デュエル・マスターズAZ   作:柿田

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第三話「無重力と黒幕」

「ここがナゴヤ城か……」

 

 俺達の目の前には、ボロボロでありながらも存在感のある城があった。くすんでいても屋根の金の鯱は目立つものだ。

 

「シャチホコ……ザックさんは食べたことある?」

 

「……あるわけないだろう。行くぞ」

 

「はぁい……」

 

 緊張感のない質問をするな、と言いたいところだが仕方ない。歩き続ける旅だったから疲れでも溜まってるのだろう。目当てのものを手に入れたら宿でも取るか。

 

「どこにあるか分かるの?お城って広いけど……」

 

「城内じゃない。外だ」

 

「えっ」

 

 アンナは意外そうな声を出す。確かに、宝を仕舞うなら城の中だと思うはずだ。

 しかし、俺には他に心当たりがあった。

 

「昔、アカリからナゴヤ城の敷地内にお気に入りの木があると聞いたことがかる。恐らくは、その木の下だろう」

 

「あ……だからシャベル買ったんだ」

 

「そうだ」

 

 俺の手にはシャベルが握られていた。タキシード姿でシャベルを持つのは悪目立ちするが、今は仕方ない。

 

「どこか分かるの?」

 

「問題ない」

 

 ここに来たのは初めてだが、ナゴヤ城の画像ならアカリに何度も見せられた事がある。

 木がまだ残っているなら、そこに違いないはずだ。

 

「…………」

 

 旅の終わりは近いと考えて良いだろう。問題は、それがどんな終わりになるかだ。出来れば後悔する最後にだけはしたくない。

 結局は、今はやるべきことをやるしかないのだが。

 

「あれだな」

 

 天守の南東側に一本の木があった。この状況下において聳え立っていた。

 あれがアカリのお気に入りの木だ。春頃には見事な桜が咲くらしい。

 

「よし、掘るぞ」

 

「どのくらい?」

 

「知らん。近くで休んでていいぞ」

 

 それだけアンナに言うと、俺はシャベルを手に地面を掘り始めた。

 アンナは木の陰に座りながら、俺の作業を見届けていた。

 

「……まったく、宝探しは専門外なんだがな」

 

 星の盾をやめてからは、やりたい事もやるべき事も分からずに世界を渡り歩いた。仕事も色々やった。

 しかし、宝探しで穴掘りなんてまるでやったことがなかった。

 星の盾にいたころはアカリに振り回されてばかりだったが、今も振り回されているように思う。誰かの命が関わる事を除けば、嫌いではないが。

 

「……む」

 

 掘り進めていると、シャベルが硬い物にぶつかる。明らかに砂ではなかった。

 手で邪魔な砂を退かす。すると、小箱のようなものが出てきた。

 

「おい、悪いが来てくれ」

 

 小箱を掘り起こしながらアンナを呼びつける。小走りで近寄ってきた。

 

「それが例の……?」

 

「恐らくな」

 

 小箱の砂を払いながら答える。

 箱は古ぼけているものの、一応は鍵穴もついている。当たりだと思いたい。

 誰も近くにいないことを確認し、その場に座る。宝を見つけたなら、やるべき事は一つしか無い。

 

「開けるぞ。良いな?」

 

「うん」

 

 アンナの了承を得て鍵を取り出す。

 ゆっくりと鍵穴に鍵を入れる。砂粒で入らない可能性も考えたが、すんなりと入った。さらに、鍵を回す。

 カチャリ、と解錠の音が聞こえた。

 

「ビンゴだな」

 

 俺は箱の蓋を開けた。

 そこには、少しだけ変わったものが入っていた。

 

「……コレは手紙?こっちは記録媒体か……」

 

 入っていたのは手紙。そして、パソコンに刺して閲覧するタイプの記録メディアだった。

 また手紙が入ってる可能性は考えていないではなかったが、記録媒体は予想していなかった。

 

「ザックさん、パソコンは使える?」

 

「無理だな。自前のパソコンは持っていない。仮に借りたとして、コイツの中身次第では俺には手に負えない可能性もある。然るべき相手に引き渡すしかあるまい」

 

