TS魔法少女イスズ JK6留   作:サイリウム(夕宙リウム)

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18:不穏な激突

 

というわけであれから5日くらい更に追加で警戒し続けてるんですが……。

 

 

「ちょっとマジできついんだけど。」

 

 

あのさぁ、確かにイスズちゃんやろうと思えば延々と徹夜できるけどさぁ。そろそろ寝かせてくれないと困るの! 肉体は大丈夫でも精神がつらいの! でも寝れないの!

 

なんかさぁ! 私のこと挑発してるのか、不定期で怪獣ドカドカ出てくるの! だから寝るに寝れないの! 数時間おきに怪獣集団が攻めて来たと思えば、多方面から秒刻みで出現したり、かと言ったら数時間なんも動きなかったり!

 

あー! もうヤダ!

 

ストレスたまるし! この動きとは関係なく宇宙人くるし! 他の一般悪の組織が『あれ、なんかイスズちゃん忙しそうじゃね? せや!』って感じで元気に活動し始めてるし!

 

 

「もう一回地球ごと全部爆破してやろうかな。月で20時間ぐらい寝たら全部元に戻してやるからさ。」

 

「やめてくださいね?」

 

「あ、クソじゃん。休ませろ。」

 

「田中です。……本当にストレス溜まってらっしゃいますね。」

 

 

そりゃそうでしょ。

 

イスズちゃんのこと余程警戒してるのか、地獄耳と名高いイスズちゃんイヤーに一切そう言うのが入ってこないのよ? 絶対そういうのガチガチに対策してるのよ? 卑怯者め! しかも絶対コレこの前先輩が言ってた『例のアレ』が関わってる案件でしょ!? そのせいか上も上で何してるか解らんしさぁ!

 

オイコラ田中管理官! キミの古巣はどんな感じなの! さすがに公安だからなんか情報拾って来てるでしょ! 来てなかったらコロス!

 

 

「えぇ……。んん。そちらの件ですが、既に自身はあちらの所属ではありません。故に流れてくるものも限られていることはご容赦ください。一応これを機に大掃除と言いますか、摘出手術を行うということは把握できているのですが……」

 

「つまり?」

 

「元凶が尻尾を出すまで現状維持です。」

 

「おファックッ!!!」

 

 

あ~、マジでイライラする。イスズちゃんこういうの大っ嫌いなのよ。

 

ほらイスズちゃんって最強でしょ? こう面と向かってバトルしてる時に相手が急に強く成ったり、なにくそ! って奮起してくる分には良いんだけどさ。陰でこそこそして私のこと貶めようとする奴はほんと嫌いなの。一体誰がこれまで宇宙人相手に戦ってきたのか解ってんの? もう人間は愚か! 粛清してやる!

 

まぁそんな愚かなところが可愛い……、って思ってるわけないだろうが! 善良な人がいることや、私一人じゃ美味しいご飯も楽しいことも全部なくなるから我慢してるだけ! おファックッ!

 

元凶出てきたらマジで後悔させてやるからなクソが!!!

 

 

「不味いですねコレ、本気でキレてる。……ちょっとお待ちください、各方面に掛け合って睡眠時間を確保できるよう手配します。」

 

「ほんと!!!」

 

「えぇ。ストレスが爆発するとともに地球が爆破されてはたまりませんから。」

 

 

やりぃ! ……でも私のせいで後輩たちに面倒かかるのめっちゃ嫌だな。腹でも切ればみんな納得してくれるかな? 私なら切ってもすぐ治せるし。あ、モツ食べる?

 

 

「無意味ですし食人趣味はないので辞めてください。……本来、国全体で対応することを貴女一人に任せていることに悔やんでいる方は案外多いのです。貴女が活動を始めてからの12年間、大勢の人を助けて来たのがイスズさんでしょう? 声をあげれば皆さん奮起してくださるはずです。」

 

「……そっかねぇ?」

 

「えぇ。それに、堪え切れれば確実に勝てる戦ですから。これほど安心できるものはありません。」

 

 

だと良いんだけど。

 

ま、イスズちゃんもね。“大人”ですからね! ちゃんと休んでリフレッシュして、溜まった仕事片づけて、元凶ぶっ殺した後は何も引きずらずいつも通りの日常に戻るよう尽力しますよ。あ、終わった後のパーティ代金はお上が持つよう言っておいてね。その代わり今月のイスズちゃんへの支払い減らしていいから。

