デュエル・マスターズAZ   作:柿田

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本編
第一話「男と少女」


 西暦三〇五五年。オオサカ。

 

 俺の手の中にはカードがあった。

 目の前には、グリーンのテーブルと大量のコイン。周囲にはタキシードを着込んだ男たち。

 ここはカジノだ。天国と地獄が紙一重の、最低な場所だ。

 そして、目の前の席には俺や周りのカジノスタッフと同じくタキシードを着た対戦相手の男がいた。

 

「ザック!貴様をここで仕留める!フルハウスだ!」

 

 目の前の席に座る男が叫びながらカードを叩きつけた。

 今、俺とこの男はギャンブルでポーカーをしている。役がそろって嬉しいのだろう。ギャンブルであるなら尚更だ。

 しかし、目の前の男の顔は俺の置いたカードを見て一気に青ざめた。

 

「……ストーレートフラッシュだ」

 

「な、なあっ……!?」

 

 クラブの四から八までが綺麗に並んだカードを見て、男は大きく口を開ける。

 フルハウスとストレートフラッシュ。どちらが上の役かは一目瞭然。気の毒だが、勝負は勝負だ。

 

「悪いが、俺の勝ちだな」

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

 ディーラーが目の前の男のコインを、手慣れた動作で俺の側へ寄せる。男はそれを歯ぎしりしながら見守っている。少しだけ哀れだ。ギャンブルだから仕方ないが。

 

「金はいつも通りに頼む」

 

「かしこまりました、ザック様」

 

 ディーラーに送金を依頼すると、俺は席を立ち上がる。すると、男は振り絞るような声で「待て」と呼び止めてきた。

 

「チップはくれてやる……だが、納得いかねえ!」

 

「はあ……だったら何だ?」

 

 呆れてため息をつく。男は、そんな俺に目もくれずジャケットの内ポケットを漁る。

 銃でも取り出すのか?と思っていたら、男は内ポケットから取り出したのは全く別のものだった。

 

「ザック!デュエル・マスターズで勝負だ!」

 

 男が手にしているのは四〇枚の青いカード。男は、それを警察手帳か何かのように突きつけてきた。

 親の顔よりも見覚えのあるカードを見て、俺はうんざりした。

 

「……他を当たるんだな」

 

「なぁにぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 俺は男に背を向け、その場を去った。暫く男の「腰抜け四十肩野郎」だの「アメリカに帰って女神像でも磨いてろ」だのといった叫び声が聞こえたが、無視する事にした。

 ……俺は、まだ三十九歳だ。

 

 

 

 賭けが終わると、俺はカジノ内にあるバーへと向かう。勝っても負けても、これだけは変わらなかった。

 

「ザックぅ。アンタって冷たいわよねぇ。相手してあげあればいいのに」

 

「黙れ。せっかくのブルームーンが不味くなる」

 

 隣に座っている、ディーラーの格好をした金髪の女に言い返しながら、俺は紫色のカクテル────ブルームーンに口をつける。スミレの香りが心地よい。

 やはり、ここの酒は美味い。俺の数少ない楽しみの一つだ。

 

「マスター、相変わらず良い腕だ」

 

「お褒めにあずかり光栄です」

 

 カウンターの向こうでコップを拭いている無精髭の男は、このバーのマスターにして、カジノの支配人でもある。彼は、俺の称賛に対して軽く会釈する。

 それを見ていた隣の席の金髪の女は、わざとらしく頬を膨らませる。フォーマルな格好とわざとらしい表情がミスマッチだ。

 

「ちょっとぉ。アタシとマスターで扱い違わない〜?アンタの故郷ってアメリカでしょ?平等の国だって聞いたんだけどぉ?」

 

 俺が酒を飲んでいるのも構わず抱きついてくる。あまりにしつこい。

 

「なら言わせてもらおう。小春、俺は仕事をサボるやつが嫌いだ。ニホン人なら特にな。休憩時間が終わったなら帰れ」

 

 アメリカだのニホンだの言ってるが、もうアメリカなんて国は存在しない。

 そもそも、この世界に国という概念自体がなくなってしまった。荒くれ者たちが暴れた影響だ。国とは、今では土地を識別する記号でしか無かった。

 

「チェッ、何よぉ。ケチー!べ〜ッ!」

 

 捨て台詞を吐いて、小春は立ち去った。ようやく、カウンターに静寂が戻った。

 

「アイツにも困ったものだな」

 

「まあまあ。それだけザックさんが気に入ってるんですよ」

 

「甘やかすのは感心しないぞ?」

 

