デュエル・マスターズAZ   作:柿田

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最終話「アンナとザック」

 クオリアとの戦いから約二ヶ月が経過した。

 リア────イルフォンが捕まったことにより、クオリアは事実上の崩壊を迎えた。

 ニホンの一部地域とはいえ、強力な能力者を多数抱えて悪道の限りを尽くしていたクオリアの本部が潰された事実は、能力を悪用する者達の間で衝撃が走った。

 自首する者。自棄を起こして暴れる者。行動は様々だが、クオリアの残党は少しずつ潰されていった。

 そして、俺は……財前ザックは久しぶりの我が家で、見知った連中と食事をしていた。

 

「……美味かった。小春、お前に料理の才能があるとは思わなかったな」

 

「才能があるとは思わなかった、は余計ですぅ。まあ、私も自分のお店を持ちたいから頑張ってるわけよ」

 

 カジノでスタッフをやってる女……小春が唇を尖らせながら拗ねる。

 小春の作ったオニオンスープとオムライスは、本当に美味かった。小春が店を構えると聞いた時は驚いたが、この味なら納得だ。

 やりとりを見ていたカジノのマスターは、苦笑いしながら肩を竦める。

 

「ザックさん、あまり彼女をイジメないであげてください。子供の頃からの夢だったレストラン開業までもう少しなんですから」

 

「そうだったな。すまなかった」

 

 俺が謝ると、小春はすぐに「分かれば良いのよ!」と機嫌を直した。拗ねたり明るくなったり忙しい。

 最近になって聞かされたが、小春はレストランを開くための資金稼ぎとしてカジノスタッフをやっていたらしい。

 

「財前、女性に優しくしないのは感心しないな?場合によっては、俺はお前を捕まえねばならん」

 

 今度は、俺の隣でワインをチビチビ飲んでいるジンザブロウが口を挟んできた。

 ジンザブロウの顔はかなり赤かった。かなり酔ってるようだ。

 

「そうだ!そうだ!支部長さんの言う通りだ!」

 

 小春も囃し立ててくる。ここから絡み酒が始まるのかと思うと、ウンザリする。

 

「まあまあ。お二人共、その辺で。ザックさんも深く反省しているようですから」

 

 マスターが助け舟を出してくれた。一応、二人からの口撃は止まった。

 少しだけ静かになる。すると、ずっと居たけど口数の少なかった少女────アンナが口を開いた。

 

「……お酒って美味しんですか?」

 

 オレンジジュースの入ったコップを両手に握りながら、小首を傾げる。話に混ざれなくて淋しい、というよりは純粋に疑問に思っているようだ。

 

「俺は美味いと思うが、人によるな。大人でも飲めない人間は多い」

 

 酒は飲みたいと思う人間が飲む程度でいい。無理強いするのは互いの為にならない。あくまで俺の持論だが。

 

「そうなんだ……じゃあ大人になってから確かめたいな……」

 

「ええ。それが良い。大人になったら、私の作るカクテルをザックさんと一緒に飲みに来てください。歓迎します」

 

 マスターの言葉に、アンナがはにかんだ。

 

「だが、その前に学校を卒業した方が良い。やって損は無かろう」

 

「はーい」

 

 それだけ言うと、アンナはジュースに口をつける。

 

「アンナちゃん、学校に通ってたんだっけ?制服可愛いわよねえ」

 

「えへへ……」

 

 小春に制服を褒められて照れるアンナ。

 アンナはトウキョウにある学校に通っていたが、クオリアの襲撃を受けて離れざるを得なかった。

 最近は状況が落ち着いたので、学校に連絡を取って復学を申し出た。学校側からも「是非、来てほしい」と言われた。  

 アンナも学校は好きだったようで、両者の関係は悪くないようだった。俺一人ではアンナに教えてやれることに限界があるので、安心したのが正直な気持ちだ。

 

「そういうザックさんは、どうされるんですか?アンナさんを引き取るなら、またカジノで荒稼ぎというわけにもいかないでしょう?」

 

 どこか試すような口調のマスター。彼の質問から、場の視線が一斉に俺に向く。マスターの言う通りだし、今後については考えもある。それでも、少し気まずい。

 

「考えてはある。アンナにも話はしてある。それが正解なのかは分からないがな……」

 