 

 

「そのように……。失礼。怪獣出現、いえ消滅しました。」

 

「何秒?」

 

「0.11秒ほどですね。討伐、及び記録更新おめでとうございます。」

 

 

タイムアタックしても嬉しくなーい。はぁ、ほんと嫌な時に出てくるなぁ。

 

今の私は、世界中飛び回るために事務所があるビルの屋上に陣取ってる。さっきもここからジャンプして殺して帰って来た感じ。確かにこのビルはイスズちゃんの事務所で、色々出来る用に改造したから屋上にも設備はある。テレビ見たりドリンク楽しんだり空見上げたりできるんだけど……。

 

 

(見られてるし、見えるんだよなぁ。)

 

 

人工衛星の視線がこちらに向いてることが簡単に解っちゃうし、そのもっと奥。太陽系の向こう側のことも解ってしまう。流石に太陽系まで視線は通らないけど、室内にいる時より気配を強く感じ取っちゃうんだよね。また侵略宇宙人が挨拶しに来たから殺しに行か……、行ってきたけどさぁ。

 

あ~。これ、前お上が言ってた『育成早くして♡』って気持ちわかるわ。今みたいに何か起きてる時にイスズちゃんがストレスで爆散して、その間に宇宙人攻めてきたら地球終わるもん。

 

マシロちゃんミズキちゃんだけじゃなくて、他の後輩たち。白羽ヶ丘高等学園の子たちを優先的に鍛えるとかした方が……。

 

 

「お、噂をすればってやつか。田中、来客。」

 

「では茶と菓子を用意しますね。」

 

「良いの出してあげてね、頑張ってるみたいだし。」

 

 

そんなことを話しながら待っていると、気配が二つ。

 

ウチのビルの中に入り受付を済ませ、エレベーターと階段で屋上まで上がって来る彼女達。ぱっと開くドアの方を向いてみれば、私の方に大きな笑みを浮かべながら手を振るマシロちゃんに、少しの安堵と小さな笑みを浮かべるミズキちゃん。あと畜生。

 

 

「イスズさーん! お邪魔します!」

 

「すいませんお忙しい時に。」

 

「いーのいーの、後輩に遊びに来てもらえて嬉しくない奴いないんだから。あ、でも畜生は出禁ね。帰れ。」

 

「あ、相変わらず扱いが酷いっプ!?」

 

 

あはー、冗談冗談。……まぁ存在するくらいは許してあげるよ、うん。

 

にしても良く来たねぇ。特訓に授業に討伐に、色々大忙しでしょうに。大丈夫? 授業ついていけてる? 特訓は滞ってない? 変な奴出てきてケガとかもない? 厄介ファンが出てきて困ったりは? イスズちゃんに相談してくれれば全部物理的に消してあげるからね……!

 

 

「物騒っプ!」

 

「あ、あはは……。でも全部すごく順調ですよ! この前もミズキちゃんと一緒に頑張ったんです!」

 

「今回の件で少し配置転換がありまして、その救援として魔物級討伐に当たった感じです。一応、被害出さずに勝てました。」

 

「ほんと!?」

 

 

そりゃよかったねぇ! いやはや、最近様子見に行けなかったから不安だったのよ。でもちゃんと活躍できてるようでなにより! いやはや、後輩の成長が眩くて泣ける!

 

あぁもう撫でちゃお。よぉ~しよしよし~! わちゃわちゃ~!

 

 

「わ~! やめてください~!」

 

「そんな犬猫じゃないんですから……、というかマシロ。アレアレ。」

 

「あ、そうでした! イスズさん、これ!」

 

 

そう言いながら、後ろに引っ提げていたクーラーボックスを見せてくる彼女。

 

何持ってきたのかなぁとは思ってたけど……、私に?

