TS六留女子高生は魔法少女がやめられない   作:雅媛(みやび)

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2 魔法少女の日常

 魔法少女のお仕事は、単純に言えば異世界から来たインベイダーを倒すこと、もしくは力が及ばなければより上位の魔法少女が来るまでインベイダーを留めることだ。

 

 インベイダーがなぜこの世界に来るかというと、単純な話資源問題だ。

 異世界における魔法の元となる魔力が、この世界の人間の魂から豊富に取れるのだ。

 

 取り方も様々だが、大体魔法少女が対応しなければならない連中は、恐怖心といった感情からエネルギーを抽出したり、乱暴なところだと命そのものを狙ったりしてくる。

 どちらにしてもとんでもないことをやる連中なのだ。

 

 だからこそ、無差別なテロ行為を止め、時間を稼ぐのも魔法少女の仕事の一つであった。

 

 

 逆に言えば魔法少女の仕事はそれだけだ。

 

 どこに現れるかを調べたり、現れたインベイダーをすぐに発見したり、また、倒して捕まえたインベイダーの対応をしたりするのはボク達魔法少女の仕事ではない。

 あくまで直接対処するのが魔法少女であり、だからこそ負けてはならない仕事なのだ。

 

 そのため、日常的に訓練するのもまた魔法少女のお仕事である。

 今日サクヤと一緒にそんな魔法少女の訓練場に来ていた。

 山の方にある、清掃工場の隣にある魔法少女用のトレーニング施設には様々な施設が存在している。

 

 

 いつも通り、筋トレから始めるべく、ボクたちは更衣室へと移動した。

 服を脱ぎ始めると、いつものようにサクヤがボクの方をじっと見ている。

 同性の裸を見て楽しいのだろうか。前世男性のボクですら、既に20年以上女性をやってるせいか女性の裸体に興味を抱けなくなっているのだが。

 

 サクヤのガン見を無視して、ボクは普段使っているパッド付きのタンクトップと、1分丈のレギンスを着る。

 ボクを見ながら着替えるサクヤの服装はいつも通り長袖長ズボンのヨガウェアだ。露出は少ないがサクヤのスタイルの良い体型はくっきりと出ている。

 

 二人してさっさと着替えれば、まずはストレッチからだ。

 

 お互い背中から押したり、引っ張ったりして補助をしあう。

 

 

「イスズさん、また大きくなってません? 胸とかお尻とか」

 

「背のほうが大きくなってほしいんだけどねぇ…… 後揉むんじゃない」

 

 

 胸や尻が大きくなってもほとんど役に立たないが、背が伸びれば身体能力をあげるのがより楽になる。

 とはいえもう20歳を余裕出すぎているにもかかわらず、身長は140cmもないのだから、期待はできないだろうが……

 

 

「というか、そんなこと言うサクヤのほうがよほど大きいじゃない」

 

「揉んでもいいんですよ」

 

「いや揉まないけど」

 

 

 前世だったらそんなこと言われたら喜んで揉んでいたけど……

 自分にもデカいものがついているからかほとんど興味がわかない。

 というかサクヤもボクの胸揉まないで、自分の揉めばいいのに。

 

 

 そんなこんなでわちゃわちゃとストレッチをしたら、次はマシントレーニングだ。隣接されたジムエリアに移動する。

 ずらりと並んだトレーニングマシン。使っている人は現状全くおらず、体育館の一角とは思えないほど静かだった。

 

 ほかの魔法少女たちは魔力を鍛えるトレーニングばかりする人が多く、筋トレを行うジムを使う人はほとんどいない。

 魔法少女の身体能力強化は、元の身体能力を何倍も強化するものであるから、元の身体能力が高い方が効率がいいし、だからバランスよくきたえたほうがいいとおもうのだが……少女には筋トレはあまりなじみがないのかもしれない。

 

 

「まあ空いててマシンを使い放題だからいいんだけど。さて、今日は脚からやるかー」

 

