Monster Hunter:Horizon   作:ちくわ

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バタフライ

エ「……はあっ…はあっ…」

 

エルフォは逃げていた

 

エ「…はっ…はっ…はっ…!」

 

揺れ動く巨体から、躍動する二足から、しがみつく怪光から

 

逃れられぬ暗闇から

 

 

時は遡って2日前…

 

 

バンッ!!

 

バ「エルフォ殿!」

 

力強くドアが開けられ、明るい声がマイハウスに響く。

朝も早く、研究者バモルがマイハウスにやって来た

 

エ「フガッッ!」

 

バ「おはようございます!…起こしちゃいました?」

 

エ「いえ…じぇんじぇん大丈夫でしゅ…ふあ…」

 

バ「えーと、それより!クエストの用意ができました!」

 

エ「…了解です…ふああ…」

 

エルフォは顔を軽く叩き、支度をする。

 

海の街セルマーニェは長らく『モンスター・ラン』という怪現象を調査してきた。

海に生息するモンスターが自身の生息域を離れ、他の地へ流れ着くという性質を持つこの現象は、海洋生態系へ影響を与えるものとしてはいるが、流れ着くモンスター自体は小型モンスターが主であり、どれもすでに死んでいるか数分後に死んでいる。緊急性は低いものと思われ、調査は滞っていた。

しかし、この現象に進展があった。大型モンスターでの事例が確認されたのだ。

 

 

 

パ「改めて説明するね」

 

エ「お願いします」

 

パ「今回確認された『モンスター・ラン』の事例は、この街の管轄の島「ニーシァ諸島」での報告だよ。

発見対象は「エピオス」で、複数が浜辺に打ち上げられて死んでいた。

痕跡のみの憶測になるけど、犯人は大型モンスターの、人魚竜「イソネミクニ」だと考えられる」

 

エ「はい」

 

パ「ということで、今回発注するクエストは、ニーシァ諸島「カルス島」の海岸地帯での痕跡調査…ってところだね。実物を発見できればうれしいけど、狩猟しようなんて思わないようにね。勝てないから。」

 

エ「…了解です」

 

勝てないから。わかってはいるけれど、少し悔しい。

 

今回のクエストは、カルス島の海岸地帯での痕跡調査。分類でいうと「探索クエスト」ということになる。

エルフォは大型モンスターへの接触以外の自由行動が許可され、比較的自由に調査が行える。

 

パ「なんなら、街の人にお話を聞いて、サブクエストを用意してもいいかもね」

 

エ「ですね」

 

エルフォはふうと一息つく。さて、街の人たちに話を聞こう。

 

 

小一時間後…

 

 

ヨォ「キュ~」

 

カ「…で、サブクエストはどんな内容なの?」

 

船の上でカルシラが話す。

ニーシァ諸島行きの船は出航の時間になり、エルフォとカルシラは船に乗り込んだ。今日からはオトモエテロスのヨォクも一緒である。船の上を飛んでいる相棒をエルフォはちらりと目にとめた。

揺れる船の中で、二人はだべる。

 

エ「えっと、ドリアナさんから薬草採取の依頼と…ギロスさんから鉄鉱石調達の依頼と…あと…」

 

カ「あと?」

 

エ「えっと…シャランくんの…」

 

 

数時間前…

 

……時間が前後して申し訳ない。

 

 

シャ「待ってましたニャ!!」

 

エ「はあ…」

 

嬉々として、シャランは話を続ける。

 

シャ「実はボク、優秀な探偵として少し調べごとをしていてニャ、その名も!「ニーシァ諸島七不思議」!!」

 

エ「ニーシァ諸島七不思議??」

 

シャ「そう!ニーシァ諸島に眠る七つの謎…!正体はモンスターか!それともFリーメイソンか!」

 

エ「…もうツッコまないよ…で、その七不思議って?」

 

シャ「食いつきがいいニャね…それじゃあ第一の謎は!ドドン!「浜辺の転がし魔」!」

 

エ「浜辺の転がし魔?」

 

シャ「そう…これはある調査員に起こった体験談…

その人はある日、ニーシァ諸島の海岸を探索していたのニャ…

日も暮れて夜が近づき、船に戻ろうと思ったその時、調査員はふと躓き、その場に転んでしまったのニャ…

何かと思って足元を見ると…そこには!!暗闇の中でモゾモゾうごめく何かが!!調査員は恐れおののき、そのまま走って逃げたのニャ…!

