Monster Hunter:Horizon 作:ちくわ
水平線の向こう、かすかに見えてきた。
物語の始まりの地
僕の始まりの地
「海の街 セルマー二ェ」が。
先の出来事から1時間と少し、リオレウスの襲来以外おおむね順調に進んだ航海はついに終わりを迎え、目的地である街の港に船が到着した。
エ「ふう」
エルフォは一呼吸付いて、他の乗員に混ざって船を降りる。
トントンと木製の階段を下りていると、桟橋の奥に人影が二人立っているのが見えた。
年老いた女性と、幼さの残る少女。
階段を降りきったエルフォが近づくと、二人は同時に深々と頭を下げる。
アナ「海の街 セルマーニェの街長を務めております、アナヴィーと申します。以後、お見知りおき下さい。」
先に話し始めたのは少女のほうだった。
見た目と相いれない口調の丁寧ぶりに心の中で驚きつつ、だがすぐに視界に映る長い耳と、四本指の手が目に入る。
なら納得だ。彼女は「竜人族」のようだ。
アク「同じく、ギルドマスターのアクシアです。よろしくどうぞ」
次に老婆が喋る。
こちらは普通の人間のようである。かなりの高齢のようだ。
アナ「エルフォさんですよね、お伺いしております。」
エ「あ、そうです。よろしくお願いします」
アナ「この街のハンターになっていただけると伺っております。私たち一同、心より感謝申し上げます。改めて、どうぞよろしくお願いします」
エ「…。」
この街のハンターになっていただける、その言葉が胸に響く。
エルフォはハンターとしてはまだ駆け出しもいいところであり、生まれ故郷のリーヴェルで少し訓練を受けただけで、経験則で言うと素人に毛が生えたも同然である。
彼がここに来たのも、この街がハンターを募集しているという通達と、ニーシァ諸島への憧れというなかなかざっくりとした理由のみ。しかし、そのざっくりとした理由を引きずって、エルフォは今ここにいる。
“この街のハンターになっていただける”改めて、その言葉が胸に重く響いた。
エ「よろしくお願いします!」
エルフォも二人と同じように頭を下げる。アクシアが微笑んだ。
エ「…それでえっと、何かご用件が?」
アク「ああいや、大したことじゃないわよ」
アナ「エルフォさんがいらっしゃるということで、我々からの挨拶と、この街をご案内したくまいりました。」
エ「あ、わかりました。よろしくお願いします」
そのまま二人は歩き出し、エルフォもその後を追っていく。
わくわくした気持ちと、ほんの少しの心配が胸の奥で同居していた。
ー海の街 セルマー二ェー
「白壁の街」とも呼ばれるこの街は、白と翡翠色を基調とした石造りの家々が、海風になびく布と共に通りに色を添えている。
また、普段着も独特な意匠が見られ、インナーの上にキトン風のローブをを羽織るのがこの街の伝統的な衣装らしい。とはいえ、着る服自体は個人個人でまちまちであるらしく、伝統的な衣装を着る人もいれば、よく見かけるような服を着る人もいる。そこは個人の好き好きなのだろう。
人口は多くもなく少なくもなくといった雰囲気で、こじんまりとしつつも街には活気がある。特に子供が多いのか、坂道を駆け下りながらリオレウスごっこで遊んでいる姿が見えた。
「街長さーん!ババ様もー!おはよう!」
「ハンターさんだー!こんにちはー!」
「何の武器?双剣?それとも太刀!?シャキーン!!」
アナ「こらこら、あまりはしゃぎすぎると怪我をしますよ」
アナヴィーがやんわりとたしなめると、子どもたちは「はーい!」と元気に手を振り、そのまま駆け去っていった。
エルフォは笑いつつも、どこか気が抜けそうになった気持ちを引き締め直す。今は観光じゃない。
子供たちとは軽く話をしてから離れ、再び案内が続けられた。
…
アク「それでは、ハンターさんのお役に立つ場所を、色々と案内しましょうか」
エ「ありがとうございます」