 とは言え、俺が頼る相手なんて星の盾くらいしかないのだが。これがアカリの物だとしたら、間違いなく穏便な内容ではない。俺の力では無理だ。

 

「……とりあえずは手紙だ。せめて持ち主の意図を知りたい」

 

 藁にも縋る思いで、手紙を開いた。

 

「読み上げるぞ」

 

 アンナは頷く。彼女も覚悟はできているようだ。

 俺は手紙の内容を読んだ。

 

 

〝この手紙が読まれているということは、私はこの世には居ないかもしれません〟

〝私は今、クオリアと呼ばれる組織に追われています〟

〝クオリアは能力者を捕まえて人体実験をしたり、外敵と戦う私兵にする危険な組織です〟

〝リーダーのイルフォン・クルーザは、私の娘を利用して死者の複製品を作ろうとしています〟

〝その証拠を手紙と共に入れておきます。これを星の盾に持っていってください〟

〝誰でも構いません。彼らを止めてください〟

〝天海明里〟

 

 

「……以上だ」

 

 俺は手紙を懐にしまう。筆跡は間違いなくアカリのモノだと思う。

 これは正真正銘、アカリの告発文だ。

 

「娘って……私のことだよね?私に死んだ人のコピーを作れるってこと……?」

 

「アカリの手紙の言う通りなら、な……」

 

 アンナは俯く。どうやら何も聞かされていなかったらしい。

 それも無理はない。こんな話を子どもの娘にできるわけがない。

 

「アイツもとんでもない事を言ってくれたな……」

 

 死者の複製。そして、それを研究している組織。

 いくら何でもスケールが大きくなりすぎだ。これではまるでSF小説の世界だ。

 そして、何よりイルフォン・クルーザと言う人間。強い能力者を従えているなら、こいつ自身も強い可能性は高い。

 ようやく終わりが見えてきたと思ったら、問題は増えるばかりだ。

 

「とにかく、星の盾とコンタクトを取る。街に戻るぞ」

 

 やや強引にアンナの手を引く。今は、無理やりにでも動かなければならない。

 星の盾に説明するのは時間がかかるだろう。それが終わったら、せめて飯でも食わせてやろう。出来る限りアンナの好きなものが望ましい。

 

 その為にも、早く城の敷地外に出よう────そう思っても、俺達の足が前に進むことはなかった。

 

「っ!これは……!」

 

 足に地面がつかない。

 僅かにだが、俺達は宙を浮いていた。少しずつ、身体が地面から離れていった。

 

「な、なに!?」

 

 アンナが怯えながら俺にしがみつく。急な出来事に、彼女の目尻には涙が浮かんでいた。

 

「チィっ……!」

 

 こんな異常現象が起こせるのは一人しかいない。

 

「姿を見せろ!」

 

 俺はデッキを掲げた。

 カードが眩く輝くと、周囲の景色が塗り替わった。

 

「……やはり能力者か」

 

 デッキが導いたのは、漆黒のデュエルゾーン。戦う為の舞台だ。ここにやって来たという事は、カードの力を行使できるクリエイト能力者に他ならなかった。

 

「咄嗟に能力を使うとは……無能ではないようね」

 

 暗闇の先から、浮遊現象の元凶とも言える人物が現れた。どうやら女のようだ。

 

「初めまして。私はユウフィ・サンヴァ。彼はアダムスキー。以後、お見知り置きを」

 

 白衣を着た金髪碧眼の女が、舞踏会のように優雅に頭を下げる。そこに敬意は感じられなかった。

 

「アダムスキー……なるほどな。お前、クオリアとやらの一員か」

 

「それが何?あなたはここで負けてアンナ・アマミを渡すのよ?」

 

 人差し指を動かし、こちらに来るように指示するジェスチャー。やはり、刺客の一人らしい。

 

「わ、私は天海アンナです!アンナ・アマミじゃないもん!あなたみたいな人!嫌い!!」

 

 アンナは負けじと反論する。先程までの落ち込みからは考えられないほどに、気丈に振る舞っている。

 

「その通りだ。俺が貴様に負ける未来は存在しない!」

 

 そうだ。何があっても俺はアンナを守る。どんな相手であってもだ。

 