あのうごめく何かの正体とは…もしかすると、いけにえを求める島の怨霊だったのかもしれニャい…!

…というお話ですニャ…」

 

エ「…ふむ、思ったより興味深い」

 

シャ「でしょ!?ニャので、エルフォ君には現地調査をしてほしいのニャ!ぜひ謎の究明に協力いただきたいニャ!」

 

エ「なるほどね、わかったよ。ちなみに、他にはどんな話があるの?」

 

シャ「ほかの話はね、「妖怪船切り」と「なぞの光」の2つがあるニャ!」

 

エ「ふむふむ…ん?あと4つは?」

 

シャ「…随時募集中ですニャ。」

 

エ「あ、はい…」

 

 

 

エ「…ってことがありまして」

 

カ「ふふ、シャラン君らしいね。「浜辺の転がし魔」か…」

 

エ「見当つきますか?」

 

カ「きっと「マルコロビ」のことだね。小型モンスターだから、3匹くらい狩猟してサブクエスト達成にしたらいいと思うよ」

 

エ「…正体わかっちゃいましたね…」

 

カ「ふふ、ごめんね」

 

 

 

サブクエストの内容が一つ確定したところで、遠くに目的地が見え始めた。

小一時間して、二人はカルス島へと到着する

 

カ「さて、ここからは各々単独行動に移るよ。エルフォ君はイソネミクニの痕跡調査とサブクエストの達成をお願い。私は島林のほうで生態系に変化がないか調査するから。

もしイソネミクニを発見した場合は、見つからないように隠れて救難信号を送るように。」

 

エ「わかりました」

 

二人は二手に散らばり、それぞれ調査を始める。

ザザンと響く波の音を聞きながら、エルフォはヨォクと共に砂浜を歩く。

現在の海浜は「渦の季」である。海を眺めると渦潮がドドドと畝っていた。

 

エ「調査といっても、何からすればいいだろうなあ…」

 

ヨォ「キュ?」

 

エ「痕跡といっても、詳しい特徴までは知らないしなあ…鱗とか落ちてたらいいけど…うわっ!」

 

深く考えすぎたようで、エルフォは何かに躓いて転んでしまった。

 

エ「いてて…転んじゃった……転んじゃった?」

 

転ぶ…何か既視感を感じる。

あ、ニーシァ諸島七不思議!

バッと振り向くと、案の定、ダンゴムシのような虫が1匹、モゾモゾと動いていた。

 

-鉄具虫 マルコロビ-

ニーシァ諸島の海や浜辺に生息する甲虫種。

モンスターの死骸や微生物を食べて生活する。

堅牢な甲殻を持ち、生半可な攻撃ではビクともしない。

 

エ「こいつが「浜辺の転がし魔」か…ほんとにモゾモゾしてる…」

 

ヨォ「キュウウ…」

 

エ「せっかく何するか悩んでたところだし…!」

 

背中の剣を抜き、盾を構える。

マルコロビは相変わらずモゾモゾし、攻撃を行う様子はない。

攻撃する様子はないならと、エルフォは力強く片手剣を振るった

 

エ「…堅っ!!!」

 

振るった剣はガキンという音と共にいともたやすく跳ね返される。

並みの小型モンスターを凌駕する甲殻の堅牢さに、エルフォは驚愕した。

 

エ「…これ、倒せる?」

 

ただでさえ堅牢な甲殻を持つモンスターである。不用心に剣を振るい続けると剣が刃こぼれしてしまう。

別の倒し方があるはずだと、エルフォはその場を後にした。

 