 俺の忠告にマスターは笑って誤魔化す。小春のサボり癖は元からだが、マスターもマスターで小春に甘い。

 

「やれやれ……」

 

 再び、カクテルを口にする。グラスの中身も殆ど無い。今度は一気に喉に流し込んだ。

 俺は席を立ち上がって、紙幣をグラスの近くに置いた。

 

「ありがとう。美味かったよ」

 

「またのお越しをお待ちしております」

 

 頭を下げるマスターに手を振る。

 さて、そろそろ帰ろう。明日はどうするか────そんなことを考えていると、後ろから肩を叩かれた。

 

「っ……小春?何の用だ。悪いがこれから……」

 

「帰りでしょ?でも、悪いけど来てくれない?ちょっとここだと話し難いし……」

 

 何の話だ?と思ったが、小春にしては珍しく困った顔をしている。とりあえず、話を聞くだけ聞いてみることにしよう。

 

 

 

 小春に連れられてカジノの入り口近くにある待合室までやってきた。このカジノの待合室は、個室タイプの物もある。あまり聞かれたくない話を少人数でする際に使われている。

 それは良いのだが、そこで信じられないモノを俺は見た。

 

「……で、コレが用事か?」

 

「コレって言いなさんな!可哀想でしょっ!」

 

 小春に頭を軽く叩かれる。そのくらいは言いたくもなる。

 何故ならば、カジノなんて場所に幼い少女がいたのだから。

 

「言っておくが、俺は娘なんて授かった覚えはないぞ」

 

 大きな瞳に黒くて長い髪。紺色の学生服を身に纏っている。見た目から推測して、齢十歳ほどのニホン人だろうか。困ったような顔をしている辺り、性格は大人しい方のようだ。

 どう見ても俺の知り合いではない。俺の母親はニホン人だ。しかし、俺の父親はアメリカ人だし、生き別れの妹がいたなんて話もない。

 間違いなく赤の他人というやつだろう。

 

「でしょうねぇ。だってアンタの娘にしては可愛すぎるもの。お相手に似てるなら話は別だろうけどぉ」

 

「わっ……」

 

 そう言いながら小春はワシャワシャと少女の頭を撫でる。子供の手前、怒るに怒れない。

 

「それで?俺に何の用だ?」

 

 少女はもじもじしながら、便箋と封筒のような物を鞄から取り出した。便箋はともかく、封筒の方は妙に厚みがあった。その二つを、少女は俺に差し出す。

 急激に嫌な予感が襲ってきた。間違いなく面倒事だ。

 

「……何だこれは?」

 

「お母さんから。ザックさんへって……」

 

 ご丁寧に名指しと来たか……。ウンザリしながら便箋を開ける。当然ながら、中身は手紙だ。内容はシンプルなものだった。

 

〝財前ザック様へ〟

〝突然のお手紙申し訳ありません。時間がないので簡潔に書きます。〟

〝娘のアンナを守ってください。娘は、ある理由から身柄を狙われています。それに逆らった私も、幾度となく殺されそうになりました。理由を書いている時間はありません。〟

〝勝手なのは承知しています。しかし、私はもう長くありません。今の私が頼れる人間は、貴方の他にいません。〟

〝娘にはせめてものお礼を持たせておきます。使い道は貴方の自由にしてください。〟

〝アンナが無事なら、私は他に何も要りません。娘をよろしくお願いします。〟

〝天海明里〟

 

 手紙の内容はこれで全てだ。娘を託すには、あまりにも簡潔すぎる内容。そして、お礼とは封筒の中身だろう。多額の金が入っていた。

 それ以上に、俺にとっては差出人が問題だった。

 

「お前、アカリの娘か……」

 

 手紙の中でアンナと呼ばれた少女は無言で頷く。小春は怪訝な顔をした。

 

「誰それ?アンタの昔の女?」

 

「そうだ」

 

「え、マジで?」

 

 一人で勝手に驚いている小春はともかく、この娘はどうしたら良いのだろうか。俺を名指しということは、恐らくは自警団に預けられない状態のはず。守るにしても考える時間が必要だ。

 思案していると、部屋の外から騒ぎ声が聞こえ始めた。

 

「困ります!お客様!」

 

「うるせぇ!」

 

 再び嫌な予感。十中八九、アンナを狙ったものだ。ここにいる事が知られたら危険だ。

 身を隠させようとしたが、間に合わなかった。扉は無慈悲にも勢い良く開いた。

 

「……探したよ、アンナちゃん?」

 

「ひっ……!」

 

 扉から出てきたのは白いスーツにサングラスの男だ。アンナの怯えた様子から見て、追っ手で間違いないようだ。

 今いる部屋は手狭な個室。何かアクションを起こされると不利だ。

 