 

 

「はい! イスズさんすっごく大変だって聞いて、何かいつものお礼できないかなぁって思ったんです! ミズキちゃんと一緒にお弁当作って来ました! ちょっとこれで足りるか解らないですし、お口に合うか解らないですけど……。」

 

「え。」

 

 

そう言いながら、少し恥ずかしそうに箱を開けてくれる彼女。

 

覗き込んでみれば、ずらっと詰め込まれた料理たち。私みたいな味良けりゃそれでいいだろという適当な感じじゃなく、女の子らしいというか、すごく細部まで丁寧に作られたことが解る料理たち。少し不格好だがわざわざデザートのリンゴをウサギ型に切ってくれているところからも、すっごい真心を感じる。

 

 

「あ、やば。泣きそう。え、マジで嬉しい。」

 

「ほんとですか!」

 

「よかったぁ……。」

 

 

大声で嬉しそうな声をあげるマシロちゃんに、小さくだが安堵の声を漏らすミズキちゃん。

 

うわ、うわ、どうしよ。ストレス消し飛んで幸福度MAXなんだけど。は? もう今なら全人類だけじゃなく侵略宇宙人すらも優しく受け入れて救済してあげられそう。

 

 

「ほんとにありがと……! ちょっと保存処理して永遠に残すね♡ 田中! 博物館立てるぞ! 飾る!」

 

「「いや食べてください?」」

 

「やだー! 食べたら無くなっちゃうもん! でも食べたい! は? 後輩の作ってくれたもの食べて消すとか正気か? あ? 後輩の作ってくれたの食べないとか頭おかしいの? は?」

 

「「人格分裂し始めた……。」」

 

 

すっごく食べたいけど食べたら無くなっちゃうの悲し過ぎるっ! でも食べなきゃ! しゃ、写真ぐらいは取って残していいよね! いいの!? やった! んじゃパシャリしまして。……頂きます!!!

 

……ッ!?

 

 

「おいしい……!」

 

「「泣くほど!?」」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「い、いろいろ凄かったけど、喜んでもらえてよかったね!」

 

「そうね……。最後の方、川みたいな涙流しながら食べてたけど。」

 

「色々規格外っプ。」

 

 

みんなでそんなことを言いながら、学園へと帰る道を歩きます。

 

ミズキちゃんは違うけど、私はまだ1年目の素人。上層部? ってところが教えてくれる情報には限りがあるみたいなんですが、いま日本が大変なことになっているのは私にもわかります。毎日ニュースで怪獣がやって来たことを伝える内容が流れて、そのたびにイスズさんが倒してファンサして帰っていく姿が流れてます。そこだけ見ればいつも通りのことなんですが……。数が、多すぎるんです。

 

素人の私でも解る、明らかな異常事態。私の担当である西さんもどこか張り詰めてましたし、ミズキちゃんも日に日に落ち着きが無くなっていました。

 

 

(こんな時だからこそ、いつもお世話になっているあの人。いま一番大変なイスズさんに何かお返しできないか、って思って二人でお弁当作って持って行ったんですが……。)

 

 

正直、あんなに喜んでもらえるとは思いませんでした。というかちょっと凄すぎて引いちゃいました。

 

い、いや嬉しそうに食べてもらえたのはすごく嬉しかったんですよ? でもちょっとオーバーリアクションというか……、はい。ま、まぁそれぐらいストレス溜まっていたってことですし、それを少しでも減らすことが出来たと考えればとても嬉しいですが。

 

 

(……できること、少ないなぁ。)

 

 

ただ憧れるだけじゃなくて、実際にこの世界に入って来てから理解できたこと。とてもやりがいのあるお仕事であることは確かですが、弱ければ何もできないという事実は、常に私の心にのしかかってきています。

 

もっと強ければイスズさんの負担を減らすために動けたかもしれませんが、今の私はお荷物です。何か出来ることを、と思いお弁当を持って行きましたが、助けになれたとしても微々たるものでしょう。

 

……でも、ここで沈んじゃ魔法少女じゃありません。だって、あの時宣言しちゃったんですもん。

 

新人でまだちゃんとした“魅せる”用の必殺我すら作れてない私。自身に出来ることは少ないですが、少しでも何でもないみんなの不安を取り除いて、一緒に戦う人たちの負担を減らせるよう頑張らないといけません。

 

 

「ですよね、ミズキちゃん!」

 

「……そう、ね。今起きてるのは怪獣級レベルだし、それに便乗しているのも組織級。私達が問題なく対処できるのが魔物級であることを考えると、出来ることは殆どないわ。無理に前に立って負けて、他の人に迷惑かけるなんて死んでも嫌だもの。」

 

「ミズキちゃん……。」

 

「だからこそ、強くならなくちゃ。でしょ?」

 

 

その言葉に、強く頷く。

 

イスズさんや、担当の西さんからも聞いているように、私達はすごく期待されてます。ちょっとそれが怖くなる時もありますが、多くの人がサポートしてくれている。だったらそれに応えるのが、魔法少女ってもの。新人の私が何言ってるんだ、って話でもありますが……。

