嫁になりたいなら障害くらいあって当然だよね
ナナちゃんってばマジ癒し
「こんにちは」
「ユノさん!?帰ってたんだ!」
「もぅ、ユノで良いって言ってるのに」
「あ、あぁ、ごめん。つい………」
「ふふっ、まぁいいけど」
「それで、今日はどうしてここに?サツキさんは?」
「サツキはラウンジで休んでる。私はみんなにお土産と………あとは」
「?」
「………君に、逢いたかったから」
「えっ」
「………」
「セーンパイ♪」
「おっと」
「ねぇ先輩!神機の調整、付き合ってもらえる?」
「調整?別に良いけど………ギルとかコウタさんじゃダメなのか?」
「わたしは先輩に頼んでるの!ほら、速く行こっ!」
「うわっ、ちょ、エリナ!」
「………」
「教官先生!今よろしいでしょうか!?」
「カノン?大丈夫だけど………」
「よかったぁ………あの、コレ!今、ムツミちゃんと一緒に焼いてきたんです!」
「へぇ、ムツミちゃん、と………なにこれ」
「新作です!名付けて、ラグナロクッキー!です!ふんす!」
「へ、へぇ………ずいぶん独特な形を………」
「味はムツミちゃんの太鼓判を頂いてます!ささ、どうぞお一つ!」
「じ、じゃあ………いただきます」
「はい!」
「………あ、おいしい」
「そうでしょう!なんと言ってもムツミちゃんのお墨付きですから!」
「いや、やっぱりカノンが作ったからじゃないかな」
「ふぇ………あ、ありがとう、ございます」
「………」
「カルビ………どうやら私と同じように、隊長を慕っている女性は多いようです………」
「きゅるるー」
今日も今日とて隊長の姿を追う副隊長。
恋心を自覚したはいいが、具体的なアプローチの仕方なぞわかるわけがない。
どうにかして隊長と今以上に仲良く、あわよくば嫁になりたいと、どっかの残イケな隊長のせいで若干暴走気味な願望を持ったシエルだが。
その課程で判明したのは、自分と同じく隊長に好意を寄せる複数の見目麗しい女性達。
歌姫でありブラッド隊の戦友と言っても過言ではない葦原ユノ。
極東支部第一部隊所属で、ブラッド隊長の指導を受けめきめき頭角を表しているエリナ・デア=フォーゲルヴァイデ。
第四部隊所属、《誤射姫》の異名を持ち、普段はおっとり系の優しいお姉さんだが戦闘になるや豹変する第一世代ブラスト型神機使いの台場カノン。
先程目撃した光景、彼女達の表情は間違い無く朝鏡で見たシエルの顔───恋する乙女の顔だった。
「由々しき事態です………確かに魅力的な人の周りには自然と人が集まりますが………」
かくいうシエルもその一人、それほどまでにブラッド隊長のカリスマというか人徳というか魅力はかなりのレベルなのである。
「シっエールちゃーん!」
「きゃっ!?な、ナナさん!」
考え込んでいたら、後ろから友人である香月ナナに抱きつかれた。
その背にはやはりというか何というかおでんパンの袋が。
「どうしたの、シエルちゃん。この間から何だか変だよ?」
「い、いえ、その………」
そこまで言って、シエルはふとナナを見つめる。
まるで猫科動物を思わせるピンと立った二房の髪、無垢な子供のように一喜一憂する姿、やや幼い顔立ちと天真爛漫といった感じの明るい性格と笑顔。
あとおでんパン。
今は亡き、敬愛するロミオ・レオーニが担っていた隊のムードメーカーの役割を一身に背負う彼女も………考えたくはないが………もしかしたら
「し、シエルちゃん、そんなに睨まないでよぅ………」
「いえ、睨んでは………あの、ナナさん?」
「な、なに?」
「ナナさんは、その………隊長のことを、その………好き、だったりするのですか?」
「え?うん。好きだよ」
なんということでしょう
思わずそう口にしたくなったのをシエルは鋼の精神力で抑えつけた。
大切な友人の彼女までもが恋敵、あんまりな事実に目の前が真っ暗に………
「ギルも好きだしー」
真っ暗に………
「レア博士もフランさんも………もちろん、シエルちゃんも大好き!」
………あれ?
「な、ナナさん?」
「ん?」
「えっと………」
………何てことはない。
ナナにとって、同期である隊長は大切な友人だし大好きだが………ただそれだけ。
彼女にしてみればブラッド隊は家族なのだ。それは先代の隊長、ジュリウス・ヴィスコンティが口にしていたことでもある。
それにこう言っては何だが………ぶっちゃけナナは色気より食い気の傾向があったりもする。花より団子である。
「いえ、なんでもないです………」
「んー、よくわからないけど………」
ナナはシエルの手を取り、今度はナナがシエルを見つめる。
「私にできることがあったら、何でも言ってね、シエルちゃん」
「ナナさん………」
「できることっておでんパンあげるくらいしか無いけど、でも私、シエルちゃんの味方だから」
「………」
真っ直ぐ、真剣な眼差しで見つめながら告げるナナ。
それを見て、その言葉を聞いて、シエルの胸中は暖かいもので満たされていった。
「………ありがとうございます、ナナさん」
「にへへー、どういたしましてー」
「………でも口元に食べかすが付いてますよ」
「ふゃっ!?ちょっ、もっと早く言ってよー!」
◇◆◇
「お疲れ様です、隊長」
「あれ、今はフランさんなんだ」
「はい。ヒバリさんが休憩に入っているので。………それよりも、よろしいですか?」
「?」
「先日の任務の報告書、少々不備が見受けられましたので、後ほど修正したものをお願いします。こちらです」
「え?………あー、本当だ。疲れてたからかな………ごめん、すぐに直すよ」
「お待ちしております」
ブルータスお前もか
シエルの思いはだいたいそんな感じ。
一見何の気もないように思えるがあの眼差しは間違い無い、間違えようもない。
(ライバル多すぎです………)
でも負けない。今の自分は副隊長、隊長を補佐し、支える立場にあるのだ。
「隊長」
「あ、シエル。どうかした?」
「いえ、その報告書、時間がかかりそうですか?」
「げっ、聞いてたのか………いや、細かいところが二つ三つあるだけだからすぐに終わりそうだよ。………でも、なんで?」
「いえ、よろしかったら、その、ブラッドバレットのことで、少々ご意見を伺いたく………」
「あぁ、なるほどね………わかった。ちょっと待ってて、ちゃっちゃと終わらせるから!」
「はっ、はい!」
走り去る彼の背中を見つめながら、シエルは思う。
(私は、私にできる精一杯を頑張ります)
───だからいつか、私だけを見てくださいね?
ヤンデレ臭なんてしないよ、シエルちゃん乙女だから!
作者の中でキャラエピは「フラグ立て」という認識です、はい