デュエル・マスターズAZ   作:柿田

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今回はデュエマはありません。


第五話「過去と現在」

「うわああああああああああああああっ!」

 

 強い衝撃が全身を襲った。身体を大きく吹き飛ばされる。

 さらには、目の前が激しく光る。

 

「くっ……!」

 

 次第に光が収まると、周囲は漆黒のデュエルゾーンからボロボロのナゴヤ城の敷地に変わっていた。

 

「はあはあ……!」

 

 今の俺はボロ雑巾の如く、地面に見窄らしく倒れていた。

 そんな俺を見下ろす視線が一つ。

 

「センパイ、僕の勝ちだ。よろしいですね?」

 

「リア……!お前……!」

 

 リア・ペスシア────クオリアのリーダーであるイルフォン・クルーザとのデュエルに、俺は負けた。絶対に負けてはいけないだったのにも限らずだ。

 アンナはリアのレッドゾーンに捕らえられ、俺は満身創痍。状況は最悪だ。

 

「そう睨まないで。あなたは僕に必要な人だ。大事にしてあげますよ」

 

 リアが少しずつ近づいてくる。俺を連れ去るつもりのようだ。

 

「ぐっ……ああっ!」

 

 何度も立ち上がろうとするが、手足が痛んで力が入らない。まるで地面に張り付けられているようだ。

 少しずつだが、目も霞んできた。アンナもリアの姿も、見えなくなりつつあった。

 

「ザックさん!逃げて!」

 

「アン……ナ……」

 

 アンナの叫び声が聞こえた。見えないけれど、泣いているのが伝わる。

 俺のせいだ。俺が弱いから。俺が判断を誤るから。だからアンナは傷ついた。俺はいつもそうだ。いつも誰かを傷つける────そんな自分を責める言葉ばかりが頭を駆け巡っていく。

 

「行きましょう、センパイ」

 

 ここまでか……どうにか逃げるプランを考えなければ。

 そう思っていると、後方から何かを弾いたような音が聞こえた。

 

「っ!チィッ!」

 

 音に反応して、リアが飛び退いたのが見えた。

 この音は────銃声だ。

 さらに、いくつかの足音が聞こえてきた。

 

「そこまでだ!イルフォン・クルーザ……いや、リア・ペスシア!」

 

 俺の前に、数人の男が現れた。その男達は、紺色のコートを身に纏っていた。

 目がよく見えないから誰かは分からない。だが、あのコートには見覚えがあった。

 この男達は、星の盾だ。俺を助けに来たのだろうか。

 

「ちっ……!まあ良い……センパイ!アンナを返して欲しいなら来てくださいよ!僕はいつでも待ってますよ!」

 

 リアはそれだけ言うと、待機していたレッドゾーンに飛び乗った。

 追わなければ……分かっていても、手足に力が入らない。意識も朦朧としてきた。

 レッドゾーンは、無情にも走り去って行く。

 

「待て!」

 

 それを見た星の盾の人間の一人が叫ぶ。

 銃声と共に、何かが光るのが見えた。恐らくは、クリーチャーを出したのだろう。

 少しずつ、目の前が暗くなる。

 周り暗くなったのではない。俺の意識が遠のいていくのだ。

 出てきたクリーチャーが何かは見ることができなかった……。

 

 

 

・・・

 

 

 

 最初に光が見えた。

 その次に白い天井。

 自分がどこで何をしているのか、分からなかった。

 

「……ここは?」

 

 眠っていたのか?

 視線を下に向ける。俺は、?見知らぬベッドに横たわっていた。

 俺が纏っていた服も、病院で患者が着る病衣に変わっていた。

 こうなった経緯が思い出せない。頭が混乱しそうだった。

 

「目が覚めたか、財前ザック」

 

「っ!」

 

 男の声が聞こえた。姿はすぐに見えた。

 白髪交じりの黒髪に、髭が特徴的な男だった。年齢は俺と同じくらいか。顔つきはニホン人に見える。

 クオリアの人間と思って身構えたが、違った。

 その男は、見覚えのある紺色のコートを身に纏っていた。

 

「……星の盾の人間か?」

 

「その通りだ。他に言う事があるだろう……と、言いたいがな」

 

 男はため息をつきながら、近くにあった椅子に座った。男の傍らに置かれているアタッシュケースが気掛かりだが、今は詮索してる場合ではない。

 

「助けてくれたことは感謝する。ここはどこだ?」

 