 

 早速スクワットスタンドに向かうバーにプレートを付ける。

 

 

 

「プレート何キロにします?」

 

「とりあえず片側40キロから行こうかな。アップは軽くでいきたいし」

 

「全然軽くないですけどね……」

 

 

 サクヤが呆れ顔で器用にプレートを装着していく。

 まあ確かに、40kgとなるとボクの体重にかなり迫る重さだ。

 バーも合わせれば100kg近い。

 とはいえ長年やってきた筋トレだ。すでに自重以上の負荷に慣れており、バーベルを背に担いでもほとんどブレることなく膝を落とす。

 

 息を止めず、細く長く吸って吐いてを繰り返す。

 呼吸を止めるのは体に良くないからだ。

 

 

「……真剣なときのイスズさん、やっぱりかっこいいですね」

 

「ん? 見惚れちゃった?」

 

「もう惚れてますけど?」

 

 

 サクヤの視線が刺さる。

 本気か冗談かわからないが、サクヤはボクに告白まがいのことをしてくる。

 前世ならこんなかわいい子に言い寄られたら舞い上がってしまったかもしれないが、今は軽く流す程度だ。

 なんせ、こちらは6留の不良女子高生だし。そろそろ女子ってつけていいかも怪しい年齢だし。あと精神年齢が前世合わせると40過ぎてるボクに、半分以下のサクヤはきついんだよね……

 

 

「ふんっ、ふーっ、ふんっ、ふーっ」

 

 

 10回1セットをひとまず終える。

 1セットやったらちょっとインターバルを置くが、その間にサクヤの方もやってしまう。

 本来毎回機材は片づけるべきなのだが、人もいないし数も余っているので、ボクのバーベルは放置してサクヤの方の準備をする。

 

 

「サクヤの方はどうする?」

 

「片側50キロでお願いします」

 

「サクヤも大概だけどね……」

 

 

 ボクに付き合って筋トレにはまっているサクヤのパワーはボクを上回っている。

 まあ、魔法を足せばボクのほうがまだ上だし、純粋に小柄で低身長なボクに比べ、身長が高く体格も大きめなサクヤと比べれば身長や体格の差がある分、筋力の差は仕方ないんだが……少し先輩として悔しい部分がある。

 とはいえ無理しても怪我するだけだし、競うものでもないと自分を納得させている。

 

 サクヤが腰を落とし、スクワットを始めるのボクは注視する。

 ピタリとフィットしたヨガウエアが肩甲骨の動きを際立たせ、しゃがむたびに背筋がしなやかに波打つ。レギンス越しにもわかるほど太ももの筋がくっきりと浮かび、汗がきらりと光る。

 

 うん、エロいな。普通に筋トレしてるだけなのにどことなく健全なエロスを感じる。

 周りに人がいなくてよかったが、これを独占している現状に少し理由のない罪悪感を感じる。

 

 

「ふーっ、15回終わりました」

 

 

 軽々とスクワットを終え、バーベルとスタンドに戻すサクヤ。

 ボクも負けられないと、自分のトレーニングを再開するのであった。

 

 

 

 筋トレが終わったら、汗をぬぐって魔力のトレーニングへと向かう。

 こちらもまた大きなホールに、数人の魔法少女がそれぞれトレーニングをしてる。

 

 魔力トレーニングは基本的に3種類しかない。

 

 瞑想などをして自分の魔力を高める基礎トレーニング。

 魔法を実際に使って技術を磨く技術トレーニング。

 後は魔法少女同士で組み手をする戦闘トレーニングだ。

 

 今日は基礎トレーニングをして、軽く魔法を使って帰る予定だったが……

 

 

「マジカルイスズ、私と勝負しなさい!」

 

 