「デュエル!」

 

 俺と三人目の刺客────ユウフィ・サンヴァのデュエルが始まった。

 

 

 

●ザック

●手札…三枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 無し

●マナ…二枚

 

●ユウフィ

●手札…五枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 無し

●マナ…一枚

 

「検問の守り 輝羅を召喚。ターンエンド」

 

 輝羅は手札以外からカードを出せなくする効果を持つクリーチャーだ。今回は期待は薄いが、何もいないよりマシだ。

 

●ザック

●手札…三枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 検問の守り 輝羅

●マナ…二枚

 

「私のターンです」

 

●ユウフィ

●手札…六枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 無し

●マナ…一枚

 

「マナチャージ。熱湯 グレンニャーを召喚。一枚ドロー」

 

 赤と青のオーラを纏った猫のようなクリーチャーが現れる。出た時にカードを引ける堅実な効果を持つ。

 

「ターンエンド」

 

●ユウフィ

●手札…五枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 熱湯 グレンニャー

●マナ…二枚

 

「俺のターンだ。ドロー」

 

●ザック

●手札…四枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 検問の守り 輝羅

●マナ…二枚

 

 俺の勘が間違っていなければ、奴はすでにアダムスキーを出す手筈を整えている。今の俺には大したことは出来ない。

 

「マナチャージして、獲銀月 ペトローバを召喚」

 

 女神像を模したクリーチャーがシールドの前に現れる。俺のデッキの攻撃の要の一つだ。

 

「ターンエンド」

 

●ザック

●手札…二枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 検問の守り 輝羅

 獲銀月 ペトローバ

●マナ…三枚

 

「私のターン。ドロー」

 

●ユウフィ

●手札…六枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 熱湯 グレンニャー

●マナ…二枚

 

「私に逆らったことを後悔させてあげる」

 

 実質的な処刑宣告だ。ここから仕掛けてくるのだろう。

 

「マナチャージ。三マナで瞬閃と疾駆と双撃の決断を発動!」

 

「ここで来るか……!」

 

 瞬閃と疾駆と双撃の決断はデッキに一枚しか入れられないカードだ。それをここで使ったということは、既に奴の中で勝機があるということだ。

 

「コスト3以下の同期の妖精をバトルゾーンに出す。さらに、コスト3以下のプラチナ・ワルスラSに同期の妖精から進化させる!」

 

 バトルゾーンに現れた競泳水着の少女が、王冠を被ったスライムへと変化する。

 

「ワルスラSでシールドを攻撃!この瞬間、侵略発動!」

 

 ワルスラの上に手札のカードを重ねる。ワルスラの姿も、水色と銀色のUFOロボットへと変わっていく。

 

「行け!S級宇宙 アダムスキー!」

 

 俺達に無重力攻撃を仕掛けてきた張本人が現れる。ここからが奴の本領発揮だ。

 

「アダムスキーの攻撃の前にワルスラSの効果を発動!カードを三枚ドロー。そして、一枚捨てる」

 

 これでユウフィの手札は合計三枚。激しい手札消費のケアも対策済みのようだ。

 

「アダムスキーでシールドを攻撃!」

 

「っ!」

 

 アンナはシールドの破片が飛んでくるのを恐れて、俺にしがみつきながら目を瞑った。

 しかし、シールドは破壊されてはいなかった。

 

「あれ……?」

 

「心配するな。そちらは問題ではない」

 

 アダムスキーはシールドをブレイク出来ない。

 ある意味では、ブレイク出来るより厄介な効果を持っているからだ。

 

「アダムスキーの効果!シールドをブレイクする代わりにデッキの上から二枚を墓地に送る!」

 

「ちぃっ……!」

 

 俺はデッキの上から二枚を墓地に置いた。

 これがアダムスキーの効果だ。デッキを削り取って、最終的にカードを引けなくなることによる特殊勝利を狙う。厄介な効果だ。

 

「ターンエンド」

 

●ユウフィ

●手札…三枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 熱湯 グレンニャー

 S級宇宙 アダムスキー

●マナ…三枚

 

