TS六留女子高生は魔法少女がやめられない   作:雅媛(みやび)

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1 気づいたら6留目に突入しました。

 高校の進路指導室というのはどうしてこうも緊張感にあふれているのだろうか。

 ずらっと並んだ赤本は受験の厳しさを見るものに感じさせ、積み上げられた大学のパンフレットは進学先を決めることの情報と選択肢の多さを押し付ける。

 端にこっそり置いてある就職のパンフレットはその少なさゆえに高卒で働くことの厳しさを如実にアピールしている。

 

 常連である私、イスズでもそう感じてしまうのだから、一般の生徒への精神的圧迫はいかほどか。

 ある種のハラスメントではなかろうかと真剣に悩んでしまう。

 

 まあ一番の圧力源は目の前にいる担当のおばあちゃん、藤宮先生ではあるのだが。

 

 すでに60歳を優に超えた藤宮先生は、真っ白な髪が特徴の小柄な女性だ。

 おばあちゃんといったが顔にしわはほとんどなく、白髪さえなければ40歳代と言われてもみな納得するほどの美魔女である。

 いつも温和な表情を崩さない先生だが、笑顔が深まるときが一番怖い。藤宮先生が怒るときは一番きれいな笑顔だからだ。

 

 今もまた、私すら見惚れてしまうぐらい素晴らしい笑顔を浮かべ、私の前に座っている。

 怒ってる理由も分かるんだけど、やってしまったものは取り返せない。

 後は言い訳ぐらいしかできないだろう。

 

 

「先生、そんなにぐつぐつ怒らないでください」

 

「呆れてるだけよ」

 

 

 いや絶対怒ってるでしょう。

 わかるよ。先生にすさまじく迷惑かけているよね。

 

 なんせ魔法少女界の伝説、エースオブエースであるマジカルイスズ、本名橘五十鈴の高校6留が本日めでたく決まったのだから。

 

 

 

 神奈川県町田市にある県立国川高校。

 県内トップクラスの進学校である国高で、今回無事6留を決めたのが私、橘五十鈴である。

 

 本来留年なんて多くても1回しかできない。うちの国高でも、そのように定められている。

 にもかかわらず私が6留もできた背景には、私のしている魔法少女というものが関係している。

 

 十数年前から現れるようになった異世界からの侵略者『インベイダー』たち。

 近代兵器がほとんど通用しないこいつらに対抗するために自然発生的に生まれたのが魔法少女という存在である。

 思春期の女性にのみ発生し、唯一インベイダーに有効な攻撃ができる魔法少女は、各国で保護され、戦闘に駆り出されている。時に四肢欠損や死亡すら起きる戦場に駆り出される魔法少女は、各種特権が存在する。

 その特権の一つ、無制限休学休業制度によって、私は6留という、国高創立100年の間誰もはたせなかった記録を樹立したのだ。

 

 いやだって、規定日数の3分の2も出席するの無理だ。インベイダーなんてほぼ毎日発生するし、それの退治のために毎回出動していたらとてもじゃないが単位が足りない授業が大量に発生してしまう。

 そんなことを繰り返し、ごまかし、どうにか3年まで進学はしたが、どうしようもなくて今年度も無事留年になってしまった。

 

 

「文句はあのクソ県警に言ってくださいよ。奴らがちゃんと働いてれば私だって3留ぐらいで卒業していましたよ」

 

「まあそうなんだけど……」

 

 

 高校教師にして魔法少女協会町田支部支部長を務める藤宮先生はため息をついた。

 

 6留中3留ぐらいは、私が異世界に乗り込んで大暴れしたり交渉したりしていたのが理由だから確かに私のせいだ。

 インベイダーも国や派閥がいくつもあり、そのうち侵略してこない友好的な連中と交渉したり、結婚させられそうになったり、同盟したり、なんか留学してくる奴が出たり、2つぐらい国を吹っ飛ばしたり、そんなことをしていたら4年ぐらい経っていたのだ。

 向こうの世界からこっちに戻ってくるのもそう簡単ではないし、学校に通えたの等半分ぐらいだった。どうにか留学扱いにしてもらって1回は進学できたが、それが限界であった。

 

 とはいえ、異世界遠征が終わった後はさすがに平和に学校に通って、卒業できると思っていたのだ。

 

 だが、その後も全く学校には行けなかった。

 神奈川県警のやつらが仕事を全部私に押し付けてきたせいだ。町田市のみならず、神奈川県内全域の事件に関して呼出をかけやがったせいで、ろくに休みも取れなかったのだ。

 西は小田原から東は川崎、南は横須賀まで、毎日どこかに呼ばれるのだ。交通費も最低限しか出してくれないから特急も使えず一般の電車で行くしかなかったし、そのせいで遅れることも少なくなかった。

 

 そのくせ、町田市の魔法少女協会所属だからという理由で、県警のやつらは町田市外の活動の報酬を出さないとか無茶苦茶なことを言い始めた。出撃命令まで出しているのに任意で出撃したと強弁したのだ。さすがに切れた私は1年ぐらい訴訟をしたりして、そのせいでさらに卒業が遠ざかった。

 

