TS六留女子高生は魔法少女がやめられない 作:雅媛(みやび)
クイーンクラス「夜の女帝」の襲撃は当然ながら大騒ぎになった。
その後すぐに駆け付けた町田の警察の人と、夜中にたたき起こされたらしい藤宮先生に、すぐに事情を聴かれることになった。
パトカーで魔法少女協会の支部へと向かい、会議室でお話をする。
「それで、相手はウズメちゃんを狙っていたと」
「間違いないかと」
「それでウズメちゃんが魔法を使って撃退したと」
「そうですね」
「夜の女帝って、貴女が極大魔法を使っても倒せなかった相手よね」
「はい、フォーリングサンをぶちかましても、普通に動いていましたね」
フォーリングサンはボクの魔法の中で一番強力な魔法だ。小型の太陽を発生させてぶちかますというやべー魔法であり、天然の核融合を地上で発生させるために水爆級の威力がある。
ユグドラシルで使った時は、半径10kmのクレーターができたレベルの威力だ。
さすがにそんなもの、関東で使ったら大変なことになるのでこちらでは使ったことがないが……
それをぶち込んでも、夜の女帝は怪我はしていたが動ける程度のレベルであった。
あの闇の衣は突破不能と思っていたのだが……
「ところで……いつまでウズメちゃん胸にくっつけてるの?」
「いえ、さっきから離れてくれないんだもの……」
戦いが終わった後からお腹を空かせていたウズメは、今までずっと食事中だ。
さっきまではサクヤからおっぱいをもらっていたのだが、吸いつくしたようで今はボクの胸にずっとくっついて母乳を吸っている。
「たぶん魔力が枯渇しかけてるんだと思うな。集中させたとしても、夜の衣をぶち抜くんだからかなりの魔力使うはずだし……」
本来、魔力をそのままエネルギーに変換するよりも何らかの現象に置き換えて使ったほうが威力は上がるのだ。
ルミナスレイとフォーリングサンの魔力消費はそう変わらないが、魔力をそのまま光に置き換えただけのルミナスレイと、核融合という現象に置き換えるフォーリングサンでは威力が全く違う。
あの時ウズメが使った魔法は、魔力を光にそのまま置き換えたものだろうから、かなり膨大な魔力が必要だったはずだ。
それゆえに、今魔力枯渇状態なのだろう。
「しかし、厄介なことになったわね」
「処分とか言い出したら今すぐここでぶっぱなしますよ」
「言わないわよそんな残酷なこと」
「やるなら県警本部にお願いします。あいつらはそれを普通に言ってきましたが、私たちは賛同しませんし、無辜の市民が巻き込まれてはかわいそうです」
「ひとまず県警本部の方はこちらでどうにかしておくよ」
同席していた警察署長のおじさんがしれっと本部を売る。まあ気持ちはわかるが。
本部からの処分の支持の指令書を署長さんから受け取ると、写真を撮ってそのままなじみの記者さんに送り付けた。
しかし相変わらず情報収集ガバガバだな本部のやつら。
ウズメがただの魔法生物、つまりペットの一種だと思ってこんなのを送ってきたのだろうが、すでに戸籍も住民票もある人間なのだ。
つまり、危険動物の処分指令ではなく、一人の人間の殺害指令になってしまっている。
当然ながらこんなの出したのだから、本部の人間がまた何人か首が飛ぶだろう。これで上層部総取り換えは3回目だと思うが、なんでこれだけ上の首を飛ばしてもまともにならないんだろうか。
解せぬ。
「とはいえ何の対処もしないわけにはいかないでしょうね」
「学校に連れていくのも危なくなっちゃったねぇ……」
学校に襲撃が来たらそれこそ対応が難しくなる。
人が多いのでどこまで避難がしっかりできるか未知数だ。
まあそれこそ学校は休めばいいのだが……
「ひとまずもっと情報を集めないといけないねこれは」
「そうね。でも心当たりはあるの?」
「魔法生物の話だし、ユグドラシルの方のミーミルの泉に行ってみるよ。あそこならさすがに情報があると思うな」
ミーミルの泉は向こうの世界の大図書館であり、ないものはないと言われる場所だ。
魔法のことならそこに行けば何かわかるだろう。夜の女帝が何か知識を持っていた以上、人型の言葉をしゃべる魔法生物というのもまったく前例のない現象ではないはずだ。
「また長期出張ね」
「しょうがないでしょう?」