エ「とりあえず、アイテム採取を先にやろう。うん」

 

ヨォ「キュ」

 

 

 

エルフォはその後も順調に調査を行った。

求められている素材が一般的なものもあり、薬草も鉄鉱石も比較的楽に集まる。それ以外にも、毒テングダケやネンチャク草など、目的のアイテム以外のアイテムも潤沢に集まった。

しかし、本来の目的であるイソネミクニの痕跡調査とマルコロビの狩猟方法に関しては、全く進展なしである。

日の光もすでに赤みを帯びてきていて夕方が近づいている。その中で調査進展ゼロはまずい。

エルフォは懊悩していた。

 

エ「うーん、痕跡、痕跡、うーん…」

 

ヨォ「キュウ」

 

エルフォはイソネミクニの痕跡を探して浜辺を歩く。

 

エ「痕跡、痕跡、痕跡………うわっ!」

 

痕跡探しに集中しすぎたようで、エルフォは何かに躓いて転んでしまった。

 

エ「いてて…転んじゃった……転んじゃった?」

 

転ぶ…何かデジャブを感じる。

あ、マルコロビ!

 

エ「またかよ!」

 

足元にはマルコロビが5匹ほどモゾモゾしている。

どれも堅牢な甲殻を持つので、あまり攻撃したくないが…

 

エ「…ん?そういえば、アイテムポーチに…」

 

ポーチをあさると、そういえば、毒テングダケが入っていた。

これを使えば「毒けむり玉」が作れるのでは?

 

エ「ちょっと古いやり方だけど…」

 

そこら辺の石ころを拾い、同じくポーチに入っていたネンチャク草と混ぜて「素材玉」を作成。

作った素材玉と毒テングダケを調合して…完成!「毒けむり玉」の出来上がりである。

 

エ「虫は毒に弱いはず…これなら!」

 

エルフォは作成した毒けむり玉をマルコロビの群れの中に投げる。

モクモクと紫の煙が上がり、マルコロビたちは暫くモゾモゾした後、ひっくり返って静かになった。

 

エ「よし!これでサブクエストは全部クリア!」

 

狩猟したマルコロビの甲殻を何とか剥ぎ取り、エルフォは再び周囲を探索する。

 

エ「そういえば、なんでこんなにマルコロビが集まっているんだろう?」

 

考えてみれば不思議である。最初に見かけたときは1匹のみであったが、今回は5匹と数が多すぎる。

しかし、その理由はすぐに分かった。砂に埋もれて見えにくかったが、波打ち際にラゴラスの死体があったのだ。マルコロビはこの死体を食べるために集まっていたのだ。

エルフォはその死体により、状態を確認する。

 

エ「…かなり腐ってる。腐乱臭がキツイなあ…」

 

詳しく死体を見ていくと、いろいろと情報が見えてくる。

・損傷や腐敗が激しい。死後2日ほど?

・背骨が骨折している。死因は強い衝撃によるものと思われる。

・周囲に同じような死体はなし

これらの情報をくみ取って考えるに…

 

エ「…大型モンスターに襲われて、そのあと捕食されている。イソネミクニのものかもしれない…!」

 

エルフォは一層周囲を観察する。すると、視界の端でキラリと光るものがることに気づく。

2、3歩歩いて光るものを拾うと、それは鱗であった。そのうろこが水気を帯び、山吹色の光彩を放っていたのだ。エルフォは確信する。

 

エ「…イソネミクニ…!」

 

 

バシュウウウウウウ!