 地元の警察の人とは仲がいいんだけどね…… 本部とはもう絶縁状態ですわ。

 

 

「でも、そろそろ卒業しなさい」

 

「えー、もっと学生生活楽しみたいですよ」

 

「もう十分楽しんでるでしょうに」

 

 

 いやまあそうなんだけど。出席日数半分ぐらいの年も何度もありましたが、それでももう今年で9年目。

 純粋な出席日数で言えば普通の人の倍ぐらいは学校に通っている。

 

 既に同級生が卒業したときに入学した後輩すら卒業してしまっている。

 さすがにこれ以上粘るのも悪いだろう。

 

 

「成績も十分なんだし、次はキャンパスライフを楽しみなさい」

 

「はーい」

 

 

 本来成績的には卒業十分だし、出席日数は魔法少女の特権を使えばいくらでもごまかしがきくのだ。

 ここまでずるずる来てしまったが、そろそろ潮時だろうか。

 

 最後の1年の学生生活を楽しむことにしよう。

 

 

「大学受験も考えないとなぁ。どこがいいと思う? 先生」

 

「東大にすれば」

 

「ちょっと遠いなぁ」

 

 

 前世も有名大学に通っていたし、今世は魔法少女としての能力のかさ上げもあって、どこの大学でもまず合格するだろう。

 国内最高峰の大学の学部でも合格できると思う。

 とはいえ、魔法少女の仕事が忙しいし、今までの収入で一生遊んで暮らしていけるレベルだ。

 特に学歴が必要なわけではない。

 

 とはいえ楽しいキャンパスライフは送りたいし、どうしようかなぁ。

 近くの大学でも適当に進学しようかなぁ……

 

 

「近くでキラキラのキャンパスライフを送れる大学がいいです」

 

「ここまで舐めたこと言う生徒もなかなかいないわよ」

 

「やだなぁ。私の同期のさっちゃんは将来の夢がクリオネって言ってたじゃないですか」

 

 

 今では北の大地でカニ漁をしながら子育てしているさっちゃん(小溝幸子、23歳)は進路希望の用紙にそう書いていたのは今でも語り草だ。

 

 

「貴女が無駄に上手いクリオネのイラストを描いていたあれでしょ」

 

「むふー」

 

「褒めてないわよ」

 

「ほかにも鳥になりたい香取君とか居たじゃないですか」

 

「……よくよく思い出すと貴女のまわり、碌な子がいないわね」

 

「みんな真面目に頑張ってますよ」

 

 

 同期はすでにほとんどみな就職して、各地で頑張っている。

 中には私の扱いを見かねて、キャリアの警察官になった人や、政治家を目指している同期もいる。

 みんないい子である。そういうのを見ると、やっぱりちょっとふざけすぎたかな、と反省する気持ちもわいてくる。

 とはいえなぁ…… あまり遠い大学は出動とかの時に不便だし……

 

 

 びーっ、びーっ

 

 

 そんなことを悩んでいると唐突にスマホが鳴り始める。出動要請だ。

 

 

「それじゃあ先生。私のキャンパスライフの候補先、探しておいてください。できれば無試験で推薦で通るところがいいですね」

 

「本当に受験生をなめたようなことしか言わないわね……行ってらっしゃい」

 

 

 私は窓から外へ飛び出るのであった。

 

 

 

「こちらリリカルサクヤ、マジカルイスズ、聞こえてますか? どうぞ」

 

「こちらマジカルイスズ、聞こえてるよ。現状を教えて。どうぞ」

 

 

 外に出ると早速相棒から連絡が入る。

 今どきスマホもあるのに、なぜか魔法を使った無線通信に固執するバディ、リリカルサクヤだ。

 

 

「忠生中学校周辺でインベイダー発生です。ランクはナイトです。どうぞ」

 

「今高校だから3分もあればつくよ。それまで粘って。オーバー」

 

 

 ナイトクラスは中級のインベイダーだ。一般人にとっては脅威極まりなく、魔法少女でも初心者だと後れを取りかねない。

 

 

「まあ、私の敵ではないんだけど」

 

 

 念じると、魔法少女への変身が始まる。

 まず服が一瞬にして消え去る。不思議な光により大事なところは目撃されないが、なかなかセンシティブである。

 そうして、真っ白なレオタードがまず現れて体に張り付く。一つずつ服が現れていくのはお約束らしい。その上にハート型の装飾が胸元を彩るコルセット風のトップスと、膨らんだ白いパフスリーブが続いて現れる。ピンクと白の短い二重フリルスカート、膝上まで伸びる白のロングブーツとひじの長さまである白いロンググローブで、変身は官僚である。お姫様っぽい、ピンクと白を基調としたかわいらしい服装だ。

 

 

「正直この年齢でこれはきつい……」

 

 

 魔法少女を始めた中学1年生、12歳の時でもちょっときついと思っていたが、それから10年以上たっても変わらないのだから、いろいろな意味でかなりきつい。サクヤは今でもかわいいですっていうけど、限度があるだろう。

 

 とはいえこの格好をしないと、魔法が使えないから移動力が非常に落ちるから、目標達成のための致し方ない犠牲なのだ……羞恥心は犠牲になったのだ。

 

