ようこそパンドラの教室へ   作:人生とは何か

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孤児院育ちの主人公、瑠璃が高度育成高等学校に通い、とある人の期待に応えられるよう努力しながら、自分とは違う思想価値観を持つ綾小路清隆と出会う。
2人の出会いが、2人の運命を変えていく。
そんなお話。


メアリーたちは自由という名の箱庭に囚われる
物理学者メアリーとクオリア主義者メアリーは箱庭を飛び出した。


「ゴッドマザー、今までお世話になりました」

 

 

 私は真っ白なワンピースの裾を軽く持ち上げ、片方は斜め後ろの内側へ引き、もう片方の足を軽く曲げて、背筋は伸ばしたままそう言うと、おおらかな院長の女性は今にも泣き出してしまいそうなほど顔を歪ませた。

 

 

「瑠璃、あなたは本当に手のかからない子だったわ。あんな事件が起きてまた孤児院に戻ってきたばかりだというのに……すぐに引き取り手が見つかって、あなたのことをたいそう気に入っておられたわ。やっぱりあなたは特別な星の元に生まれたのね」

 

 

「そんな、たまたまですわ。それに、すてきな家族に迎えてもらえるようになったのは、ゴッドマザーや他の先生方のおかげですもの」

 

 

 私はそう言い、最後に深くお辞儀をして彼女に礼を述べる。

 

 

「これで、ここの孤児院を対処するのも3度目になりますね。何度も何度もお世話になってしまい、いつも申し訳なさでいっぱいでした。本当にありがとうございました、ゴッドマザー」

 

 

 院長は感極まってしまったからか、目の端に大きな水溜まりを作った。そして私を強く抱きしめ、背中をポンポンと2度たたく。

 

 

「気を付けてね。体に気をつけるのよ。余裕が出来たら、顔を出してちょうだい。私たちは何時でもあなたを歓迎するわ。わたしの愛おしい娘、愛しているわ」

 

 

「私もですよ、ゴッドマザー。またお会いできるのを楽しみにしております」

 

 

 私は今日、9年間過ごした孤児院を対処し、新たな家族の元へ向かう。この孤児院で過ごしていた頃、私は2度新しい家族に迎え入れられたことがあった。しかし、さまざまな理由、事情により私は孤児院に戻ってきてしまった。

 

 

 三度目の正直、今度こそ平和に過ごせますようにと思いを込め、ゆっくりと車の後部座席に座る。

 

 

「出してください」

 

 

「分かりました。シートベルトをお願いします」

 

 

 言われた通りシートベルトを付ける。そして窓の外で手を振る院長に小さく会釈をし、私は孤児院を出てた。

 

 

「お嬢さん、あなたの養父となる方はあなたに期待をしておられます。どうか、あの御方の期待に応えてあげてください」

 

 

 運転手の男性はバッグミラー越しに私の顔をチラリと見てから私にそう言った。私は養父の『期待』がどのようなものかは分からないが、家族となる人に『愛される』ため、その言葉に頷いた。

 

 

「もちろんです。期待に応えて見せます」

 

 

それから運転手は満足気な表情で運転を続けた。

 

 

「また赤信号か」

 

 

 交差点の信号が赤に変わり、運転手はゆっくりブレーキを踏む。

 

 

「……っ!うわあっ!」

 

 

「え……?」

 

 

 運転手の叫び声に一拍遅れて私は声を上げる。前方には猛スピードで交差点を曲がってきたトラックの姿があった。あのままでは車に激突してしま

 

 

ドンッ ガシャン

 

 

「誰か!早く救急車を!中に人がいるわ!」

 

 

「事故だ!大変だ!」

 

 

「おい!大丈夫か?しっかりしろ!」

 

 

 近くから、遠くから、多くの人のざわめきや戸惑いを含んだ悲鳴が響き渡る。彼らの表情には好奇心、不安、嫌悪、様々な負の感情が滲んでいる。しかし、その中に一人だけ口角を上げて笑みを浮かべている人間がいた。

 

 

 

 この世は歪でねじ曲がっている。

 

 

 

 人が傷つく様を見て喜びの感情を持つなんてイカれている。そういう人間は、きっと身近の親しい間柄の人間が同じ目に遭っても喜びを顕にするのだろうか。はたまた、悲劇の主人公を気取り、人間のフリをするのだろうか。

 

 

 道徳心を忘れた時点で、その人間は既に人では無い。人のカタチをしたナニカなのだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 4月、私は高度育成高等学校に入学する。