 

ヨォ「キュ!?」

 

ふと、遠くから花火のような音がする。

何事かと音のするほうに振り向くと、遠くの空に照明弾が上がっていた。

救難信号だ。

 

エ「カルシラさん…!?」

 

鱗をポーチへしまい、救難信号のあった方角へ走る。

5分ほど走って、何となく状況が見えてきた。

ラゴラスが群れを成していたのだ。そして、その中央にはとりわけ大きい個体が荒気に吠えていた。

 

-泳賊竜 ピアラゴラス-

海のギャングである、ラゴラス達のボス個体。

より高い凶暴性でラゴラス達を掌握し、中規模の群れを築く。

顎の力が強く、噛みつきは非常に強力で危険。

 

カ「エルフォ君!こっち!」

 

草むらの中からカルシラが静かに呼びかける。

ラゴラス達の背後をかいくぐり、エルフォはカルシラと合流した。

 

エ「どういう状況ですか…!?」

 

カ「ラゴラスの群れが狂暴化して暴れている。そのおかげで、船が島に寄り付けないの。」

 

海のほうを見ると、確かに、遠くの沖合で船が待機していた。

 

エ「ボスの影響でしょうか…」

 

カ「おそらくね。でもそれにしても狂暴化しすぎている。気が立っているのかもしれない。」

 

エ「イソネミクニ…!」

 

カ「…だろうね。」

 

外来種のイソネミクニが島で暴れ、そのせいでラゴラスの群れが狂暴化し暴れている。

船は島によりつけず、このままでは帰還できない。また海上に船を待機させたままでも、ラゴラスが船まで泳いで攻撃を始める可能性や、渦潮に巻き込まれてしまう可能性もある。そうなると船が沈没しかねない。

群れを鎮静化させる以外道はないだろう。

 

エ「…僕はボスを狩猟します!」

 

カ「ッ!そんなこと…いや…」

 

カルシラは、以前見たエルフォの狩りを思い出す。

10数秒悩み、カルシラは物言わぬまま頷いた。

 

カ「…先ずあたしが大こやし玉を投げて群れを分散させる。そのあとエルフォ君はピアラゴラスを狩猟。あたしは子分たちを各個撃破。これでいこう!」

 

エ「了解です…!」

 

3、2、1の合図で、二人は草むらから飛び出した。

 

ゴガァァッ!!!

 

群れの数匹がこちらに気づき、力強く吠える。

ボスもそれに気づき、振り返ったところで、カルシラが力いっぱいに大こやし玉を投げた

 

ボンッッッ!

 

こやしの煙が周囲に拡散する。ひどい臭いに嗚咽しそうになるのをなんとか堪えた。

 

グゲッ!ゴアッ!

 

子分たちがおろおろと逃げていく中で、ボスは暴れながらもこちらに襲い掛かってきた。

それを颯爽とかわし、エルフォとピアラゴラスは真正面から対峙する。

 

カ「キツくなったら逃げること!」

 

エ「わかってます!!」

 

逃げた子分を追うカルシラを視界の端で確認し、再びピアラゴラスを強くにらんだ。

 

エ「一狩り、いきます!」

 

ゴアァァァァァッッッ!

 

足で砂を掴み、ピアラゴラスがガシガシと力強く駆け寄る。エルフォとの距離が数メートルほどになったところでピアラゴラスは上体を持ち上げ、前足の片方をエルフォに向けて振るった。

エルフォはそれを躱す。持ち上がった体の、地面をたたきつけた側の前足の脇をくぐる。背後にステップするよりもはるかに戦況が有利に運ばれるからだ。エルフォはピアラゴラスの死角をとった。

 

エ「やぁっ!!」

 

エルフォは片手剣を強く振り、ピアラゴラスの脇腹を切りつける。

しかし、ボスとして鍛え上げられた分厚い鱗や皮の前にはその一撃はあまりにも弱い。ピアラゴラスは怯みもせず、そのままタックルでエルフォを吹きをばした。

 

エ「グっ…!」

 

地面が浜辺の砂であることが幸いし、ダメージ自体はまだ軽い。エルフォは何とか受け身を取り体制を整える。その最中にピアラゴラスは大口を開け、エルフォを食らわんと飛びかかった!

 

ドゴッッッ!!