街をぶらぶら歩いて景観を観察したところで、次は施設の案内のようだ。
最初に案内されたのは、通り沿いの小さな雑貨屋。
「いらっしゃいませ!あら、街長にババ様まで!」
店から出てきたのは、30代前半ほどの女性。ここの屋主だと思われる。
明るい声と人懐っこい笑顔が印象的だ。
アク「こんにちはドリアナ。今日からこの街のハンターになる子をつれてきたわよ」
ド「まあ、ハンターさん…」
エ「こんにちは、エルフォといいます」
ド「エルフォ君ね、私はドリアナ。この雑貨屋は狩りの役に立つアイテムをそろえてるから、回復薬とか解毒薬とかいろいろ買っていってね」
エ「助かります」
ド「それと、初めましてのプレゼント。はい!」
ドリアナは店の棚から一本の瓶を取り出し、エルフォの手に置く。
瓶の中には緑色の小さな果実が数個。
エ「これは?」
ド「オリーブ!ここら辺の土地ではよく採れるの!それでね、このオリーブについてなんだけど」
アナ「ドリアナさん、長話になるでしょう?それはまた今度にしてください」
ド「はーい」
気さくなやり取りに、エルフォの緊張も少し和らいだ。
軽いやりとりの後、次の案内場所へ向かう。
アナ「次は…ここですね。」
エ「ここは?」
アク「研究所。ここでモンスターやら環境生物やらの調査を行うの」
エ「おお!」
研究所という響きに、エルフォの期待は高まる。「ニーシァ諸島生物図録」の謎が、ここで何かわかるかもしれない。
エルフォは嬉々として研究所内に入った。
建物の中は静かで、紙と埃の匂いが混じった独特の空気が漂っていた。
「お!街長様とギルドマスター様と…どちら様で?」
「お客さんじゃない?」
出てきたのは、20代ほどのそっくりな顔立ちの若い男女。どうやら双子のようだ。
エ「あ、こんにちは。エルフォといいます」
アク「今日からこの街のハンターになられる方よ」
「ハンター…ですか。」
「まあ、しょうがないよ」
エ「…。」
バ「…自己紹介が遅れましたね、ワタシはバモルです!」
パ「ボクはパモルだよ。よろしくね」
エ「名前が似てるんですね」
パ「双子だからね。姉弟だけど。ボクが弟で、バモルが姉」
バ「二卵性双生児というヤツです!」
エ「なるほどです…ところで」
パ「?」
エ「この本、知ってますか?」
エルフォは懐から「ニーシァ諸島生物図録」を取り出し二人に渡す。
バ「ムムム?」
パ「うーん」
二人はこの本を知らなそうだ。
パ「知らない本だね、、、ちょっと借りていい?調べてみたいかも」
エ「お願いします」
二人に本を預け、エルフォは研究所を出た。
違和感を感じる。というかもう気づいてはいる。
エ「…すみません」
アナ「?」
エルフォは歩きながら、気になっていたことを二人に問いかける
エ「皆さん、ハンターに対して何か事情があるんですか?」
アク「…。」
エ「あ、えっと、ドリアナさんも、バモルさんたちも……なんというか、ハンターって聞いた途端申し訳なさそうというか、気を使っている感じになっていたので」
アナ「…とりあえず行きましょう。」
エルフォの提唱をアナヴィーが遮り、黙って歩き出す。
アナ「さて、次が-」
バン!ガシャン!
エ「!」
これから入ろうとする建物から大きな音がする
机が倒れて、皿が割れたような音。
エルフォは反射的に建物の中に駆け込もうとする
エ「…。」
その中央には人が立っていた。
床には倒れた机、散乱したジョッキ。。
立っているのは女性で、よく見ると右腕がない
「カルシラさん大丈夫!?」
「カルシラ!」
建物の奥から二人の人物が慌てて出てくる。親子に見える、中年男性と若い女性。
「う、うぅぅ」
女性、カルシラ?がうずくまって嗚咽を上げ、中年男性がその背中をさする。
どうやら精神的にとても不安定な女性らしい。
「…!」
奥から出てきた若い女性がこちらに気づき、目が合う。
自分と同じくらいの年齢?