 

間違っては、無い筈です。

 

 

「よし、そうと決まれば早速特訓よ! イスズさんからもらった必殺技の課題もだけど、まだまだ2人とも“基礎”が足りてないんだから! ぶっ倒れるまでやるわよ!」

 

「望むところです!」

 

「プルモもお手伝いする……、プ? なんか鳴ってるっプ。」

 

 

あ、ほんとだ。

 

プルモにそう言われ、急いで携帯を取り出してみると、西さんからの電話。ミズキちゃんの方にもメッセージが届いていたようで、二人とも携帯を取り出しています。

 

……何か、あったみたいです。

 

 

「西さん!」

 

『マシロちゃん! 今一人!?』

 

「い、いえ! ミズキちゃんと……」

 

『よかった! 今誰もいない地区に魔物級の反応があったの! それほど反応は大きくないけど、放置すれば無視できない被害が出る! すぐに2人で向かって討伐して!』

 

「りょ、了解しました! ミズキちゃん!」

 

「こっちも把握済みッ! 行くわよ!」

 

「はいっ!」

 

 

ミズキちゃんは胸元のポケットから光に包まれたカードを、私はプルモからブローチを受け取り、魔力で編み上げられた装束を纏っていきます。そして変身が完了するよりも速く、動き始めるこの足。

 

呼吸と共に巡る魔力と跳ねあがっていく身体能力を感じながら、町を駆け始めます。

 

 

「北西に34km! ちょっと遠いけど、バテるんじゃないわよっ!」

 

「はいっ!」

 

 

踏み込み過ぎて壊さないよう注意しながら、ビルを足場に先行するミズキちゃん、いえルミナちゃんを追いかけていきます。

 

単純な速度だけでは圧倒的にルミナちゃんの方が早いですが、今回現地には私たち以外の魔法少女がいません。何かあった時助けてくれる人がいない以上、誰かが突出しすぎるのは危険だと習いました。

 

私のせいで到着が遅くなり、それだけ被害が増えてしまう。耐えられないくらい辛いことですが、自分たちが間違えてもっと多くの被害を出してしまったり、今大変な先輩方に迷惑をかけるのは死んでも嫌です。出来るだけ深く考えすぎないようにしながら、全力で足を動かします。

 

そして。

 

 

「目視! ……ッ! 要救助者一人! ローゼッ!」

 

「確認しましたっ!」

 

 

上空に大きく飛び上がり、重力に従って落ちながら、眼下に広がる町をくまなく探し、発見する物体。

 

ルミナちゃんが言うように、住宅街を破壊しながら歩き回るトラックほどの大きさを誇る魔物が1体。それと、何故かその進行方向にある道の真ん中で佇んでいる女性の姿が一つ。

 

私はまだできないけど、ルミナちゃんは確か生体反応を調べる魔法が使えたはずです。一瞬だけ魔力を周囲に散らす様な感覚があったし、既に使用済みだと考えられます。つまりさっきの言葉からして、ある程度の避難が終わっていて、あの女の人だけが逃げ遅れたのでしょう。少しの疑問はありますが、即座に頭を整理し、周囲の状況を強く確認します。

 

動かせそうな樹木は……、あったッ!

 

 

「よいしょぉッ!」

 

 

魔力を放射し視界にあった木々と自身を繋げることで、そのコントロール権を貸してもらう。木だって今を生きる大事な命だけど、その力を借りないと私は戦うことが出来ない。強い感謝を彼らに送りながら、魔物を押しとどめる様な壁を生み出していく。

 

 

「できました!」

 

「了解! そのまま拘束! あの人を後ろに下げてくる! それまで足止めおねがい!」

 

「りょう…………、え?」

 

 

一瞬だけ見える、あの人。私達が要救助者と呼んでいた人の顔。

 

いつもの髪型じゃなくて、表情豊かな筈の顔に一切の感情がない。

 

けど、見たことのある、憧れの人の顔。

 

 

 

「イスズ、さん?」

 

 

 

そんな人が。何故か私の作った壁に向かって。

 

拳を振り上げ……、振り抜いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

 

ほぼ同時に起き上がる私達。

 

即座に自分たちの身を確かめますが、既に変身が解けてしまっています。あの瞬間、半ば無意識に魔力の防壁を張りましたが、イスズさんの衝撃を前にすれば防御なんか意味を成しません。幸いなことに私達の変身機構に組み込まれてる防御のおかげで、何とか五体満足を保てていますが……、酷く体が重いです。

