僕のウィザーディングアカデミア   作:いものこ

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筆者はジェネレーションギャップと、エスニックジョークが好きです。ヒロアカの世界は数世紀未来の地球っぽいので1990年代であるハリポタ世界に来たらジェネレーションギャップ結構感じそうですよね。


コンパートメントにて 中編

 3人がそんなやり取りをしている内に列車が出発した。汽笛を鳴らしゴトンと車体を揺らしながら列車がゆっくりと動き出した。窓の外では、別れを惜しむ人々が手を振り、その姿が少しずつ遠ざかっていく。ガタン、ゴトンと車輪が規則的なリズムを刻み始めると、車窓には流れる景色が映し出される。駅舎が後方へ滑り去り、見慣れた街並みが遠景へと溶け込んでいった。

 

 駅舎が見えなくなると、ロンが口を開いた。

 

「ねぇ、ハリー。君はマグルと暮らしてたんだろう?どんな生活だったの?」

 

「……お金さえあれば、僕みたいな子供一人でも割と何とでもなるって感じかな」

 

 ハリーはダードリー家での待遇を説明するのが憚られて、若干ずれた返答を返した。けれどロンはそれに気づかず、信じられないといわんばかりに目と口を大きく開けていた。

 

「アメージング!マグルの生活はどうなっているんだい。僕たちなんか成人するまで、よそで魔法を使っちゃいけないんだぜ?」

 

「まあガスと電気のおかげで、洗濯とか料理なんかは一人でもできるし、近くのスーパーマーケットに行けば生活に必要なものは大体揃うしね」

 

 ハリーはロンが詳しい家庭事情を聴いてくる前に質問を投げかけた。

 

「それよりも、ロンって魔法使いの家なんでしょ?どんな生活なの?」

 

 その言葉にロンは顔を曇らせた。

 

「僕んちは大家族でさ、僕の上に兄弟が5人、下に妹が一人いるんだ。だからホグワーツの入学するのは僕で6人目なんだ」

 

 そう言ってロンは自分の兄弟がどんなにすごいのかを悪態付きながら話し始めた。ビルは銀行員だとか、チャーリーはルーマニアのドラゴン保護施設で働いているとか、パーシーは何でもできるとか、双子のフレットとジョージはいっつもいたずらばかりだとか、ハリーと勝己はそれを微笑ましいものを見るような目で見つめていた。

 

「自慢のお兄さんたちなんだね、羨ましいなぁ」

 

「そんないいもんじゃないよ。あいつらのせいで僕が何か期待に応えるようなことしても、みんなと同じことしてるだけで、きっとたいしたことじゃないって言われるんだ。それに杖はチャーリーのだしペットはパーシー、ローブだってビルのおさがりなんだよ。なんも新しいもの貰えない!」

 

 そう憤慨したロンは家族の話になってからずっと黙っていた勝己をターゲットに変えた。

 

「あー、えっとダ、ダイナマイトはどうなんだよ。君だって魔法使いの家なんだろ?」

 

「確かに魔法使いだがよ、うちは生活に関しちゃマグルとそんな変わんねーんだわ。魔法は全然使わねぇし」

 

「意外だなあ。ロンのとこもそうなの?」

 

 ハリーは思わずそう呟いた。魔法使いは何でも魔法を使っているものだと思っていたのである。ロンは両手と頭を大きく振って否定してきた。

 

「うちは全部魔法だよ。だって魔法の気配が濃い場所じゃマグルの機械は部品一つ一つに魔法をかけなきゃまともに動作しないんだ。あっ、もしかしてダイナマイトは家族にマグルがいるの?」

 

「……まあ、混じりもんではあるな」

 

 そう言って勝己は耳飾りに触れた。イヤリングだと思っていたそれに耳たぶを貫く細いシャフトがあることに気が付いた。ピアスだ。それに気づいた瞬間喉の奥がキュッと締まる。見てはいけないものを見た気がして、その耳飾りから意識をそらすようにハリーは質問を投げかけた。

 

「ねぇ、かっちゃん家ってどんな感じなの?」

 

「あっ、それ僕も気になる。魔法を使わない生活ってどんな感じ?」

 

 その質問にロンがのってきてくれたことにハリーは何故か安堵した。勝己はそんなん聞いてどうすんだという顔をしていたが、まあいいかというように話し始めた。

 

「魔法がコンロと家電に変わっただけであんま変わんなーんじゃね? 畑と山しかねークソ田舎だし。まあ水はいいから旬になると脂ののった鮎が捕れるしし、ヤマメとかも居んぞ」

 

「いいなぁ、僕も新鮮な鮎食べたい」

 

「けど、アメザリにクソ蛙、ブラックバスとか、ああクソタニシも増えてやがる、誰だよ外来生物放逐しようと言い出したやつ……毎年駆除してるのにポコじゃかわいてきやがる!」

 

外来種に呪詛を吐く勝己を見てなぜだかハリーは安堵した。前世でも問題となっていた外来種たちはすでに日本で暴れまわってるらしい。

 

「やっぱ外来種は難しいよね。アメリカザリガニなんかはこっちでも問題なってるよ。でもこっちは植物のが多いね。ジャイアント・ホグウィードとかバルサムとかも問題なんだけど、特にイタドリがやばくてさ、イギリスの気候があっているのかそれとも天敵がいないせいなのかわかんないんだけど……」

 

 ハリーも外来種トークで話を続けようとしたとき、ロンがハリーの言葉を遮った。

 

「ふたりはさ! どこの寮に行きたいとかある?」

 

 やや大きな声に驚いたハリーが目を瞬くと、ロンは無理に明るい笑顔を浮かべながら続けた。

 

「僕はグリフィンドールかな。だって僕の兄弟はみんなグリフィンドールなんだ」

 