 面倒な子に絡まれた。

 黒いさらさらのロングヘアに、へそ出し、肩だし、フリルのミニスカートという水色を基調とした正統派魔法少女の格好をした少女だ。

 手に持っているのはこれまた定番のロッド。いかにも魔法少女、といった外見の子だった。

 年齢は12歳前後か。まだ幼く見えるし、名前も知らないから最近入った子ではなかろうか。

 

 

「サクヤ、この子誰だか知ってる?」

 

「ブルームーン・アクアさんですね。まだ活動3か月ですが、先日ルーククラスのインベイダーを退治した人です」

 

「おー、将来有望だ」

 

 

 チェスの駒に基づいてインベイダーはクラス分けされる。

 ポーンクラスは魔法少女なら大体誰でも倒せるが、数が多くなれば厄介な相手。現に複数で現れる。

 ナイトクラス以上は、上位クラスであり、ナイトは物理攻撃型、ビショップは魔法攻撃型のインベイダーである。まあ大まかな分け方なので、両方使ってくるインベイダーもちらほらいるが。

 それより一ランク強いのがルーククラスであり、普通の魔法少女では苦戦必須でそう簡単に勝てる相手ではない。

 

 それをなり立てで倒すなど、才能にかなりあふれているのだろう。

 とはいえ傲慢になりすぎるのもよくない。

 魔法少女の仕事は無理をしない範囲で倒し、無理ならば捨て身のイチかバチか、などではなく時間を稼いで増援を待つべきなのだ。なんせこの辺にはボクがいるから、対応できないインベイダーなどまず現れない。

 

 

「アクアちゃん、無謀だよぉ、危ないよぉ」

 

「あのアクアに縋り付いている子は?」

 

「アクアさんのバディのレッド・フレイムさんですね。暴走しがちなアクアさんを止めてフォローする役回りみたいです」

 

「水キャラが熱血で、炎キャラが冷静っていうのも面白い組み合わせだねぇ」

 

 

 魔法少女が得意な魔法は性格がかなり反映される。水は冷静、炎は熱血が基本なのだが、あっちのペアは真逆らしい。

 

 

「ま、いいですよ。一手お手合わせしましょうか」

 

「ええ! イスズさんになんか無理だよぅ!!」

 

「何言ってるの! 私たちは最強の魔法少女になるのよ! ロートルに負けていられないわ!!」

 

 

 元気がいいのはいいことだが、もう少し他人への礼儀は考えたほうがいいと思う。

 

 

「目上の人に対する対応に関しては、イスズさんにだけは言われたくないと思いますよ」

 

「え、口に出てた?」

 

「出てないですが何を考えているかぐらいわかります。藤宮先生のこととか、もっと敬うべきです」

 

「敬ってはいるよー」

 

 

 藤宮先生のことは気にいっているし、尊敬もしている。ただ、言うことを聞かないだけだ。

 

 

「いうことを聞いてあげてください」

 

「だから心読まないでよー」

 

 

 そんなコントをこちらもしていると、向こうも口論が終わったようだ。

 

 

「さて、2人で掛かってきなよ。魔法少女はチームワークが大事なんだから」

 

「2対2ってことね!」

 

「いや、こっちはボクだけだよ。ボクだけで十二分だし」

 

「舐めないでっ!!」

 

 

 スタートの合図もなしに、アクアが突っ込んでくる。

 激昂してロッドを大上段に振りかぶって突撃してくる彼女に……

 

 

「足元がお留守だよ」

 

「へ? ふげぶっ!!」

 

 

 その出足を思いっきり横から払った。

 バランスを崩したアクアはすごい勢いで地面に叩きつけられる。

 

 

「アクアちゃん!?」

 

「判断は早いけどそれはダメだね」

 

 

 後ろから援護射撃だろう、炎の槍を放ってくるフレイム。

 相方の動きがわかっているからこのタイミングで援護射撃ができるのだろうが、状況に即していない。

 

 転んだアクアの首根っこ浮かんで、彼女の背中で炎の槍を受け止める。

 