「ちぃ……!」

 

 アンナの手を乱暴に引いた。そのままアンナを抱えると、ダッシュでサングラスの男の脇を通り抜けた。

 

「待て!」

 

 男が叫ぶのも構わずに走り抜ける。

 十歳の少女を抱きかかえながら走るのは骨が折れるが、そんなことも言ってられない。

 

「うわっ!」

 

「何だ!?」

 

 周囲の客やスタッフの困惑や、サングラスの男の罵声が聞こえてくる。しかし、構っていられない。

 

「っ……!」

 

 カジノの出入り口の扉が見えてきた。俺は、扉を蹴り開けた。

 扉の先には見知った街が広がっていた。

 ボロボロの建物に、舗装されていない地面。人が細々と住んでいるだけで、荒れてしまっている。

 いや、そんな事は今はどうでもいい。とにかく遠くに行かなければ……。

 

「逃ぃがすかぁっ!」

 

「っ!」

 

 サングラス男の叫び声が後ろから聞こえる。もう落ち着いてきたのか……!

 さらに、男が何かを投げてきた。それは俺達に当たることはなかったが、眩い光を放った。

 

「くっ!」

 

 光が収まると、目の前には先程までいないはずのモノが存在していた。

 それは、四足歩行の生き物に跨った赤い帽子のガンマンだった。

 

「ジョリー・ザ・ジョニー……!」

 

 ジョニーは、俺達に銃を向けている。その時が来れば、いつでも俺達を撃つつもりだ。

 俺はあのガンマンの存在も、この場に出てきた理由もを知っていた。

 

「ふふ、見事だろう?私の能力によって出てきた、私のクリーチャーだよ」

 

 サングラス男が、したり顔で店から出てくる。男の言葉に驚きはなかった。

 

「お前、能力者か……」

 

「ふふ、そんなところだよ」

 

 能力者────突如として世界に現れた不思議な力を使う存在。デュエル・マスターズと呼ばれるカードの力を使える人間を指す。

 デュエル・マスターズ自体はただのカードゲームだ。実際、普通の人間が使う分には何も起こらない。しかし、能力者が扱うとカードに描かれたクリーチャーが飛び出したりする。

 この世界では、能力者達が力を使って暴れ回っているのが世界中で問題となっていた。かつては存在したという各国の軍隊も、太刀打ちできなかったという。その結果が、今の荒れ果てた世界だ。

 

「さあ、アンナを渡しなさい。他人の為に命を落とす必要はない」

 

 サングラス男は手招きする。

 男の動きも、物言いも、何もかもが気に食わなかった。腹立たしい。

 ならば、返す言葉は一つしかない。

 

「それは俺が決める。貴様の指図は受けん」

 

 サングラス男の目元がピクリ、と動く。

 そして、男の目つきが鋭くなった。

 

「そうか……なら、死ねえ!」

 

 サングラス男が手を振ると、ジョニーは引き金を引く。

 街に銃声が木霊する。

 だが、それと同時に俺の周囲が光に包まれ始めた。

 

「なにっ。これは!?」

 

 サングラス男が驚嘆の声を上げる。周囲一帯が、光にのみ込まれる。

 

「うう……こ、これは……!」

 

 光が収まる。

 サングラス男はぐるりと周囲を見渡す。そこには、先程までの荒れた町は無かった。

 一変して、黒い空間が広がっていた。どこまでも広がる無限の黒。ただ、一つの目的のためだけの場所。

 男は、その空間の名を叫ぶ。

 

「デュエルゾーン!」

 

 それが、この空間の名であった。逆に、奴とは違って俺に驚きはなかった。

 何故ならば、この現象は俺が起こしたからだ。

 

「貴様か?貴様がやったのか?」

 

「そうだ」

 

 俺は即答する。この現象は、俺の意思で引き起こされたものだ。

 

「ぐぅっ……!貴様も能力者か!」

 

 サングラス男は、俺の肯定に激しく歯軋りをする。

 俺も能力者であったが、この力を使う気はなかった。良い思い出がないからだ。

 

「……二度とデュエル・マスターズをやるつもりはなかったんだがな」

 

 カードの束────デッキを懐から取り出す。すると、デッキは勝手に宙に浮き始める。

 

「シールド・オン!」

 

 俺の掛け声と共に、目の前には青い五枚の壁が出現する。さらには、手元に五枚のカードが飛んでくる。

 

「おいおい、俺とデュエルするつもりか!?」

 

「それが一番効率が良いからな」

 

