、その様は生きた竜鱗のようだ。

 地図に記された大教会へ、僕たちはようやくたどり着く。倒壊し天井が吹き抜けになった教会の跡地には、首無しの霊体たちが屯していた。

 

 狭間の地において首の無い兵士とは、鐘のついた歩く霊廟を守る者たちであり、魂無きデミゴッドに殉じた騎士であった。僕が生まれたとき、この文化は既に廃れていたが、文献や各地の名残にその存在は刻まれていた。

 もしや僕の故郷では動きを止めていた霊廟も、この地には出現するのだろうか。僕は途端にわくわくしてきた。

 

 僕の後ろで、岩の拳を合わせる壺が三体。彼らは首無しの兵士たちと戦うことを望んでいるようだ。僕ら壺は、死と魂を継承する種族である。だから、死して尚使命を果たさんとする兵士に尊敬の念を抱くのだろう。

 夜に飲まれた者に安息はない。霊廟が近くにない以上、彼らは使命を果たせずただ苦しむだけである。僕もまた気持ちのままに、拳を握った。

 

 

 夜渡りたちに続き、僕たちも戦闘へと入る。すると、兵士たちは煙のように姿をくらまし、先ほど立っていたところからずれた位置に現れた。その独特の戦法に僕は翻弄される。攻撃は空を切り、背後から切り付けられるのだ。

 そのとき、僕の横を、重力を感じさせないステップで通り過ぎる女性がいた。隠者はとんがり帽子を目深に被り、虚空を掴むような仕草をした後、両手を複雑に動かした。青と赤色の炎が首無し兵を包囲するように飛び、絡めとる。

 

 

「見たことない魔術だ…!」

 

 

 レアルカリアの魔術でも、咎人たちの異端の魔術でもない、未知の魔法。僕に瞳があったら、きっと高揚で輝いているだろう。その後隠者は、地面に突き立てた杖から『重力弾』を放ち、僕や夜渡りたちに向けて柔らかく微笑みかけた。

 隙ができた首無し兵を、炎に包まれた大剣で追跡者が叩き斬る。守護者も堅実に立ち回り、穂先で消える兵士を追撃する。

 掃討が始まった頃には、僕も壺たちも兵士の特殊性に慣れ、攻撃を十分に通せるようになった。

 

 そして僕たちは追跡者を先頭に、大教会の下、大きな穴へと入り込み、霊廟騎士を相手取る。夜渡りの猛攻によって霊廟騎士が倒れるのはすぐのことであった。

 

 

 霊廟騎士の内にあった力を得て、木箱に入れられた聖印や道具を拾い集め、次の場所へと向かう。

 追跡者が手に入れた鍵によって封牢が開かれ、現れた坩堝の騎士や忌み子。廃墟に根ざしていたミランダフラワー、氷嵐を振りまくザミェルの古英雄。僕らは数々の敵を打ち倒し、自身の力を強化していった。

 

 しかし、あまりにも順調すぎる。正気を失っているか、意思を持たない敵であるのが理由だろうか。僕は今までの探索もこのようなペースで行われていたのかを尋ねた。

 守護者が嘴を開く。彼は伏し目がちに、追跡者を見た後言葉を発した。

 

 

「此度の戦いは出来過ぎているほどだ。…今まで私たちは気配を追い、掴む事すらままならなかった。剣士殿が数え切れぬほど、夜を追っても尚…。壺殿たちの協力あっての余裕だな。」

「そうかな?夜渡りさんたちの強さはすごいよ!あっという間に敵を倒しちゃったし!」

「…夜の気配は薄く、搔き消える。今回はどうだ。」

 

 

 追跡者は空を見て、静かに呟くように言う。空にはいつの間にか、霊樹の根が浮かび上がっていた。

 

 

 雨が強まり、僕たちは霊樹の根の中心へと誘い込まれた。落ちてくる暗い靄の中からは、正気を失った混種と調香師、貴人たちと繋がりを感じさせない集団が現れる。まるで夜という事象が意思を持ち、外敵を排除しようとしているかのようだ。

 僕と壺たちは、炎に耐性がある。そのため僕は、調香師を優先して相手取ることとした。

 

――――――――――

 

 夜渡りと壺たちはそれぞれの技を駆使して、現れた敵を倒していく。

 

 大きな壺によって囲まれ集められた調香師、貴人を守護者が睨みつける。そして守護者は風を起こして一時的に空を飛び、急降下した。倒れ、夜に消えていく貴人たち。守護者は走り、隠者の盾となる。

 追跡者は鉤爪を飛ばし、混種を引き寄せる。そして火脂を素早く塗り、大剣を横薙いだ。それだけで混種は叫び、翼を閉じて地面へ叩きつけられる。彼は隙を逃さず、空から引きずり下ろした混種たちに致命の一撃を放っていった。

 

 隠者は、所持している杖を状況に合わせて持ち変え、放った術の属性を吸い取っていく。混成魔法、彼女が探究し作り上げた独自の技は、強烈な閃光を以て広範囲を吹き飛ばす。

 

 

 制圧された小さな靄は消え、寄り集まり、やがて大きな影が出現する。夜渡りたちはそれぞれの間合いで構えた。

 影の正体が明らかになる。全身に茨を巻き付けたような鎧。かつて数多の師範、商人たちを殺し、恐れられたという咎人。『鈴玉狩り』の姿がそこにはあった。

 

――――――――――

 

