俺とリアによる、アンナを賭けたデュエルが始まった。
先攻の俺は、
「ターンエンド……」
●ザック
●手札…四枚
●シールド…五枚
●バトルゾーン
無し
●マナ…一枚
アンナは、リアの方にいる。アンナがリアの近くにいる状態でデュエルを始めたから、あちらにいるのだ。
アンナは声こそ出してはいないが、怯えきった表情だ。何とかしてやりたいが、今は難しい。
「僕のターン」
リアのターンが始める。俺が覚えている限りでは、奴は序盤から動く。
●リア
●手札…六枚
●シールド…五枚
●バトルゾーン
無し
●マナ…〇枚
「センパイ、僕のデッキを覚えてるみたいですね。光栄ですよ」
「……嫌でも忘れられないだけだ」
リア・ペスシア。今はイルフォン・クルーザを名乗るこの男は、特徴的なデュエルを展開してくる。
それは、最速三ターンキルの超高速デュエルだ。
その象徴とも言えるのが、クリーチャーのレッドゾーン。奴が手札に来たら勝敗が決まったようなものだ。俺のデッキとは相性が悪い。
「僕はマナをチャージ。そして、ブレイズ・クロー召喚」
早速、最初のクリーチャーが現れる。俺に猶予はないと考えるべきだ。
「ターンエンド。さあ、センパイのターンですよ」
●リア
●手札…四枚
●シールド…五枚
●バトルゾーン
凶戦士 ブレイズ・クロー
●マナ…一枚
「俺のターン。ドローステップ……」
●ザック
●手札…五枚
●シールド…五枚
●バトルゾーン
無し
●マナ…一枚
「っ……」
引いたカードは地龍神の魔陣。
分かっていたが、今のターンでブレイズクローを処理できるカードが手札にない。出来れば軽量クリーチャーを潰しておきたいのだが……。
「仕方ない……マナチャージして、地龍神の魔陣を発動!」
デッキの上三枚を確認する。バロムクエイクをマナに置き、残りをデッキの下に戻した。
「ターンエンド」
マナに五文明が揃った。これで、最初の準備は完了だ。
●ザック
●手札…三枚
●シールド…五枚
●バトルゾーン
無し
●マナ…三枚(一枚はバロムクエイク)
「僕のターン。ドロー!」
●リア
●手札…五枚
●シールド…五枚
●バトルゾーン
凶戦士 ブレイズ・クロー
●マナ…一枚
「あはっ、懐かしいなあ。センパイ達とこうやって沢山デュエルしたなあ」
リアはいきなり過去に浸り始める。何を企んでいる……?
俺の警戒心に気がついたのか、今度は宥めるような口調になる。
「まあまあ。そう睨まないで。僕はね。僕なりに貴方を研究したんだ。勝つつもりだった」
リアは、俺の周りではお世辞にも強い方とは言えなかった。だが、熱心にデュエルの研究を重ねていた。
俺が星の盾を辞めた日も、俺とデュエルをしたいと申し出る程に。
「お嬢さん。あの男はね、逃げたんだ。僕や君の母親からね」
「えっ……?」
リアの近くにいるアンナが、その言葉を聞いて怪訝な顔をしたのが見えた。捕らえられた恐怖とは違った表情だ。
「……お前のターンだろう」
「おっと。そうでしたね。失敬……」
俺は絞り出すようにターンの進行を促す。
奴に主導権を握られている以上、デュエルによって逆転するしか無かった。
「マナチャージ。一撃奪取 トップギアを召喚!」
弓を持った人型クリーチャーが現れる。
トップギアは各ターン初めての火のクリーチャーの召喚コストを一つ下げる効果を持つ。それでスピードアタッカーを早出しするのがレッドゾーンデッキの特徴の一つだ。
「ブレイズクローでシールドを攻撃!」