 ずっと考えていたことがあった。

 俺に出来る事は何なのか。何をするべきなのか。何がしたいのか。

 それらを総合的に考えた結果、自分の進むべき道が見つかった。

 俺は、それを恐る恐る口にする。

 

「……便利屋ってやつをやってみようと思うんだ」

 

「え……?」

 

 小春が間抜けな声を出す。マスターやジンザブロウも怪訝な顔をしている。、きょとん、という効果音が似合う状況だ。アンナを除いて、だが。

 こうなるのは分かっていた。俺の風貌で便利屋と言われても似合わないだろう。

 

「ジンザブロウには星の盾への復帰を提案された。だが、俺は断った。迷惑をかけ過ぎたし、何よりも復帰という形を取るには時間が空きすぎた。戻ったところで適応するのは難しいだろう」

 

 リアを捕まえた後、ジンザブロウに星の盾への復帰を勧められた。しかし、俺のいるべき場所ではないと思った。今の星の盾には今の人間がいる。彼らに任せるべきだ。

 ジンザブロウ達は、目で続きを促す。

 

「アンナを引き取る以上、何もしないわけにもいかないからな。それに、俺自身も何か人の助けになる事をしたいと思った」

 

 そう思ったのも一応の理由はある。リアとの面会だ。

 

 

 

 爆弾を屋上で爆発させた後の事だ。気を失った俺は、星の盾の病室へと運ばれた。

 それから少ししてから、リアと面会をした。ジンザブロウの計らいだった。リアは、俺に負けてからやる気をなくしたようだったが、考えは変わっていなかった。

 

『センパイ、負けましたよ。デュエルで負けたのも驚きましたが、まさか誰も傷つけずに爆弾を処理するとは思いませんでしたよ』

 

 面会室のパーテーションの向こう側で、リアは自嘲気味に笑う。頬は痩せこけ、動作も緩慢になっている。

 老け込んでいるという言葉が頭に浮かんだ。つい先日まで戦ってた男とは似ても似つかない様子だ。

 

『いつまでも同じ轍を踏むつもりはない。それより、クオリアの情報をすべて話したらしいな』

 

 聞いた話によれば、リアはクオリアの解散を宣言して残党の居場所をすべて話したらしい。

 

『別に宗旨変えしたわけではありません。今でも目的を達するなら犠牲は必要だし、世界を良くするならアンナのような強い能力者が必要だと思ってます。ただ……もう、どうでも良い。何もかもがね……』

 

 リアは静かに微笑む。そこに穏やかさはなく、ただただ虚しさのようなものを感じさせた。

 

『……アカリはどうなった?』

 

 リアが一つだけ話していない情報があった。それがアカリについてだ。俺の戦いは、リアがアカリからアンナを奪おうとしたことが始まりだ。そのアカリがどうなったのかは未だに不明だった。

 暫しの沈黙の後、リアが口を開いた。

 

『……死にました。僕のせいでね』

 

『そうか……』

 

 特に驚きはなかった。怒りや悲しみが湧かないかと言えば嘘になるが、察してはいた。

 後にアカリの死をアンナに知らせることになる。アンナも悲しんではいたが、覚悟もしていたと言っていた。

 

『アカリさんは、アンナを守る為に僕らをおびき寄せて、逃げ回っていました。それを僕らが追いかけていたわけです。その途中で、彼女は崖から転落しました。僕達で治療してもダメでした』

 

『お前が手を下したわけじゃなかったんだな』

 

『はい。殺すつもりはありませんでした。だから、あんな事になるなんて思いませんでした』

 

 リアは眉を少しだけ顰ませる。アカリの死亡は、リアとしても不服な結果だったらしい。

 アカリは娘を守り、最後まで能力者の力で死者を復元する計画を拒絶したということになる。

 

『あの日も取り戻せない。あなたも越えられない……ならば、ここから世界が沈んでいく様を見させてもらいますよ。高みの見物ってやつかな?』

 

 本当に何もやる気はないらしい。反省したわけではなく、諦めただけのようだが。

 リアなりに世界を良くする方法が、アンナ達の強い能力者の力を使っての世界の再生だったらしい。アンナの他にも強い能力者を攫っては研究し、建物や人の復元を試みていたという話だ。