 

強い衝撃と共に、物がぶつかる音がする。

エルフォは左手の盾をピアラゴラスの大口に突っ込み、鍔迫り合いの体勢に入った。子分のラゴラスの時とはくらべものにもならない、何倍もの力が左手から伝わる。

エルフォは何とか盾を左側に大きく振い、力を外に流す。ピアラゴラスも同じように力を流され、勢いのまま体勢を崩した。

 

エ「よし…今だ!」

 

そのままピアラゴラスの前足を踏み台にし、頭の上に乗る。強靭な外皮を持つピアラゴラスでも、脳天を貫けば一撃で倒せる。エルフォは剣を振り上げた。

しかし、ピアラゴラスとて黙ってはいない。ブンブンと頭を振り、エルフォをはたき落とそうと必死になる。エルフォもまたそれに抗おうとしがみつき、脳天を貫こうと剣を強く握る。

 

勝ったのはピアラゴラスであった。強力な一振りでエルフォは投げ飛ばされ、そのまま海の中に投げ出されてしまった!

 

エ「ぶくっ!?」

 

突然海に投げ出されパニックになりそうになるが、エルフォは何とか気持ちを抑えつける。

しかし、ピアラゴラスもまた海の中に入り、エルフォを睨みつける。水中でピアラゴラスと対等に対峙はできないだろう。とてもまずい。

ピアラゴラスが再び大口を開けて、こちらに突進し始めたところで、エルフォの視界はグルンと混濁した。

 

エルフォは空中にいた。すんでのところでヨォクが助けてくれたのだ。

 

エ「ヨォク!!助かったよ!」

 

ヨォ「キュウ!」

 

下でピアラゴラスが悔しそうに吠えているのを尻目に、ヨォクは浜辺へ移動し、エルフォを下ろす。

スゥゥゥゥゥゥゥゥゥっと大きく息を吸って、エルフォは体制を整える。ピアラゴラスは息荒く、怒りの様子を見せながら海から上がって砂を踏みつけた。

 

グォガアァァッッッ!!!

 

ひときわ大きく吠えて、ピアラゴラスが駆け出す。ガシガシと砂を掴みながら、大口を空けて突進した。

エルフォはこれを待っていた。

盾を持つ左手に握りしめていたものを力強く投げ、ピアラゴラスの顔面にぶつける。瞬間、ボワっと煙が巻き上がった。そう、マルコロビの時に作った毒けむり玉である。

 

開かれた大口から毒の煙を大量に吸って、また咄嗟の出来事に驚きピアラゴラスは大きく怯む。エルフォはその隙を見てザッと駆け出し、片手剣を大きく振るった。

 

エ「おらぁっ!!!」

 

ザンっ!!と音がして、ピアラゴラスの顔面を大きく切りつけた。痛々しい傷が斜めに走る。

 

グゲァッッ!!

 

ピアラゴラスはドサっと倒れる。だが、この程度で息の根を止めるほどの代物ではない。

ピアラゴラスはすぐさま体勢を直し、そのまま軽く吠えた後背を向けて走り出した。逃げるつもりだ。

エルフォは駆け出す。しかし数歩走って足を止めた。ピアラゴラスは海に向かって走っていたのだ。海を泳いで逃げるつもりだろう。

 

エ「くっ!」

 

エルフォはカナヅチではないが、取り分けて泳ぎが上手いわけでもない。海の中に潜って追いかけたとて、ピアラゴラスの遊泳力には敵わない。

ピアラゴラスは海の中に入り、深くまで潜って姿を消した。

 

エ「…まずい、ここで見失ったら色々まずい…」

 

幸い、海には渦潮が点在している。体力を消耗したピアラゴラスは渦潮には巻き込まれたくないはずだ。別の島に逃げるなんて事はないだろう。

ふと周囲を見渡すと、さっきの一撃で散った鱗が何枚か落ちていた。

 

エ「…。」

 

エルフォは試しに、その鱗を拾ってヨォクに差し出す。

 

エ「ヨォク、コレの匂いって追えたりするかな…」

 

ヨォクはスンスンと嗅ぎ、遠くに視線を移した。キュウとひと鳴きし、ヨォクは飛び立つ。ついてこいと言う事なのだろう。

 

エ「分かったか!よかった…」

 