「言うまでも無いだろう。星の盾の日本支部。その病室だ」

 

「やはりか……」

 

 この男が来た時点で、何となく察してはいた。ベッドも室内も、キチンと手入れがされている。それなりの規模の組織でないとあり得ない。ならば、星の盾の可能性は高かった。

 

「財前ザック。散々振り回してくれたな。元・アメリカ本部所属とはいえ、各地を渡りながら能力者を捕縛。近隣の街の住民に身柄の引き渡しをさせるとは……とんでもない男だ」

 

 俺が財前ザックであること。クオリアの能力者を倒して回っていたこと。そして、元・星の盾の肩書きを使って、倒した能力者達を引き渡させていたこと。男は、これら全てを完全に把握していた。

 

「迷惑をかけたのはすまなかった。だが、他に方法が思いつかなかった。昔の仲間が日本支部のトップになったと噂で聞いた。そいつに頼るしか術がなかった」

 

 元・星の盾の肩書きは使うまいと決めていた。

 しかし、能力者を確実に無力化させるには星の盾に捕らえさせるのが一番だった。

 だから、仲間の一人がいるという星の盾の日本支部を頼った。そいつは堅物だが、ある程度の融通が利く男だった。

 

「助けてくれた事も改めて礼を言わせて欲しい。俺のデッキはどこだ?」

 

「……その前に言わせてもらおう」

 

 男は不意に立ち上がる。

 そして、懐からある物を取り出して突きつけてきた。

 

「何を……!」

 

 それは銃だ。今、俺の目の前には銃口があった。

 

「……天海アンナ救出は俺達がやる。お前は手を引け」

 

 冷たい言葉と視線。そして何よりも、男がその気になれば弾丸を放てる銃。それらが、有無を言わせないという思いを伝えてくる。

 それでも、俺は引くわけにはいかなかった。

 

「ならば俺にもやらせてくれ……!俺は能力者だ!ヤツらとは戦える!」

 

「イルフォン……いや、リア・ペスシアに負けたのにか?」

 

「っ……!」

 

 悔しいが、この男のその通りだ。

 ボルシャック・ドギラゴンを引いてた可能性に考えが至ったのに、逸る気持ちを抑えられずに攻撃してしまった。

 さらに、男は続けた。

 

「今のお前は一般人だ。そんな身体で戦う必要はない。天海アンナに会いたいなら、俺が後で会わせてやる」

 

「……それではダメなんだ」

 

 俺の言葉に、男の目元が少しだけ揺れる。

 男は続きを話せ、と目線で促しているのを感じた。

 

「アンナは大人が信用できないと言っていた。きっと、大人に優しくされた経験が少ないんだろう」

 

 避けようとする父親の話題に、アンナの能力者を狙う連中。アンナが辛い思いをし続けてきたのは想像に難くない。

 

「だから、そんな人間ばかりじゃないって証明したいんだ。心を閉ざして送り続ける人生が辛いのは、俺も分かっているつもりだ……」

 

 星の盾を辞めた。その後、やり直そうとしても失敗した。それから俺は、腐り続けて酒とギャンブル塗れの落ちぶれた人生を送ってきた。

 そんな時に、アンナがやってきた。こんな俺に助けを求めてきた。アンナは、こんな俺を信じてくれた。それが、嬉しかった。

 

「だから、戦いたい。俺を少しでも信じてくれた彼女を……アンナを助けたいんだ……」

 

 それが俺の願いだ。

 たとえリアが強くても、俺はアンナに会いたかった。

 

「そうか……」

 

 男はそれだけ言うと、銃を下ろした。そして、足元に置いてあったアタッシュケースを俺に渡した。

 

「答えとしては悪くない。こいつをやる」

 

 受け取ったアタッシュケースは、重みを感じた。中身は予想がつかない。

 開けないわけにもいかないので、俺は恐る恐るケースを開ける。

 中を見て、俺は息を呑んだ。

 

「これは……!」

 

 中には俺のデッキケースに、一枚の紙。さらには、紺色のコートと銃が入っていた。

 紙の裏側を見る。それは、星の盾の辞令の書類だった。

 

「財前ザック!現時刻を持って星の盾への復隊及び、星の盾日本支部対クオリア遊撃隊への所属を命ずる!」

 

「復隊……?」

 

 信じられない言葉が出てきた。

 星の盾に戻る気はなかったのに、復隊を命じられるとは思わなかった。

 