 どんなデッキであれ、思ったようにカードを引くのは容易ではない。だが、ドロー出来る回数が多いなら話は変わってくる。ワルスラSで三枚も引いたなら、次の水のコマンドを引いていてもおかしくはない。

 

「ねえ、ザックさん……デッキが切れるなら、その前に倒すしかないって事だよね?」

 

「そうなるな」

 

 それを奴がそれを見越していないわけがない。

 アダムスキーは、手札からだけではなくバトルゾーンにあっても侵略出来るクリーチャーだ。

 例えば、アダムスキーが攻撃した後に別の水のコマンドが攻撃した場合、その水のコマンドに侵略進化が可能になる。つまりは、デッキ破壊を連続して行うことができるのだ。

 さらに、アダムスキーの攻撃はシールドを手札に加えさせないもの。つまりは、いつ手札不足になってもおかしくはないのだ。

 俺はデッキ切れで負けるのを覚悟してドロー加速するか、今の手札で勝ち切るかの二択を迫られている事になる。

 

「どの道、引くしか無いか……ドロー!」

 

●ザック

●手札…三枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 検問の守り 輝羅

 獲銀月 ペトローバ

●マナ…三枚

 

 シールドのカードはアテに出来ない。なら、デッキを頼るしか無い。

 

「マナチャージ。アシステスト・アルデッドを召喚。一枚ドローだ」

 

 ドローするということはデッキを減らすことだが、今は仕方ない。

 

「ターンエンド」

 

 結局、クリーチャーを並べるしか無い。チャンスを待つしか無いのだ。

 

 

●ザック

●手札…一枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 検問の守り 輝羅

 獲銀月 ペトローバ

 アシステスト・アルデッド

●マナ…四枚

 

「では、私のターン!」

 

●ユウフィ

●手札…四枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 熱湯 グレンニャー

 S級宇宙 アダムスキー

●マナ…三枚

 

「マナチャージ。呪文、灼熱の町 アチーチ・タウンを発動!アダムスキーにこの呪文の効果を使い、一枚ドロー!」

 

 アダムスキーが赤いオーラを纏う。この呪文は、攻撃を二回可能にするカード。つまり、アダムスキーの効果が二回使われることになる。

 

「おや、効果は分かってるみたいね。話が早くて助かる!アダムスキーでシールドを攻撃!デッキ二枚を墓地送り!」

 

 アダムスキーが、シールドを殴る。シールドは砕かれないが、デッキからカードが墓地に送られていく。

 

「ちぃっ!」

 

 シールドの破片が飛ばないのは良いが、手札にカードが加わらないのは痛手だ。

 

「さらに、もう一度攻撃!デッキをさらに二枚墓地に送る!」

 

 再びアダムスキーの拳が炸裂。そして、デッキのカードが墓地へと吸い込まれていく。

 このターンだけでデッキ四枚が墓地送りだ。引きたかったカードも、墓地へと消えてしまった。

 

「ふふっ、ターンエンドよ。残り二〇枚も無いようね?」

 

「くっ……!」

 

 奴のフィールドを改めて見る。クリーチャーは多くはないが、ドロー効果で手札を確保しながらマナを確実に貯めている。

 仮に俺が攻撃に転じたとして、シールドから何が来るかも分からない。

 オレと奴との間には大きな差があった。

 

●ユウフィ

●手札…三枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 熱湯 グレンニャー

 S級宇宙 アダムスキー

●マナ…四枚

 

「俺のターンだ。ドロー」

 

●ザック

●手札…二枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 検問の守り 輝羅

 獲銀月 ペトローバ

 アシステスト・アルデッド

●マナ…四枚

 

「降参なさい」

 

「なに……?」

 

「デュエルをやめてアンナを渡しなさい」

 

 突然の降伏勧告に、俺は眉を顰める。まだデュエルは終わっていない。それなのに降伏を勧められたのだ。あまり良い気分はしない。

 

「それだけはあり得ない。俺は最後まで戦わせてもらう」

 

「そうですか。では、後悔させてあげますよ」

 

 ユウフィの口角が上がる。敵意を含んだ笑みを、俺達に向けてきた。

 

「……っ」

 

 アンナの俺の服を掴む力が強くなる。ユウフィを恐ろしく感じているようだ。

 軽く頭を撫でてやり、俺は自分のターンに移った。

 