 

 

(でも、なんで。……いや、そもそも。)

 

 

頭の中に浮かんだ疑問を追いやって、周囲の様子を確認します。

 

……案の定というべきか、酷い有様。魔物の姿は掻き消えており消し飛んだことは理解できますが、イスズさんが拳を放った地点から放射線状に全てが消し飛ばされて行っています。後ろを見ても、視界一杯に広がる平らにされてしまった市街地だったもの。

 

 

「み、ミズキ、ちゃん。」

 

「マシロ……、立てる?」

 

「何とか。でも、何で。」

 

 

頭の中を埋め尽くす疑問、確かにイスズさんの足だったら私達よりも速く現地に辿り着くことは可能です。

 

でも、ここまでする意味が解りません。確かにたまに規格外と言うか、人への被害を全く考えずにヤバいことをする人ではあるのですが、一般人がいるかもしれない市街地に向かってこんな威力の出る攻撃をするような人ではなかったはず。暴力的ではありますが、その辺りはすごくしっかりしていて、人が何を見てどう思うかをすごく考えている人。決してこんなことは、しないはず。

 

それに……、トレードマークともいえるツインテールや、あの能面みたいな恐怖を覚える無表情。

 

明らかに、異常です。

 

 

「一体、何が。」

 

「……あの人がおかしくなったのならこんな程度じゃすまない。たぶんあの一撃で、星が壊れてる。ビックバンだって起こせる人が、この程度の破壊で満足するわけがない。」

 

 

口元に流れた血を拭いながら、言葉を紡ぎ。まだ動かない私に手を貸し、起き上がらせてくれるミズキちゃん。

 

……同級生だけど、魔法少女としての年次は彼女の方が上。彼女も怖くて現状が理解できないってことは顔を見れば分かるけど、私を落ち着かせるためか言葉を紡いでくれている。その優しさにありがたさを覚えながらも、やはりせり上がって来る強い恐怖。たぶんこれは、どうしようもない。

 

私達にとって、イスズさんはとても大きな存在だ。この国どころかこの星を何度も救ってくれたとてもすごい人。そんな人が敵に回ったとなれば、絶望しかない。

 

だから彼女の言葉は、その事実を否定するもの。いや、否定するものであって欲しい。

 

じゃないと、正気を保てる気がしない。

 

 

「噂で、聞いたことがある。あの時は信じなかったけど……。イスズさんの遺伝子のデータがどこかに流れて、クローンが作られてるって。」

 

「……クローン。」

 

「最悪だけど、本当だったみたいね。」

 

 

クローン、まだ信じ切ることは出来ないけど、すっと頭に入って来る言葉。

 

誰かの細胞から全く同じ人を生み出してしまう技術。科学的に見ればとてもすごいことだと言うことは理解できるけど、倫理から見れば本当に正しい行為なのか判断が付けられないもの。人に対してそれをしてしまうのは色々と問題だから、禁止されてるって昔授業で聞いたことがあったけど……。

 

 

「それが、あの人……。」

 

「あれ、しんでない。」

 

「「ッ!?」」

 

 

鼓膜を震わす、あの人の声。

 

 

「やっぱり、オリジナルが見てるだけあって優秀?」

 

 

宙に浮かんでいた彼女が、ゆっくりと地面へと降りてくる。

 

全身を隠す大きなコートに、病院から抜け出してきたような服装。肌に見える手術痕や注射痕が、ミズキちゃんの言葉の正しさを後押ししていく。そしてそれを決定づける、その言葉と内容。氷かと思うほど冷たく、一切感情を声に乗せない話し方。これは、絶対“あの人”じゃない。

 

 

「まぁいいや。」

 

 

彼女がそう言った瞬間、空気が変わる。

 

その身に宿る極大の魔力が脈動を始めたせいで、肌で感じる空間の歪み。イスズさんと完全に同一な存在なのかは解らない。でも、確実に解る事。

 

私達では、何をどうしようとも勝てるわけがない相手。

 

 

「そうだ……。殺したら、くるかな?」

 

 

一瞬だけ捉えることが出来た、広がる視界。

 

私の眼の前には、彼女の突き出された拳が、映っていた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「させるとでも?」

 

 

速攻でその腕に蹴りをぶち込むことでへし折り、吹き飛ばす。

 