「一般人を戦わせるわけにもいかない。今回限りではあるが、お前には星の盾に戻ってもらう。当然、終わったらお払い箱だがな」

 

「……鉄砲玉になって連中を撹乱してこい。死んでも自己責任って事か?」

 

 遊撃隊は大雑把に言えば、状況に応じて動くことが許されたポジションだ。

 

「そうだ。引き受けるか?」

 

 男は、挑発するような笑みを浮かべる。

 俺に選択権を委ねるが、選択した以上は利用しつくすつもりのようだ。

 まるで悪魔の取引だ。望みを叶える代わりに、リスクも背負わせるつもりらしい。

 俺の答えは、一つしかない────俺は、ベッドから降りた。

 

「謹んでお受けいたします」

 

 アタッシュケースを手に、頭を下げる。どうすれば良いかは、身体が覚えていた。

 

「出発は二時間後。必要な物があれば早く言え。用意する」

 

「ありがとう。恩に着る」

 

 男は、俺の肩をポン、と叩く。そして、何も言わずにを振り向いた。

 立ち去ろうとする男の背を見て、俺はやらなければならないことを思い出す。

 

「……そうだ。早速だが頼みがある。」

 

「何だ?」

 

 振り向いた男に、俺は提案する。

 

「支部長に会っておきたい。今日一日の関係とはいえ、面通しは必要だろう」

 

 形式だけとは言え、俺の上司となる人間だ。会っておいて損はないだろう。それに、日本支部長は俺の昔の仲間だった。

 悪くない案だと思ったが、男はまじまじと俺の顔を見た。

 

「本当に会いたいのか……?」

 

「あ、ああ……」

 

 何だろう……このプレッシャーは。嫌な予感がした。

 

「……良いだろう」

 

 男はそれだけ言うと、後ろを振り向いた。通信機器でも使ってアポイントでも取るのかと思ったが、すぐにこちらを向いた。

 

「なあっ……!?」

 

 こちらを振り返った男を見て、俺は言葉に詰まった。

 他人から見れば、顔面蒼白という言葉が似合う状態になっているだろう。

 

「あ、ああ……!?」

 

 口は開くが言葉が出てない。なんと言えば良いのか分からなかった。

 何故ならば、男の胸には先程までなかった星の盾の日本支部長の星型のバッジがつけられていたのだから。

 

「自己紹介が遅れたな。俺の名は助屋仁三郎。星の盾の日本支部長だ。よろしく頼む」

 

 俺を助けてくれた男────いや、星の盾の日本支部長の助屋仁三郎はイタズラっぽい笑みを浮かべる。

 俺が目覚める時に外して、後ろを向いた時に支部長バッジを着けたようだ。

 

「ジ、ジンザブロウ!?お前だったのか……!」

 

 俺は記憶を必死に辿る。

 助屋仁三郎。この男は、俺の星の盾アメリカ本部時代の同期だ。アメリカ本部でも珍しい日本人ということで、良くも悪くも目立っていた。

 顔はどちらかと言えば童顔。眼鏡もかけていた。

 しかし、今のジンザブロウは白髪も生えているし、口元にも髭を生やしている。まるで印象が違う。別人にしか見えない。

 

「ほう……お前、か。随分と出世したものだな?」

 

 その言葉に、俺の心臓が跳ねる。上官に舐めた口を利いて雷を飛ばされた記憶が蘇る。

 

「あっ…………いや、何でもない……じゃない……何でもありません!」

 

 星の盾は序列に厳しい。すぐに訂正を入れる。

 しどろもどろな俺を見て、ジンザブロウは口を押さえながら小刻みに震える。

 

「ぶふっ……!あのザック・ザイゼンも……ふっ……丸くなったものだな……くくっ……!」

 

「ぐっ……!」

 

 コイツ……!楽しんでいやがる……!

 昔から殴ってやったところだが、この瞬間にそんな事をしたら鉄拳制裁では済まないだろう。

 それにしても、こんなタチの悪い悪戯をする男ではなかった。昔のジンザブロウは、もっと堅物だった。

 

「良い性格になったな……」

 

 せめてもの抵抗だった。しかし、ジンザブロウは意に返さない。

 

「馬鹿な同期二人や後輩に散々振り回されたからな」

 

「チッ……やはり日本人は好かん!」

 

 ジンザブロウは、してやったりと言いたげな笑みを再び見せながら、俺の肩を叩いた。

 

 

・・・

 

 

 ジンザブロウからの辞令から約二時間後。

 俺はジンザブロウの運転する車に乗り、クオリアのアジトへと向かっていった。

 