「!」
若い女性は腕をクロスさせ、カルシラ?に見えないようにこちらに向かって目を見開いて叫ばずに訴える。おそらくはバツ印。
「入ってきちゃダメ!」と言っているのだろう。
それ以上踏み込むべきではない。エルフォは静かに引き返した。
エ「…ええっと」
アク「…彼女は…」
アナ「とりあえず、今日は、これで案内を終わりにしましょう。エルフォさんのご自宅までご案内します」
何か言おうとしていたアクシアに言葉を遮り、アナヴィーは歩き出す。
アク「…今日は疲れたでしょう。しっかり休んでね。明日もう一度街の案内をするから」
アクシアの声が、どこか気まずげに聞こえる。
そのままエルフォはマイハウスまで案内され、そこでやっとエルフォは一人きりになった。
まだ昼過ぎだが、眠るには悪くない時間帯だ。エルフォは布団に身を投げ出し、大きく息を吐いた。
エ「…。」
そしてそのまま、静かに眠りに落ちていった。
…
……
………
ガタッ
……………
………………
…………………
「…ーん」
……………………
「…ん、わ…」
………………………
?「うにゃあ!!」
エ「わあぁ!!」
突然聞こえた大きな声により、寝起きのまどろみが一瞬で覚める。
ガバッと強く起き上がったエルフォは、瞬時に立ち上がり警戒する。
エ「だ、誰!?」
周囲をよく見ると、部屋に置いてあったタルが倒れており
その中から小さい帽子と猫耳が見えた。
?「いたた…張り込み調査のつもりが、寝落ちしちゃったのニャ…」
エ「…。」
タルの中から出てきたのは、茶色のコートを着た、獣人族「アイルー」だった。
?「でも、バレてしまったなら仕方ニャい!」
そのアイルーはさっと立ち上がり、ビシッと指をさして言う
シャ「僕の名前はシャラン!海の街 セルマーニェで大活躍中の名探偵…見習い…だニャ!!」
エ「名…探偵……?」
突然の展開過ぎて脳が理解できない。
探偵が何故自分の家に?何の調査?
…というか、そもそもなんでこの子は不法侵入してるの?
シャ「…む、まさかキミ、探偵を知らニャいの!?」
エ「いや、そうことじゃないけど…」
シャ「じゃあニャんでそんな『?』って顔してるのニャ?」
エ「ええっと、まず、君はなんで僕の家にいるの?」
シャ「ムム!そりゃあキミ、『張り込み調査』ですニャ」
エ「…張り込んで調査されるようなことしたっけ…」
シャ「されるようニャことも何も!街長とババ様と共に街を歩く見知らぬ人物…怪しいに決まってるニャ!」
エ「えええ」
そういい終えて、シャランはエルフォに飛びかかる。
シャ「さあ吐けニャ!スパイか!ギルドナイトか!!Fリーメイソンか!!!」
エ「違う違う!というかFリーメイソンはダメ!!…そんなんじゃなくて、僕はこの街のハンターになったエルフォだよ…」
シャ「ニャ…そうニャのかぁ。最初からそう言ってくれればよかったのに…」
エ「いや、そう言おうとしたんだけど…」
アナ「おはようございます。もう起きられていますか?」
ドアの外からアナヴィーが声をかける
完全に意識外だったが、外はもう朝日が昇っており、次の日が来ていた。
エ「あ!起きてます!」
シャ「街長!おはようございますニャー!」
アナ「あら、シャランさん。丁度クノーさんが探していましたよ。」
シャ「うにゃあ!師匠!すぐ戻るのニャ!」
シャランは大慌てでマイハウスから飛び出していく
エ「…なんだったんだ」
アナ「案内を開始して大丈夫ですか?」
エ「あ、おねがいします!」
そうして、2日目の案内が開始される
エ「…アクシアさんは?」
アナ「エルフォさんの手続き中です。しばらくしたらこちらに合流しますよ。」
エ「…!」
手続きということは、ハンターズギルドへの登録ということだろう。
これで自分も、晴れてHR1というわけだ。なんだか感慨深い。
アナ「…さて、着きましたよ。」
最初に案内されたのは、こじんまりとした建物
看板には「クノー探偵事務所」の文字
エ「…。」
いやな記憶がよぎる。…特に、少し上にスクロールした時の記憶。
ドアを開けると、そんな嫌気を吹き飛ばすような落ち着くにおいがした
?「いらっしゃいませ」
建物の中にいたのは、年配の男性。眼鏡をかけ杖を突き、落ち着いた印象を見せている。
そして、数行上で暴れていたアイルー…
シャ「あ!さっきの!Fリーメイソン!」
エ「だからFリーメイソンはダメだって!」
?「おや、シャランとお知り合いで?」
シャ「うにゃあ!この人はその…この街のハンターになる人ですニャ!」
エ「あ、この街のハンターになります、エルフォと申します」
ク「ふふ、まあ何かしらうちのシャランがお世話になったようですね。私はクノーといいます。昔はハンターをやっていたのですよ」
エ「おお!」