なんか急にバカでかい崩壊音聞こえたから何事かと思ったけど……。マジで間に合ってよかった。現着した瞬間に見えた、私に瓜二つの存在がマシロちゃんに拳を叩き込もうとしていた姿。本当に心臓が止まるかと思ったよ。自分のクソクローンなんかに大事な後輩たち殺されるとか、もう私どうしたらいいか解らないもん。

 

そんなことを考えながら、魔力を切り分け二人に投げて回復。ついでに周囲の状況を探る。……とりあえず、敵はクローン1体のみ。警戒する必要はあるが、とりあえず伏兵に警戒しすぎる必要はなさそうだ。

 

 

「大丈夫、二人とも?」

 

「「イスズさん!」」

 

「いやー悪いね、遅くなって。……すぐに片付けるから下がってて。危ないし。」

 

 

ちょっと気合を入れながら、二人にそう言う。

 

……さっき蹴りをぶち込んだ時、正直腕ごと消し飛ばす威力でぶち込んだはずだが、感じたのは折れる感触のみ。かなりの堅さを誇る侵略宇宙人でも消し飛んだ威力を耐えれた時点で、異常。確かに私も生身で受ければそれぐらいのダメージは喰らうだろうと言うことを考えると……。ついに完成させてしまったところがいるらしい。

 

私の遺伝子情報ってのはウチが全力で秘匿している。イスズちゃんも気にしてるからそれが外に漏れないようにしてるし、国もどこかに持っていかれないよう気を付けてる。でも一度それが流出してしまい、他国に流れたことがあった。

 

そして、これまでのクローン作製失敗の話と、どこぞの組織程度が出来るわけがないっていう事実を考えれば……、『どこぞの国家所属』の完璧なクローン。

 

 

「はー、気色悪。というかパイセンが言ってた『例のアレ』ってコレのことか。確かにまぁイスズちゃん作れれば調子に乗るのも解るけど、ちょーっとおつむがよろしくないみたいだね。……おい、『私』。それぐらいで気絶してないだろ?」

 

「……ふ、ふふふ。さすが、オリジナル。はじめて、痛かったかも。」

 

「そりゃどうも。」

 

 

ま、イスズちゃん相手に痛みを与えられるのって本気で限られてるからね。そりゃそうでしょうよ。

 

 

「さて。“始める”前に言っておくんだけどさ。降参する気はない? もし無理矢理従わされてるのなら配慮してあげるし、新しい顔と名前で再スタートさせてあげる。どうせお隣の共和国出身でしょ?」

 

 

そう言いながら、カマをかける。

 

実際、クローンってのは悲惨な末路を迎えることが多い。求められて生み出されたはずなのに、基準に達していないとなればすぐに廃棄されていく。クローン自体少々扱いが難しいが、作って思い通りにならなかったら殺すという行為は生命に対する侮辱に他ならない。

 

何の意味を持って生み出されたかは知らないが、命自体には罪がない。それに、言ってしまえば私の娘のような存在で、同時に魔力を持つのであれば私の後輩でもある。

 

助けを求める手を伸ばすのなら、それを取り引っ張り上げるぐらいはしてあげる。

 

けれど……。

 

 

「共和国? はは、そんなのどうでもいい。“ボク”は長官の為だけに戦うんだ。」

 

 

……ボクっ子ね、こりゃ業が深いことで。

 

とりあえずその長官さんは変態さんね。おけおけ。ぶっころリストに追加しておくことにしよう。……鼻につく薬の匂いと、培養液の香り。服の隙間から見える痕を考えると、かなり無茶な調整をされたようだ。寿命はともかく、この子の意識や考えすらも『作られたもの』って考えた方がよさそ。

 

 

「あの人がお望みなのは、オリジナルの抹殺。……そして、ボクが真にオリジナル! イスズになること!」

 

「イスズちゃんになっても、しんどいだけだと思うんだけどねぇ。ま、いいや。」

 

 

確かに、『保護』は前提条件だ。命に罪はないし、彼女は生れ落ちた瞬間からこの世界に存在してもいい生命だ。……でもね? 後輩に手を出そうとしたことは、紛れもない罪なのよ。

 

あはーッ! イスズちゃんのこと、怒らせちゃったねぇ!!!!!

 

 

「叱ってあげるよ、私ィ!!!!!」

 

「殺してやるぞ、ボク(オリジナル)!!!!!」

 

 

 








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