 話題の転換はあまりにも唐突で、わざとらしいほどだった。ハリーはやらかしたと思った。魔法界ではどうなのか知らないが現在のイギリスには侵略的外来種の概念はあまり広まっていない。ハリーだってたまたま覚えていた情報を前世の知識と結び付けて話していただけなのだ。普通の子供なら専門的すぎてついていけない。それに気づいたハリーはすぐさまロンの方を見てほほ笑んだ。

 

「確か、四つの寮があるんだよね?どんな寮があるかロンは知ってる?」

 

「モチのロンさ!」

 

 大変いい笑顔でロンは頷くとそれぞれの寮のについて話し始めた。

 

「ハリーの言う通り、ホグワーツには四つの寮があるんだ。グリフィンドール、スリザリン、レイブンクロー、あーあと……ハッフルパフ」

 

 ロンは指を折りながら言い、最後の一つの名前を口にしたとき、ちょっと鼻で笑った。

 

「グリフィンドールは、勇気と騎士道精神にあふれた生徒が入るんだ。僕の兄弟や、あのダンブルドアもグリフィンドールだね!」

 

「蛮勇の間違いだろ」

 

「たしかダンブルドアってホグワーツの校長先生だよね。それにしても勇気と騎士道精神が溢れた生徒が入る寮か。行動力があって、正義感が強い人の多い寮ってことかな。兄弟みんなのグリフィンドールだなんてロンの家族はみんな正義感と行動力がある人たちなんだね」

 

 小声でつぶやいた勝己の言葉に、一瞬ロンが固まったが、ハリーの言葉を聞いてすぐに話をスリザリンに切り替えた。

 

「スリザリンは……狡猾で野心家。ろくなやつがいないって有名だよ。あそこに入るのだけは絶対に嫌だね。だってあそこは闇の魔法使いの巣窟だ」

 

「そんなにヤバいの?」

 

「やばいってもんじゃないね。グリンデルバルトも例のあの人だってスリザリンなんだ。いっそスリザリンのやつらはアズカバンに放り込んじゃえばいいのに……」

 

「全員が全員犯罪者になるわけじゃねーよ。それに他寮から排斥されてるせいか結束力が強い。貴族連中も多いから社会への影響力は一番でかいな」

 

 勝己のまるでスリザリンをフォローするような補足にロンはちょっとムッとした顔をしたが、無視して続けた。

 

「レイブンクローは頭いい人たちが集まる寮なんだって。いわゆるガリ勉とか、図書室に住んでそうな連中が多いんじゃない?フレットとジョージは変わり者が多いとかも言ってたっけ」

 

「まあ、そうだな。たしか、ロジャー・ベーコンもレイブンクローだったはず。科学史なんかじゃ近代科学の先駆者(パイオニア)とか呼ばれている奴だ。こっちじゃ今の魔法薬学を体系化した人物ともいわれているな」

 

「へぇ、変わり者が多くて勉強熱心な人が多い寮なんだ……これまでの傾向を考えるに、探究心がすごく強い人たちが集まる寮なのかな。研究者って変わり者多いし、クリエイターさんとかも多そうだね」

 

 変わり者が多いというハリーの発言に勝己は「俺の親父もレイブンクローだしな」と苦々しく頷いた。

 

「最後はハッフルパフだね。努力家で、忍耐強くて、誠実って言われてるけど……なんかパッとしないというか一番地味な寮だね」

 

 ロンの何気ない一言に勝己が眉をぴくりと動かした。

 

「は? ハッフルパフにはニュート・スキャマンダーがいるだろ」

 

 淡々とした口調ながら、そこにはわずかに棘があった。ロンは一瞬言葉に詰まり、わずかに視線を伏せた。それに気づいた勝己はお前が何とかしろというようにというような目でハリーを見た。

 

「あっ、知ってる。『幻の動物とその生息地』の著者だよね。ハッフルパフだったなんて、僕、知らなかったよ」

 

 ハリーはロンをフォローするように言葉をつづけたが、ロンの表情は晴れず、沈黙を作るのは不味いと判断したハリーは話をつづけた。

 

「あの本、本当に凄いよね。全員沼に沈めてやるって気概があるというか、本当に魔法生物が大好きなんだろうって感じるんだよね。いろんな魔法生物の生態が乗ってるんだけど、割とこれどうやって調べたんだろうって情報も書かれているし」

 

 いや、僕に振るなよ、かっちゃんだなんて思いながらハリーは思いついた言葉をそのまま垂れ流すように話し続けた。

 

「それに専門用語を使う時は必ずだれにでもわかりやすいように補足説明を入れられていて、失礼かもしれないけどオタクが布教のために書いた本みたいな雰囲気を感じるんだ。本当に多くの人に魔法生物を好きになってほしいんだろうなって伝わってくるんだよね」

 

 ハリーが布教のために書いた本とか言い始めた頃になるとなぜか、ロンの表情は晴れてきたが勝己はドン引いたような表情をしはじめた。何か誤解されている気がしてそれを払拭するようにハリーは話し続けた

 

「いや、同人誌みたいだって言いたいわけじゃないんだよ。ほんと生物学の入門書としても素晴らしい出来なんだ。ただ生態を羅列するんじゃなくて、興味が持てるようにその生物に関するショートストーリーとかも添えられていて、魔法生物の魅力的な部分だけじゃなくて、相対したときのどんな危険があるのかを教訓的に書かれているから、魔法生物に興味を持ってほしいけど、不用意に近づくのは危険だってことが直感的に伝わるようになっていて、魔法生物の魅力がこれでもかって伝わってくるというか」

 

 だがハリーが誤解を解こうと話に熱が入るほど勝己の視線は確信を持ったものへと変化していった。何を言っても変わらない視線に混乱したハリーは大声で宣言した。

 