早速、奴が仕掛けてくる。トカゲのクリーチャーが、俺のシールドを切り裂く。
「ぐっ……!」
シールドの破片が飛んでくる。その中から現れたカードを掴む。
「S・トリガー、ドンドン吹雪くナウ。デッキの上から五枚を確認して手札に加える。それが光か闇のカードなら相手クリーチャーを一体手札に戻す」
デッキから五枚を確認。魔令嬢 バロメアレディを手札に加えた。バロメアレディは自然闇。バウンス効果が発動する。
「トップギアに戻ってもらう」
トップギアが手札に戻る。しかし、リアの顔から余裕の笑みは崩れていない。
「やりますね。ターンエンド」
●リア
●手札…四枚(一枚はトップギア)
●シールド…五枚
●バトルゾーン
凶戦士 ブレイズ・クロー
●マナ…二枚
「俺のターンだ」
●ザック
●手札…五枚(一枚はバロメアレディ)
●シールド…四枚
●バトルゾーン
無し
●マナ…三枚(一枚はバロムクエイク)
「マナチャージ。フェアリー・ミラクルを発動!デッキの上から二枚をマナゾーンに置く」
フェアリー・ミラクルはマナゾーンに文明が揃っていれば二回デッキの上からマナにカードを置ける。これで六マナだ。
「さらに、死神信徒 バーロウ・ビリーバーを召喚」
骸骨の装飾を身に着けた死神が、魔法陣と共に現れる。
「効果でデッキの上から三枚を確認。マナゾーン、墓地、デッキの下にカードを一枚ずつ置く」
これでマナは七枚。後は、次のリアのターンが勝負だ。
「これでターンエンド……」
●ザック
●手札…二枚(一枚はバロメアレディ)
●シールド…四枚
●バトルゾーン
死神信徒 バーロウ・ビリーバー
●マナ…七枚(一枚はバロムクエイク)
「では、僕のターン」
●リア
●手札…五枚(一枚はトップギア)
●シールド…五枚
●バトルゾーン
凶戦士 ブレイズ・クロー
●マナ…二枚
これでリアの第三ターンだ。とりあえず、このターンで決められることはないだろうが、油断はできない。
「トップギアをマナチャージ」
トップギアがマナに置かれる。
手札にあっても、ここからは使う場面が少なくなるカードだ。俺も同じ状況ならトップギアを置くだろう。
「さて、ここからが本番ですよ!センパイ!覇王速 ド・レッド召喚!」
どこからともなく、炎を纏った赤いバイクが走ってきた。
「こいつの効果は知ってますね?」
「……火のマナ武装3でスピードアタッカーだ」
挑発するような口調のリアの質問に答える。
このカードは、マナゾーンに火のカードが三枚あれば召喚酔いしない効果を持つ。
「正解ですよ!シールドを攻撃!」
赤いバイクが俺に向かって走ってくる。攻撃はこれだけではない。
「この瞬間、侵略発動!ド・レッドをレッドゾーンZに進化!」
ド・レッドが、巨大ロボへと姿を変える。
これがレッドゾーンの恐ろしさだ。コストの低いクリーチャーから、手札にあるコストの高いクリーチャーへと進化する。
「Zの効果!シールド一枚を墓地へ送れ!」
シールドが焼かれて消し炭になってしまった。シールドは残り三枚だ。
「そして、Wブレイク!」
「チィッ……!」
Zの回し蹴りでシールドを二枚割られる。シールドは残り一枚。
「これ以上はやらせん!Gストライク!」
地龍神の魔陣を見せる。攻撃の態勢のブレイズ・クローが動きを止める。
「ターンエンド。良かったですね。シールドが残って」
リアは想定内とでも言いたげな顔をしている。実際そうなのだろう。流れは奴にある。
●リア
●手札…二枚
●シールド…五枚
●バトルゾーン
凶戦士 ブレイズ・クロー