 

 

 高度育成高等学校は国が運営する国立の学校だ。在学期間は3年間で、各学年4クラスとクラス数は多くは無い。

 

 

 東京の埋立地に設立され、敷地は60万平米を超え、小さな町のようになっているそうだ。学校施設以外にも、生徒がクラスマンション、ショッピングモール、カラオケ、映画館等、生活に必要不可欠な商業施設や娯楽施設が揃っており、3年間飽きることなく暮らせるような作りになっている。

 

 

 しかし、この学校は一度入学すると3年間外部との連絡が断たれてしまう。全寮制の他の学校と比べても、長期休暇の帰省も不可能な為、人によって合う合わないがはっきりする学校だ。

 

 

 私はそんな厳しいのか厳しくないのか分からない学校へ今日、入学する。桜並木が美しい街並みを眺めながら春のあたたかな風に抱かれて、私はバスを待った。数分後、バスがやってきてその風圧によって地に落ちる寸前の桜の花びらがふわりと舞い上がる。

 

 

 バスの中に入ると、ほとんどの席が埋まっており、空いているのは最後尾の席だけだった。私は素早くその席へ向かう。

 

 

「隣、失礼しますね」

 

 

 同じ学校の制服を着た青年にそう言うと、彼は小さく「ああ」と言い、少し端に寄った。私が席に着くとバスは動き出した。

 

 

 鞄の中から本を取り出し読書をしようとするが、隣から視線を感じて集中出来ない。

 

 

「何か付いていますか?」

 

 

「……ああ、髪に桜の花びらが」

 

 

青年はそう言って私の頭上に触れる。そして手を下ろし手のひらを開いてそこに乗せられたピンク色の花びらを私に見せ付けた。

 

 

「ほら、着いていたぞ」

 

 

「ありがとうございます。全く気付きませんでした」

 

 

おそらく、バスが来た時に舞い上がった花びらが頭上に落ちてしまったのだろう。バスが来て急いでいたこともあり気付かなかった。

 

 

「私は……小鳥遊瑠璃です。君と同じ高度育成高等学校の新入生です。よろしくお願いしますね」

 

 

「俺は綾小路清隆だ。こちからこそよろしく頼む」

 

 

 高校に入って初めて出来た友達が、まさかバスの隣の席の青年だなんて、まるでどこぞの青春漫画みたいだ。桜の花びらを取ってもらうというシチュエーションも青春漫画のワンシーンみたいで胸が弾む。

 

 

「小鳥遊という苗字は珍しいな」

 

 

綾小路が沈黙を破った。

 

 

「ああー、そうだね。私のお母さんの旧姓なんだ。本当の苗字とは違うんだけど、高校ではこの苗字を使うように言われたの」

 

 

 私を迎え入れた養父は私が養父の苗字を名乗ることを嫌った。理由は分からないが、少なくともこの学校で過ごす間は生まれてから孤児院時代の苗字を名乗るよう命じられたのだ。

 

 

「なら、本当の苗字はなんなんだ?」

 

 

「ナイショ」

 

 

 私は口元に人差し指を当て、にこりと微笑んだ。そして話題を逸らす為、彼に質問することにした。

 

 

「綾小路君は趣味とかある?私は読書が趣味なんだ。雨の日に図書室で本を読む時間、子供達の騒ぎ声を聞き安堵しながらページをめくる時間、眠る前に絵本を読み聞かせる時間、どんな状況であっても本を読めるのは特技でもあるの。まあ、あまりにも視線を感じれば集中するのは難しいけれどね」

 

 

 読書を中断したのも綾小路の視線を感じたからだ。人に見られながら本を読むというのはとても恥ずかしいことだ。例えるなら、自分の妄想の世界を除き見られているような、他人の前で肌を露出させるような、そんな羞恥心に駆られることなのだ。

 

 

「……読書か。俺もかなりの量の本を読んできたな。だが、子供達の騒ぎ声や眠る前に読み聞かせるというのはイマイチよく分からない。小鳥遊は兄弟が多いのか?」

 

 

「兄弟が多い、か。まあそんな感じです。私、昨年まで孤児院で過ごしていたの。だから、年下の子達の面倒を見ることもあって、読み聞かせは毎日していたよ。孤児院はもともと子供のための場所だから、常に子供達の声が響いていたんだ。そんな騒がしい中で本を読むのも孤児院特有で、私は好きだったなぁ。私が絵本を読んであげたりすると、いつも騒がしい子も静かになるの。そういう時に、何故か心があたたかくなるんだよね」