 僕は動揺を露にしながら、目の前の影を見る。まさか日陰城の新たな主までが、夜に取り込まれているとは。

 鉄茨のエレメール。マレーマレーという、ミケラの刃マレニアの信奉者である男から実力で城を獲り、自身の死刑執行のための剣を得物とした恐ろしき人物である。

 彼も僕の生きた時代では過去となり既に世を去っているが、かつての強さと風貌は記録に残されている。マレー家に代わる、新しき処刑人の一族として。

 

 

「追跡者のお兄ちゃん、あの方も意識はないみたいだね。」

「ああ。お前は、奴のことも?」

「ううん。正気だったとしても、僕たちを割りに来ると思う。エレメールさんは、そういう戦士だったはずだよ。」

「…元の名前か。」

 

 

 僕はゆっくりと迫ってくるエレメールの虚ろさに身震いしながら答える。追跡者は僕の横で鉄杭を準備し、僕に確認を取った。

 リムベルドに来て短いが、僕には分かる。夜とは飲み込んだ存在を虚ろにし、輪郭だけを残す。それは霊樹に近ければ近いほど顕著に表れる様相であると。

 僕が駆けるのと同時に、追跡者も走り出す。夜に飲まれたエレメールを倒し、少しでも逃れさせたいがために。

 

 

 僕と追跡者、守護者が前衛となり、隠者が後衛を担当する。壺たちは見た目からして守りの薄い隠者を防護するため、後ろに固まった。エレメールが使う剣技は、容易く戦士の体を貫き、骸から鈴玉を奪っていくと聞いていた。

 僕は壺たちに無理をして割れてほしくはないため、下がってくれたことにほっとした。

 

 エレメールが剣の残像を回転させながら飛ばす。唯一無二の技だ。僕は守護者の盾に隠れながら、ヒットアンドアウェイの戦法で攻撃していく。

 反対に追跡者と守護者は怯むことなく突貫し、剣技を受けながらもそれぞれの大技を繰り出した。火炎と共に突き出す楔と、風を起こしながらの突進である。二人の鎧の損傷は軽微であり、エレメールに爆風が浴びせられる。

 

 だがエレメールもまた、凄まじく強靭な肉体を誇っていた。これだけの技を受けながらも体勢を崩すことなく、守護者を掴んだのだ。彼は空中へと持ち上げられ、大剣を頭から叩きつけられる。

 追跡者は冷静に彼を横目で見ながら、エレメールの腕を剣先で狙い突き刺した。

 

 

「…お兄ちゃん!これを!」

 

 

 僕は倒れ伏す守護者に聖杯瓶をかけ、傷を癒やそうとする。しかし彼の体には暗い靄が纏わりつき、液体を受け付けない。僕は飛んでくる斬撃を間一髪で避けながら、対策を練る。

 そのとき、守護者の背中へ輝石の光弾が突き刺さった。見ると隠者が守護者に向かって魔術を撃っている。

 何故味方に攻撃をするのか。僕は理解が及ばない状況に慌てた。

 

 

「申し訳ない、先生。この恩は別の戦場で返します。」

「え!お兄ちゃん、体、大丈夫なの!?」

 

 

 その直後、守護者が隠者に礼を言いながら起き上がったのだから、更に思考は停止する。戦闘中だというのにだ。

 隠者は微笑み、エレメールへの攻撃に転じた。守護者を攻撃したのは気の迷いではないようだ。

 

 疑問は後々解消しよう。僕は背負い鞄から自作の火炎壺を取り出し、エレメールに投げつけた。

 

 

 エレメールはずしりとした足運びであったが、夜渡り三人の攻撃を受けて動きは鈍ってきていた。エレメールがゆっくりと間合いを詰める戦い方である故に、中距離を保つようになった追跡者に攻撃が通らず、鉤爪を使った高機動戦に後れを取り始めたのだ。

 安定しておりかつ攻撃力の高い魔術を使う隠者が支援し、守護者が大盾で猛攻に耐える。また僕が頻繁に注意を引き付けるため、エレメールの体の損傷はひどくなっていき、やがて膝をついた。

 

 追跡者の楔と守護者の突撃がもう一度当たり、エレメールは大きく損傷する。とどめの一撃が守護者によって放たれ、全身から粒子を出しながらエレメールは消え去った。

 

 その瞬間僕は、大気に消えようとする粒子に向かって跳躍し、その一握りを壺の中へとおさめる。ゴドリックのときはできなかった、戦士への敬意と弔いを込めた儀式。

 僕は彼と戦えたことに感謝を込め、彼の一部と共に高みを目指すことを望んだ。

 

 

 その後、僕の体へどろりとした何かが落ちてきた。指で掬うと、それは半透明な液体であった。僕の近くに集まってきた皆は上を見上げている。ぽたりぽたりと液体は垂れ、その様子に対して守護者が呟く。

 

 

「…やはり、予感とは信じてみるものだな。」

「ふふ…。次こそ、辿り着けそうだね。」

 

 

 隠者は興味深そうに液体をながめ、中心に出現した靄の中へと歩いていく。追跡者と守護者も彼女に続いた。

 聞きたいことが沢山あったが、それも戻ってからにしよう。僕は壺たちに感謝を述べ、共に靄へと入り込んだ。

 

――――――――――

 

 霊樹の先で、悲しげに獣が鳴く。三つ首の異形、巨大な剣を得物とする狼。

 

 燃え盛る火炎は、夜に反射する液体へ、確かに混ざっていた。

 

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