「もう少し武器は用意できたが……それだけで良かったのか?」

 

 ジンザブロウは、横目で俺の手に握られている銃を見て言った。

 

「ああ。数があっても俺の手に余る。足りなければ現地調達する」

 

 隊員に支給されているハンドガンが一つ。

 替えのマガジンが五つ。

 ナイフは三本。手榴弾は四つ。

 

 これらが、俺が要求した武器だ。

 アジト一つを潰すには足りないが、今回はあくまでも撹乱。武器が多くても身動きできなければ意味がないのだ。

 

「それにしても良かったのか?お前も同行して」

 

 突入自体は俺一人だが、クオリアのアジトまではジンザブロウも同行する。支部長が現場に来るケースは少ない。

 

「問題ない。俺にしかできない仕事は済ませてある。残りは他に任せれば良い。それに、俺は現場を見るタイプだ」

 

「苦労しないか?そのスタイルは」

 

「お陰様でな。毎日、米本部から嫌味のオンパレードだ。激戦区の日本支部だから許されてるようなものだ」

 

「光景が目に浮かぶな……」

 

 俺は、ため息混じりに呟いた。

 俺達のいたアメリカ本部。そこの上層部の人間の性格は、仕事が仕事だけに厳格だった。

 仕方の無い時もあるが、待機中に読む雑誌にまでケチをつけられた時は流石に腹が立った。

 

「それでも、俺は自分の目で戦いを見ておきたい。そうでなければ分からないことも多い。あの日からは特にそう思うよ」

 

「そうか……」

 

 ジンザブロウの表情が暗くなって見えた。あの事件は、彼にとっても暗い記憶なのだ。

 あの日とは、俺が星の盾を出るキッカケとなった事件の日だろう。

 

 

 

────約十五年前のアメリカ。

 ロサンゼルスの小さなホテルで、客の一人を人質にした立て篭もり事件が発生した。要求は莫大な金。

 典型的ともいえる人質立て篭もり事件。しかし、相手はカードの力を具現化させる能力者。普通の人間では太刀打ちできない。

 そこで、俺とアカリとリアの三人に白羽の矢が立った。いつも組んでいたジンザブロウはいなかったが、彼抜きでも問題ないというのが上の判断だった。

 実際、立て籠もった能力者自体は大して強くなかった。デュエルも俺が圧倒し、協力者もアカリとリアが対処した。

 その後が問題だった。デュエルには勝ったが、相手は人質を手放さかった。

 

『武器を捨て、人質を解放しろ!』

 

 ホテルの客室の一室。

 デュエルが終わった俺は、相手に銃を向けて投降を促す。しかし、相手は降伏するどころか、自棄になった。

 自分の身体に爆弾を巻きつけていたのだ。

 

『来るんじゃねえ!来たらコイツを起動させる!いや、来なくても少しすりゃ爆発だぜ!』

 

『た、助けて……!』

 

 人質の男性は涙を浮かべる。ナイフを突きつけられ、爆弾の脅威にもさらされている。恐怖するには十分だ。

 

『卑怯な……!』

 

 奥歯を噛み締めて睨みつける。だが、主導権は犯人にある。俺は、男を見逃すか、発砲するかの選択を迫られていた。

 

『センパイ!撃ってください!』

 

 後から駆けつけてきたリアが叫んだ。

 

『リア!犯人を刺激するな!』

 

 そんなリアを、同じく後から駆けつけてきたアカリが宥める。

 

────どうする?撃つか?最後まで降伏を勧めるか!?

 

 時間がないのに考えがまとまらない。

 犯人を刺激しない。早く撃つべき。どちらの意見も間違いではない。

 人質を盾にされている上に、犯人の身体には爆弾だ。人質に当たらないように撃っても、爆発させてしまう可能性がある。引き金を引くのを躊躇ってしまう。

 

『センパイ!早く!』

 

『来るなって言ってんだろ!』

 

────せめてナイフだけを落とせれば……!

 

 銃口をナイフに定める。だが、錯乱した犯人の手にあるナイフは大きく揺れて狙えない。

 何よりも爆弾や人質に当たるのがある……!

 

『さあ!残り一分もないぜ!早くここから出ていきな!』

 

─────こうなったら爆発しない可能性に賭けて撃つしかない!