 リアは本当に苦しんでいたのだろう。だからと言って、コイツに同調するわけにはいかない。しかし、コイツが悪いという一言で済ませていい問題でもない。

 リアの変貌は俺にも責任がある。リアも、あの事件に苦しめられた人間でもあると俺は思う。

 それでも、やり直せないのだ。事件が起こってしまった以上は、受け入れて向き合うしかない。

 ならば、俺がかけるべき言葉は一つしかない。

 

『……だったら俺は、外からマシな世界にしてやる。気が済むまで見ていれば良い』

 

 それが、今の正直な気持ちだった。

 俺の言葉にリアは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに試すような笑みを浮かべた。

 

『期待してますよ。財前ザック……センパイ……』

 

 その言葉が、現時点で俺が最後に聞いたリアの言葉だ。

 

 

 

 この世界は、能力者が暴れて何もかもが無くなった。国も、平和も、正義も、消えていった。今でも悲しい事件が次々に起こり、苦しむ人々が生まれ続けている。

 そして、リアやアンナのような人間が生まれた。彼らのような人間が生まれたのは環境が大きいのだろう。

 ならば、少しでも良いから人々の助けとなる事をするしか無いのではないか?人が人を助ける。そんな当たり前を取り戻すしかないと思った。

 だから、人の助けになることをしたいと考えた。それで思いたのが便利屋だった。

 

「幸い、俺は様々な経験だけは人よりある。それだけでは補えないこともあるだろうが、それでも人を助けられると考えている」

 

 全員、黙って俺の話を聞いていた。表情は真剣そのもの。俺は、さらに続ける。

 

「俺は、アメリカ人の父とニホン人の母親の間で生まれた。星の盾を辞めてニホンに流れ着いたのも、幼い頃に親からニホンの話を聞いて育ったからだ。新天地で自分なりにやり直そうしたが、上手くいかなかった。それで、カジノで生活資金を稼ぐ荒れた生活をしていた」

 

 星の盾を辞めてから、自棄を起こしてギャンブルをやった。そうしたら、呆れるほど上手くいった。仕事は苦戦続きだったのに、ギャンブルは概ね勝ってしまったのだ。

 その結果が、アンナと出会う前のギャンブル漬けの俺だった。

 

「それでも、マスターや小春やカジノの連中……それに、アンナに出会った。縁が生まれて俺は救われた。辛いこともあったが、今は幸せだ」

 

 俺が本当に運が良いとしか言えない。周りの人に助けられた。

 

「だから、今度は俺が誰かの力になりたい。こんな俺でも力になれることはあるって分かったからな」

 

 アンナを見る。あの子こそ、俺が何をやるべきか気づかせてくれた張本人だ。今度は、俺がアンナを幸せにしてやりたい。

 アンナは、俺の目を真っ直ぐ見つめながら言った。

 

「ザックさんだったら……きっと、上手くいくと思う。私も頑張るから」

 

「……ありがとう、アンナ」

 

 ジンザブロウ達も口々に「応援してる」「困ったら依頼する」など励ましてくれた。

 今の俺は、星の盾を辞めた頃からは考えられないくらいに心が満たされていた。

 出来ることなら、この幸せが続いていって欲しい。そして、この幸せを誰かにも分けてあげられる世界であって欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 それから約七年後。

 アンナは無事、学校を卒業した。他の連中も昇進したり自分の店を持ったりと、それぞれの道を順調に歩んでいるようだった。

 俺もオオサカで便利屋を開業して順調に……と言いたいところだが、頭を悩ませていた。

 

「ふぅ。今月もギリギリだな……」

 

 便利屋の店舗内で、帳簿と睨めっこをしていた。収支は何とか黒字を維持しているが、本当にギリギリだ。

 他にも仕事があるから会計を雇いたいところだが、そんな余裕もない。それどころか、金策や経費削減を考えなければならないくらいだ。

 

「ザックさん!大変!」

 

 いきなり、扉が開かれると同時に女の声が聞こえた。耳に馴染んだ声だった。

 

「アンナ、扉は乱暴に開けるなと言っただろう」

 

 扉から出てきたのは、長い黒髪の女────天海アンナであった。アンナは、今では便利屋における俺の助手でもある。

 彼女は、俺がかつて助けた少女だ。当時の面影を残しつつも、身長や顔つきは大人へとなりつつあった。

 

「それは後で謝るから!早く来て!」

 

「お、おい……!」

 

 アンナは、強引に俺の腕を引いた。長い髪やスカートで大人しそうに見えるが、実際は明るく活発な性格になった。良くも悪くもは母親の血を感じさせる。

 強引な助手に導かれるままに、外へと駆け出すことになった。

 