「僕、人間の方が、好きだから!!」

 

 あまりにも唐突なその発言に、コンパートメントの空気が凍りついた。

 自分が何を口走ったのか、言った後になって気がづいたハリーは、顔から火が出そうなほど赤くなった。勝己は明らかに呆れたような目でこちらを見ている。やってしまった。

 

 ハリーは急いで誤解を解こうと言葉を探すが混乱した頭では何も出てこず口をパクパクとさせるだけだった。

 

 気まずい沈黙を最初に破ったのはロンだった。何かに気づいたのかポンっと手を打って、それからハリーの肩を慰めるようにたたくと、アルカイックスマイルで言い放った。

 

「性癖は人それぞれだしな? 僕は気にしないよ」

 

 助かってない。まったく助かってない。むしろ悪化してる。

 

 「ち、ちがっ、違う! 違うんだって! かっちゃん!!」

 

 ワタワタと手を振りながら否定するハリーの声は裏返っていた。言えば言うほど深みにハマっていく気がする。助けを求めるように勝己を見ると、口元を抑え方が震えていた。ロンは何がどう違うのか分かっていない様子で、うんうんと頷いている。

 

 ――もうだめだ。どうすればこの地獄から抜け出せるのか、ハリーにはまるでわからなかった。

 

 **そのときだった。**

 

 **ガラガラッ。**

 

 廊下から車輪の音が近づき、次の瞬間、コンパートメントの扉が開いた。まるで天の助けのように。

 

 「あら、お菓子はいかが?」

 

 笑顔の年配の車内販売の女性が、ワゴンを押しながら顔をのぞかせていた。

 

 その姿を見た瞬間、ハリーは全身から力が抜けるような感覚に襲われた。助かった。心の底からそう思った。これは救いだ、神だ、女神だ。ハリーは胸の奥でその存在に拝むような気持ちすら抱いていた。

 

 そして、腹がぐうっと、大きな音を立てて鳴った。

 

 先ほどとは違う種類の羞恥で顔が真っ赤に染まる。思わず睨みつけるような視線を勝己に送るとまるで新しいおもちゃを見つけた猫みたいに目を細め、見せつけるようにランチボックスを取り出して食事の準備を始めた。

 

「ぼ、僕は、何か買ってくるけどロンはどうする?」

 

 ハリーが未だ熱の引かない顔のままロンに問いかけると、ロンは僕、サンドイッチがあるからとつぶやいた。ハリーはポケットに財布があるのを確認すると逃げるように通路に出た。

 

 ***

 

「ただいま」

「随分時間かかったね。何にしたの?」

「初めて見るものばっかりだったから迷っちゃってね。とりあえず無難そうなかぼちゃパイとか買ってきたよ」

 

 ハリーが買い物を終えてコンパートメントに戻るとロンはまだ待っていてくれてたが、勝己tあちはすでに食べ始めていた。イズクはドックフードと一緒に茹でたニンジンとささみをたべ、勝己の照りのある焼き鮭と卵焼き、煮物と、ホウレンソウのお浸しなど色どりも栄養バランスも整ったおかずたちをつやつやの白米と一緒に食べていた。

 ハリーは中央で机代わりに横に倒した自分のキャリーケースの上に買ってきたものをおいて勝己の隣に腰かけた。

 

「いいなあ、そっちは豪勢で。うちはいつも、母さんの手作りサンドイッチだけで……」

 

 ロンは肩を落としながら、くしゃくしゃに包まれたサンドイッチを引っ張り出した。包装を剥がすと、パンは少し押しつぶされ、中からは薄いピンク色のコンビーフがのぞいている。

 

「ママったら、僕がコンビーフ嫌いだって言ってるのにいつもいれるんだ」

 

 ロンは渋い顔でパンをつまみ、ため息をこぼした。コンビーフの脂が指に少し付着し、彼は無意識にズボンの端でぬぐった。

 

 ハリーはちらりとロンのサンドイッチを見て、すぐに自分の未開封のかぼちゃパイをロンに差し出した。

 

「ならさ、コンビーフ入りのは僕のかぼちゃパイと交換しない?」

 

 ロンは目を丸くしてパイを見つめ、一瞬迷ったように唇を噛んだ。

 

「でも、これ、パサパサでおいしくないよ。だってママは時間がないんだ。五人も子供がいるんだもの」

 

 そう言いながらも、ロンの視線はかぼちゃパイから離れない。ハリーはにっこり笑って付け加えた。

 

「甘いかぼちゃパイだけじゃ、僕、きっと飽きちゃうよ。だからコンビーフみたいな塩っ気のあるものが食べたいな」

 

 その言葉にロンの顔がぱっと明るくなり、かぼちゃパイを受け取ってサンドイッチを手渡した。

 

「ありがとう、ハリー!」

 

 二人はお互いの食べ物を受け取り、さっそくかぶりついた。ロンはかぼちゃパイを一口食べると、目を見開いた。

 

 「うっま……!ママもサンドイッチじゃなくてお小遣いくれたらいいのに……!」

 

 ハリーは少し硬めのサンドイッチを噛みながら、妙にしょっぱいコンビーフの味に「うん……まあ、これはこれで」と笑った。サンドイッチを食べ終えてかぼちゃパイを食べてみると、想像していた味とはまるで違っていた。ひき肉とかぼちゃのうま味が口の中にあふれパイ生地のサクサク感と具材のジューシーさが見事に調和し、おやつというよりは惣菜感が強かった。

 

 ふと勝己の方を見ると、ふっくらとした白いご飯の上に、焼き鮭を丁寧に載せて、口に運んでいるところだった。黙々と箸を動かす勝己の弁当を眺めていると、ハリーは遠い故郷を思い出すような、じんわりとした郷愁を覚えた。