 

 

 孤児院にいる子供達は様々な事情でこの施設にやって来ている。その中には悲しい過去を持つ訳では無い、異常な子供もいる。同情されるような悲しい過去を持つ子供だけが集まる場所では無いのだ。

 

 

 問題行動を起こしてやって来た子だって中にはいた。そんな子達と仲良くとは言わなくとも円滑なコミュニケーションを取るのは非常に難しかったが、そんな子供達が静かになる時間というのもあった。食事中や読書中、入浴中は話すことなく黙々と行動していた。

 

 

 孤児院に入って、私は人との関わり方についてのスキルを学んだ。このスキルはこの世を生き抜く上で私の大きな武器となってくれるはずだ。ピューマが爪を研ぐように、私もこのスキルを磨き見参し、いつかきっとが役に立つ。

 

 

「綾小路君、君はお喋りは好きかな?」

 

 

「好きでも嫌いでもない」

 

 

「じゃあ、私とのお喋りに付き合ってくれる?」

 

 

私がそう尋ねると彼はすぐに首を縦に振った。

 

 

「君はこの世に必要なのは絶対的な理論や定義、そしてそれらにまつわる事実的な知識だと思う?それとも、実際に経験、観測することで得られる感覚質が大切だと思う?」

 

 

「……物事にもよるが、俺は必要なのは前者だと考えている。理由は、いくら経験や観測をしたとして、そこで理論を形成出来るかは別問題だと考えているからだ。学者が経験から理論を提唱したという前例はあるが、多くの人間がそんなことが出来るわけではない。なら、必要なのは絶対的な知識だ」

 

 

 つまり彼はクオリアを否定する物理学者という立場を望むらしい。議論とは対立する二人が存在して始まるものではあるが、そこら辺にいる有象無象からしたら気に入った立場を選んでお喋りしているに過ぎない。

 

 

「なるほどね。つまり絶対的な知識さえあれば、感覚的な経験や意識は必要ないってことか。私とは真逆だね」

 

 

「そうだな。小鳥遊は知識より感覚質を選ぶのか。理由を聞いても良いか?」

 

 

「理由なんてたいそうなものは無いけど、人は知識を持っているからって、その行動をとるわけじゃないと思っているんだ。例えば、私達が真っ白な箱の中に閉じ込められて、認識出来る色が白黒だけだったとしよう。その部屋の中で"色"に関する学習をし、色のスペシャリストになる。そして外に出て私達には本当に得られるものがないのかな?」

 

 

私は綾小路に問掛ける。

 

 

「"メアリーの部屋"か。得られるものが無いとは言わないが、得られる情報は前者である絶対的な知識の補足……言わば資料に過ぎない。必要性は絶対的な知識より低い」

 

 

「あはは。絶対的な知識とはいったけど、私はこの"メアリーの部屋"という思考実験は不完全だと思っているよ。何故なら、専門家は資料を元に論文を作成するでしょ?つまり真の絶対的な知識というのは、資料も含めたもののことだ。つまり人によるけど、感覚質から理論や定義を提唱出来るという点から君の考えは否定できる」

 

 

「……水掛け論だな」

 

 

「そうだね」

 

 

"メアリーの部屋"について、綾小路は物理学者、私は彼と真逆の立場だ。

 

 

綾小路は絶対的知識の中にクオリアが包含されるという考えを持っていて、対する私はクオリアが絶対的な知識を包含するという主張をしている。この対立が終焉を迎えることはなく、私達は永遠に主張が一致することは無い。

 

 

「水掛け論だけど、こうやって理屈をぶつけ合うのは好きなんだ」

 

 

「そうか。だが、"メアリーの部屋"をこの年で知っているとは驚いた。哲学に関心があるのか?」

 

 

「関心があるかないかで言えば答えはYESだよ。綾小路君、君こそ哲学に関心があるのかな?」

 

 

綾小路の顔をじっと見つめ答えを待つ。彼は少し考えてから口を開いた。

 

 

「関心がある、というより親が厳しい人でな。一通り哲学に関する学習はさせられたんだ。ただ、学問としては面白いと感じている」

 

 

 私が想像する一般的な中学生は、高校受験、或いはもっと先の大学受験を目指して主に五教科の学習をするはずだ。そして、哲学を専門的に学べる中学校は日本に存在しない。海外のボーディングスクールやパブリックスクールでは、哲学を一科目として学ぶ学校もある。

 

 