熱き侵略 レッドゾーンZ
●マナ…三枚
「俺のターン。ドロー」
●ザック
●手札…五枚(バロメアレディと地龍神の魔陣)
●シールド…一枚
●バトルゾーン
死神信徒 バーロウ・ビリーバー
●マナ…七枚(一枚はバロムクエイク)
俺もタダでやられるつもりはない。ここで流れを変える。
「地龍神の魔陣をマナチャージ。バロメアレディを召喚!」
マゼンタの服に鞭を持った女のクリーチャーが舞い降りる。
バロメアは、ブレイズ・クローの最初の攻撃で手札に加わったカードだ。このデッキの核と言っても良い。
「バロメアの効果。墓地のカード二枚をマナに置く」
ドンドン吹雪くナウとフェアリー・ミラクルがマナに置かれる。これで一〇マナだ。
「さらに、地獄の冥将 ゼツゴ召喚。デッキ上二枚を墓地に送って、クリーチャーを手札に戻す」
手札に戻したのは、悪魔神ドルバロムだ。
「バロメアでブレイズ・クローを攻撃!」
バロメアレディは出たターンにアンタップクリーチャーを攻撃できるマッハファイターを持つ。
バロメアはブレイズ・クローに飛びかかる。
「バロメアレディの効果を発動!マナゾーンのカード以下のコストのバロムクリーチャーをバトルゾーンに出す!俺が出すのは悪魔神バロム・ロッソだ!」
バロメアが光りに包まれる。光が収まると、赤い死神へと姿を変えていた。
「バロムロッソの効果。闇ではないクリーチャーを全て破壊!闇以外の手札も捨ててもらう!」
バロムロッソが手を振ると、赤と黒の雷が周辺に降り注ぐ。雷は、レッドゾーンZとブレイズ・クローを焼き払う。
「俺の手札はドルバロムとバロムエンペラー。手札は捨てない」
「僕はブレイズ・クローとコダマンマ。カードは墓地に置かれる」
これで奴の手札は無くなった。手札の消費が激しいデッキにとって、手札を捨てさせられるのは苦しいはずだ。
「これでターンエンドだ」
流れは俺に向きつつある。奴のマナとデッキでは、確実に次のターンでトドメは刺すことは出来ない。ならば、手札にある切り札のドルバロムを次のターンに召喚出来る。
●ザック
●手札…二枚(ドルバロムとバロムエンペラー)
●シールド…一枚
●バトルゾーン
死神信徒 バーロウ・ビリーバー
悪魔神 バロム・ロッソ
地獄の冥将 ゼツゴ
●マナ…九枚(バロムクエイク、地龍神の魔陣、ドンドン吹雪くナウ、フェアリー・ミラクル)
「では、僕のターンです」
●リア
●手札…一枚
●シールド…五枚
●バトルゾーン
無し
●マナ…三枚
リアは引いたカードを見て思案する。何を考えてるのかは不明だ。
次第にカードから視線を外して俺を見た。
「……僕はターンエンドです」
「なに……?」
リアは、マナチャージも無しにターンエンドを宣言した。
奴のデッキには、低コストクリーチャーが多いハズ。なのに、召喚しないというのか?
次のターンにはドルバロムを召喚するのは、リアも分かっているはず。ドルバロムが出ればマナもバトルゾーンも無くなるのは明白。せめてスピードアタッカーによる攻撃を仕掛けてくると予想していた。
「……いや、待て。まさか……」
いや、一つだけリアの考えに心当たりがあった。
革命0トリガーによる逆転だ。ダイレクトアタック時に発動する革命0ならば、俺の攻撃を防げる可能性はある。それが、あの手札とシールドのどちらに入っているかは不明だが。
「ならば……俺は……」
俺は、次のターンは攻撃すべきではないのか?もっと盤面を整えてから、盤石の体勢で攻めに転じるべきではなのか?