学校生活を楽しみたい気持ちはあるが、このままだと際限なく危険が増えていく。
情報を集め、対応を考えないと平穏な暮らしは戻ってこないのだ。
「サクヤはどうする?」
「もちろん一緒に行きますよ。奥さんと子供だけ行かせるなんてことはできません」
「いつの間にボクはサクヤの妻になったのかな?」
「ふぎゃー!!」
冗談を言うサクヤをアイアンクローで釣り上げる。
じたばたするサクヤを見て、ウズメはキャッキャと笑っていた。
この子、やはり大物になるわ……
あまりのんびりしていても状況は改善しないだろうし、さっさと向こうの世界にわたり旅立つことにした。
まず向かうのはサクヤの国であるモルケンロートだ。交流もありゲートもフォーリナーの街に存在するので、世界を渡る先としてはちょうどいい場所である。もっともそこからミーミルの泉までが遠いのだが……
藤宮先生といくつか書類を書いて、早速ユグドラシルに渡ることとなった。
ゲートを抜ければ、そこは異世界である。
空気に含まれる魔力が圧倒的に濃い。
目の前にはこじんまりした街があり、周りは森に囲まれていて、森の向こうには大きな山が見える。
山のふもとの国、モルケンロートだ。
一度夜の帝国に滅ぼされ、生き残ったサクヤが立て直したこの国は、現在あまり多くの人がいない。
多くは日本の方に移住してしまったのもあるし、そもそも一度国が滅んだときに人々は散り散りになってしまったのもある。
とはいえ安定している日本とのゲートを通じた交易により豊かな街となっている。
ゲートをくぐると初老の男性がいた。
サクヤのことを小さいころから面倒を見ている爺やだ。この街の町長であり、モルケンロートの国王代理でもある。
「姫様、イスズ様、お帰りなさいませ」
「ただいま、爺や。変わりないかしら?」
「はい、平和そのものです。姫様は……そちらのお子様はどなたですか?」
「私とイスズさんの子供ですわ」
「!?」
「ちょっといいかたぁ!!」
いや間違っていないのか? でも確実に誤解を生む言い方だ。
爺やは振り返ると大声をあげた。
「皆のモノ! 姫様に子供ができたぞ!!」
「ちょっとまってええええ!!!」
ボクの叫びは一切無視され、町中が沸き立つ。
サクヤはボクに対してはセクハラしかしてこないダメな子だが、国にとっては救国の英雄であり、しかも優しくて美人だから人気が非常に高い。
そんなお姫様に子供が生まれたなんて言うことが広まればもう大騒ぎである。
すごい勢いで山車が引きずり出され、その上にボクたちは乗せられる。
サクヤはよそ行きのロイヤルスマイルを浮かべ手を振る。
ウズメも調子に乗って満面の笑顔を浮かべながら、両手を大きく振る。
ボクはたぶん表情が死んでいた。ウズメを抱きかかえながら、どうしてこうなったんだろうとおとなしくパレードを山車に乗って移動し続けるのであった。
「このおバカ! 隠密しなきゃだめだってなんでわからないの!」
「ふぎゃー!! イスズさん許してください!!」
パレードの後、ボクはサクヤを っていた。
いろんな相手に狙われている現状、できるだけ静かに移動したかったのだが、パレードなんてしでかしたせいで完全に敵に動きが読まれてしまった。ここからミーミルの泉に向かうことはまだバレていないだろうが、モルケンロートにいることがばれた以上、見張りを幾人もつけられるだろう。
そうなれば多少の隠密ではごまかしきれない。ウズメがいる以上あまり乱暴な行動はとれないし、見張りを撒くのは難しくなってしまった。
「じいじ!」
「ウズメ様は賢いですね」
ウズメはじいやに愛想を振りまいて飴ちゃんをもらっていた。
「まあ、もう起きてしまったことはしょうがないけど…… これからどうしようか」
まあ間違いなく敵方にボクたちの行動がばれるだろうことは予想される。
とはいえ多少の猶予はあるはずだ。
今すぐここを出発するか、少しここで準備するかだが……
「準備を一度なさった方がいいと思いますよ。お二人とも、ろくに準備を持ってきてないでしょう?」
「マジックポーションとかはこっちで仕入れたほうが安いからこっちで買うつもりだったんだよ」
便利な魔道具はこちらでしかほぼ作られていないので、こちらで買った方が当然安いのだ。