 

 (……お米、いいなあ)

 

 このかぼちゃパイも十分美味しいのだが何年も和食を食べていないせいでお米が食べたい気分になっていた。

 

「ねぇ、かっちゃんもかぼちゃパイ食べる?おいしいよ」

 

 あわよくば交換してくれないかと思い、ハリーは手に持っていたかぼちゃパイを少し掲げて見せた。

 

「……やらねーわ。麦食い民族は、麦でも食っとけ」

 

 断られたことによる小さなショックよりも、「麦食い民族」という、奇妙なワードチョイスが面白くて、ハリーは思わず小さく笑みをこぼした。

 

「ひどいな。じゃあ、君は米食い民族?」

「そォだよ、俺は生粋の米食い民族なんだわ。だから、麦食い民族にやる米なんてねぇ」

 

 対抗して、少しばかり皮肉を込めた言葉を返してみるが、残念ながら、勝己には全くと言っていいほど効果がない。むしろ、なかなかのご機嫌っちゃんだ。自分が米食い民族であることを強調した上で、念を押すように、きっぱりと拒絶されてしまった。

 

「えー、僕も米食い民族だから、少し頂戴」

「やだ。こっちじゃコシヒカリは貴重なんだわ」

 

 ハリーが勝己の弁当を狙ってにじり寄るのを、ロンは疎外感を覚えながら眺めていた。かぼちゃパイ食べるかという問いかけからなぜ人種の話になったのかがわからない。だが、ライスのことを話しているらしいことだけは分かった。

 

「ライスって味がないから、僕は好きじゃないな」

 

 パイを食べ終えたロンはパサついたサンドイッチを頬張りながら何気なくつぶやいた。ハリーと勝己はまるで信じられないものを見たかのような視線でロンを見た。勝己の箸が空中で止まり、ハリーの目が驚きで大きく見開かれる。

 

「え……好きじゃない?なんで…?」

 

 ハリーの声には、ライスが嫌いな人類が存在していることが信じられないという雰囲気があった。まるで「空気が嫌い」と言われたかのような反応だ。

 

「う、うん。味がしないから、ソースがかかってないと食べづらいし……。前にママが作ってくれたカレーライス、カレーはおいしかったのにライスはなんか、べちゃッとしてたりパサパサしててほんと最悪でさ……」

「それのライス……細長くてパラパラしたお米じゃなかった?」

 

 その声は責めるようなものではなく、むしろロンの言葉の“原因”を突き止めようとする好奇心のようなものだった。

 

「うーん?細長いかはわからないけど、パラパラはしてたかな」

 

 ハリーはぽんと手を叩いた。

 

 「それ、たぶんインディカ米だよ」

 

 ハリーはロンの返事を待たず、すぐに口を開いた。

 

「インディカ米は細長い粒で、炊くとパラッと軽やかな食感が特徴だね。確かに白米のまま食べるのには向かないけどカレーと食べたんだよね?」

 

 勢いよくまくしたてるハリーに、ロンはぽかんとした。

 

 「う、うん」

 

 どう返していいかわからない、と言いたげに目をぱちぱちさせながら食べかけのサンドイッチを持った手を止める。そんなロンの様子に気づいたのか、ハリーは少し照れたように笑った。

 

「ああ、ごめん、なんで美味しくなかっったかって話だよね」

 

 けれど彼の探求心という名の熱は、冷めることなく、むしろますます燃え上がっているように見えた。ハリーは、椅子の上で少し前のめりになり、まるで熱心な学者が持論を展開するように、身振り手振りを交えながら説明を続けた。

 

「ロンが美味しくないって感じたのは、インディカ米だからっていうよりもたぶん調理法が悪かったんだと思う。」

 

 カレーならインディカ米でも合うはずだし、とハリーは言いながら、手を顎に当てて小さく唸った。頭の中で炊飯プロセスのチェックリストが回り始める。

 

「炊飯器……は持ってないだろうし、鍋でやったんだよね。なら火加減と水加減を間違えたのかも……いや、ここはイギリスだぞ。この国に“米を炊く”っていう概念がそもそも存在するのか?」

 

 彼は、完全に自分の思考の世界に入り込み、無意識のうちに眉を寄せ、まるで重要な暗号を解読するかのように、指を折り曲げながら、頭の中の情報を整理し始めた。隣に座る勝己が、「また始まった」と小さくついたため息も、ハリーの耳には届いていない。

 

「アジア圏以外での炊くっていう調理方法の認知度どのくらいだ?アメリカではどうだっけ……オールマイト、シルバーエイジ時代の料理番組を見た記憶あるぞ。……あの番組では確かデイビッド博士が米を茹でようとしてたよな。個包装のパックでだけど。もしかしてボイルが主流?だとすると蒸しの工程がないから加熱ムラもできやすくなる。だからロンが食べたお米は芯が残ってパサついたり、水を吸いすぎてべっちゃってなった?」

 

 思考の勢いは、まるで暴走列車のように止まらず、ぶつぶつと独り言を重ねていたハリーは、ふいに顔を上げロンを真剣な表情で見つめた。

 

「ねぇ、君のお母さんってもしかして、お米を茹でてた?」

「うーん……鍋でぐつぐつしてたしような気もするし、多分?」

 

 ロンがどこか曖昧な返事をすると、ハリーはまるで長年の謎が解けたかのように、「やっぱり!」とばかりに勢いよく手を合わせた。その突然の音に、ロンはびくっと体を震わせた。ハリーは、まるで自分が発見した真理を確信しているかのように、力強く頷きながら続けた。

 

「ならロンがライスを美味しくないと思った原因は調理法で間違いないよ」

「そうなの?」

 

 ロンがサンドイッチをかじりながら首を傾げた。パンくずがぽろぽろと床に落ちる。

 