「マナチャージは無し。獲銀月 ペトローバを召喚!」

 

「今更何をするつもりです?」

 

「こうするんだ。ハイパーモード発動!」

 

 検問の守り 輝羅と二体目の獲銀月 ペトローバをタップする。

 ペトローバは他のクリーチャーをタップさせることで、ハイパーモードと呼ばれる特殊な力を発動させることができる。

 これで、ペトローバ二体はパワー七五〇〇にパワーアップした状態になる。

 

「俺は前のターンに召喚したペトローバでアダムスキーを攻撃!さらに、シールドを一枚追加だ」

 

 ペトローバが放った熱線がアダムスキーを貫く。アダムスキーは爆発しながら崩れていく。

 

「っ……悪足掻きを!」

 

 アダムスキーを破壊したところで、ユウフィは再びアダムスキーを出すかもしれない。言われる通りに悪足掻きだ。

 

「ふん。でも、それで終わりでしょう?シールドでも削った方がマシだったんじゃない?」

 

「いや、それで良い」

 

「は?アダムスキーが再び出てもいいの?」

 

 それでも良い。俺の目的は攻撃することそのものにあるのだから。

 

「ターンエンド。そして、アルデッド、輝羅、今のターンに出したペトローバの三体を破壊する!」

 

 俺のクリーチャー達が破壊されていく。

 ペトローバは次のターンまで離れないから留まるとしても、俺のクリーチャーは二体になってしまった。

 

「えっ!?」

 

 アンナが驚きで声を出す。ユウフィもまた、怪訝な顔をする。

 その答えは、すぐに分かる。

 

「ターンエンド時にクリーチャーを三体破壊した事により、死神覇王 ブラックXENARCHを墓地から呼び出す!」

 

 倒れたアルデッド達から闇のオーラが集まる。その闇のオーラは、錫杖と大きな翼を持った死神へと姿を変えていく

 死神覇王 ブラックXENARCHの降臨だ。

 

「思ったよりも早く墓地に行ってくれて助かったよ。お前を倒すには、このカードしか無いと思ったからな」

 

「最初から狙っていたのか……!」

 

 ユウフィの顔が歪む。これから何が起こるのか、理解しているようだ。

 

「さあな……ブラックXENARCHの効果だ。クリーチャーの破壊か、手札を捨てるか選べ」

 

 ブラックXENARCHは、自分がクリーチャーを出した時に相手に自身のクリーチャーを破壊するか手札を捨てるか選ばせる効果を持つ。

 侵略したいならバトルゾーンも手札も減らしたくないのが本音だろう。ユウフィは、決断を迫られていた。

 

「……手札のオボロカゲロウを墓地に送る」

 

 グレンニャーを残す方を選んだようだ。

 

「これでお前のターンだ」

 

「くっ……」

 

●ザック

●手札…一枚

●シールド…六枚

●バトルゾーン

 獲銀月 ペトローバ×2

 死神覇王 ブラックXENARCH

●マナ…四枚

 

 これでユウフィのターンだ。ユウフィはカードを引いた。

 

●ユウフィ

●手札…三枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 熱湯 グレンニャー

●マナ…四枚

 

「……グレンニャーをワルスラSに進化!シールドを攻撃してアダムスキーに侵略進化!」

 

 あくまでもデッキを削る戦法を貫くつもりのようだ。先程と同じく、ワルスラSの効果で三枚ドローして一枚を墓地に送る。手札は三枚を維持した状態だ。

 そして、アダムスキーは俺のデッキを二枚墓地に送った。

 

「ターンエンド……!」

 

 ユウフィは項垂れながらエンド宣言を行う。これから何が起こるのか分かっているのだろう。

 

●ユウフィ

●手札…三枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 S級宇宙 アダムスキー

●マナ…四枚

 

「俺のターンだ」

 

●ザック

●手札…二枚

●シールド…六枚

●バトルゾーン

 獲銀月 ペトローバ×2

 死神覇王 ブラックXENARCH

●マナ…四枚

 

 マナも手札も少ないが、今はこれだけあれば十分だ。

 