そのままヨォクを追って走り数分。遠くにピアラゴラスの影が見えた。顔面の傷が痛むのか顔を必要に掻いている。しかしエルフォの存在に気づくと真正面から構えて息を荒げた。

どうやら相当怒り狂っているようだ。

 

猛然と襲いかかってくるのは目に見えている。エルフォは先手を打って駆け出し、剣を握り意識を研ぎ澄ます。

 

ピアラゴラスは大口を開き、突進してくる。エルフォはそれを側面に避け、前足を踏み台にし頭部へ乗り移る。

大きく暴れるピアラゴラスにしがみついたエルフォは剣を振り上げ、大きく開いた傷口に剣を突き刺しさらに傷口を抉る。

ひどい痛みに耐えかねたピアラゴラスは体制を崩し倒れる。エルフォはこれを好機と読み、首元目掛けて一撃を放つ。

 

…という算段だったのだが…。

どうやらピアラゴラスの方が一枚上手だったらしい。自身の突進に合わせて側面に避けたエルフォを、ピアラゴラスは尻尾で薙ぎ払い、吹き飛ばした。

 

エ「!!??」

 

完全に計算を外したエルフォは必要以上に驚き、受け身も取れず砂浜を転がる。転がる勢いに勝てず、剣が手から離れて飛んでいった。

エルフォは大の字で砂浜に倒れる。

 

エ「くっ…」

 

ピアラゴラスもまたこれを好機と読み、前足でエルフォを押さえつける。激しい重みがエルフォを襲った。

 

グググ…

 

剣を落としてしまった以上、エルフォは耐えるしかできない。

 

ヨォ「キュッ!!」

 

ヨォクは後ろから嘴でピアラゴラスの背中をつつく。しかし、翼竜種の攻撃など所詮は雀の涙にすぎない。

ピアラゴラスが大口を開ける。自分を喰うつもりなのだろう。

エルフォはただもがく。

大口を開け切ったピアラゴラスは、そのままその大口を地面に叩きつけた。

 

ダンッ!!!!!

 

 

 

……グググ…!!

 

間一髪、エルフォは剥ぎ取ったマルコロビの殻を取り出して、ピアラゴラスの口に押し付けた!かぶりついたものの堅牢さにピアラゴラスは驚愕する。エルフォはピアラゴラスの力が引いた一瞬で剥ぎ取りナイフを抜き、腕に突き刺した!

 

グゲァッ!!

 

大きくひるんで、ピアラゴラスは拘束を解いた。

エルフォはすかさず抜け出し剣を回収。そのままピアラゴラスの背に乗り移った!

大きく暴れるピアラゴラスにしがみついたエルフォは剣を振り上げ、

 

エ「どりゃぁぁあ!!!」

 

勢いに任せて剣を首元に突き刺す!

髄まで貫くような一撃に、ピアラゴラスはドサッと力無く倒れた。

 

クエストクリアである!

 

エ「…はあ、はあ、はあ、……やった…!」

 

ヨォ「キュゥゥ!」

 

満身創痍ではあるが、初の中型モンスターの討伐である。エルフォは嬉しかった。ただ、嬉しかった。

ヨォクをグシャグシャと撫でて、エルフォは深呼吸する。

 

エ「…カルシラさんは!?」

 

冷静になってきたところでカルシラを思い出す。エルフォはカルシラの安否を確認するため来た道を戻っていった。

 

 

 

また数分ほど走り、船着場まで戻る。

カルシラはいた。しかし

 

カ「…。」

 

独り立ちすくんで呆然としている。

 

エ「…カルシラさん?どうしたんですか?」

 

カ「…!!」

 

カルシラは喋らず、遠くからジェスチャーでエルフォを制止する。そのままカルシラは海岸に向けて指を刺した。

エルフォは指の刺された方面へ視線を向ける。

 

そこには、大きな影がいた。影といっても、どこか無機質に光っていて、紫の長いヒレが目に留まる。イソネミクニだ…!

