旭日の宇宙軍   作:ホフマン少将

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初陣

西暦1957年10月、ソ連がスプートニク1号を打ち上げて以来宇宙開発競争は激しさを増し、人類のその領域は月、太陽系を超えて23世紀初めに天の川銀河系全域に至った。その後第三次世界大戦を機に西暦2406年8月にGG(統一政府)が成立したものの、数十年でその支配も崩れ、25世紀から26世紀にかけて第四次世界大戦が発生し天の川銀河系は荒廃した。西暦2918年1月(帝国歴320年1月、ユリウス歴2917年12月)現在、人類は天の川銀河の騒乱から比較的離れていたおおぐま座矮小銀河Ⅰを中心に日本国、ニヴルヘイム帝国、グリーゼ540d連邦、メガラニカ共和国の四大国を中心とした国際秩序が成立している。

─────ブリタニカ大百科事典第75版

 

 

 

 

 

《西暦2918年4月25日 8時15分 日本国 北方国境宙域》

 

「そしてアポカリプス(第四次世界大戦と第五次世界大戦)で人類人口の9割が失われてなお、この銀河では懲りずに戦争をやらかしているわけだ」

 

全長2kmを超す扶桑型 重巡航管制機 十陽、一般には宇宙戦艦と呼んだ方が通じるだろう、の誰もいないブリッジの一室に立ちながら、宇宙を翔る榊原梨斗(さかきばらりと)宇宙軍少尉はだれに語るともなく独り言ちた。

 

アポカリプス以後、天の川銀河を中心に栄えていた人類文明は崩壊し、かろうじておおぐま座矮小銀河Ⅰにおいてその一部が存在しているのみである。そして吾々の銀河、おおぐま座矮小銀河Ⅰにおいても大きく四勢力が鼎立しており、まずは四大国中最大の国力を有するが非効率的な国家運営により押され気味な、帝政の国家連合であるニヴルヘイム帝国、通称帝国(ライヒ)。次いでかつてのロシア連邦を母体とし、現在は共産党の強力な統制下にあるグリーゼ540d連邦、通称連邦。次いで流民が打ち立てた民主主義国家であるメガラニカ共和国、通称共和国。そして地球時代の日本を引き継ぎ、現在はおおぐま座Ⅰ矮小銀河南部に移転し、自由と民主主義、そして立憲君主を奉じる(われ)らが祖国こと日本国である。

 

このうち帝国と連邦、共和国は第四次世界大戦以後も300年間にも及ぶ戦争(第五次世界大戦)を行ってきており、こうした中で日本は戦争からは距離をとる方針でいた。とは言え戦争から全くの自由であることなぞ許されず、定期的に宇宙艦隊───日本宇宙軍では宇宙機編隊と呼ぶが───を国境近くの暗礁宙域に派遣して両軍の宇宙艦艇の侵入を防ぎ領宙の再確認を行う等の任務にあたっていた。そして今回私も参加する第14任務部隊の派遣もこの類のものであり、このテの任務は要は10機前後の宇宙機編隊で最寄りの宇宙港から進発して国境線まで往復150光年の道のりを行って帰ってくるというものであり、ここまではうちの領土ですよ、と言う事を相手に伝える、そういう目的であった。

 

んで、私はというと軍士官学校と宇宙軍幹部候補生学校を卒業してぺーぺーの新米少尉としてこの任務部隊の嚮導機(要は旗艦である)の航空科、人型戦闘宇宙機(ワイバーン)の操縦士として配属されたのである。適宜訓練を兼ねた出撃を繰り返しつつ、特段何もなければそのまま母港に帰投するというのがいつもの流れであった。幹部候補生学校卒業後の深宇宙練習航行を今少し実戦的にしたものであり、そこまで気を張るものでもなかった。とはいえ…

 

「そんなに辛気臭い顔をするもんじゃないだろ~さ・か・き・ば・ら君」

 

ブリッジの一室に乗り込んできたのは九条紫苑(くじょうしおん)宇宙軍少尉であった。能天気な態度で話しかけてくる馴れ馴れしい同期である。濡羽色ともいえるほどの美麗な黒髪に、やや切れ長の目は見る者をブラックホールのごとく人を引きずり込む魅力を持っていた。年は23歳、出生は天京*1に本拠を構える財閥の家である。幹部候補生学校の卒業席次は7652人中2位という超上位席次で、活発にして闊達な性格から教官のみならず同期からも高い評価を得ていた。

 

「まァ…、初陣と言うのは緊張するもんだろうけども、今回のは気い張るようなもんでもないだろう?それとも君、何か考え事でもしてたかい?」

「ふゥーむ、どうもね、いやな予感がするんだよな、今回の任務は」

「というと」

「詳しくは説明できん。なんとなく、としか」

「それはあれか、君の勘か?だったら気にしすぎじゃないか?これは定期的なパトロール任務だろう?士官学校と幹部候補生学校出たばっかの私たち新米士官に現場の空気吸わせるためだけの任務じゃないのかい」

「とはいえ、俺らが向っているのはアルヴィース方面だぞ。帝国と連邦、その傘下勢力がいて、その上宇宙海賊(SP)もいる。嫌な予感抜きにあまり行きたいとは思わん場所だが。初任配属でこれはキツいぞ」

 

アルヴィースというのは、日本が領有するケプラー渦状腕を北方に進み、暗礁宙域を抜けた宙域のことである。おおぐま座矮小銀河Ⅰにおける中央に位置し、星間交通の要衝ともいえるポイントだ。この地域は、現在紛争状態にある事で有名である。かつて───具体的には約80年前まではかの地は帝国の領邦国家のひとつであるアルヴィース王国が支配していた。