 

 

 アンナに連れて行かれたのは、街の中にある八百屋だった。

 気の良いお婆さんが店主の馴染みの店だ。しかし、人集りが出来ていて不穏だった。

 良く見ると、筋骨隆々のスキンヘッドの男が、店先で何かを騒いでいるのが見えた。

 

「おうおうおう!婆さんよう!このキュウリどうなってんだ?曲がりすぎじゃねぇか!腹壊したらどうすんだ?あぁん!?」

 

「そ、それは代わりに他よりも安いんです!それに、衛生的に問題のあるモノは出してません!」

 

「俺ァコイツを見て不快な気分になったぜ!謝礼払えや!」

 

「ひぃ!」

 

 スキンヘッドの男は、良くわからない理由で店主に因縁をつけていた。

 体格で劣る店主を、スキンヘッドの男が脅しているのだ。

 

「……アレか?」

 

「うん、アレ」

 

 アンナは真剣な顔つきで男を指さす。

 クオリアがいなくなれど、世界は荒れている。だから、あのような横暴を働く輩は後を絶たない。

 

「まったく……星の盾の領分だろうに……」

 

 思わずこぼす。とはいえ、星の盾は組織だ。通報してから動くのに時間がかかる。幸い、男一人のようだから対処は難しくないだろう。

 それに、店主が困るのは俺としても本意ではない。俺は、スキンヘッドの男に話しかけた。

 

「おい、とりあえず落ち着け。ここの店の商品は毎朝早くから品質チェックをしている。衛生面に問題はない。それに、嫌なら買わなければ良いだろう」

 

「あ?何だ貴様は!すり潰されてぇか!」

 

 殴られるかと思ったが、更にタチの悪い事態へと発展してしまった。

 スキンヘッドの男は、懐から見覚えのあるカードを取り出した。

 

「チィッ……!」

 

 この局面で取り出すカードは一つしかない……デュエル・マスターズのカードだ。

 そこに描かれたクリーチャーの力を行使するつもりだ!

 

「来やがれ!罰怒ブランドォ!」

 

 スキンヘッド男の叫びに応えるように、スケボーに乗った人型巨大ロボが、空から降り降りてきた。

 ロボの巨体が、街を揺らした。

 

「きゃあっ!」「ヤバイよ!」「アイツ、能力者かよ!」

 

 人々が集まってる中でのクリーチャーの登場。当然、混乱が起こる。

 だが、こんな時のための俺とアンナだ。

 

「全員、落ち着いて離れろ!アンナ!みんなを避難させろ!」

 

「うん!みんな!クリーチャーから離れて!前の人は押さないでね!」

 

 街の連中は、急ぎつつも他の人間を押しのけないように走っていく。

 これも、俺達の仕事の成果の一つだった。

 

「逃がすかカス共!やれ!罰怒ブランド!」

 

 罰怒ブランドがスケボーのバーニアを吹かす。追いかけるつもりなのだろう。

 だが、ブランドが街の人間に触れることはない。

 

「どうした!罰怒ブランド!動いてねぇぞ!」

 

 スキンヘッドの男が狼狽える。声も動きも動揺が隠せていない。飛び立つと思った罰怒ブランドが、その場に留まってるのが、ショッキングなようだ。

 

「悪いが、そいつが動くことはない!降伏しろ!」

 

「なにっ!?」

 

 俺の降伏勧告に、驚愕するスキンヘッド男。奴は、罰怒ブランドの手足へと目を向けた。

 

「こ、これは……鎖…!?テメェ何を……!」

 

 罰怒ブランドの手足に、先程まで無かったはずの鎖が絡みついていた。

 スキンヘッド男の視線は、次に俺へと向かう。すると、男は目を見開いた。

 

「クリーチャー……か、カオスマントラ……!?」

 

 ようやく気がついたようだ。

 俺は罰怒ブランドが飛び立つ瞬間に、カオスマントラを呼び出して罰怒ブランドを拘束させたのだ。

 

「これで分かったか?貴様は降伏するしかない」

 

「ぐぬぬ……!」

 

 悔しいのか、スキンヘッドの男は顔を歪ませる。これでは、出来ることは限られてくる。普通なら従うはずだ。

 だが、このスキンヘッドの男は大人しく降伏しなかった。

 