 

だが、それだけではない。イソネミクニはどこか力無く見え、ズルズルと不思議な移動をしていた。

 

エ「…。」

 

エルフォは目を凝らす。今になって気づいたが、先の戦いで日はもう落ちて夜になっていたのだ。しばらく目を凝らして暗闇に慣れてくると、何となく状態がわかってきた。

影がもう一つある。

大きな体躯から無機質な光は伸び、その中にイソネミクニは引き摺り込まれているようだった。その様は、まるで、他の「何か」に、

 

 

 

 

大きな影が動き、無機質な光がエルフォに伸びた。

 

エ「まぶしっ」

 

カ「!!!」

 

視界が明るくなって、エルフォは状況を完全に把握する。

頭部から光を放つ「怪魚」がイソネミクニを食べていた。いや、正確には丸呑みにしていた。先ほどちらりと見えていた髪ヒレはもう見えず、尻尾がちらりと見えている。

「怪魚」はその尻尾も腹の中に収め、ゆっくりと歩き始めた。

 

歩き始めた。

 

歩き始めた。

 

歩みが強くなる。

 

歩みが強くなる。

 

強く駆け出す。

 

強く駆け出す。

 

強く駆け出す。

 

 

 

カ「逃げて!!!」

 

 

エ「…!?」

 

我に帰ったその時には、「怪魚」は目の前で大口を開けていた。

エルフォは何とかそれを躱す。ピアラゴラスとは比べ物にもならない、2倍も3倍もあるような大口が自分に向けて向けられた。

エルフォは咄嗟に森へ目掛けて走り出す。

 

エ「カルシラさん!!」

 

カ「走って!振り向かないで!」

 

 

エルフォはただ走った。鬱蒼と生い茂る木々の中を、エルフォは潜り抜けて走る。後ろではギシギシ、バキバキと音をたて、「怪魚」が狭い木々を勢いのまま薙ぎ倒し、粉砕しながら、こちらへ追いかけて来ていた。

 

エ「……はあっ…はあっ…」

 

エルフォは逃げていた

 

エ「…はっ…はっ…はっ…!」

 

揺れ動く巨体から、躍動する二足から、しがみつく怪光から

逃れられぬ暗闇から

 

どれだけ走っても「怪魚」は追いかけてくる。

木々の狭い間を潜り抜けると、「怪魚」はその木々を粉砕してくる。蔦を切り落とし妨害すると、「怪魚」はそれをぶちぶちと破ってくる。どれだけ足掻いても、「怪魚」は追いかけるのをやめない。

 

エ「くっ!何も見えない!!」

 

どれだけ走ったか、気がつくと太陽も月もなく、完全な暗闇になっていた。森の最深部に来てしまったのだ。

森の深部は完全な闇であった。高木たちが月の光も星の光も無慈悲に隠し、足元の雑草たちは姿を消し、ただエルフォを見下す暗闇だけがあった。

後ろから恐ろしく光が伸びる。それ以外は何もない暗闇。エルフォは木々に体をぶつけながら、がむしゃらに走る。

 

エ「…うわっ!!」

 

足を木の根に引っ掛けた。勢いのままエルフォはズザアと転倒する。立ち止まってはいけない。逃げなければ。

 

だが、間に合わなかった。

 

顔を上げると、強烈な光がエルフ度を照らした、暗闇との差に目が痛くなる。もはや体は動かなくなっていた。

「怪魚」はたちすくみ、そのまま口を開ける。深海魚のように顎が外れ、洞穴のように暗い口腔をのぞかせる。

 

……

 

……バサッ!!!!