「うん。お米はね茹でるんじゃなくて、炊くっていう調理方法をすれば本当においしくなるんだよ」

 

 ロンは、本当?と疑うような視線をハリーに向けた。

 

「本当、ほんとーに段違いなんだよ。インディカ米……、はどうなのか知らないけど、かっちゃんが食べてるジャポニカ米なんかは砂糖もバターもいらないくらい、お米自体に優しい甘みが出てくるんだ。お米が美味しくないなんて思うのは、本当にもったいないよ。だって、ちゃんとした炊き方で炊いたご飯は、本当に美味しいんだから!」

 

 ハリーが熱っぽく語るのを聞きながら、ロンは思わず勝己の弁当に、羨ましそうな視線を送った。さっきまでは虫の卵にしか見えなかったライスが、とてもおいしそうに見えてきた。

 

「そんなに違うなら……食べてみたいな……」

 

 ロンが物欲しそうに勝己の弁当を見る。喉がごくりと鳴るのが聞こえるほどだ。ハリーの話を無視して食事を続けていた勝己は嫌そうに弁当を自身に引き寄せた。

 

「やんねーよ。俺の米だ」

 

「ちょっとだけでいいからさ――」

 

「やだ」

 

 ロンは少し粘ってみたが、勝己はまるで冷たい壁のように、ぴしゃりと端的に拒絶した。よっぽど奪われたくないらしい。

 

 ロンは「けち……」と小さくつぶやいて、3つ目のサンドイッチに齧りついた。

 そのあとハリーが勝己の口にかぼちゃパイをねじ込みその好きに玉子焼きを奪うと言った騒動はあったが、三人は無事に昼食を終えた。

 

「蛙チョコレート、3つ買ってきたんだ。おまけカードが付いてるって聞いたからさ」

 

 一緒に開封しようよ、といってハリーはキャリーバックの上に置いていた蛙チョコレートを勝己とロンに一つづつ渡した。鮮やかな紫色の包装紙には金色で「魔法蛙チョコ」と書かれている。

 三人同時に蛙チョコレートの包装紙を破ると、中から茶色いチョコレートの蛙がぴょんと跳ね上がった。まるで本物の蛙のように動き回る。

 

「うわっ、」

 

 ハリーが思わず声を上げたが、幸い動きはそう早くなかったので地面につく前に鷲掴めた。手のひらでチョコの蛙がもぞもぞと動く感触はなんだか奇妙だった。隣を見ると勝己はすでに蛙の頭を食べ始めていた。

 ロンも慣れた手つきで蛙を確保すると、チョコの蛙が逃げようとするのを、小指で軽く押さえつけながら、片手でおまけカードを取り出しはじめた。

 

「ああ、またダンブルドアだ。ハリーはなんだった?」

 

 ハリーはロンの真似をしてカードを取り出した。老齢の男性だ。半月型の眼鏡をかけ、高く弓なりになった鼻、銀色に輝く長い髪、そして顎と口元を覆う風格ある白髭をたくわえている。写真の下部には「アルバス・ダンブルドア」という名前が記されていた。

 

「僕もダンブルドアだ。かっちゃんは?」

 

 勝己は頭のなくなった蛙を口の中に放り込むとウェットティッシュで丁寧で手を拭ってからカードを開封した。

 

「……プトレマイオス」

「えっ!いいなぁ。ねぇ、僕のと交換しない?それまだ持ってないんだ」

 

 ロンの目がきらりと光る。勝己は「勝手にしろ」とそっけなく言って、テーブル代わりになっているハリーのキャリーバックの上にカードを放り投げた。カードは空中でくるりと回転し、きれいに着地する。

 

 ロンは満面の笑みでそれをとると、ダンブルドアのカードをキャリーバックの上に置いた。「ありがとな!」と声を弾ませる。そんなロンに勝己は少しだけ肩をすくめて、ダンブルドアのカードを手に取った。しばらく無表情でカードを見つめ、そのままポケットにしまう。

 ハリーはそのやりとりを横目に蛙チョコレートを食べながら自分のカードをひっくり返して裏面をみた。チョコレートの蛙が舌の上でとろけていく感触に、思わず目を細めた。

 

「ん……なかなか美味いね」

 

 甘さの中にほのかな苦みが効いていて、ミルクチョコレートの滑らかさとカカオの深みが絶妙に調和している。最初はびっくりするほどリアルな動きを見せたチョコの蛙も、口に入れると驚くほど繊細な食感に変化した。外側はサクッとした食感で、中はクリーミーに溶けていく。まるで魔法のように、固形だったチョコレートが体温でとろけ、口いっぱいに芳醇なカカオの香りが広がる。

 

「普通の板チョコとは全然違う……本物の食感を再現してるのかな?」

 

 食べたことないけどなんてつぶやきながら、残りの半分を口に放り込んだ。チョコの蛙は最後まで抵抗するようにぴょんと跳ねたが、すぐに甘いとろけていく感触に包まれた。後味にはほのかなバニラの香りが残り、思わずまた食べたくなる美味しさだ。

 ハリーは満足そうに頬を緩ませ、指についたチョコレートまで舐めとって裏面の文を読み始めた。

 

 アルバス・ダンブルドア

 現在 ホグワーツ校 校長。近代の魔法使いの中で最も偉大な魔法使いと言われている。特に、一九四五年、闇の魔法使い、グリンデルバルドを破ったこと、ドラゴンの血液の十二種類の利用法の発見、パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究などで有名。趣味は、室内楽とボウリング。

 

「……ダンブルドアって研究者でもあったんだ」

 

 ハリーが思わずつぶやいたその声に、ロンは「有名だよ、ダンブルドアは」と当然のように返した。

 