 能力者は個人差はあれど、基本的にはカードの力を自在に操る。力で止めるにしても周囲への被害は出てしまう。

 その被害を最小限に抑える方法……それが、デュエル・マスターズ・カードを使ったゲームであるデュエルだ。

 能力者が二人以上いると、異空間に飛ばされることがある。俺は、それを利用したのだ。

 そして、この異空間からはデュエルの決着がつくまで出られない。

 

「舐めるな……!このグラン・ザンスに勝てると思っているのかァ!」

 

「御託は良い。早くしろ」

 

「良いだろう……!俺の手で殺してやる!」

 

 グランと名乗った男は叫びながら、シールドを展開させる。

 これでデュエルの準備は整った。

 

「デュエル!」

 

 俺達二人が叫ぶと、デュエルがスタートした。

 デュエルのルールは至ってシンプル。五枚のシールドを除去させてトドメを刺せば勝ちだ。逆に、刺されたら負ける。

 

「離れるなよ」

 

 傍らにいるアンナに忠告する。アンナは、俺のズボンを掴みながら小さく頷く。

 

「早くしろ!ターンを終わらせられたいか!」

 

 男が吠える。見ていられないほどの怒り具合だ。

 

「……せっかちな男だ。マナチャージ、ターンエンドだ」

 

 俺は、鎧機天 シロフェシーをマナに置いた。カードを使うにはマナと呼ばれるエネルギーのようなものが必要になる。そのマナは、一ターンに一度だけ手札から置くことが出来る。

 これ以上は何もできないのでターンを渡した。

 

ザック

●手札…四枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 無し

●マナ…一枚

 

「俺のターンだ!ドロー!」

 

グラン

●手札…六枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 無し

●マナ…〇枚

 

「バイナラドアをマナに置く。そして、呪文!ジョジョジョ・ジョーカーズを発動!」

 

 デッキの上から四枚を確認してジョーカーズのクリーチャーを手札に加える呪文だ。

 

「俺はヘルトッQを手札に加える……ターンエンド」

 

グラン

●手札…五枚

●シールド…五枚(一枚はヘルトッQ)

●バトルゾーン

 無し

●マナ…一枚

 

 ヘルトッQ……面倒なカードを引いたな。使うかどうかは不明だが、出てきたら奴の手札が大きく増える。

 今の段階で心配しても仕方ない。とにかくカードを引こう。

 

「俺のターンだ。ドロー」

 

ザック

●手札…五枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 無し

●マナ…一枚

 

「クーソクゼーシキをマナチャージして、コスト2のパトファール-P4を召喚!」

 

ザック

●手札…三枚

●シールド…五枚 

●バトルゾーン

 パトファール-P4

●マナ…二枚

 

 俺の目の前にサイレン付きの車のクリーチャーが出現する。

 このクリーチャーは、出た時に場を離れない効果を付与する。今回のデュエルでは役に立つかは怪しいが、いないよりはマシだ。

 

「ターンエンド」

 

「そんなクリーチャー出しても無駄無駄!ドロー!」

 

グラン

●手札…六枚

●シールド…五枚(一枚はヘルトッQ)

●バトルゾーン

 無し

●マナ…一枚

 

「RinRinKidsをマナチャージ。そして、ヤッタレマンを召喚!」

 

 グランの目の前にドラムを持ったモヒカンのクリーチャーが現れる。

 見た目はコミカルだが、これもまた厄介なクリーチャーだ。

 

「効果は知っているか?こいつがお前の破滅への布石だ」

 

「……ふん、知ってるさ」

 

 強がってはみせるが、眉にシワが寄るのを感じる。

 このクリーチャーは、ジョーカーズクリーチャーの召喚コストを下げる効果を持つ。コスト一つで流れが大きく変わるのがデュエル・マスターズの厄介なところだ。

 

「それは結構なことだ。ターンエンド」

 

グラン

●手札…四枚

●シールド…五枚(一枚はヘルトッQ)

●バトルゾーン

 ヤッタレマン

●マナ…二枚

 

 確かにヤッタレマンは厄介だ。ここからの展開も間違いなく俺が不利になる。

 だが、俺も負けてやるつもりはない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

ザック

●手札…四枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 パトファール-P4

●マナ…二枚

 

「マナチャージ。星雷の求道者ア・リガテを召喚」

 

 雷を帯びた黄色の飛行型ロボットが出てくる。こいつには、バトルゾーンに出た時の効果がある。

 

「デッキの一番上をシールドゾーンに置く。その後、シールドから一枚を選んで手札に加える」

 