「センパイ。遅延戦法ですか?イケナイなあ……ま、僕は構いませんが」
その言葉に、俺の全身が粟立つ。
リアのカードを持っていない右手がゆっくりと伸びる。その先には、アンナの小さく震えた肩。
「やめろッ!」
振り絞るように叫んだ。嫌な予感が脳裏を掠めた。
何をするつもりかは嫌でも分かった。言葉はともかく、事実上の脅しだ。早くデュエルを進めろというリアの無言の圧力。
俺も早くアンナを助けてやりたい。だが、一つのミスが命取りになるのだ。
「……ドローステップ……」
デッキからカードを引く手が重かった。
●ザック
●手札…三枚(ドルバロムとバロムエンペラー)
●シールド…一枚
●バトルゾーン
死神信徒 バーロウ・ビリーバー
悪魔神 バロム・ロッソ
地獄の冥将 ゼツゴ
●マナ…九枚(バロムクエイク、地龍神の魔陣、ドンドン吹雪くナウ、フェアリー・ミラクル)
「獅子王の遺跡か……」
マナを増やすカードだ。強いカードだが、今はあまり意味がない。これはマナに置こう。
「マナチャージ」
これで一〇マナ。準備は整った。
このクリーチャーで追い込みをかける!
「バーロウ・ビリーバーを悪魔神 ドルバロムに進化!」
髑髏の飾りをつけた神官が光りに包まれる。その光の中から、山羊を思わせる巨大な悪魔が現れた。
「やれ!ドルバロム!全て吹きとばせ!」
ドルバロムはバトルゾーンとマナゾーンの闇以外のカードを全て墓地に送る効果を持つ。
敵味方の関係などなく、全てのものを平等に破壊する。
俺のマナのカードも半分近くが消えたが、リアのマナゾーンのカードは全てが墓地に置かれた。
「ははっ!こうでなきゃ!流石センパイだ!」
マナがなければデュエリストはほぼ何も出来ない。自分のマナが消え去ったというのに、リアは逆に喜んでいる。気味が悪い。
俺のマナも大幅に消えて、六枚となった。強いカードだけに代償も大きい。
「問題はこここらだ……」
今のクリーチャーはドルバロム、バロムロッソ、ゼツゴの三体。
全員で攻撃すればワンショットキル圏内。トドメを刺せる。
しかし、奴の手札のカードが気になる。このまま攻撃して良いのか?
「さあ!これからどうしますか!?攻撃?ターンエンド?もっと盛り上げましょうよ!」
リアは一人で狂喜していた。あの喜び方は異常だ。やはり、俺の知ってるリアではない。
「ほら!アンナもよく見るんだ!君のザックのデュエルは凄いだろう!?」
「いや!離して!」
「あはははははは!ダメじゃないか!目を逸らしちゃセンパイが気の毒だよ!」
突如、リアは後ろに下がっていたアンナの腕を引っ張った。
目の前で、アンナの身が脅かされようとしている。
アンナが恐怖している。
もはや思考してる時間はなかった。
「アンナッ!」
目の前で何かが弾ける感じがした。
気がついた時には、身体が動いていた。
「ドルバロムでシールドを攻撃!」
カードをタップさせ、ドルバロムに攻撃指示を送る。
ドルバロムは、掌から黒い光を放出して三枚のシールドを打ち砕いた。
「来た!良いですよ!センパイ!」
リアは、腕を掴んでいたアンナを突き飛ばした。初めからアンナに興味などなかったかのように、砕かれるシールドの前に身を乗り出す。
「さあっ!残り二枚もやれ!」
「貴様に言われるまでもない!バロム・ロッソ!望み通りにしてやれ!」
今度はバロム・ロッソのカードをタップする。赤い悪魔は黒い雷を落として最後のシールド二枚を打ち砕く。
これでリアの身を守る盾はなくなった。後は攻撃すれば全てが終わる!
「あははははははははっ!」
再び狂喜するリア。あまりにも目障りだった。
「ゼツゴでトドメだ!」
地獄の番犬の引っ張るソリが、リアへと飛んでいった。
これで長い戦いも終わる。アンナを脅かすものは、いなくなるのだ。
────だが、俺の攻撃が届くことはなかった。
「センパイ。強いけど……やっぱり甘いですよ」
「っ!?」
リアが1枚のカードを投げる。そのカードに阻まれ、ゼツゴは動きを止める。
「まさか……!」
俺の脳裏に、とあるカードが過った。この状況で発動できるカードなどあれしかない!