「コイツで貴様を始末してやらあ!」

 

「バカが!」

 

 俺とスキンヘッドの男。互いのカードが光って、目の前の景色が塗り替わっていった。

 

 

「デュエルゾーン……これがお前の答えか」

 

 町の人々も消え、デュエリストとカード以外存在しない漆黒の世界。それが、デュエルゾーン。

 能力者同士の力がぶつかり合った時に生まれる決闘空間である。

 

「俺はデュエル・マスターズにおいても最強だ!邪魔したことを後悔させてやる!」

 

 スキンヘッドの男の目の前にシールドが現れる。

 

「良いだろう。相手になってやる!」

 

 俺もシールドを展開する。さらに、五枚のカードを構えて準備は終わる。

 

「デュエル!」

 

 こうして、俺達のデュエルは始まった。

 

 一ターン目。スキンヘッドの男はブンブン・チュリスを召喚。忍式の聖沌 y4kk0

 二ターン目。スキンヘッドの男は一番隊 チュチュリスを召喚。

 そして、俺の二ターン目。

 

●ザック

●手札…四枚

●シールド…五枚

●バトルゾーン

 忍式の聖沌 y4kk0

●マナ…二枚

 

「俺はボルシャックの古代神殿を出す」

 

 太陽のような燃える炎を宿した神殿がフィールドに現れる。火と光のタマシードだ。

 神殿を見たスキンヘッドは鼻で笑う。

 

「おいおい。俺のデッキを見て、スピードアタッカーとブロッカーを与えるカード?自滅してぇのか?」

 

「自滅かは自分で確かめろ。y4kk0でシールドを攻撃!そして、革命チェンジを発動!」

 

 手札のカードと入れ替える革命チェンジを発動した。刀を背負ったクリーチャーが、上空から降ってきた紫色の巨大ロボと入れ替わるように消える。

 

「ドラン・ゴル・ゲルスをバトルゾーンに出す!」

 

「革命チェンジだぁ!?」

 

 男は怪訝な顔をする。

 ドラン・ゴル・ゲルスは、メカならコストに関わらず革命チェンジ出来るカードだ。さらに、出た時の効果を発動する。

 

「ドラン・ゴル・ゲルスの効果で自身のシールドを一枚ブレイク。さらに、手札からコスト3以下のメカ・クリーチャーのアストマープルT-3をバトルゾーンに出す!」

 

 紫色のスーパーカーがバトルゾーンへと走ってきた。さらに、効果は別のクリーチャーへと続く。

 

「アストマープルT-3の効果。手札から忍鎖の聖沌 94nm4をバトルゾーンに出す」

 

 今度は鎖鎌のクリーチャーが現れる。これで俺のバトルゾーンには三体のクリーチャーがいることになる。

 

「ゲルスでシールドをブレイク!」

 

 ドラン・ゴル・ゲルスがシールドに体当りする。砕かれたシールドの破片は、スキンヘッドの男へと飛んでいく。

 

「チィッ!先手を取りやがったな!」

 

「まだだ!94nm4でシールドを攻撃!この瞬間、94nm4の攻撃時効果でデッキの上からシールドを一枚追加する。さらに、自身の効果でシールドが追加されたからメカ・メクレイド5を発動!」

 

「なに!?シールド増やしながらのメクレイドだと!?」

 

 俺は、デッキの上から三枚を確認する。その中から一枚を選んでバトルゾーンに出す。

 

「来い!二体目のドラン・ゴル・ゲルス!」

 

「またドラン・ゴル・ゲルスだぁ!?」

 

 スキンヘッドの男は仰け反りながら驚く。男に構わず、俺は効果を発動させる。

 

「バトルゾーンに出た時の効果でシールドを一枚ブレイクする」

 

 俺のシールドが再び四枚に戻る。だが、シールドを割るということは手札を増やすことにもなる。

 

「ブレイクしたシールドからS・トリガーを発動!メガ・ブレード・ドラゴンを召喚!」

 

 剣を背負った赤い装甲のドラゴンが、咆哮と共にバトルゾーンに飛び立った。

 メガ・ブレードは相手ブロッカーを破壊する効果を持つ。

 

「馬鹿め!俺のバトルゾーンにはブロッカーはいない!出すだけ無駄だったなぁ!」

 

「馬鹿は貴様だ。自分のクリーチャーを見てみろ」

 