 手札にに加えたカードは、俺のデッキの切札とも言えるカードだった。過信はできないが、逆転への道筋は見えてきた。後は機を待つのみだ。

 

「シールド入れ替えか。何を仕込んだかは知らないが、ご苦労なことだ」

 

「ターンエンドだ」

 

 俺は奴の煽りに乗らずにターンエンドを宣言する。いちいち反応してたらきりがない。

 

ザック

●手札…二枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 パトファール-P4

 星雷の求道者ア・リガテ

●マナ…三枚

 

 改めて盤面を確認する。

 俺の動きは悪くないと思う。だが、奴も着実に手を進めている。大きく動くとしたら、ここからだろう。

 

「俺のターンだ。ドローする!」

 

 グランがデッキからカードを引いた。

 

グラン

●手札…五枚

●シールド…五枚(一枚はヘルトッQ)

●バトルゾーン

 ヤッタレマン

●マナ…二枚

 

「ふっ!マナチャージして八卦ヨーイを召喚!コイツはヨビニオンを持つ!」

 

 グランがバトルゾーンにカードを置くと、鳥居みたいなクリーチャーが出現する。やはり、動いてきたか……!

 

「コイツの効果を知ってるようだな?召喚時にコイツのコスト以下のクリーチャーが出るまでデッキをめくり続け、そのクリーチャーを出す効果を持つ」

 

 八卦ヨーイはコスト4。つまりは、コスト3より下のクリーチャーが出ればバトルゾーンに出てくる。

 グランのデッキが捲れ続ける。それが止まると、グランはカードをバトルゾーンに置いた。

 

「出てこい!コスト3!パーリ騎士!効果で墓地のジョジョジョ・ジョーカーズをマナゾーンに置く!」

 

 ミラーボールのクリーチャーが出てくると、墓地のカードがマナゾーンに移動する。

 パーリ騎士は出てきた時に、墓地のカードを一枚をマナゾーンに送る。これで奴のマナは五枚だ。

 

「ターンエンド!」

 

グラン

●手札…三枚

●シールド…五枚(一枚はヘルトッQ)

●バトルゾーン

 ヤッタレマン

 八卦ヨーイ

 パーリ騎士

●マナ…四枚

 

「見たか!この無駄のない動きを!展開とマナ加速を同時にこなす俺のジョーカー・デュエルを!」

 

 グランが高笑いをする。それも無理はない。

 手札、バトルゾーン、マナ。あらゆるアドバンテージは奴にある。いま、有利なのは奴だ。

 だが、俺はそれを認めるつもりはなかった。

 

「……ここまでは、ジョーカーズの典型的な序盤のムーブだな。騒ぎ立てるものでもない」

 

「……なにぃ?」

 

 グランが額に青筋を浮かべ、睨む。

 今の状況は不利なのは間違いないが、動きとしては想定内だ。

 そして何よりも、傍らにはアンナがいる。守る対象を不安がらせるような言動は慎むべきだ。

 

「俺のターン、ドロー」

 

ザック

●手札…三枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 パトファール-P4

 星雷の求道者ア・リガテ

●マナ…三枚

 

「マナチャージ。忍鎖の聖沌 94nm4を召喚してターンエンドだ」

 

 大したことはできないが、今はこれで良い。後は奴の動き次第だ。

 

ザック

●手札…一枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 パトファール-P4

 星雷の求道者ア・リガテ

 忍鎖の聖沌 94nm4

●マナ…四枚

 

「俺のターン、ドロー!」

 

グラン

●手札…四枚

●シールド…五枚(一枚はヘルトッQ)

●バトルゾーン

 ヤッタレマン

 八卦ヨーイ

 パーリ騎士

●マナ…四枚

 

「殺してあげよう!このターンで!」

 

 グランはトドメを刺せる確信を得たらしい。俺は、アンナの肩を掴んだ。

 

「来る。裾にでも掴まってろ」

 

「う、うん……」

 

 アンナは、恐る恐る首を縦に振って俺にしがみつく。ここからのデュエルは、間違いなく荒れる。

 

「マナチャージ。そして、ヘルトッQを召喚!そして、ジョーカーズの数だけドロー!」

 

 新幹線の被り物をしたクリーチャーが現れる。奴が最初のターンで引き当てたカード。即時攻撃とドローが出来る面倒なクリーチャーだ。

 グランは、ヘルトッQをタップする。

 

「ヘルトッQで攻撃!この瞬間!革命チェンジを発動!」

 

 やはり来た……!俺の予測が正しいならば、あのクリーチャーがやってくる!