 俺は、引き金に手をかけた……その瞬間だった。

 

 銃の発砲音が、聞こえた。

 

『なっ……!リア……!?』

 

 後ろにいたリアの銃口から、硝煙があがっていた。

 

『くっ……!』

 

 確認は後だ!

 後退った犯人から人質を離す。その後、身体に巻き付けてある爆弾を強引に引き剥がす!

 

『間に合え……!』

 

 窓ガラスを殴り壊して窓を割った。残り十数秒の爆弾を、窓から投げ捨てた!

 

『伏せろ!』

 

 爆弾が、窓の外で大きな音を立てながら爆ぜる。

 爆風が窓から部屋に入ってくる。

 

『ぐあああああああああああああっ!』

 

 一番近くにいた俺は、爆風をモロに受けた。

 全身が熱い。まるで炎の中に飛び込んだかのようだ。デュエルで力を消耗した俺の身体は、それに耐えられる余裕はなかった。

 俺の意識は、一旦そこで途切れた。

 

 

 

「その後、俺は本部の医務室で目覚めた。俺もリアもアカリも生きていたし、犯人も捕らえられていた。人質だけは、助からなかったがな……」

 

 人質は、リアの弾丸が当たって死亡した。人質を犠牲にしてでも犯人を止めるべきだという判断だったらしい。

 俺達を責める声が無かった訳では無いが、判断が難しい状況だったので比較的少なかった。

 だが、そんな事は家族には関係ない。

 人質には、子どもがいた。唯一の肉親だったらしい。その子からは『嘘つき』『人殺し』と罵られた。言われて当然だと思った。

 

「……俺が別の任務から戻った頃には、全てが手遅れだったな」

 

 ジンザブロウは眉を顰める。それも当然だろう。

 あの頃から、俺達四人はバラバラになっていったのだから。

 

「お前とリアは諍いが絶えなくなったし、それを見たアカリも少しずつ口数が少なくなっていったな」

 

 あくまでも人質を優先するべきと考える俺と、人質救出が難しいなら人質を傷つけてでも制圧するべきと考えるリア。

 どこまでいっても、俺とリアの意見は平行線だった。

 

「そして、お前は唐突に辞表を出したな。お前の中では色々あったんだろうがな」

 

「ああ……」

 

 振り絞るように返事をする。ジンザブロウのフォローが、申し訳なくて少し胸が痛んだ。

 遅いかもしれないが、せめてジンザブロウには説明しよう。

 

「俺は何も決断できず、リアに撃たせてしまった。守るべき人が死に、悲しむ人が出た。俺には人を守る資格もないと思ったんだ」

 

「だから星の盾を辞めたのか?」

 

「そうだ。もう人と関わりを持ったり、人を守る資格はないと思ったんだ」

 

 だから、誰にも言わずに辞表を提出した。違う形の責任の取り方があったがしれないが、あの頃の俺には星の盾の一員であり続けるのは耐えられなかった。

 

「だからといって天海にも黙って行くとはな。俺やリアはともかく、天海とは付き合っていただろう」

 

「だからこそだ。俺が一緒に居てはアカリを不幸にすると考えた。他の奴と幸せになって欲しかったんだ」

 

 実際は、幸せになるどころか追われる身となっていた。

 リアも、辞表を出すところを見られてしまい、喧嘩別れをしてしまった。

 昔の俺の判断は、尽く裏目に出てしまっている。

 

「……言いたいことは色々あるが、お前の悩みに抱をえ込む癖は好ましく思わないな。天海とリアも、あの後は非常に荒れていたからな。特に、リアもお前を追うように辞めていった。相談もなしにな」

 

 リアがすぐに辞めたのは知らなかった。それほどまでに、俺はリアを追い詰めてしまったのだ。

 

「アカリも辞めたのか?」

 

「天海は暫く続けていた。能力者の研究をしている男と付き合って、数年後に辞めた。結婚や子どもも考えていると言っていたな」

 

「……そうか」

 

 その研究者が、アンナの父親ということになる。本来であれば喜ぶところだが、アンナは父親の話題を避けていた。恐らくは、父親も何かあると考えるべきだ。

 

「その男について何か知っているか?」

 

「何故だ?」

 

「アンナ……アカリの娘が父親を好ましく思っていない可能性がある。アカリから貰った手紙の内容からして、その男もクオリアの関係者の可能性がある」

 

 あまり考えたくないが、可能性はあると思った。ジンザブロウは、無言で封筒を渡す。

 

「これは?」

 

「天海からの手紙だ。お前の知りたいことは大体書いてあるはずだ。内容が内容だから見せるかは迷ったが」

 

