『ヴーッ!!!ヴーッ!!!ヴーッ!!!国籍不明船3隻接近!!!警戒待機中の機上機部隊はスクランブルに上がれ!!!』
ハンガー内に大音量でアラートが鳴った。
「少尉、仕事の時間だ、行くぞ」
「了解」
即座に待機室を出、ハンガーのデッキへと向かう。ハンガー内は無重力なため、そのまま蹴り上がって
この
「整備!エンジンに火は入っているな?」
「もちろんだとも少尉!ドンと行ってこい!」
「感謝する!」
吾が機の機付整備員はしっかりと己の仕事をこなしてくれているようだ。なればこそ、俺も自分の仕事をこなさねばならん。
スーパーホークのコックピットのある背部につき、ハッチの開閉コードを入力。座席に着座し、
『個人識別開始…照合完了。榊原 梨斗 宇宙軍少尉と確認。ハロー、榊原少尉。脳波操縦システム起動。これより起動シーケンスに入ります』
AIの合成音声がそう告げ、各種のシステムが立ち上がる。自分でも最低限のシステムチェックを行った後、機体の主機エンジンを起動、マスターアーマメントスイッチをONに入れ、火器を使用できる状態にする。12.7ミリ重機関銃、40ミリ機関砲、57ミリガトリング砲、長距離ミサイルなど各種兵装のチェックを行う。
「こちら
「「了解」」
「少尉、そこまで気負うなよ」
プライベート回線で井上准佐が通信を入れてきた。
「ありがとうございます、准佐殿」
「大丈夫そうだな、よし行くぞ」
「こちら
発進命令に従い、井上准佐の機体であるプリースト01、俺の機体であるプリースト02が発進シークエンスへ移行する。ハンガーからカタパルトへと移動し、射出準備が完了する。01が発進する。次いで俺の番だ。
「プリースト02、発進せよ」
「プリースト02、出る!」
電磁カタパルトが作動し、数十Gの加速度が体にかかる。フライトスーツや薬物のおかげで失神こそしないものの、強烈な負担だ。
「オワーーーッ!」
情けなく呻きつつ、カタパルトから離れ、自機のロケットエンジンをふかし不審船の方向へと駆けていった。
《西暦2918年4月25日 8時50分 扶桑型 重巡航管制機 十陽 天頂方向南南東》
「G、キツかったか?少尉」
「流石にですね、准佐殿。最初の加速だけは中々慣れません」
「ハハハ、じき慣れる」
勤続20数年の言う「じき」とは何時のことなのか。
「こちら
「少尉、光学カメラを最大望遠にしてみろ」
次は准佐殿からだ。
「は」
言われた通りにして映像をモニターに回すと、不審船の全貌が見えてきた。機数は事前の報告通り3機。宇宙空間ゆえにサイズ感を測りかねるが、レーダーを用いると凡そ全長1kmほどの宇宙船である。この時代であれば、やや小型船といった具合か。
異様なのはその外観で、ステルス性を意識した鋭角的かつ黒色一色の船体である。とはいえそれもそのはずであり、そうでもなければ吾が編隊の索敵網を潜り抜けることは不可能であろう。その上船名も見当たらない。明らかに不審船だ。
「これは…単なる商船や旅客船の類ではありませんな…?」
「そうだな、しかも見てみろ、出っ張りが多い。対空砲かレーダーの
「一応オープン回線で呼びかけてみましょうか?」
「そうだな…こちら01、ターゲットは民間船とは思われず。オープン回線での進路転回を呼びかけるべきか?」
准佐がオペラ《嚮導機防空指揮所》に問いかける
「こちら
「「
准佐がオープン回線を開き、航宙月語*1で呼びかける。
「Attention ships of unknown nationality, your ship is approaching the space defence identification zone of my Japanese Space Force formation. Change course immediately(国籍不明船に告ぐ、貴船は吾が日本宇宙軍の編隊の防宙識別圏に接近しつつある。速やかに進路を転換されたし)」
オープン回線で呼びかけるものの、行動に変化がない。
「01、ターゲット吾の通告に従っているか」
「吾の通告に従わず」
「Roger、distractより左旋回、西への通告を開始せよ」
「「Roger」」
機体を左旋回させ、不審船に西方面への転回を促す通告行動を行う。回線がつながらない可能性も考慮し、肉眼で確認できるよう通告を行うが、不審船の行動に変化は見られない。となると、本格的に従わないつもりだろうか。
「通告一回実施。行動に変化なし」
「Roger、引き続き通告を実施せよ。
「Roger、fiterから通告一回実施応答なし引き続き実施する」
ターゲットが従うまで通告行動を行うという事だ。とは言え、ターゲットは母機である嚮導機までかなり近づいている(宇宙空間前提で、だ)
「01、ターゲット
「Roger、2回目終了ターゲットに行動変化なし」
「01、ターゲット防宙識別圏侵入、侵犯機と判定された、警告開始」
いよいよマズくなってきた。ターゲットは防宙識別圏に侵入したのである。防宙識別圏というのは、大型の宇宙機/宇宙艦に設定されているゾーンのことで、これ以上近づいてはならないラインを意味する。宇宙機同士の衝突事故を防ぐためでもあり、当然、突然戦闘が起きたときのことも考えて、という事でもある。
「Roger、警告を開始する」
「01、ターゲット吾の誘導に従っているか」
「吾の誘導に従わず」
「Roger」
「senior目標は吾の誘導に従う意思を示さず」
「Roger、0102、信号射撃*2用意」
マジか。威嚇射撃かよ。ってことはこれで誘導に従わないと実弾をぶち込む事になるのか?