ク「といっても、もう引退していますがね。探偵業はその延長線です」
エ「具体的にどんなことをするんですか?」
ク「ふむ、例えば何かしらモンスターの被害にあって、その元凶が分からないといったときに、周囲の痕跡等からモンスターを特定してクエストを発注したりですね」
エ「ふむふむ」
ク「凄腕のハンターさんなら自力でできなくもないのですが、新人の方やそういうのが得意じゃない方もいますので、私のような引退した身が探偵としてサポートを行っているのですよ」
エ「なるほど!」
何とも頼りになりそうな人柄に、エルフォは心底安心する。
シャ「そしてボクは、そんな探偵の弟子ニャのである!」
エ「…。」
多少呆れながらも、クノーさんに挨拶をし次に向かう
次の場所へ案内される途中、家と家との間の路地裏に、黒っぽいテントが見える。
エ「あれは?」
アナ「あ、あれは占い屋です。…狩りの役に立つかもしれませんし、立ち寄りますか?」
エ「行ってみたいです」
アナヴィーとエルフォは黒いテントの中に入る
何とも怪しい雰囲気だ。
?「…ようこそ…」
怪しい雰囲気に包まれ、怪しい雰囲気の人が語り掛ける。
手元には大きなライトクリスタル。
?「…街長と…見慣れぬハンター…初めましてだね…」
エ「…そうですね」
ル「…我はルルゥ…この占い屋で占いを行うもの…以後よろしく…」
エ「あ…お願いします…」
ル「…で…」
エ「?」
ル「…占いに来たのではないのか…?」
エ「…あ…お願いします…」
ル「…よろしい…ならば初回限定…我も全力で占おう…」
ルルゥはそういうと、手元のライトクリスタルに意識を集中させる。
ル「…ムムム…!」
エ「…ゴクリ…!」
ル「…嵐に打たれようと…希望をもって飛び立つべし…」
エ「…。」
ル「…ふう…占いは以上だ…」
エ「…抽象的過ぎて全くわかりません…」
げんなりするエルフォに、ルルゥは微笑む。
遊び半分ではあったが、拍子抜けしすぎて少し頭が冷静になってきた。
エルフォとアナヴィーはテントを出て、目的地へと向かう。
次に案内されたのは、昨日も来た建物
あの女性が暴れていた建物だ。
エ「…。」
アナ「まあ、入りましょう。」
中に入ると、バツ印のほうの若い女性がいた
?「お!ハンターさん!いらっしゃい!!」
思ったより快活な挨拶に、少し戸惑う
ファーストインプレッションが最悪なだけに、なんだか拍子抜けだ。
?「お父さーん!ハンターさん来たよー!!」
?「おう!今行くからなー!」
奥から昨日の男性も出てくる
ギ「ようハンター!俺はギロスだ!」
マ「うちはマリス!よろしくね!」
自己紹介を行う二人は、昨日のイメージからはかけ離れすぎるほどに明朗快活であった。
エ「あ、よろしくお願いします…」
アナ「ここは加工屋です。武具の加工などを行う場所ですよ。」
ギ「そして、ハンターたちの集会所でもある!集会加工屋ってことだ!ガッハハ!!」
エ「集会加工屋?」
マ「もともとはただの加工屋だったんだけどね、この街には集会所がないから、お父さんが勝手に改造しちゃったの!それで集会加工屋ってこと!ワッハハ!」
最初に見かけたときから親子だとは思っていたが、それにしても似ている二人である。
笑い声とか、声量が大きいところとか。
ギ「とにかく、武具の加工は俺たちに任せてくれ!」
エ「ありがとうございます!」
アナ「では、次の場所に行きましょうか。」
アナヴィーに連れられ、エルフォは建物を出る。
マ「あ!ちょっと待って!」
エ「?」
立ち止まるエルフォに、マリスは耳打ちした。
マ「昨日はごめんね…」
エ「…。」
拍子抜けした勢いでまた忘れかけていたが、やはり昨日のことは現実である。
返す言葉が見つからず、無言のままその場を後にする。
アナ「さて、次で案内は最後です。」
エ「わかりました。…そういえば、アクシアさん来ませんね」
アナ「ここまで合流しないとなると、案内先にいるのでしょう。」
そうして歩いているうちに、次の案内先に着いた。
そこは、自分がこの街に降り立った桟橋に近い船着き場。
アナ「ここが、クエストカウンターです。」
エ「おお!」
クエストカウンター。
ここでクエストを受注し、そのまま船に乗って狩りに出るんだ。
具体的なイメージが脳裏に浮かび、何ともワクワクする。
アナ「アクシアは…いましたね。」
アク「あら、アナヴィー。それにエルフォ君まで。待ってたわ」
予想通り、アクシアはそこにいた。
もう一人、昨日暴れていた右腕のない女と一緒に。
エ「…。」
アク「…さて、では紹介しましょう」
右腕のない女性はエルフォに近づき
凛として落ち着いた口調で話し始めた。
カ「はじめまして。貴方の教官を務めるカルシラといいます。今後ともよろしくね。」
エルフォはひどく動揺した。