「世界でもっとも偉大な魔法使いなんだ。例のあの人だって、ダンブルドアを恐れてたくらいなんだぜ」

 

 ロンはどこか誇らしげにそう言いながら、蛙チョコレートを口に放り込んだ。ハリーはそれを聞いて、小さく目を見開いた。例のあの人——おそらくヴォルデモートのことだろう。名前を言うのを避ける独特な習慣にまだ慣れないながらも、ダンブルドアがそれほどまでに偉大な存在だという事実に、ただただ感心するばかりだった。

 

「百味ビーンズもあるけど。食べる?」

 

 ロンも蛙チョコレートを食べ終わったのを見てハリーは百味ビーンズのカラフルな箱を開けた。箱のふたをめくるたびに、中からは甘い香りとともに、何やら不思議なスパイスのような匂いが漂ってきた。

 

「それ、マジで危険だからな」

 

 とロンが笑いながら忠告する。

 

「美味いのもあるけど、たまに地獄を引くから……覚悟しとけよ」

 

「どういうこと?」

 

 ハリーが箱を開けながら問うと、ロンはすかさず一粒つまみ上げた。豆は鮮やかな青色で、ロンの指先でキラリと光った。

 

「百種類以上の味があってさ。リンゴ、チョコミント、ブルーベリー……まではいいんだけど、耳あか、泥、ゲロ、鼻くそ、石鹸味とかも混ざってるんだよな」

 

「うわ……」

 

 ハリーが顔をしかめたときには、もうロンは一粒を口に入れていた。次の瞬間、顔をしかめて肩を震わせる。ロンの頬が不自然にこわばり、喉がゴクリと動いた。

 

「……げっ、石鹸だ。最悪……」

 

 思わず笑ってしまったハリーも、好奇心に負けて一粒つまみ上げる。指先で転がすと、豆は意外に重みがあった。淡いピンク色のビーンズを口に入れて噛むと、幸いにもそれはストロベリー味だった。甘い香りが鼻をくすぐり、ハリーはほっと肩の力を抜いた。

 

「……あ、これは当たりかも。イチゴ?」

 

 勝己は興味なさげにランチボックスを片付けて、イズクにジャーキーを与えていた。ハリーは何気なく彼の方へ箱を差し出した。

 

「食べる? かっちゃん、ロシアンルーレットとか好きでしょ」

 

「は?」

 

 あからさまに嫌そうな顔をして、勝己は箱を押し返した。

 

「俺にクソを食う趣味はねぇ」

 

「僕もないけど。……嫌ならいいや」

 

 ハリーは肩をすくめてビーンズの箱を引っ込めるが、その言い方がどうにも勝己の神経を逆撫でしたらしい。勝己は「チッ」と舌打ちしながら身を乗り出した。黒い制服の袖がテーブルの上をかすめ、影が揺れた。

 

「誰が嫌って言ったよ。いいぜ、やってやるよ。どうせテメェらより運いいしな」

 

「お、やるのか! じゃあ勝負な、美味しかった味の数、いちばん多かったやつが勝ちだ!」

 

 俄然乗り気になった勝己を見たロンが、興奮したようにルールを決め、三人はそれぞれ、色とりどりのビーンズを一つずつ、慎重につまみ始めた。コンパートメント内には、奇妙な緊張感が走り、列車の車輪がレールを軋ませる音さえ、遠くに聞こえるようだった。

 

「……うっ、泥の味する、これ……」ハリーがしかめ面でつぶやいた。眉間に深い皺が寄り、喉が苦しそうに動いた。

 

「くっそ、なんだこれ……青カビチーズか? 舌がしびれる……」ロンが青ざめる。額にうっすらと汗が浮かんでいた。

 

「ん……バターシュガー。悪くねぇな」勝己だけが冷静に咀嚼している。薄い唇の端が、わずかに上がった。

 

 次のビーンズ。

 

「これ……ベーコン?」ハリーは少し眉をしかめつつも飲み込んだ。鼻の頭に小さな皺ができた。

 

「俺は……さくらんぼ! よっしゃ!」ロンがガッツポーズを取る。赤毛が勢いよく跳ねた。

 

「ん?ジンギスカンキャラメルか。まあ、食える」勝己は物凄く顔を顰めながらも飲み込む。

 

 三粒目。

 

「……わ、これ絶対に靴下だって! マジで!」ロンが半泣きになる。顔をしかめて机に突っ伏しそうな勢いだ。

 

「石鹸……だと思う。泡立ちはしなかったけど、すごく……すべすべしてる……」ハリーが遠い目をする。眼鏡の奥の緑色の瞳がぼんやりと焦点を失った。

 

「……ンダこれ、生ぐせぇ。生の青魚か?」勝己は、明らかにえずきそうな顔をするが、意地で飲み込んだ。彼の頬が、ほんのわずかに痙攣しているのが、ハリーには見えた。

 

 さらに数粒続けて、

 

「チョコレートケーキ!」ハリーの声が弾んだ。

 

「パイナップル!」ロンが叫び、手を叩いた。

 

「ピーナッツバター!」勝己が淡々と報告する。

 

「サルミアッキ! これありなの!?」ハリーが驚いたように目を丸くする。

 

「うわ、うわ、これはマジで鼻くそだ!」

 

 ロンが叫び、ハリーと勝己が同時に吹き出す。勝己は思わず机に手をつき、肩を震わせて笑った。

 

「お前、鼻くその味知ってんのかよ……」勝己が呆れ気味に笑う。

 

「子どもの頃に! 子どもの頃な!」

 

「やば……これはゲロだ……ほんとにゲロ味だ……っ!」ハリーが慌ててハンカチを探す。顔が一気に青白くなった。

 