 

「!!??」

 

ふと眩い光が乱れ、どさっと倒れる音がする。高木の蔦やら何ならが乱れるとこらから「バケモノ」が落ちてきた。

 

エ「!!??」

 

暗闇の中で二つ、影が乱れる。「怪魚」の背に「バケモノ」は無理に乗りつけ、強く押さえつける。数秒の抵抗の後両者の影は離れ、再び一つになる。「バケモノ」は「怪魚」の顔面を押さえつけ、そのまま両手で口を掴み、ガバッと大きく広げた。顎が張り裂けそうなほど強烈な力を浴びせ、そのまま「怪魚」の顔面を叩きつける。

両者が地面に倒れ、「怪魚」は力無く静止した。

 

エ「…。」

 

「…。」

 

顔を合わせ、「バケモノ」と目が合う。

異様に大きい目。屈強な腕、鋭利な棘。そして、3本の尻尾。それはまさに異形であった。

数秒、目が合い続ける。バケモノは口を開ける、ハァと息を吐いた。笑っているように見えた。

 

ク゜ク゜…カ゜コ゛ォ!!

 

「怪魚」が目を覚まし再び暴れ出す。バケモノの注意が逸れた。

エルフォは何とか立ち上がりよろけながら逃げる。遠くから何か叫び声が轟いた。

 

 

 

 

エルフォとカルシラが合流したのはそれから2時間が経過した頃である。その間エルフォは這々の体で暗い森を彷徨い続けていた。

水平線の奥に朝焼けを感じながら、エルフォ達は帰還の船に乗り、島を後にする。船のベッドの中で、エルフォは意識を失った。

 

……

 

………

 

…………

 

バ「エルフォ殿!?大丈夫ですか!?」

 

パ「…状況説明をお願いできるかな、」

 

エルフォとカルシラは街の病院で治療を受けている。カルシラは元気だったが、エルフォは至る所に深い傷が目立っていた。

エルフォはバモルとパモルに状況を報告する。

 

カ「…なんてこと…」

 

パ「怪魚の方は、きっと「索光竜 デムイルス」だ。深海にしか生息しないモンスターが島に上陸したなんて…それに、「バケモノ」の方は…」

 

バ「…エルフォ殿」

 

エ「はい」

 

バ「エルフォ殿は、当分の間カルス島への上陸を禁止させていただきます。」

 

カ「…!」

 

エ「え…禁止?どういうことですか。」

 

バ「エルフォ殿が見た「バケモノ」の正体はカルス島の頂点捕食者、名を「獲竜 プレルザブラ」というモンスターです。

プレルザブラは獲物に対し異常な執着を持つことが特徴です。一度標的にした対象は、あの両目に捉えた対象は、何としてでも喰らおうとするのです。」

 

エルフォはあの時、プレルザブラと数秒の間目を合わせている。向こうからしたらエルフォは「標的」や「ハンター」なんかではない。頂点捕食者からすれば、エルフォは「餌」なのだ。

 

バ「狩猟は不可能です。そんな相手ではありません。ですので、エルフォ殿の生命の安全を保障するため、当分の間カルス島への上陸は禁止させていただきます。」

 

エ「…。」

 

言葉が出なかった。感情が複数湧いて喉を蓋してしまったためである。

 

エ「じゃあ、僕は当分どうすれば…?」

 

バ「それは…」

 

エ「……別の狩猟地での調査はダメなんですか?」

 

バ「ダメではないですが、推奨はしたくありません…他の島はカルス島に比べ調査が手薄です。カルス島に行くより危険な目にあってしまうかもしれません…!」

 

エ「…でも、ここで何もしないのも嫌です…!

バモルさん、他の島での調査は出来ませんか!」

 

バ「…分かりました。カルシラさんのサポートを前提とするなら、許可いたしましょう!」

 

カ「うん。あたしも頑張るわ!」

 

エ「ありがとうございます…!」

 

エルフォは嬉しかった。

これからどんな災難が降りかかるかわからない。今回よりも酷い目にあうかもしれない。だが、嬉しかった。それはマゾヒストのそれでは決してない。自身の痛みも顧みないほど、新しい場所で新しいものに触れる感動が尊いものだとエルフォは知っているからだ。そして、それを求めて、エルフォはこの街にやって来ているのだ。

また、新たな新天地が開かれる。

水平線の奥、カルス島のさらに奥に待ち受ける、新たな新天地が開かれるのだ。

 

バ「次の調査地は、『ウズゥ島』です」

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