「星姫械 エルナドンナを二体召喚。クリーチャーが出たことでブラックXENARCHの効果を発動!クリーチャーか手札か選んで墓地に送れ!」

 

「くっ……!」

 

 ユウフィは苦い顔をしながら手札を墓地に捨てる。これで手札は一枚のみだ。

 

「エルナドンナをタップしてペトローバのハイパーモード発動!ペトローバでアダムスキーを攻撃!」

 

 再びペトローバがアダムスキーを破壊する。これでデッキ破壊は行えないだろう。

 

「ターンエンド」

 

●ザック

●手札…〇枚

●シールド…六枚

●バトルゾーン

 獲銀月 ペトローバ×2

 星姫械 エルナドンナ×2

 死神覇王 ブラックXENARCH

●マナ…四枚

 

「私のターン……」

 

●ユウフィ

●手札…二枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 無し

●マナ…四枚

 

「……奇天烈 シャッフを召喚。コスト3を選択」

 

 シャッフは召喚と攻撃時に指定したコストのクリーチャーの攻撃とブロック、呪文の使用を封じる効果を持つ。

 

「ターンエンド……!」

 

 諦めてはいないようだが、勝機を見いだせていないように見える。

 

●ユウフィ

●手札…一枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 奇天烈 シャッフ

●マナ…四枚

 

「俺のターン」

 

 カードを引く。俺もデッキを削られていることを考えると楽観はできない。次のターンで確実にヤツを封じなければならない。

 

●ザック

●手札…一枚

●シールド…六枚

●バトルゾーン

 獲銀月 ペトローバ×2

 星姫械 エルナドンナ×2

 死神覇王 ブラックXENARCH

●マナ…四枚

 

「星姫械 リゲートを召喚。死神覇王 ブラックXENARCHの効果。再び手札かクリーチャーか選べ」

 

 ユウフィは無言で手札を捨てる。これで手札はない。

 

「リゲートの効果。エルナドンナ二体とペトローバをタップしてメカ・メクレイド8を発動。デッキの上から三枚を確認。忍蛇の聖沌 c0br4 をバトルゾーンに出す。ブラックXENARCHの効果発動。今度はクリーチャーを選んでもらうぞ」

 

「奇天烈 シャッフを破壊……!」

 

 ユウフィの宣言で、ブラックXENARCHがシャッフを錫杖で殴り壊す。

 これでユウフィは手札もバトルゾーンもカードが存在しない状態になった。

 

「忍蛇の聖沌 c0br4の効果。デッキの上二枚を墓地に送って、墓地からコスト5以下の鎧機天 シロフェシーを出す」

 

 ブラックXENARCHの効果が発動するが、手札もバトルゾーンも何もない今となっては意味がない。

 

「ターンエンド」

 

●ザック

●手札…〇枚

●シールド…六枚

●バトルゾーン

 獲銀月 ペトローバ×2

 星姫械 エルナドンナ×2

 死神覇王 ブラックXENARCH

 星姫械 リゲート

 忍蛇の聖沌 c0br4

 鎧機天 シロフェシー

●マナ…四枚

 

「私のターン……」

 

●ユウフィ

●手札…一枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 無し

●マナ…四枚

 

「ターンエンド……」

 

 何も出来ることが無いようだ。マナチャージすらしないとは……。

 

「俺のターンだ」

 

 ユウフィは完全に戦意を喪失している。俺のバトルゾーンには攻撃するには十二分にクリーチャーがいる。

 ならば、このターンで決める。

 

●ザック

●手札…一枚

●シールド…六枚

●バトルゾーン

 獲銀月 ペトローバ×2

 星姫械 エルナドンナ×2

 死神覇王 ブラックXENARCH

 星姫械 リゲート

 忍蛇の聖沌 c0br4

 鎧機天 シロフェシー

●マナ…四枚

 

「シロフェシーでシールドを攻撃!」

 

 シロフェシーの槍がシールドを貫いた。シールドの破片が無慈悲にユウフィに降り注ぐ。

 

「うっ……!」

 

 二枚のシールドを確認するが、トリガーは無いようだ。俺は攻撃を続行した。

 

「エルナドンナでシールドを攻撃!」

 