リアが、そのカードの名を叫ぶ!
「革命0トリガー発動!ボルシャック・ドギラゴン!」
ダイレクトアタック時に発動できる効果だ。デッキの上を捲って火のクリーチャーならバトルゾーンに出せるのだ。
リアはカードを捲る。それは、一撃奪取 トップギアだった。
トップギアは赤い鎧のドラゴンである、ボルシャック・ドギラゴンへと姿を変えた。
「ボルシャック・ドギラゴン!ゼツゴを迎え撃て!」
ボルシャック・ドギラゴンは、他の龍よりも一回り大きい拳でゼツゴを握り潰す。
バトルゾーンに出た時に、ボルシャック・ドギラゴンは相手クリーチャーとバトルできる効果を持っていた。
「ゼツゴ!」
シールドが無くなった後に攻撃できるクリーチャーは、ゼツゴのみだった。ゼツゴがいなくなった以上、このターンで出来ることはない。
「……クソ!」
自分への怒りが抑えられない。可能性を考えていたのに、焦りから攻撃してしまった。
「やりましたね!まさか!本当にやるとはなあっ!あっはははははは!センパイらしい!」
リアが腹を押さえながら笑う。敵が自分を仕留める機会を失ったのが、よほど愉快らしい。
俺には、何ができないのか?そう思って盤面を見渡しても、俺にできることは一つしかなかった。
「ターンエンド……!」
●ザック
●手札…一枚(バロムエンペラー)
●シールド…一枚
●バトルゾーン
悪魔神 ドルバロム
悪魔神 バロム・ロッソ
●マナ…六枚
「僕のターン!ドロー!」
●リア
●手札…六枚
●シールド…無し
●バトルゾーン
ボルシャック・ドギラゴン
●マナ…無し
「感謝します。センパイ。ヒリつくデュエルが出来たのは久しぶりだ。組織の温いヤツらとは格が違う!」
そう言いながら、リアはボルシャック・ドギラゴンをタップする。もはやマナはいらないらしい。
「ボルシャック・ドギラゴン攻撃時に侵略発動!」
手札のカードをボルシャック・ドギラゴンへと投げる。ボルシャック・ドギラゴンは、赤いバイクを思わせる巨大ロボへと姿を変貌させる。
「轟く侵略 レッドゾーン!」
レッドゾーンは、バロム・ロッソとドルバロムに回し蹴りを浴びせる。悪魔神であっても、高速の攻撃からは逃れられなかった。
レッドゾーンは、登場時に相手のパワーの一番大きなクリーチャーを全て破壊する。
バロム・ロッソとドルバロムは同じ攻撃力。つまり、同時に破壊される。
「攻撃は終わってない!やれ!レッドゾーン!」
最後の俺のシールドが砕かれる。
まだトリガーがあると信じたかった。しかし、現れたカードは違った。
「ハンゾウか……」
強いカードだが、今来てほしいカードでは無かった。
「ターンエンド!さあっ!ラストターンだ!最後の足掻きを見せろ!」
●リア
●手札…五枚
●シールド…無し
●バトルゾーン
轟く侵略 レッドゾーン
●マナ…無し
「俺のターン……」
もはや声も出ない。勝てるかもしれなかったデュエルを、落としてしまった。
自分の愚かさに腹が立つ……!