 しかし、哲学を学んだところで知的探究心を満たすことは出来ても、職に繋がることは滅多にない。それでも哲学を学ばされたということは、綾小路の両親は相当教養のある人物ということになる。

 

 

「哲学なんて、日本の学校で学ぶことはほとんどない。大学で学問として追求することはあっても、中高ではあり得ない。君の御家族は教養がある御方なんだね」

 

 

 私がそう言うと、綾小路は僅かに眉をピクリと動かして「ああ。」と短く返事を返した。どうやら家族に関する話題は好ましくようだ。彼と話す時は、彼の家族に関する話しをするのはやめた方が良さそうである。

 

 それに、私だって家族には良い思い出がないのだから。彼の気持ちを理解できずとも、彼に垣間見える闇を掬うことはできるのだ。

 

 

 しばらくするとバスが停車し、一人の高齢の御夫人と同じ学校の制服を着た女子生徒がやって来た。彼女もこの学校の新入生のようだ。ふたりが中に入るとバスがゆっくりと動き出す。しかし、御夫人が優先席の前に立ち辺りを見回し困り顔だ。優先席には同じ学校と思われる男子生徒が荷物を置いて座っており、御夫人が座れるスペースは無い。

 

 

「あの」

 

 

 私は行動する前に声を掛ける。

 

 

「良かったら、私の座っていた席を使って下さい」

 

 

「あら、本当に良いのかしら?」

 

 

 高齢の御夫人は私の顔を見つめる。私は彼女の前に立ち口を開いた。

 

 

「ええ、もちろんです。それ、ハート・プラス マークですよね。余計なお世話かもしれませんが、お身体に何かあっては大変ですから。是非使って下さい」

 

 

 ハート・プラスマーク マークとは「身体内部に障害がある人」を意味するものだ。身体内部に障害がある人は、一般的な健常者との比べがつかない。この御夫人も鞄にこのマークのキーホルダーを付けているが、キーホルダーが鞄の内側に着いているため、よく見なければ気付くことは出来なかった。

 

 

「あら、若いのにこのマークを知っているなんて。あなたは凄いわね。親切にしてくれてありがとう。良かったら、これでも食べてちょうだい」

 

 

 御夫人はそう言い、鞄の中から小さな四角形の包みを取り出し私に差し出した。

 

 

「これ、高城屋のゴディラで買ったボンボンショコラの詰め合わせよ。チョコレートが嫌いじゃないなら、是非食べてちょうだい」

 

 

「本当ですか?ありがとうございます。ありがたく頂戴いたしますね」

 

 

 高城屋とは全国展開している高級百貨店だ。高級スーパーやスイーツショップ、レストラン、ブティック、コスメショップ、雑貨屋と様々なショップが入った店だ。高級と言うだけあり、国内外の様々な高級ブランドが並んでおり、女性にとって夢のようなお店である。

 

 

 ゴディラといえばフランスの超人気高級ショコラショップであり、今では世界中に展開され、多くの人に愛されている。そこのボンボンショコラの詰め合わせとなれば、この大きさでも5000円は超えるするはずだ。このお礼はチョコレート好きな私にとって感謝してもしきれないほど嬉しいものである。

 

 

 それから数分、バスに揺られた。平和なバス旅を終え、私達は高度育成高等学校に到着した。

 

 

 私は吊革を持って立っていたこともあり、綾小路よりも先にバスから降りた。数十秒後、綾小路がバスから降りてくると彼の元へ駆け寄る。

 

 

「さっきぶり、だね。綾小路君」

 

 

「ああ。待っていてくれたのか?」

 

 

 どこか嬉しそうな声で綾小路は私に問い掛ける。

 

 

「もちろんだよ」

 

 

「そうか、ありがとう。小鳥遊はあの老婆にすぐに席を譲って優しいんだな。俺は動こうともしなかった」

 

 

「それは綾小路君の自由だよ。譲らなきゃいけないなんてルールは無いしね。あの御夫人は身体内部障害者のマークを付けていた。だからもし急変してバスが停車した場合、私達は学校に遅れてしまう可能性がある。入学初日に遅延なんて嫌だし、目の前で誰かが傷付くのももう、見たく、ない、からさ……」

 

 

 私がそう言うと綾小路は驚いたような表情を見せる。

 

 

「……それでもお前の行動は褒められるべきものだ。あの老婆が困っていることに気付いていた人間は何人かいた。あの階段の上に立っている女子生徒もそうだ。気付いていても放置した。しかしお前は手を差し伸べた。だから素直にこの賞賛は受け取るべきだと思うぞ」