 

「バトルゾーンのヘルトッQを手札のジョギラゴン&ジョニー〜Jの旅路〜と入れ替える!」

 

 ドラゴンに乗ったジョニーが、ヘルトッQとハイタッチしてバトルゾーンに降臨する。その威圧感は、デュエル前の比ではない。

 

「Jの旅路の効果!バトルゾーンに出た時に手札を捨てる!捨てた手札の出た時の効果を発動させる!」

 

 奴が捨てたのはキング・ザ・スロットン7。コイツは、ジョーカーズを呼び出す効果を持つ。

 

「スロットン7の効果!出た時にデッキの上から三枚を公開し、全てジョーカーズならその中のクリーチャー一枚を呼び出す!」

 

 奴はデッキの上の三枚を見せる。

 RinRinKids、ジョジョジョ・ジョーカーズ、王道の弾丸 ジョリー・ザ・ジョニーの三枚だ。

 

「王道の弾丸 ジョリー・ザ・ジョニー!バトルゾーンに出てこい!」

 

 二体目のジョニーが出てきた。

 王道の弾丸は、上空に発砲する。その弾丸は、俺の頭上で爆発した。

 

「くっ……!」

 

 吹き飛ばされまいと地面を踏みしめる。

 攻撃では無いが、ジョニーの効果が発動したのだ。

 

「王道の弾丸は、バトルゾーンに出た時に相手の呪文の文明を一つ封じる。お前は光文明使いのようだから、光文明を封じさせてもらおう!」

 

 シールドからのトリガーを警戒しているようだ。抜け目のない男だ。

 

「ヘルトッQの攻撃は終わってない!旅路に引き継がれる!やれ!Wブレイクだ!」

 

 ドラゴンに乗っている方のジョニーが、引き金を引いた。放った弾丸は、俺のシールド二枚を抉った!

 

「アンナ!」

 

 アンナを庇うように、背を向ける。シールドの破片が、俺の身体を引き裂く!

 

「ぐあっ……!」

 

 傷口が焼けるように熱い。シールドのカードを確認しなければ……。

 

「ふっ。どうだ?弾丸のお味は?」

 

「黙ってろ……!」

 

 シールドを確認する。この場面で使えるカードはなかった。

 

「黙るのは貴様だ!王道の弾丸でシールドをトリプルブレイク!これでお前は丸裸だぁっ!」

 

 二枚目のジョニーが、弾丸を放つ。今度は、俺のシールドを三枚打ち砕く!

 

「ぐあああああああああっ!」

 

「ザックさん……!」

 

 先程よりも多くの破片が、俺の身体を裂く。

 アンナの震えた声が聞こえた。庇っているのだから、嫌でも耳に入る。

 

「シールドチェック……」

 

 思うように手が動かない。

 身体は痛みもだが、熱さも感じる。傷口が俺の体力を奪っている証拠だ。

 俺は震える手でシールドを手に取る……。

 

「これは……!」

 

 今、活路を見出した。

 手にしたカードの中に一枚だけ、光り輝くカードがあった!

 

「S・トリガー・プラス発動!聖沌大忍者 クーソクゼーシキ!」

 

 俺のバトルゾーンに赤い紐が結ばれた白い仮面のクリーチャーが現れた。

 

「そんなトリガー一枚で何になる!」

 

 このクリーチャーの効果を知らないらしい。効果を使うついでに教えてやろう。

 

「クーソクゼーシキは、デッキの上から二枚を見てシールドと手札に一枚ずつ加えることが出来る!」

 

「なにっ!?」

 

 俺のシールドは一枚残り、手札は六枚となった。

 さらには、攻撃を防ぐブロッカーもいる。それでも、奴の有利は変わらないが。

 

「さらに、忍鎖の聖沌 94nm4の効果!シールドにカードが置かれたからメクレイド5を発動!」

 

 デッキの上から三枚を見る。その中から、クリーチャーを選んでバトルゾーンに置いた。

 

「楯教の求道者 ザゼ・ゼーンをタップ状態でバトルゾーンへ」

 

 ザゼ・ゼーンは、自身の効果でタップ状態でバトルゾーンに出る。クセはあるが、心強い攻撃の要だ。

 

「これで貴様のシールドを剥がしてやる!八卦ヨーイで最期のシールドをブレイク!」

 

 水晶のクリーチャーが体当たりを仕掛けてくる。これでシールドを割られたら終わりだ。

 あくまでも攻撃をそのまま通すなら、だが。

 

「忍者チェンジ発動!」

 

「ああっ!?」

 

 グランが間抜けな声を出す。そんな奴に構わず、俺は手札のカードとバトルゾーンのあるカードを入れ替える。

 

「手札の聖カオスマントラとクーソクゼーシキをチェンジ!」

 

 俺の手札から、刃と鎖がついた白い仮面のクリーチャーが現れる。そして、クーソクゼーシキとハイタッチして入れ替わった。相手のターンに使える革命チェンジといったところか。

 

「カオスマントラの効果。相手クリーチャーを全てタップ!」

 

 カオスマントラが、グランのクリーチャー全てを鎖で縛り上げる。突然の出来事に、ジョーカーズ達は慌てふためく。

 これで、相手のクリーチャーは俺にダイレクトアタック出来ない!