「出すな、耐えろ! 男の勝負だぞ!」ロンが叫ぶ。彼の目はすでに涙で潤んでいる。自分も必死に、えずきそうになるのを堪えているのが、ハリーにはよくわかった。

 

「……ふっ。俺まだ一個もハズレてねぇな」勝己が得意げに腕を組む。得意げに腕を組んで、まるで勝利宣言のように言った

 

「え、ほんとに!?」

 

「いや、マジで。せいぜい"クセが強い"レベルで、クソ味には当たってねぇ」

 

「嘘だ。君だって割と外れ引いてただろ!」

 

 ハリーは、最後のビーンズをつまみ、意地で口に入れる。喉がぎゅっと締まるのを感じながらも飲み込んだ。

 

「……あ、あま……バニラだ! やった!」

 

 手持ちのビーンズを全て食べ終えた三人は、それぞれの「美味しかった」ビーンズの数を、真剣な表情で数え始めた。

 

「僕、外ればっかりだ。あたりは4つだけで他は全部ハズレ」とロンが言う。

「えーっと、僕は美味しかったのが5つ、微妙なのが三つ、完全なハズレが二つ……5勝かな」 

「キャラメルと魚は……いけたしな。七勝!」勝己が胸を張る。

「いやいや、魚はウェってなってたじゃん」ハリーが突っ込む。

「言っただけで、不味いとは言ってねぇ」

「僕だったら僕のサルミアッキもありじゃん」

「はァ!? それはないわ、クソが」

「じゃあ、ジンギスカンキャラメルは? めっちゃ顔しかめてたくせに!」

「顔が動いただけだ」

「いや、その言い訳は苦しいでしょ……」

「とにかく僕の勝ち!」

「いや俺の勝ちだ!」

 

 二人の間の、子供じみた言い争いは、どんどんヒートアップしていき、結局、どちらが勝ったのか、最後まで決着がつかなかった。ハリーは、納得がいかないように頬を膨らませ、勝己は、そんなハリーを冷ややかな目で見下ろしていた。そこへ、ロンがうんざりしたように口を開いた。

 

「あーもう、いつまでやってんだよ! 全員引き分け! 引き分け! もう、腕相撲で決めようぜ? な?」

 

 ロンの挑発に乗った勝己は、キャリーケースの上に腕を構えた。

 

 「やってやんよ」

 

 結果は勝己の圧勝であった。勝己の鍛え上げられた腕に栄養失調気味のハリーは、まるで赤子のようにあっという間に伸されたし、ロンだって、ハリーよりは粘ったものの、やはり一瞬で負けてしまった。

 

 それに納得がいかなかったハリーが、今度は「じゃあ、あっち向いてホイで勝負だ」と言い出し、勝己との新たな戦いが始まった。なかなか決着がつかず、数十回も続く単調な勝負を見ているうちに、ロンはすっかり飽きてきてしまった。

 

「何か、別の勝負ないかな」とロンが小さくつぶやくと、まるでその言葉を待っていたかのように、二人はあっち向いてホイを止めた。二人とも、いつまでも決着がつかない、この不毛な争いに、内心うんざりしていたのだ。

 

 勝己が唐突に百味ビーンズの箱に杖を向け呪文を唱えた。クロイバラの杖先から淡い光が放たれ、テーブルの上にカードの束が出現する。

 

「……今の、変身術だよな?」ロンがぽかんと口を開けた。

 

「長くは持たねぇけど、遊びで使うには十分だろ」

 

 勝己は、まるで何でもないことのように言って、カードの束を無言でハリーに放る。ハリーは慌てて受け止めた。

 

「すごい……魔法ってこんなことまでできるんだ……!」

 

 ハリーが、その不思議な感触を確かめるように、カードの束を確認した。そのカードの束はトランプであった。表面には見慣れたマークと数字が、整然と並んでいる。だが、一枚づつ見ていくと絵札の人物画はすべて省略されていて、ジャックもクイーンもキングも、ただの記号が描かれているだけだった。しかし裏面の模様は一枚一枚きれいに揃っていて、印刷のズレやにじみが見当たらない。重さも質感も本物そのもので、市販の新品とほとんど変わらないように思えた。

 

(……絵柄は手間だったのかな? それとも、複雑な模様は変身術では難しいのかも。文字や記号だけなら正確に再現しやすいし……けど、裏面の模様はしっかりしてるんだよなぁ)

 

 念のため、もう一度一枚ずつ丁寧に数えてみたが、枚数もきちんと54枚揃っていて、抜けも重複もなかった。数字もマークもまるで活版印刷のように整然と配置されていて、裏から透かして見ても不自然な点は全く見当たらない。

 

(それにしても、本当に魔法で作ったのかってくらい、ちゃんとしてる……)

 

「じゃあ、まずはババ抜きからやってみようか。……配るね!」

 

 ジョーカーを一枚抜き手際よくカードを切りながら、ハリーはロンにルールを説明していく。ゲームが始まると、カードを引くたびに一喜一憂するロンと、表情をほとんど崩さない勝己の対比が妙に可笑しかった。

 

 けれど、三人でのババ抜きはすぐに終わってしまった。最初に配られた段階で各自のほとんどが捨てられ、残ったカードもあっという間になくなってしまった。

 

「もうちょっとやりごたえのあるのがいいな……」とロンがつぶやいた。裏面から見分けることはできそうになかったので次は、神経衰弱を始めた。だが、記憶力勝負ではハリーと勝己が圧倒的に強く、ロンがまったく勝てない。

 

 七並べ、ブラックジャック、ポーカーなどいろんなゲームで遊んだが一番盛り上がったのは大富豪だった。最初こそ、ルールを完全に理解していなかったロンの負けが込んでいたものの、ゲームの進行に合わせて徐々にルールを飲み込んでいくと、俄然その才能を発揮し始め、ハリーや勝己と互角に渡り合うようになった。勝ったり負けたりを繰り返すうちに、あっという間に時間が過ぎていった。