●ザック
●手札…三枚(一枚はバロムエンペラー、もう一枚は威牙の幻ハンゾウ)
●シールド…無し
●バトルゾーン…なし
●マナ…六枚
「バロムエンペラーをマナに置いて修羅の死神フミシュナを召喚……手札を捨ててもらう……」
せめてもの、精一杯の抵抗だった。
フミシュナは攻撃を防ぐブロッカーを持つ。
もしかしたら、攻撃をしのげるのではないか。甘い考えだと分かっていても、やらずにはいられなかった。
「一応、やる気があるのは認めましょう」
リアはカードを捨てる。俺は、フミシュナの効果でカードを引く。
「戦慄の死神アゲゾール……」
今来ても意味がない。来るのがもう少し早ければ、レッドゾーンを破壊できたかもしれない。召喚できないなら、宝の持ち腐れだ。
そして、俺のターンで出来ることは無くなった。
「ターン……エンド……」
●ザック
●手札…二枚(一枚は戦慄の死神アゲゾール。もう一枚は威牙の幻ハンゾウ)
●シールド…無し
●バトルゾーン…修羅の死神 フミシュナ
●マナ…七枚
「僕のターン」
●リア
●手札…六枚
●シールド…無し
●バトルゾーン
轟く侵略 レッドゾーン
●マナ…無し
「センパイ。このデュエルのラストターンなので一つだけ聞いてください」
リアはこの期に及んで、俺に何かを語りかけようとしていた。
その言葉は、到底受け入れられないものだった。
「センパイ。仲間になりましょう」
「なに……?」
コイツは何を言っている?命を賭けて戦ってきたのに、仲間になれというのか。
リアは続ける。
「共にやり直すんですよ。あなたも後悔しているんでしょ?僕なら、それを理解して救ってあげられます。僕も、センパイ方とは関係を再構築したいと考えていますから」
リアは、どこまでも上からものを言ってくる。
確かに、俺は色んな場面で後悔してきた。かつての仲間達とやり直したいと思ったこともある。だが、それでもリアの提案を簡単に受け入れるわけにはいかなかった。
「……アンナはどうなる?お前は自分の目的の為にアンナを追っていたはずだろう」
その為に部下を使って色んな人間を傷つけてきた。その部下すら使い捨て。そんな人間を受け入れられるわけがなかった。
「親心でも芽生えましたか?どうでも良いじゃないですか。あなたの子供じゃないんだから」
「質問してるのは俺だ!答えろ!」
「はあ……」
リアは、答えを要求する俺を見てため息をつく。心底呆れきったという感じだ。
「この娘はにね、消えてもらいますよ。存在していい子どもじゃない」
「なっ……!」
いきなり何を言い出した……?存在してはいけない?
リアの言葉の意味が理解できなかった。アンナは何も罪を犯していない。それなのに、なぜ存在を否定されなければならない?
「分かりませんか?この娘は、アカリさんが星の盾を捨ててから産まれた。そんな子どもは居てはいけない。僕らのやり直しの邪魔になる。だから、能力を最後の一滴まで搾り取って利用して使い捨てでやるんですよ。能力者研究も捗りますしね」
「邪魔……?アンナが?」
意味が分からなかった。
脳が。全身が。リアの言葉の理解を拒んだ。あまりに身勝手で意味不明な理屈だ。
そして、怒りがこみ上げてくる。そんなくだらない理由で人々を、アンナを傷つけたリアへの怒りが。
「ふざけるな!そんな理由で否定されて良い人間などいない!」
今の俺には何も出来ない。それでも、叫ばずにはいられなかった。
「ふざけてるのはアンタの方だっ!」
リアも言い返し、レッドゾーンのカードをタップした。
そして、リアの近くで控えていたレッドゾーンが飛翔する。俺に引導を渡す気だ。
「レッドゾーンから轟く侵略 レッドゾーンに侵略発動!」
リアはレッドゾーンの上に、さらにレッドゾーンを重ねた。レッドゾーン自身も火のコマンドである以上は、侵略効果の対象だ。
「レッドゾーンがもう一枚だと!?」
レッドゾーンは、登場時に相手の一番パワーの高いクリーチャーを破壊する効果を持つ。ブロッカーのフミシュナが、呆気なくレッドゾーンのタイヤに潰された。
「フミシュナ……!」
もう俺を守るクリーチャーもシールも存在しない。後はトドメを刺されるのを待つしかない。
「アンタは僕を裏切ったんだ!僕を受け入れろ!」
リアの叫びに呼応するかのように、レッドゾーンの赤いボディが、高速で目の前まで迫ってくる。
そして、タイヤのような拳が振り下ろされた。
「うわあああああああああああああっ!!」
俺の視界は、レッドゾーンの拳で覆われていった。