 

「ぐぎっ!?」

 

「アクアちゃん!?」

 

 

 そのまま力任せにアクアをフレイムの方に投げ飛ばす。

 よけることもできずに、フレイムはアクアを受け止めてしまった。

 

 少女とはいえその重さは数十キロはあるのだ。そんな物体がそれなりの速度で飛んで来たら、いくら魔法少女とはいえ態勢を崩す。

 

 

「チェックメイト、ってね」

 

 

 重なって倒れているアクアの背中を踏みつけて、勝負はついた。

 

 

 

 

 組み手が終わったら反省会だ。

 何がよくて何が悪かったかわかっていれば、次につながる。

 少しやりすぎたかと思ったが、アクアもフレイムも悔しそうにしているからまだ伸びしろがありそうだし、ちゃんと先輩として何が悪かったか教えないといけない。

 

 

「まずはアクアかな。いきなり突っ込んでくるのは悪いとは言わないけど、大ぶりなのはよくなかったね」

 

「あんな技術を使ってくるのなんて、イスズ先輩ぐらいですよ」

 

「いや、最上級のインベイダーは結構使ってくるよ」

 

「え?」

 

 

 ルーククラスの上位や、クイーンクラス、キングクラスとなれば向こうでは貴族階級であり、戦闘用の技術を持っている者も珍しいわけではない。

 普通に戦っていると、ポーンクラスやナイトクラスが多いし、あのあたりは力任せに戦うからあまり知られていないけど……

 

 

「インベイダーは基本人型だし、ごくまれにいる獣型も基本は誰かが操っているから、格闘技術は磨いておいた方がいいよ~」

 

 

 ボクが使うのは柔道だが、別に他のでもいい。というか、制圧し無力化するのが目的の柔道は、魔法少女の戦闘とはあまりあっていないので、空手とかあのあたりのほうが役に立つと思う。

 

 正直ド派手な魔法なんて使わなくても、身体能力強化してぶん殴れば大体のインベイダーは倒せるのだ。

 それを如何にあてるか、というところが問題なのだから、結構格闘技術は役に立つのだ。

 

 

「魔法少女って、魔法が強くなればいいわけではないんですね……」

 

「体を鍛えて体力や筋力をあげるのも大事だし、魔法一辺倒で上を目指すのはちょっと難しいと思うよ」

 

 

 魔法しか使わない魔法少女も一定数いるが。

 最強の魔法少女の候補に挙がるブラックリリィとか、魔法しか使わない引きこもり虚弱体質だし、そういう路線があるのは否定しない。

 ただ、それはかなり才能頼りの方針だし、バランスよくいろいろ鍛えたほうが魔法少女としても上に上がりやすいだろう。

 

 

「ありがとうございました」

 

 

 ふてくされ気味のアクアが頭を下げる。

 フレイムがアクアちゃん! と窘めるが、これくらいの年齢だったらこのくらい気が強い方が魔法少女に向いている。

 

 

「筋トレならトレーニングジムのトレーナーに相談すれば教えてくれるよ。格闘技もあの人は教えてくれたはず」

 

「っ! ありがとうございました!!」

 

 

 素直な態度は見せないが、案外素直らしいアクアは、ボクの助言に従うようだ。

 それにありがとうというだけかなりかわいらしいものだ。青春だねぇ。

 

「すいません!」とフレイムが頭を下げてアクアを追いかける。がんばれ~君らが強くなればボクの負担も減るし。

 

 

「ちょっと大人げなくないですか?」

 

「これくらいの方が上に上がれるでしょう」

 

 

 このくらいで折れる子なら危ないし魔法少女をやめたほうがいい。

 最終的に魔法は心の力なのだから、メンタルが不安定な子には向いていないのだ。

 

 

「さて、少し瞑想してから帰ろうか」

 

 

 騒ぎはあったが、ボクは予定通り基礎トレーニングを始めるのであった。




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