「お前も手紙を貰っていたのか……」

 

 考えてみれば当たり前だ。ここまでジンザブロウは、俺に対して非常に協力的だ。クオリアの能力者達の引き渡しはともかく、俺を救出してアジトの位置も教えてくれている。

 ジンザブロウに促されるまま封筒の中の手紙を見る。五枚ほどあった。書いている際は余裕があったのか、俺に出したものよりも詳細に書かれていた。

 

「…………」

 

 手紙は謝罪から始まり、夫と対立した経緯やリアに狙われている理由などが書かれている。

 そして、最後には俺達への謝罪の言葉で締めくくられていた。

 手紙を読み終えると、自分の中で色々なものに納得がいった。

 

「……なるほど。そういう事だったか」

 

 手紙を封筒に戻してジンザブロウに返した。

 

「数週間前、日本支部に匿名で大量の荷物が届いた。中身は保存食だったが、その中に封筒があった」

 

「それがこの手紙というわけか」

 

「そういう事だ。天海の夫のウィリアムは、能力者の研究をしていた。天海と交際して後に結婚し、娘のアンナを授かった。家族を愛する良き夫だが、アンナが能力者として強い力を秘めていると知ると一変したらしい」

 

「研究の道具にされた、ということか……」

 

 俺の言葉に、ジンザブロウは頷く。

 アンナが父親の話を避けていたのも、アカリの手紙に夫の事が書かれていなかったのも、理由はアンナを研究道具扱いしたからだ。そんな男に頼れるわけがないのだ。

 

「ウィリアムは、お前とリアが辞めた後に星の盾のアメリカ本部で能力者について情報提供をしてくれていた。その繋がりで天海と交際し、結婚と同時に天海は星の盾を辞めた。ウィリアムは俺から見ても好青年だったから、天海を幸せにすると思っていた。それだけに手紙をもらった時はショックを受けたな」

 

 能力者は分からないことが多い。だから個人にしろ組織にしろ研究する者たちがいる。

 研究者たちから能力者の情報を貰うのは珍しい話でもない。アンナが付き合ったのも、ジンザブロウと面識があったらしいのも合点がいく。

 

「リアがアンナを狙っていたのも、アンナの父親のウィリアムが関係していたんだな」

 

「そうだ。その手紙にも書いてあったが、リアは星の盾を辞めた後に能力者を集めてクオリアを作った。クオリアの目的は、能力者の力を研究して世界を思い通りに作り変えること。リアはウィリアムに近づいて、目的の為に素養があるらしいアンナを狙った」

 

「馬鹿げた話だな……」

 

 俺のボヤきに対してジンザブロウは頷く。

 リア達は、死んだ人間や失われた物を能力者の力で再現するつもりらしい。

 確かに能力者はカードの力を実体化できる。だが、それはあくまでも描かれていたものを現実の世界に映し出しているに過ぎない。

 俺たちは、謂わば映画のプロジェクターのようなものだ。人間を模したところで、それは触れられる幻に過ぎないのだ。

 

「そして、アンナは俺のところへと来たというわけか……」

 

「そうなるな。お前の言う通り、彼女には助けてくれる大人がいなかったんだ。藁にも縋る思いだっだろう。それに、星の盾の中にリアの信奉者がいないとも限らなかった。だから、星の盾よりもお前の……財前のところへ行くように指示したのかもしれんな」

 

 当初のアンナは塞ぎ込んでいた。それは、産まれてからの人生が誰かの利益の為に利用され続けるものだったから。だから、母であるアカリの言葉を頼りに、俺に会いに来たのだろう。

 

「そんなアンナの期待に俺は応えられなかった。情けない話だな」

 

「ならば、次は応えてやれ。俺も多少なら力を貸してやるが、泣き言は聞かんからな」

 

 多少どころか、かなり力を貸してもらっている。これから、俺は一生ジンザブロウには頭が上がらないだろう。

 

「ああ」

 

 俺がそれだけ言うと、ジンザブロウは何も言わなかった。その沈黙は了承を意味していた。俺が、ジンザブロウの叱咤激励を受け取ったという意味だ。

 俺がリアのアジトへと向かうのは、アンナを助ける為だけではない。ジンザブロウや、待っていると言ってくれたカジノの仲間達の気持ちにも応えたいからだ。今、それがやっと分かった。

 これから行われるのは、俺が過去とケリを付けるための戦いなのだ。

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