 

「いくよ、『フライ』」

 

 

 飛行の魔法を唱え、空に浮き上がる。

 空を飛んでしまえば、目的地まではすぐだ。

 

 目的の中学校近くまでくれば、サクヤがすでに雑魚インベイダーと戦っているのが見えたので、地上に降りる。

 

 

「サクヤ! 一蹴するよ!!」

 

「はいっ!!」

 

 

 私の声に反応してリリカルサクヤが跳び退く。

 次の瞬間、インベイダーたちのど真ん中に、巨大なハンマーを振り下ろす。

 

 

「必殺!! マジカルハンマー!!!」

 

 

 ハンマーというにはあまりに巨大で大雑把なその金属塊を敵のど真ん中に振り下ろすと、インベイダーたちは吹き飛んでいった。

 残るのは上位であるナイトクラスのインベイダーだけだ。

 

 漆黒の全身金属鎧を着たその姿は、いかにも物理攻撃系が強そうなナイトクラスのいでたちをしている。

 身長は2mぐらい。140cmという女性の平均よりも小さい私から見ればかなり見上げる格好になる。

 

 外見の威圧感はすごいが、とはいえ全く負ける気はしなかった。

 

 

「ぐおおおおおお!!!」

 

 

 こちらも2mぐらいありそうな漆黒の大剣で私に切りかかってくるインベイダー。

 私はその剣を手で受け止めた。

 

 

「!?」

 

 

 慌てて剣を引こうとするインベイダーだが、うんともすんとも動かない。

 

 

「この程度の魔力量で、よくここに攻め込んできたね」

 

 

 私、マジカル☆イスズがこの町田の街を守っているのは有名な話だ。

「国崩し」などの異名を持つ私は魔法少女の中では当然最上位クラスであり、インベイダーからも恐れられる存在だ。だから町田市近辺に乗り込んでくるインベイダーは、よほどに力自慢か、実力をわきまえない若いエリートか、私の目を盗んで何かしようとする奴か、しかいない。

 こんな、ペーペーのナイトクラスなんて久しぶりに見たぐらいだ。

 

 手に力を込めて、剣を握りつぶす。

 漆黒の大剣は、ガラスのように砕け散った。

 

 

「歯ぁ、くいしばれぇええええ!!」

 

 

 そうして私は黒い鎧騎士のみぞおちに拳をねじ込んだ。

 鎧もすべて砕け散り、中身の褐色銀髪の人間が現れる。

 

 インベイダーといっても異形の何かとは限らない。大体は外見上こちらの人間とそう大きくは変わらない。肌が褐色で銀髪、目が赤いという特徴があるので、その辺を歩いていたら一発でわかるのだが。

 

 

「全然歯ごたえがないね」

 

「お疲れ様、マジカルイスズ」

 

「これくらいなら貴女でも倒せたんじゃないの、サクヤ」

 

 

 銀髪に褐色の肌をして、白い魔法少女の服をまとったリリカルサクヤ、私の相棒であり、もともと向こうの世界のお姫様だった彼女に、なぜ自分を呼んだのかと聞く。

 

 

「ポーンクラスの雑魚が多すぎて、私ひとりじゃ対応できなかったんですよ。貴女にとっては十把一絡げでしょうけど」

 

「まあ確かにうじゃうじゃいたね」

 

 

 マジカルハンマーで一掃したが、数十のポーンクラス、雑魚インベイダーがいたのは確かだ。

 とはいえ所詮雑魚だし、あれくらいで苦戦するなんてサクヤもまだまだだ。

 

 

「……忙しい時に呼んでしまったかしら?」

 

「あー、気にしなくていいよ。単なる進路指導だったから」

 

「また藤宮先生困らせていたの?」

 

「そろそろ卒業しろって言われたから、来年卒業予定ってきめたよ」

 

「え、貴女が!?」

 

 

 そんなに驚かなくても。そろそろいろいろひと段落しているし、卒業するのもいいころだと思ったんだよ。

 

 

「で、どこに進学すればいいか考えてって丸投げしてきた」

 

「はぁ、まったく……」

 

「そういえばサクヤは進学どうする予定なの?」

 

 

 リリカルサクヤ、日本名 白瀬咲耶、異世界ではコノハナ姫と呼ばれていた彼女も、来年進学だったはずだ。

 

 

「大学はこっちで勉強することを考えているわ。政治学と経済学を勉強したくて」

 

「さすがプリンセス」

 

 

 サクヤは向こうの国のお姫様であり、将来女王になることがほぼ確実視されている。そのため、異世界の知識を貪欲に取り入れるつもりらしい。

 将来何も考えなくて、楽しいキャンパスライフが送れそうなところ、なんてふざけた条件を言う私とはまるで違う。

 

 

「さて、こいつらを警察に突き出して、何か食べに行かない? お腹すいちゃった」

 

「はぁ、まあいいですけれど」

 

 

 ため息をつきながらインベイダーの連中を縛り上げつつ、なんだかんだ言って応じてくれるサクヤ。

 

 私は警察に連絡を入れつつ、これから行く場所をどこにしようか考えるのであった。




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