「は?なにを……ナニィッ!?」

 

 突然のことだった。チュチュリス達が、爆散して消えていった。

 

「ふざけるな!俺のデッキにブロッカーはいなぁい!」

 

 スキンヘッド男は頭を抱えながら叫んだ。

 マナやバトルゾーンを見る限りはの、奴のデッキは火文明単色だろう。しかし、それでも破壊されるのだ。

 

「ボルシャックの古代神殿の効果。このタマシードがある限り、全てのクリーチャーはスピードアタッカーとブロッカーを得る……つまり、お前のクリーチャーは全てブロッカー破壊の効果を免れないんだよ」

 

「あっ……」

 

 忘れていたようだ。口に手を当ててたじろぐのが見えた。

 

「まだ終わりじゃない。ゲルスの効果でy4kk0をバトルゾーンゾーンに出す。さらに、攻撃中の94nm4でシールドブレイクだ」

 

 スキンヘッドの男のシールドは三枚となった。全員で攻め込めば、シールドは全て破壊してトドメまでいける!

 

「さらに、メガ・ブレード・ドラゴン、二体目のゲルス、アストマープルでシールドを攻撃!」

 

 三体で同時にシールドを攻撃する。スキンヘッド男のシールドは全て消え去った。

 だが、男もタダではやられない。

 

「G・ストライク!コダマンマGSで!y4kk0を攻撃不能にする!」

 

 攻撃準備していたy4kk0が動きを止めた。トドメを刺すにはクリーチャーの頭数が足りなかった。

 

「ターンエンド……」

 

 エンド宣言するしかなかった。スキンヘッド男へとターンを渡した。

 

 

●ザック

●手札…一枚

●シールド…四枚

●バトルゾーン

 ボルシャックの古代神殿

 ドラン・ゴル・ゲルス×2

 メガ・ブレード・ドラゴン

 アストマープルT-3

 忍鎖の聖沌 94nm4

 忍式の聖沌 y4kk0

●マナ…二枚

 

「お、俺のターン……」

 

 スキンヘッドの男は青ざめた顔でカードを引いた。

 

●スキンヘッドの男

●手札…八枚

●シールド…〇枚

●バトルゾーン…無し

●マナ…二枚

 

「クソ…どうすんだよ!コレ!バトルゾーンを更地にしやがってよ!」

 

 スキンヘッド男は文句を言いながらマナにカードを置く。この状況でも引くつもりはないらしい。

 

「ブレイズクローを二体召喚!」

 

 男のバトルゾーンに、スケボーに乗ったトカゲ男達がバトルゾーンに現れる。使えるマナは残り一枚だ。

 

「マスターB・A・D発動!コストを2、さらに召喚したクリーチャー一体につきコストを2下げて罰怒ブランドを1マナで召喚だ!」

 

 スケボーに乗った人型巨大ロボが、ジェット音を吹かしながら飛んでくる。

 デュエル前に見たクリーチャーだ。奴の切り札のようだ。

 

「ブランドでシールドを攻撃だ!」

 

 破れかぶれの特攻だ。全クリーチャーの攻撃が通ったとしても、俺にトドメは刺せない。

 ならば、本気で迎え撃とう。それがせめてもの救いになると思いたい。

 俺は手札にある切り札をバトルゾーンに出した。

 

「ニンジャチェンジ5発動!バトルゾーンのドラン・ゴル・ゲルス一体と手札のカオスマントラを入れ替える!ブレイズクロー二体をタップだ!」

 

「なに!?」

 

 突如として手裏剣に顔がついたクリーチャーが、ブレイズクローを鎖で縛った。ブレイズクローは鎖から抜け出せずに苦しんでいる。

 

「さらに、ドラン・ゴル・ゲルスのメガ・ラストバースト発動。場を離れたからデッキの上一枚をシールドにする」

 

 俺のシールドは五枚になった。これで、シールドはゲーム開始時の状態と同じになった。

 

「さらに、シールドがターンで初めて置かれたからメカメクレイド発動。デッキの上を三枚確認し、忍式の聖沌 y4kk0をバトルゾーンに出す」

 

 二体目のy4kk0が出現する。

 

「だったら……せめてシールドはぶっ壊したらぁっ!!」

 

「無駄だ。y4kk0でブロックだ」

 