 

「なあっ!?だ、だが……シールドは貰う!」

 

 そう。八卦ヨーイの攻撃はまだ生きている。八卦ヨーイは、改めてシールドをタックルして砕く。

 俺は、シールドの破片からアンナを庇う。破片は痛いが、必要経費というやつだ。

 

「ターン……エンド……クソ!」

 

 グランが悪態をつきながらターンを渡す。奴にこれ以上は何も出来ない。

 

「俺のターン。ドロー!」

 

ザック

●手札…七枚

●シールド…〇枚

●バトルゾーン

 パトファール-P4

 星雷の求道者ア・リガテ

 忍鎖の聖沌 94nm4

 楯教の求道者 ザゼ・ゼーン

 聖カオスマントラ

●マナ…四枚

 

「き、貴様に何が出来る!俺のシールドは五枚だ!」

 

 グランが叫ぶ。言葉とは裏腹に声が震えている。動揺している証拠だ。

 

「そうだな。だから、このターンで決める!」

 

「いっ!?」

 

 後退りするグラン。本格的に恐れを隠せなくなってきている。

 

「……大丈夫なんですか?」

 

 アンナが不安げな目を向ける。信じきれないのも無理はない。

 

「ああ。問題ない」

 

 アンナの頭を優しく撫でる。

 確かにトリガー次第では負けもあり得る。それでも……俺にできることは勝利を約束し、実行することだけだ。

 

「マナチャージ。獲銀月 ペトローバ を召喚。さらに、光器アメリアを召喚!」

 

 アメリアはデッキの上をシールドとして追加することが出来る。俺のシールドが一枚復活する。

 

「いくらシールドを増やそうとも……!」

 

「俺の目的はシールドだけではない!」

 

 グランが怯む。

 シールドが追加されたことで、効果を発揮するクリーチャーが俺の場には存在している。

 

「ザゼ・ゼーンの効果発動!シールドが置かれたからアンタップ!さらに、次のターンの初めまでザゼ・ゼーンは場を離れない!」

 

 横たわっていたザゼ・ゼーンが起き上がった。これで攻撃可能だ。

 効果を発動するクリーチャーはまだいる。

 

「さらに、忍鎖の聖沌 94nm4の効果発動!メクレイド5!獲銀月 ペトローバをもう一体召喚する!」

 

 機械仕掛けの女神像を思わせるクリーチャーが、バトルゾーンに舞い降りる。

 

「馬鹿な……これでクリーチャーが八体だと……!」

 

 一気に展開されたクリーチャーを見て、グランは崩れ落ちる。トドメを刺すつもりが返しのターンで盤面を固められたのがショックのようだ。

 これで攻守ともに強力な布陣が完成した。

 

「これで終わりにさせてもらう!パトファール-P4でシールドを攻撃!」

 

 パトファール-P4が、グランのシールドを砕く。破片に傷つけられながらも、グランはシールドを確認する。

 

「クソッ!」

 

 どうやらトリガーではないらしい。攻撃続行だ。

 

「カオスマントラ!Wブレイクだ!」

 

 カオスマントラが、自身の顔についた回転式の刃でシールドを切り裂く!シールドの破片が再びグランを襲った。

 

「ちぃ!S・トリガー!バイナラドア!」

 

 バイナラドアは、クリーチャーをデッキの下に送るクリーチャーだ。

 シールドは残り二枚。Wブレイカーもザゼ・ゼーンのみ。ならば、ザゼ・ゼーンを戻すのが定石だ。

 しかし、ザゼ・ゼーンには場を離れない効果が付与されている。

 

「くっ……!94nm4をデッキの下に戻す!」

 

 94nm4が、バイナラドアに飲み込まれて消える。しかし、俺の攻撃はまだ残っている。

 

「ザゼ・ゼーンでWブレイク!」

 

 ザゼ・ゼーンの拳が、最期のシールドを粉々に砕く。粉砕されたシールドをかき分けながら、グランはトリガーを確認する。

 

「トリガー……なし……!」

 

