本編開始前に死亡予定のモブに転生した俺。ゲーム知識と最強ステータスでとことん無双します。ついでにヒロイン全員ハーレムルートに取り込んじゃおう   作:かくろう

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エミリアの受難

【sideエミリア】

 

 冷たい石の牢獄に閉じ込められ、どれくらいの時間が経っただろうか。

 

 ここはサウザンドブライン領における罪人達を捕らえておく地下牢だった。

 

 私は反逆者としてここに捕らえられていた。

 

 腕に填められた魔力を封印する呪いの道具が天井に向かって鎖に繋がれ、私の体を拘束していた。

 

 それでなくても、私の首には魔力の発動を阻害する呪いが掛かった首輪が填められ、魔法を使うことができないでいた。

 

「ルルナちゃん…お父様…」

 

 父の安否、家族の安否、そして親友のルルナ姫の安否に思いを馳せる。

 

 

 

 

 数日前、突如として1人の男がこのサウザンドブライン領の支配に乗り出した。

 

 お父様の屋敷に突然押しかけ、決闘を一方的に申し込み……、いいえ、あれは襲い掛かったと言った方がいい。

 

 この国最強の騎士であるお父様を、一方的に打ちのめして大怪我を負わせた。

 

「お父様……。どうかご無事で」

 

 瀕死の重傷を負ったお父様には急いで治療魔法を施したのだけど、動揺した私は隙を突かれて魔力を封印されてしまった。

 

 屋敷の兵士全員が敵に回っていた事に、迂闊にも気が付かなかった。

 

 あれはまともじゃなかった。間違いなく人を操る魔法をかけられていた。

 

 知っている屋敷の住人全員が何かしらの術に掛かっており、まともな精神状態ではなくなってしまっていたのだ。

 

 その証拠に、お父様が目の前で操られて正気を失うところを見せつけられ、あの男がまともじゃなくなった事を確信した。

 

「そろそろ時間ね……」

 

 石の壁に囲まれた地下牢で繋がれっぱなしの1日を過ごし、食事の時間だけやってくるあの男。

 

 部下にやらせれば済むものを、わざわざ自ら行なうあたり、私に対する異常な執着を感じとった。

 

 気持ち悪い……。

 

 本当にそんな感情しか湧いてこなかった。

 

「ご機嫌よう、エミリアお嬢様」

 

 この事件の首謀者、アルフレッド・コーナラードが不敵な笑みを浮かべて私を見下ろしていた。

 

「僕と結婚していただく決心はつきましたか? このような暗くてジメジメした場所にいつまでも閉じ込めているのはこちらとしても心苦しいのです」

 

「わたくしの答えは変わりませんわ」

 

 ニヤニヤとイヤな顔をしながら答えが分かりきったことを聞いてくる。

 

 気持ち悪い……。本当に気持ち悪い。

 

「わたくしはシビル・ルインハルドの妻になる女です。アルフレッド様の妻になる未来は絶対に有り得ません」

 

「くく……強情な御方だ。お分かりなのですか?」

 

「……」

 

 彼の言いたい事は分かってる。私は人質を取られているも同然の状態なんだ。

 

「私がひと言命令すれば、お父様は自害することになるのですよ?」

 

「お父様は武人です。娘の足かせになるくらいなら自ら死を選びます」

 

 そしてそれは私も同じ。この男に辱められるくらいなら、自ら死を選ぶ。

 

 だがこの男はそれこそを望んでいるかのように低く笑う。

 

「うくくく……それでこそ落とし甲斐があるというもの。それなら、洗脳した兵士どもを1人ずつ自害させましょうか?」

 

 この男は、変わった。明らかに人格が変わっている。

 

「近づかないで」

「そういわないで、くくっ」

 

 低く笑うアルフレッドが壁のレバーを引き下げると、私を繋いでいる鎖が巻き取られて体が吊り上げられる。

 

「あぐっ」

 

 鎖がねじれて皮膚に食い込み、鋭い痛みが走る。

 

「ああ、エミリアお嬢様。あなたのきめ細やかな肌を傷つけてしまうのは心苦しい。ですが、分かっていただけないなら何度でも」

 

 両腕を上部に固定されて体が宙に浮いてしまうから、自由に動かす事ができない。

 

「……ッ」

 

 奥歯を食いしばって屈辱に耐えた。この男は、あろうことか私を抱きしめて頬ずりし始めたのだ。

 

 それはシビルちゃんがしてくれるみたいな愛の籠もったものじゃない。

 

 腰やお尻に怖気の立つような手の平が這ってくる。

 劣情の塊を体の中に押し込められ、屈辱が心をねじ曲げる。

 