「ああっ!?」

 

 y4kk0がブランドの拳を受け止めて爆散する。これで、スキンヘッドの男に攻撃できるクリーチャーはいない。

 男は目を見開く。攻撃出来ないクリーチャー達を見て信じられないものを見るような目で見る。そして、項垂れながら呟いた。

 

「ターン……エンドだ……」

 

 男は自分の最後を覚悟したのか、先程までの闘志は感じられなくなった。

 

 

●スキンヘッドの男

●手札…四枚

●シールド…〇枚

●バトルゾーン

 ブレイズクロー×2

 罰怒ブランド

●マナ…三枚

 

「俺のターンだ」

 

●ザック

●手札…二枚

●シールド…四枚

●バトルゾーン

 ボルシャックの古代神殿

 ドラン・ゴル・ゲルス

 メガ・ブレード・ドラゴン

 アストマープルT-3

 忍鎖の聖沌 94nm4

 忍式の聖沌 y4kk0

 聖カオスマントラ

●マナ…二枚

 

 カードを引いた。恐らくは、これが今回の最後のドロー。

 引いたのは、二枚目のカオスマントラ。これでトドメを刺せなくても、攻撃を封じる事が出来る。その心配も必要もないのだが。

 

「マナチャージはしない」

 

 マナチャージを飛ばしてバトルに移る。

 

「ひいっ……!」

 

 俺の宣言に、男は肩を震わせる。

 

「聖カオスマントラでダイレクトアタック!」

 

 俺は、カオスマントラのカードをタップさせた。それに呼応するかのように、カオスマントラは敵であるスキンヘッドの男へと向かって飛んでいった。

 

「うわあああああああああああああああっ!!」

 

 カオスマントラがクナイを投げつける。

 男の叫び声が、デュエルゾーンに響き渡った。

 

 

 

 デュエルが終わると周囲の景色が塗り替わった。漆黒の空間から、見慣れたみすぼらしい建物が並びたつ街並みに変わっていた。

 デュエルに負けたスキンヘッドの男は、地面に倒れていた。

 

「……何故、殺さない?」

 

 デュエルに負けた荒くれ者たちは、大体似たようなことを言う。

 デュエルに負けたら殺せだの、何故殺さないかだの。

 

「殺しに興味はない。それに、星の盾に突き出さなきゃいけないからな」

 

 噂をしていると、星の盾の人間が五人ほどのチームでやってきた。アンナが通報したのだろう。俺が手招きすると、星の盾のチームはスキンヘッド男の拘束を始める。

 星の盾のチームのリーダーらしき男が、話しかけてきた。

 

「財前さん。いつも通報ありがとうございます。支部長からも、お礼を言ってほしいと言伝を預かっております」

 

「偶然居合わせただけだ。後は頼んだ」

 

「ええ。それでは……」

 

 星の盾のチームは、スキンヘッドの男を連行する。星の盾の姿が見えなくなると、物陰からアンナと街の連中が出てきた。

 

「ザックさん、お疲れ様」

 

「ああ。まあ、いつも通りだったな」

 

 今回のように能力者が襲撃してくるのは珍しくなかった。クオリアが壊滅したとはいえ、いつの世でも力を悪用する能力者は存在し続けていた。

 八百屋の店主が俺に頭を下げてきた。

 

「ザックちゃんとアンナちゃんが来てから助かってるんだよね。本当にありがとねえ……」

 

「頭を上げてくれ。この街には便利屋開業を手助けしてもらった恩もある。気にする必要はない」

 

 オオサカに来てからいろいろな人々に助けてもらった。カジノでギャンブルと酒浸りの生活をしている間も、小春やマスターに気にかけてもらっていた。

 今でも便利屋開業を手助けしてもらった恩もある。俺は、この恩に報いたかった。

 

「そういうわけにもいかないよ。能力者退治以外にも有事の時の行動の仕方とか教えてもらってるし……ほら、これ持っていって」

 

「っ……わかった。ありがたく貰うよ」

 

 店主は強引に大根を三本ほど渡してきた。申し訳なさもあるが、好意に甘えよう。

 

「今日は大根料理だねっ」

 

 悪戯っぽく笑うアンナに苦笑いしながら、便利屋の事務所へと戻った。

 

 

 

 八百屋を助けた夜。俺はアンナの言う通り、ブリ大根を作った。大根を使った料理の定番だ。

 

「ねえ。能力者って何なんだろうね?」

 