保存食から回復用のポーション、携帯用のテントなどはすべてこちらで仕入れるつもりで向こうから来ているため、たいした装備を持ってきていない。服はまあ、魔法少女の格好で過ごせばいいから問題ないのだが……
「爺やが集めてまいりますが、1日ほどいただきたいところです」
「それで構わないけど、襲撃が来ないといいなぁ……」
用意はすべてじいやにお任せするとしても、出発は明日以降になりそうだ。
それまでに襲撃が来ないことを祈るが……
「たのもー!!!!」
深夜の城にでかい声が響き渡る。
面倒な奴が来てしまった。
サクヤにウズメを預けて白の外に出ると、門の前には狼耳を付けた青年がいた。
ナイトクラス『ナイトオブナイト』マガミ。
一つの魔法以外の魔法が使えないため、クラスはナイトとされているが、その強さと厄介さはこの前の夜の女帝とそう変わらない面倒な腐れ縁だ。
「はいはい、イスズさん華麗に登場っとな。あんたが出てくるとは思わなかったよ」
「偶然近くにいたからな。お前がこちらに来ているなら戦えるチャンスだしな」
そう言って背の丈ほどもある大剣を構える。
「あ? うちの子を狙ってんじゃないの?」
「なんだそれ、お前、子供産んだのか? 俺以外のやつと?」
「なにボクと恋人関係があったみたいなこと言いだしてるんだよ、戦闘狂ストーカー」
こいつが考えていることは本気でよくわからないが、若干ボクに惚れている気配がある。気配というのは、いいから戦闘しようぜという感じで毎回戦闘を仕掛けてくるだけで、勝っても負けても帰っていくだけだから何をしたいのかわからないのだ。
前口上で時々それっぽいことを言ってくるだけだし本当によくわからん。
何にしろ今回の騒動と別口なのは分かったが、とはいえやりあわないと帰らないやつなので、いつもの大槌をとりだす。
「ま、剣は口以上にモノを言うからな、さっさと勝負だ!!!」
「さっさと帰ってほしいところだけど、ねっ!!!」
振りかぶってハンマーを振り回し、相手をぶん殴る。
大剣とハンマーが激しくぶつかり合い、甲高い金属音を立てる。
2合、3合、4合……
何度も武器がぶつかり合う。
武器戦闘はあまり得意じゃないんだけどなぁ……
大きく振られた大剣を受け止めつつ、その勢いで一度距離をとる。
「ホワイトアロー!」
つっこんでくる態度をとるマガミの鼻っ面に光の矢を叩き込むが、ぶつかる直前で霧散した。
「そんなの効かねえって知ってるだろう!!」
マガミは躊躇することなく踏み込んでくる。大剣をハンマーで受け止める。
マガミの魔法は遠距離攻撃無効だ。肉体に接触していないあらゆる攻撃が無効化される。なので、必然的に彼の得意分野である近接戦闘に巻き込まれるのだ。
本当は長距離の射撃戦のほうが好きなボクとは相性が悪い相手だ。
牽制して一息入れたかったので光の矢を顔面に叩き込んだのだがやはり無駄であった。
そのまま戦い続けるが、5分もすればボクの劣勢は明らかで、ついにはハンマーを跳ね飛ばされる。
「いったぁ……」
「今回は俺の勝ちだな」
「はいはい、負けましたよ」
どや顔するマガミにイラっとしつつ、負けを素直に認める。
そもそもこいつと正面からやったら基本勝てないのだ。毎回いろいろな下準備と搦め手を使うから勝てるのであって、こんな準備もなしにやっても勝てるわけがない。
とはいえこいつなら仮に負けても口で丸め込めるし、さっさと帰ってもらおうと思ったので勝負に出向いたのだが…… やはり負けると悔しいな。
「さて、では俺の言うことを聞いてもらおう」
「まあ、できることなら構わないけど」
毎回勝った方が負けたほうの言うことをひとつ聞く、というのが暗黙のルールになっている。とはいえ大した要求はお互いしないし、場合によっては言いくるめて適当に流すこともある。
今回は何を言ってくるか……
「そうだな、子供ができたと言っていたな。子供と会わせろ」
「……まあいいけど」
一瞬こいつが隙をついて攫うとか、情報を持ち帰ることを考えている可能性が頭によぎるがすぐに否定する。
こいつの中の謎の騎士道精神からいって、そういうことを考えていれば最初から口に出している。なんでか知らないが子供を見たいのだろう。
しぶしぶだが、マガミを連れて城の方へと戻るのであった。