 体の痛みならいくらでも耐えられる。だけど、この屈辱は耐えがたかった。

 

 自分の大事な部分を汚物で蹂躙されているような怖気が全身を這いずり回る感触が耐えられなかった。

 

「ああ~。なんて素晴らしい香りだ。ほこり臭い地下牢の中においても花の香りを失わない素肌。素晴らしいっ、素晴らしぃ~♡」

 

 シビルちゃんだけが許される領域に土足で踏み込んでくる醜悪な男。

 

 本当はすぐにでも舌を噛んで死にたい。でも、シビルちゃんの帰りを待つ私は絶対に死ぬわけにはいかなかった。

 

 屈辱の時間に耐えながら、必死になってシビルちゃんに思いを馳せる。

 

 左手の薬指に填められた指輪だけが、私と彼と繋いでくれる。

 

(シビルちゃん……)

 

「いま、誰の事を考えていますか?」

 

 心を読まれたことでギクリと体が硬直する。

 

「くく……。まあ聞くまでもありませんね。今ここで唇を奪ってあげましょうか」

 

「そうなる前に舌を噛んで死にます。死体でよければお好きなだけどうぞ」

 

「いい。いいですねぇ。その強気な態度をどうやって踏み潰してあげようか。考えるだけでゾクゾクします!」

 

 アゴを掴まれて顔を近づけてくるアルフレッドを睨み付ける。

 

 奴は愉快そうに喉を鳴らし、ほとんどキス寸前まで近づけて息を吹きかけてくる。

 

「まあいいでしょう。やはりあなたの心に巣食ったシビルの影を取り除かなければ、僕の愛は届かないらしい」

 

「あなたはシビル・ルインハルドには勝てません。彼の培ってきた努力を笑うようなあなたにはね」

 

「なぜっ!」

 

「あぐっ⁉」

 

 頬に熱い衝撃が走る。痺れと熱量がジンジンと痛みを発生させ、殴られた事を自覚した。

 

 平手ではない。拳で殴られたのだ。

 魔力を封印されているためダメージはまぬがれない。

 

「なんでっ、なんでっ、なんでなんで!! なんで分かってくれないっ! 僕はこんなにあなたを愛してるのにっ!」

 

「うぐっ、ぐぁ、あぐっ……ごほっ、んがぅ」

 

 頬に続き、お腹を殴られ、足を蹴られ、ドレスを引き裂かれる。

 

 剥き出しになったコルセットを引っ張り、肌が露出してシビルちゃんにしか見せない場所が、あわや見えそうになる。

 

 シビルちゃんからもらった加護も、一番強力な魔力が封じられてしまって抵抗できなかった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……。ああ、エミリアお嬢様。お労しい。素直に従ってくれればこのようなことはしなくて済むのです」

 

 狂ってる。まともじゃない。ヒステリックに叫びながら何度も殴りつけてくる。

 

 明らかに以前とは別人のような狂気を孕んでいた。

 

 基礎的な性格は変わっていないように思えるけど、多分、何かがあったのだ。

 

 普通ではない何かが、彼を変えた。

 

「あ? 分かってるようるせぇな。ちゃんと約束は守る」

 

「誰と……お話されてますの?」

 

 血の味で上手く喋れなくなった口で問いかける。

 この男は、時折誰とも分からない何かに話しかけているような仕草をする。

 

 彼の魂の色は、とても濁っている……。だけど、その濁りの中に、一際気色悪い色をしている魂が別にいる。

 

 精霊魔法を使う私は、生まれつき魂の色が見える。

 

 この男の魂の色は、救いようがないほどヘドロのように濁っていた。

 

 瘴気に満ち満ちた魔物の巣窟のような、腐った生き物の内臓のような、おどろおどろしい嫌悪感を引き出す濁った色。

 

 そしてもう一つ、それよりも真っ黒な別の魂がアルフレッドの中に潜んでいる。

 

 

 恐らくは、そいつが原因だろう。

 

「ふふ、なんでもありませんよ。いいでしょう。あなたの心を折るためには、やはりシビル・ルインハルドを惨たらしくヒネり殺すしかないですね」

 

「あなたには、無理ですわ……」

 

「楽しみにしていてください。必ずズタボロにしたシビルをあなたの前に投げ捨ててあげましょう」

 

 そういって高笑いしながらアルフレッドは去って行った。

 

「シビルちゃん……無事でいて」

 

 サウザンドブラインの危機をなんとか彼に伝えなければいけない。

 

 私はアルフレッドが去った後、封じられた内在魔力を巡らせて体の回復に努めた。

 

 私はシビル・ルインハルドの妻になる女。

 

 あんな穢れた魂に屈したりしない。

 

 

 

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