 アンナが大根を箸で切りながら、質問してきた。あまりにも唐突な質問だった。

 

「突然どうした?」

 

「少し気になったの。どうして、こんな力を皆は持ったんだろうって。悪いことに使われるなんて、分かりきってるのに……」

 

 それだけ言うとアンナは、小さく切った大根を口に運ぶ。丁寧な食べ方だった。

 アンナの質問は難しいものだ。時々、自分の能力者としての力に悩む人間の相談に乗ることもある。それでやるべき事を見つけた者もいる。

 しかし、能力そのものが生まれた理由や経緯は不明だ。未だに解明されていない。

 

「俺にも分からん。お前の言う通り物騒な力だ」

 

 能力なんて無い方が世界は平和だっただろう。現に世界は滅茶苦茶だ。

 もしも神なんてものが存在して能力を与えたのだとしたら、俺は神を絶対に許さないだろう。

 だが、そんなものは実在しない。持ってしまった力に対する責任は本人が背負うしかないのだ。

 

「これだけは言える。結局は力をどう使うかだろう。俺もお前もな。悪を為すか、誰かの為に力を使うかは自分次第。無論、力を使わないのもありだろうがな」

 

「やっぱりそうだよね……」

 

 アンナは頷きながら、さらに大根を口に入れる。頷くか食べるか選べと言いたいが、色々とあった今日に免じて許してやろう。

 大根を飲み込むと、アンナは俺を見つめる。真っ直ぐな黒い瞳に、俺の姿が映るのが見える。

 

「じゃあ、どうしてザックさんは人を助けようと思ったの?」

 

「難しいことを聞くな。まあ、一言で言えば親の影響だろうな」

 

「ザックさんのお父さんとお母さんの?」

 

 俺は無言で頷いて続ける。

 

「俺の親はニホンで出会った。アメリカからやってきて困っていた父を母が助けたらしい。それからアメリカに渡って俺が生まれた。二人とも俺が子どもの頃に亡くなったが、この話は飽きるまで聞かされたな」

 

 父も母も、こんな時代だからこそ助け合うことの大切さを説いていた。二人の顔は少し思い出しづらくなってきたが、それだけはハッキリ覚えてる。

 

「だからだろうな。人の為になることをやってみたいと思った。それで星の盾になったし、今も便利屋なんてやってる」

 

 苦しんでる人、困ってる人は限りなく存在する。星の盾も、便利屋も終わりというものがない。

 

「俺は星の盾で人を助けようとして上手くいかずに苦しんだ。だが、苦しんでる時に救いになったのも人だ。人を助けることが、俺自身を救うことにもなる。俺はそう信じてる」

 

「そっか……じゃあ、私も頑張らなきゃ。明日も仕事だね、ザックさん」

 

「ああ」

 

 俺達の皿からは食べ物が全てなくなった。晩飯もお開きになるだろう。

 そう思った瞬間であった。

 「ん?」

 

 出入り口の扉を叩く音が聞こえた。どこか控えめな叩き方だ。

 時計はもうすぐ九時を指す。夜遅くに誰だろうか。

 

「俺が出る」

 

 椅子から立ち上がり、ゆっくりと扉に向かった。アンナは近くのタンスの陰へと隠れた。

 ドアノブを掴む。昼のゴロツキの仲間が報復に来た可能性もある。

 俺は、慎重に扉を開ける。

 

「……っ」

 

 扉の向こうに居たのは、ゴロツキの仲間などではなかった。

 少年だ。十歳程だろうか。身なりもボロボロで、手には少しばかりの金が握られていた。

 

「あの……便利屋AZさんですか……?」

 

「ああ」

 

 便利屋AZとは、まさに俺の店の事だ。名付け親はアンナだ。

 俺が肯定すると、少年は目尻にたまっていた涙を溢れさせた。

 

「お願い!お姉ちゃんを助けて!」

 

「……話を聞こう。アンナ、仕事だ」

 

 俺が呼ぶと、アンナは物陰から即座に出てくる。

営業時間は終わっているが、今回ばかりは仕方ないだろう。俺は少年を事務所の中へと入れた。

 

 改めて思う。

 俺のやろうとしてることに終わりはない。きっと、俺の戦いはいつまでも続くんだろう。

 だが、恐れる必要はない。今の俺は一人ではないのだから。

 

 

 

 

《デュエル・マスターズAZ……完》




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