しかしながら、共産革命が生起し、現在では旧アルヴィース王国地域の主要部は連邦の支援を受けた社会主義国家のアルヴィース民主共和国(ADR)が支配している。これだけならばまだ秩序も維持されているだけマシ、と言えるのだが、旧王国の残党勢力であるアルヴィース王国正統政府(AKO)、旧王国の残党政府にして、日本が支援するアルヴィース王国亡命政府(AKiE)、共和国の支援を受けるアルヴィース自由軍(AFA)、その他犯罪組織や武装集団が跋扈する紛争地帯となり果てた。当然、治安は悪化し、交通の要衝としての役割も果たせず、暗礁宙域を経由して日本領にまで来寇する連中までいるので、日本政府としても軍としても頭の痛い問題だったのである。

 

「それだけ私たちが期待されてるってことじゃない。それに、好き好んで日本機に攻撃を仕掛ける阿呆が多いとも思わないわね」

 

この女は頭は良いのだがどうも能天気な悪癖があった。もちろん、吾が国は帝国とも連邦とも共和国とも戦争状態にあるわけではないし、吾が宇宙軍(Japan Space Force)の軍事力は不逞の宇宙海賊共にも恐れを抱かせる位の力はあるのだが、それでも不安くらいは募るだろう。士官と言うのは、臆病であってはならないにせよ、多少悲観的なくらいが丁度良いのだ。

 

「っと…私はそろそろCICに戻らないと。君も時間は大丈夫なのかい?」

「そうか、こんな時間か。俺も警戒待機*2に入らないとな」

 

二人してブリッジから退出し、機内モノレールの発着場に向かう。扶桑型は全長2kmを超えるので、機内移動にモノレールが用いられるのだ。

 

「じゃ、俺は下部格納庫に向かうから、じゃあ」

「じゃあね」

 

 

 

 

 

《西暦2918年4月25日 8時25分 扶桑型 重巡航管制機 十陽 下部格納庫》

 

「榊原少尉、ただいま着任いたしました」

「む。きっかり5分前だな」

 

格納庫(ハンガー)で待ち構えていたのは井野 武樹(いのたけき) 准佐(じゅんさ)*3であった。落ち着いた貫禄のある40台も後半の准佐であり、機上機───宇宙機に搭載される小型の宇宙機*4───乗りこの道20年以上という大ベテランである。いまだに現役の機上機乗りであり、そしてこの第14任務部隊の機上機部隊長でもあった。

 

「どうだ、初任務は?」

「身の引き締まる思いであります」

「そうか?てっきり、『そんなんでもないですね』位のことは言うと思ったが。少尉はアレなんだろう、南方要塞宙域の出身だから現場のヒリついた空気というのは慣れたものだと思っていたが」

 

南方の要塞宙域───というのは日本最南部に連なる、要塞化された宙域のことである。300年前の第四次世界大戦中、日本とGGが戦争を繰り広げた地域であり、再度の侵攻に備えて要塞化されていた。特に私の出身である久比岐(くびき)小惑星帯は要塞化が進んでいるのみならず、幼少期から軍事訓練がなされているほど過激である。GGの最後の侵攻が起きてから長い年月が経った今、日本において厳戒態勢というのは忘れ去られているにも関わらず、いまだに総力戦体制を解かない故郷は悪い意味で有名であった。

だがまぁ、准佐殿は皮肉とかではなく純粋な疑問と言うかで聞いたのだろう。

 

「いや、中々そうもいきませんよ。実際問題もう攻めてこないであろうGGと違って、こっちはいつ宇宙海賊やらが来るか分かりませんからね」

「なるほどな、意外だ」

 

言葉通り、意外なものを見る顔で准佐殿は言った。ん?これはもしかして何か誤解を受けているのか?

 

「准佐殿、アレですか、准佐殿は小官が戦争を楽しむタイプ(ウォーモンガー)か何かかと思われているのですか?」

「ああいや、そういうつもりはないのだがな。だがあの辺出身の軍人には血の気が多いだろう。殺し殺されを人生の命題とするような人間が」

「ええ。イヤという程」

「だから部下が全うな感性の持ち主か否か、気になるだろう。一回、部下が降伏した海賊船を吹っ飛ばしたことがあってな」

「ああ、なるほど。災難ですね」

 

イヤ災難どころではない。もう服務事故とかそういうレベルですらないだろう。良くそんなやらかす部下持って准佐まで昇進できたなこの人。

 

「本当に、あの時は冷や汗ものだった」

 

冷や汗で済むのかよ。

 

「まァ私自身そういうキチガイが嫌で出てきたってのもありますから。」

「いや、良かったよ」

 

良かった。誤解が解けたようで何よりである。あの辺の人間のせいで私まで風評被害を受けているからなァ。士官学校でも幹部候補生学校でも、キチガイを見る目で何度見られたことか。

 

「こちらこそ誤解が解けたようで何よりですよ」

 

直属の上官にウォーモンガーだと思われては堪らないぞ。

 

「ハハハ」

「ハハハ」

 

いやはや、良い職場だ。上司は真人間だし。諸々杞憂だったかな?

 

 

 

 

 

『ヴーッ!!!ヴーッ!!!ヴーッ!!!国籍不明船3隻接近!!!警戒待機中の機上機部隊はスクランブルに上がれ!!!』

*1
日本の現在の首都。アポカリプスにより地球が荒廃したため、東京より奠都した。惑星丸々が首都になっており、その周辺の惑星系も同一の行政区画となっている。

*2
スクランブルにいつでも出れるよう待機する事。

*3
大尉の上、少佐の下の階級。

*4
人型戦闘宇宙機ワイバーンも含まれる

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