 グランは膝から崩れ落ちる。これで奴を守るモノは無くなった。

 

「ア・リガテでダイレクトアタック!」

 

 ア・リガテがグランへと突撃する。みるみるグランの顔が歪む。

 

「クソがあああああああああああああっ!」

 

 グランの周囲は、爆炎に包まれた。

 俺とアンナは、淡い光りに包まれる。この光は、デュエル終了の合図のようなものだ。

 

 

 

 光が消えると、目の前には見慣れたボロボロの街が広がっていた。

 

「た……助かったの……?」

 

「ああ」

 

 アンナが不安げな瞳で見つめる。命を懸ける状況だったのだからムリもない。

 とはいえ、俺達の目に映っているのはデュエルゾーンに入る前と同じ光景だ。つまりは、帰ってこられたのだ。

 

「あ、あがっ……」

 

 グランも戻ってきていた。もっとも、高そうなスーツはボロボロになっているが。

 

「ちょっと!大丈夫!?」

 

 後ろから聞き慣れた女の声が聞こえた。小春のものだった。

 振り返ると、カジノの連中が揃っていた。騒ぎを見て一斉に外に出ていたようだ。

 その先頭には、バーのマスターが立っていた。

 

「ザックさん……デュエマを……?」

 

「ああ、すまない。皆に迷惑をかけたな。この男は能力者だった。だから、やるしかなかった」

 

 カジノの連中の大半は、俺がデュエルをやりたがらないのを知っている。だからこそ、支配人も、マスターも、小春も、困惑した顔をしていた。

 

「……とにかく、奴を拘束するんだ。カードも取り上げれば問題ないだろう」

 

「あ、ああ……よし、あの男を拘束するんだ!」

 

 支配人が支持すると、カジノスタッフの男達がグランを取り押さえる。グランは抵抗するが、屈強なカジノスタッフの男達には無意味であった。

 

「覚えていろ……ザック・ザイゼン……俺と同格のデュエリストはまだ二人いる……必ず貴様の息の根を止めてやる……」

 

「良いからキリキリ歩け!」

 

 カジノスタッフの一人がグランの頭を叩く。グランは間抜けな声を上げながら連行されていった。

 

「マスター。仕事を増やすようで悪いが、ここに連絡して奴を引き渡してほしい。俺の名前を出せば適切に対応してくれるはずだ」

 

 俺は、自警団の連絡先を書いた紙片をマスターに渡す。

 秩序の死んだ世界だが、自発的に人々を守ろうとする組織自体はある。そこに任せるのが一番だろう。

 マスターは戸惑いながら俺のメモを受け取った。

 

「それは構いませんが……ザックさんはどうするつもりですか?」

 

「この街からは出るつもりだ。迷惑をかけてすまなかった」

 

 何だかんだ言っても、街やカジノには世話になることも多かった。そこに迷惑をかける形になったのは、俺としても不本意であった。

 

「そうですか……止めはしませんが、こちらとしては常連客がいなくなるのは少し困りますね」

 

「常連じゃなくて金蔓の間違いだろ?」

 

「そうとも言うかもしれませんね」

 

 マスターは苦笑いしながら肩を竦める。相変わらず良い性格をしている。

 

「街を出るってどうするつもりよ!?私も匿ってあげるし、街に残りなよ!」

 

 小春が叫ぶ。きっと、マスターも同じ気持ちかもしれない。ここに残る方が楽だろう。残っても俺を責める人間は殆どいないだろう。

 だが、俺は提案を受け入れるわけにいかなかった。

 

「申し出はありがたいが、俺はこの子を見捨てるわけにはいかない」

 

「ザック……」

 

 小春は無理だと思ったのか、それ以上は何も言わなかった。

 俺は改めてアンナに向き直り、手を差し出した。

 

「一緒に行くか?」

 

 命令ではない。アンナが自分の意志で俺を頼ってくれるならば、この手を取ってほしい。そう思い、手を差し伸べた。

 

「……うん。行きたい……」

 

 アンナは、俺の手を取った。華奢な腕からは、想像できないほどに力強かった。

 カジノに背を向け、俺たちは歩き出した。

 

「ザック!」

 

 小春の声が聞こえ、足を止める。振り返りはしなかった。

 

「……必ず帰ってきなさーい!!!」

 

 小春が息を思い切り吸って、叫んだのが聞こえた。残るのを提案した時とは違い、明るい声だった。

 俺は、その声に対して手を振って応える。永遠の別れではなく、いつかの再会を誓って。

 

 俺とアンナ。二人の長くて短い、忘れられない旅が始まった。




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