 

 

「……そっか。うん、そうだね。ありがとう綾小路君」

 

 

 私は彼に微笑んだ。そして鞄から先程御夫人に頂いたチョコレートの箱を取りだし、包みを開けて綾小路に見えるように箱を開ける。

 

 

「はい、チョコレートを一つあげる。好きなのを選んで。友達の印だよ。良かったら、これからも仲良くしてね」

 

 

「……ああ。こちらこそよろしく頼む」

 

 

 綾小路はチョコレートをひとつ選び、口に運んだ。彼が選んだのはホワイトチョコのボンボンショコラだ。私とは反対に、青いボンボンショコラを掴み口に運んだ。口の中で砕くと中からチョコミントのソースが溶けだし、口の中いっぱいに爽やかな爽快感が広がる。

 

 

「うん、美味しいね!ここのチョコも格別だなぁ。今度買いに行こうかな」

 

 

「美味いな。チョコレートが好きなのか?」

 

 

「うん!お金を貯めてチョコレートを買う程度には好きだよ」

 

 

 私は綾小路と友達になった。この学校生活で彼と仲良くなることはきっと私の成長に繋がってくれるはずだ。私とは正反対の彼となら、あの人の期待に応えることも夢じゃない。今後の学校生活に胸を馳せながら、私達は校舎に向かって進んでいく。

 

 

 バスから降りて少し歩いた先に、大きな門がありその奥には立派な校舎が見える。こんな大きな校舎の他に、様々な商業施設や建物が存在しているという事実に驚きが隠せない。遠目だが学生が生活するマンションも何棟が見えている。改めて街一つ分の広さという事実を私は実感した。

 

 

「本当にすごい広い学校だね」

 

 

「ああ。こんな広いところへ来るのは初めてだ」

 

 

 校舎に着くと私達は昇降口に向かった。そこには人だかりが出来ており、新入生と思われる生徒達が自身のクラスを確認し、騒いでいた。

 

 

「ここでクラスを確認するんだね。でも人が多すぎて見えないや。綾小路君、私の名前も見てもらって良いかな?」

 

 

「分かった」

 

 

 それから1分が経過した頃、綾小路が私の元へやって来た。

 

 

「俺のクラスは1年Dクラスで、小鳥遊のクラスは1年─クラスだったぞ」

 

 

「そっか、分かった。ありがとう。クラスは離れちゃったけど、後で連絡先を交換しよう。放課後君のクラスに向かうから待っててね」

 

 

「分かった。とりあえず俺達の教室がある3階へ向かおう」

 

 

 綾小路がそう言ったので、私と彼は靴を履き替え、自分のクラスを目指して階段を上っていく。

 

 

 こうして、私の波乱に満ち溢れた女子中時代に感じた安堵と平穏とは程遠い、異常で波乱万丈な、革新的で愉快で強烈な学校生活が、今幕を開ける。

 

 

 私とは真反対の位置にいる物理主義者である綾小路清隆。彼との出会いが、私と彼を変え、この学校に新たな風をもたらすことになるのだが、今の私はそんなこと知る由もない。

 

 

 しかし、それでもこの時私は久しぶりに心から楽しんでいた。

 

 

 これから始まる青春に期待をしているからか、はたまた自分とどこか近い闇を感じる彼に、親近感を抱いているからかは不明だが。

 

 

「.....あは、これからが楽しみだな」




小鳥遊 瑠璃

所属     1年??クラス

誕生日     12月25日

【学力】    B-
【知力】    B
【判断能力】  B
【身体能力】  D-
【協調性】   C+


【面接官からのコメント】
幼い頃から孤児院で過ごしており、現在は養父と生活している。小鳥遊は実母の旧姓であり、本校に入学後もこの名を使用することとなった。
真面目で面倒見がよく、孤児院の子供や学校の友人に慕われており、通っていた女子中学では生徒会役員3年間を務め3年時には議長の役職を全うした。


【担任からのコメント】
親切で優しく、成績優秀で責任感の強い生徒です。
生徒会に所属していたこともあり、今後の成長にも期待できます。
クラスのまとめ役となって、向上心を持って生活して欲しいです。


【備考】
・過去に2度孤児院を退所しているが、問題が発生し元いた孤児院に戻されている。

・学校では旧姓を名乗ることになっている。

・過去に何度も事件や事故に巻き込まれており、心身の健康のため月に一度カウンセラーと面談を行うことになっている。
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