 エルナドンナもシロフェシーに続いて、自身の周囲に浮かぶ飛行ユニットをシールドにぶつける。

 ユウフィはシールドを確認する。そのカードを見た瞬間、目つきが変わった。

 

「S・トリガー!氷柱と炎弧の決断!もう一体のエルナドンナとペトローバを攻撃不能にする!」

 

 エルナドンナとペトローバは氷漬けになって動けなくなった。

 

「必ず……必ずアンナを連れ帰る!私達にはその子が必要なんだ!」

 

 ユウフィが叫ぶ。悲痛だが、聞いてやるわけにはいかない。

 

「無駄だ!ブラックXENARCHでシールドを攻撃!Wブレイク!」

 

 錫杖残りのがシールドを貫く。最後のシールドチェックだ。

 

「……くっ!」

 

 トリガーはユウフィに味方しなかったようだ。

 これで、俺の攻撃を阻むものは何もなくなった。俺は、c0br4のカードをタップした。

 

「c0br4でトドメだ!」

 

 蛇のクリーチャーがユウフィへと突撃する。近づいてくるc0br4を見て、ユウフィは声も出せずに崩れ落ちていった。

 

 

 

 デュエルが終わり、目の前が白く光った。デュエルゾーンから出る合図だ。

 光が収まると、先程までいたナゴヤ城の敷地内だ。

 

「……何故殺さない?」

 

 最初に口を開いたのは、目の前で横たわるユウフィだった。ボロボロになりながらも、俺を睨みつけている。

 

「お前には然るべき場所で情報を吐いてもらう。だから殺さない」

 

 こいつにはクオリアやイルフォンについて話してもらわなければ困る。

 それに、俺自身がデュエルで人の命を奪いたくなかった。甘い考えかもしれないが……。

 

「クソッ……」

 

 ユウフィは弱々しく地面を叩く。抵抗する力も残っていないようだ。

 

「アンナ、無事だな?」

 

「うん」

 

 アンナは頷く。今回はシールドの破片が飛んでこなかったのもあってか、いつもより元気に見える。そんなアンナを見て、少し安心している自分がいるのを感じた。

 それはともかく、ユウフィや情報を星の盾に渡さなければならない。色々と話すことが多い。早めに動く必要がある。

 

「よし、とりあえずコイツの身柄を引き渡しに行こう」

 

 俺はユウフィを拘束するために近づいた。

 その瞬間、遠くから何かが聞こえた。

 

「っ……!」

 

 この音は────バイク……?

 自分の中で悪寒が走る。これは、単なるバイクの音じゃない!

 

「アンナ!」

 

 アンナの側へと駆け寄ろうとしたが、無駄だった。

 バイクの音は一気に近づき、一陣の風になってアンナを連れ去った。

 

「ぐあっ……!」

 

 風は、俺とユウフィを吹き飛ばす。そのまま地面に叩きつけられた。

 

「困るなあ。負けたユウフィはともかく、アンナは渡してもらわなきゃ」

 

「イヤ!離して!」

 

 男とアンナの声が聞こえた。男の方は、間違いなくバイクの音の正体だ。

 

「アンナ!」

 

 アンナの声が聞こえた方を見る。オールバックにスーツ姿の男が、アンナを捕まえていた。

 男の後ろには、例によって実体化した赤い巨大ロボのクリーチャー────レッドゾーンがいた。

 

「……アンナを離してくれ」

 

 男はアンナを左腕で拘束し、右手の銃で抵抗させないように脅している状態だ。さらには、後ろにはレッドゾーンが控えている。いくら俺が能力者といえど、これでは何も出来ない。ならば、説得するしか無い。

 しかし、男はそんな俺の心情など知らんとでも言わんばかりのため息をついてきた。

 

「はぁー……つれないじゃないですか、センパイ」

 

「先輩……?何の話だ」

 

 あまりに馴れ馴れしい呼び方に面食らう。この場面で先輩などと呼ばれるとは夢にも思わない。

 俺は目の前の男とは初対面のつもりだ。しかし、あの男は俺の事を知っているようだった。

 

「あのさあ。思い出せない?」

 