 

 




お昼の一幕
( .○-○.)「かっちゃん、こっち向いて」

( ◣д◢)「あ?……むぐ」(かぼちゃパイを口に押し込まれる)

( .○-○.)「ね?おいしいでしょ。替わりに玉子焼き貰うね」

( ◣д◢)「……(かぼちゃパイモグモグ)」

( .○-○.)「ん?……おいしい、おいしいんだけどなんかコレジャナイ感がする」

(·:゚д゚:·) 「何?どう違うの?」

( .○-○.)「ロンも食べてみなよ。(お弁当箱から最後の玉子焼きをつかんでロンの口に放り込む)」

(·:゚д゚:·) 「……いや普通にウマイじゃん」

( .○-○.)「いや、そうなんだけど違うんだよ。雑炊だって思って食べたのがリゾットだった感じというか」

(·:゚д゚:·) 「いや意味わかんねぇよ」

( .○-○.)「ん~表現が難しい。この玉子焼き、かっちゃんが作ったやつじゃないでしょ」

( ◣д◢)「(モグモグごっくん)……ン、こっちのばあちゃんが作ったやつ。このかぼちゃパイまじでうまいな」

( .○-○.)「でしょ!お菓子と一緒に売ってるからおやつって感じだと思ったんだけど惣菜感が強くてさ」

(·:゚д゚:·) 「そういや、コレいくら位だったんだ?」

( .○-○.)「えっとね、たしか……」

***

七並べ中

(·:゚д゚:·) 「誰だよダイアの9で止めてるやつ。パス」

( .○-○.)「かっちゃん、早く出しなよ(ハートの5を出す)」

( ◣д◢)「あ?テメェだろ、しらばっくれやがって(ハートの4を出す)」

数分後

( .○-○.)「やっぱりかっちゃんが持ってたんじゃん」

(·:゚д゚:·) 「いやダイナマイトよりハリーの方が悪質だったからな。スペードの6とハートの10と2止めてたのハリーじゃん」

( ◣д◢)「クソがッ!もう一回だ、もう一回、今度は俺が一位になる」

( .○-○.)「でも二人もあの手札だったらやるでしょ。それにロンだってクラブの4とスペードの9で止めてたでしょ。11まで持ってたくせに」

(·:゚д゚:·) 「まあやるだろうけど。ねぇ次のシャッフル僕がやってみてもいい?」

( .○-○.)「うんいいよ!もし一度に全部混ぜるのが難しかったら、二束くらいに分けてやっても大丈夫だからね」

以下読まなくてもいい余談

 外来種は英語だとalien species(エイリアンスペーシアス)
この単語は1990年代だとまだ一般名詞ではなく、生物学の専門用語だったようです。英語は日本語と違って専門用語の一般認知度が低いので専門用語を使われると何の話になるかわからなくなるんですよね。

 なぜ英語は日本語よりも専門用語の一般認知度が低いのかというと日本語が表意文字である漢字を使っていて英語は表音文字であるアルファベットを使っているからです。

 漢字は表意文字で、一つ一つに意味があります。例えば「光合成」は「光で合成をする」と直感的に理解でき、「骨折」も「骨が折れる」と意味が直接伝わります。このため、新しい造語でも漢字の組み合わせで意味が伝わりやすく、新しい造語や専門用語が日常語として違和感なく受け入れられやすい傾向があります。

一方、英語を含むラテン語圏のの文字は基本的に表音文字であるアルファベットです。専門用語の多くはラテン語やギリシャ語を語源とする単語で、文字そのものに意味はありません。例えば、英単語の「photosynthesis」(光合成)はギリシャ語のphōs(光)とsynthesis(合成)に由来し、語源を知らなければ単語の形から意味を直接推測することは困難です。同様に、「fracture」(骨折)はラテン語のfrangere(壊す)の過去分詞形fractusから派生しており、語源知識なしでは「骨が折れる」という直感的な意味は得られません。「chronic」(慢性)はギリシャ語のchronos(時間)に、「acute」(急性)はラテン語のacutus(鋭い)にそれぞれ由来しますが、これらも語源を知らなければ、単語の形から期間や性質を理解するのは困難です。

 特に翻訳物の小説読んでるとこの言語の特性はよく感じます。漢字の字面からどういう意味の単語なのか私達には想像できるのに主人公はよくわかっていないなんてシチュエーションたまにあります。つまり何が言いたいのかというとロンは外来種という単語を知らないせいで二人の話が理解でていません。


 ちなみに勝己の父親は轟郷英己(ゴウゴウ ヒデキ)と言って一言でいえばダン飯のライオスのような人物です。英己はライオスと違って末っ子ですけど
 魔法生物大好きで、雌の大百足(日本のオリジナル魔法生物、小型の固体は子供でも使役できるが、雌は人間の管理下などの栄養豊富な場所だと異常成長し、術者の実力を超えると産卵の準備の為に術者を喰らう。この異常成長した個体は竜殺しとも呼ばれる。ランクは野生下ではXX(無害:害がないとは言ってない)だが竜殺しの個体はXXXXX(魔法使い殺し。訓練することも飼いならすこともできない)に跳ね上がる)を使役したいなぁとか思っているような人間です。
でも大百足が竜殺しまで成長したら自分だけでなく討伐の為に多くの人が死ぬ可能性がわかっているのでやらない程度の理性は持っています。
お辞儀が本格的に大暴れを始める前にホグワーツに留学していた経験を持っています。

本作の日本魔法界の設定みたいですか?

  • 設定だけでまとめて欲しい
  • 前書きで少しづつ明かしていく感じがいい
  • 後書きで少しづつ明かしていく感じがいい
  • いらない
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