「02、57ミリガトリング砲、曳光弾発射用意、弾数10発、ターゲット船団最右翼から100km、aboveで発射」
「Roger、AI、聞いたな、射撃用意」
『Roger、榊原少尉。』
AIの自動操作により宙対宙機関砲モード、DOGFIGHTモードが選択される。レーダーロックも完了している。Pipper*3が表示され、AIが自動でターゲットより丁度上方100kmに飛んでいくように補正する。弾薬も自動で曳光弾が選択されている。あとは落ち着いて、トリガーを引くのみだ。
「少尉、落ち着けよ。一斉に撃つぞ」
准佐から通信だ。
「了解」
「0102、信号射撃開始」
発射の命令と共にトリガーを引く。57×441mm曳光弾が計10発発射される。57ミリガトリング砲、正式名称JM40A1 57mm7砲身高性能機関砲は、発射速度毎分6,600発を誇るガトリング砲である。故に10発はほとんど同時に撃ち出されて一つの光球を作り出し、不審船の上方100kmを切り裂き、漆黒の
その時、不審船はサイドスラスターをふかし、吾の指示通りに西側へ進路を転換していったのである。
「01、ターゲットは吾の誘導に従っているか」
「吾の誘導に従っている」
「senior目標は吾の誘導に従う意思を示した、0102は
「Roger、01
「Roger、02
不審船は吾の誘導に従い、進路を転換した。最早これ以上この宙域に居座る意味もない。早い所帰投したいものだ。
私と准佐は自動着機プログラム、通称ゆりかごを起動させ、母機の十陽とリンクさせながら相対位置を調整し、アレスティング・フックを引っ掛けて着機した。そしてそのまま、誘導に従い機体を格納デッキへと進めた。発進した時と帰投した時で変わらないはずのハンガーであったが、初任務で威嚇射撃をキメたのもあってか、どこか違うように思えた。
そのまま自動誘導に身を任せ、元居たブロックで機体が停止し、整備用アームが機体を固定し、コックピットハッチが解放された。
『脳波操縦システム接続解除。主機エンジン、熱核ロケットエンジン正常に停止。システムのシャットダウンを開始します。榊原少尉、お疲れ様でした。グッナイ』
機体AIがそう告げ、全天周囲モニターがシャットダウンする。こうして私の初陣は終わったわけだ。初陣にして威嚇射撃までカマすとは、今現在平時の日本国軍においては中々貴重?な体験をしたものである。まァ他の三カ国では血で血を洗う大戦争をやっているので、逆に外国では初戦で人殺しをやらない方が珍しいのかもしれないが。機体はそのまま整備員に任せ、コックピットから出ていく。
「少尉、お疲れさまだな」
丁度准佐殿も降りてきたようだ。
「いえいえ、准佐殿」
「初任務にしては中々じゃないか。ちゃんと俺に付いてこれた。警告も威嚇射撃もビビらずやれてた。良いんじゃないか、流石あの辺の出身だ」
「やめてくださいよ、あんなキチガイと一緒にしないでください」
冗談に、こちらも冗談めかして答える。まァあのキチガイの土地で生まれ育ったからこそビビらずにやれたのかもしれないな。感謝は…する気はないが。
「着替えてシャワーでも浴びたいモンだ」
「全くです、後、まだ朝飯も食ってない」
「そういやそうだな、さっさと済ませちまおう」
何かこの人とも多少は打ち解けられた気がする。今後も何カ月間か直属の上司になる人だし、仲が良いに越したことはない。
「准佐殿、今お時間大丈夫でしょうか、それと少尉も」
等と思っていたら、ハンガーに20台後半の士官が入ってきた。確か吾が第14任務部隊司令の副官だったか…?
「どうした、副官」
准佐が口を開く。
「ええ、あの国籍不明船の件について、司令殿が各部隊長並びに参謀部を招集して会議を行いたいとのことです。」