 男は足を揺らしながら急かす。苛ついているように見える。

 自分を先輩と呼ぶ立場の人間は、覚えている限りでは星の盾の後輩くらいだ。問題は、その後輩達の誰なのかが分からない。

 

「……いや、待て」

 

 一人だけ、星の盾を脱退する際に言い争いになった後輩がいた。

 しかし、俺の脳裏に映る後輩の姿は、目の前の男とはあまりにも違い過ぎる。ソイツはもっと気が弱い男だった。

 だが、その後輩以外に心当たりがある人間がいなかった。

 出来れば違ってほしい……そう思いながら、慎重に名前を出した。

 

「お前……まさかリア・ペスシアか?」

 

 頼む。外れてくれ────そんな俺の思いを裏切る言葉が返ってくる。

 

「なぁんだ。覚えてるじゃないですか。あー良かった良かった」

 

 アンナに銃を向けたまま柔和な表情を見せる。子どもに武器を突きつけることを何とも思っていないようだ。

 

「驚きました?センパイがいなくなってから十年は経つし、僕もイメチェンしたんですよねぇ」

 

 確かにまるで別人だった。前髪は下ろしていたのがオールバックになり、顔もより精巧になっている。

 何よりも飄々とした態度は、気弱だったリアからは想像もつかなかった。

 

「ちなみに……今はイルフォンって名乗ってます。名前、聞いたことあるでしょう?」

 

「お前が……イルフォン?」

 

 奥歯を噛み締める。

 イルフォン。それは各地で能力者を暴れさせ、アンナを追い回し、アカリに死を覚悟させた者の名前だ。

 それがリアだというのか……。

 

「お前、自分が何をやってるのか分かってるのか?」

 

「ええ。僕も自分が悪党で、正気じゃない自覚はあります。その上でやってます」

 

 自分を悪党と言い切った。すべては承知と覚悟の上で、やった事だと……。

 許せない。許してはいけない。だが、アンナを人質にされた今の俺は無力だ。

 

「イルフォン様……助けに来てくださったのですね……」

 

 近くで倒れているユウフィが、縋るようにリア……もとい、イルフォンに手を伸ばす。

 しかし、リアの目は残飯でも見るかのように冷めきっている。

 

「邪魔、少し黙れ」

 

 それだけ言うと、ユウフィに向かって発砲した。

 

「そんな……」

 

 ユウフィに当たりこそしていないが、ユウフィは顔を歪ませる。

 そんな姿を見て、リアは鼻で笑う。特に意外でもないが、仲間意識は皆無のようだ。

 

「っ……!」

 

 ユウフィには悪いが、今がチャンスだ。

 俺はリアの興味がユウフィに向いている間にアンナを取り戻す────そう思って駆け出した。

 

「はい、ストップ。動かないでくださーい」

 

「くっ……!」

 

 俺の足は言われた通りに止まってしまう。目にも止まらぬ速さで、再び銃口がアンナに向いたからだ。

 

「まあ、そんなに興奮しないで。チャンスあげますよ。昔のよしみってヤツですから」

 

「チャンス……?」

 

 嫌な予感がした。チャンスと言っても、ヤツが用意したものだ。間違いなく何かある。

 

「デュエルしましょう。ただし、アンタはこのデッキでね」

 

 リアは、俺の足元にデッキケースを投げる。俺はデッキケースを拾って開ける。

 デュエルと言っても普段のデッキは使えない。どんなデッキなのか………。

 

「コイツは……!どういうつもりだ!」

 

 中身を見た途端、自分の中で何かがキレる音がした。リアは、俺を見て嘲笑を浮かべる。

 

「僕はね、あの頃のあなたを超えたいんですよ。安心してください。僕もあの頃のデッキ使いますから。勝てたらアンナは返してあげます。自首もしましょう」

 

「くっ……!」

 

 何にしても、俺に選択肢はない。デュエルして奴に勝つしか道はない。

 俺は奴から押しつけられたデッキを掲げる。

 

「やる気になってくれて嬉しいですよ。じゃあ行こうか!」

 

 リアもデッキを掲げる。

 互いのデッキが光を放ち、俺の眼前の景色が塗り替わっていった。




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