またしても、早朝の藤原氏宅にて。今朝は客人が喧々諤々、ここの主人に迫っている様子である。
「――だから、この家の普請をどうにかするくらい、やったらどうかと言ってるんです」
「そうさなぁ……」
「あなたがその気ならば、人手を出す手回しくらいできるんですからね」
「うん、うん」
「別にあなたにとって、面倒ということもないでしょう?」
「ふんふん」
「じゃあ今日にでも、お願いしてきましょうか?」
「ほほう」
「……」
「ん……」
ばあん!
「なっ、なんだよう。乱暴するなよ。
「人の話を聞いているのか、あんたは!こんなものより、まず家の心配をしないか!」
「嫌だなあ、聞いてるわよ。――でも、これでいて別に困ってないしなあ。そして恥ずかしながら、人足に出す銭もなし」
「……差し当たっては、わたしが立て替えてあげます。――大体、日がなここに籠ってぼおっとしているくらいなら、ちょっとくらい稼ぎをしてみたらいいんですよ」
「べつに籠りっきりってわけじゃないよ。ほら、
「それを稼業にしているわけでもないでしょう。――実入りがなくてもいいから、せめて人間らしい生活をだなあ」
「ふん、例えば?」
「目標があるとか、生きがいがあるとか、そういうものでしょう」
「そうかあ。――まあ、生きがいなら、当面は……」
「ええ?」
間も良く、がたがたと家の戸が開かれる。目をむけると、今日二人目となった客人が、きょとんとした様子で軒先に立ちすくんでいる。
「ほうら、来たよ」
「……だれぇ?」
「あんたこそ、誰だ」
『鼎談 あさが ふけていく』
小さな卓にまた一人が加わった。遅れてきたルーミアは、もうひとりの客人の顔をまじまじと見つめたまま、不思議そうに小首をかしげている。
妹紅がルーミアの肩に手を置いて、言葉を切り出す。
「とりあえず、この子の行く末を見届けることが、私の生きがいです」
「えっと……いきがいです」
「ちゃんとした紹介が、ほしいかな」
「そうね。――こいつはルーミア。空き巣の妖怪です」
「あきすじゃないよ!」
「……」
「あきすじゃないよ!」
「空き巣じゃないよ!」
「……」
ばあん!
「ひぃっ!」
「にゃっ!?」
「……私は、
「今度は頭突きだぁ……怖いよう」
「うう……」
「驚かせたね、ごめんな。
「また泣きべそかいてる。よっぽど怖かったんだなあ。よしよし」
「妹紅は黙っていてください」
「はい」
「ルーミア、だったね。妹紅とはどういう間柄なのかな?」
「う、うん。ひるまはここを借りて、ねているんだよ」
「そうかそうか。それで、どうして
「さいしょ、だれもいないと思ってここでねて、おきたら妹紅がいて、で……」
「ほら、空き巣でしょ?相当まぬけだけど」
「……」
「ど、どうぞ続けて」
「……暗くなってたべてやろうと思ったら逆におどかされて、それをあやまられて……」
「んん?」
「うんと……いろいろあったよ」
「どう?わかった?」
「……なんとなくはな。でも、やっぱり
「さっきから失礼だな」
「えっと――えへへ、それはね?」
「それは?」
「……もこうと、なかがいいからだよ」
「……」
「おっ。……照れるなあ」
「えへへっ」
「……はぁ。なんだかなあ」
「――と、いうわけで、晴れてルーミアは私の
「
「まあ、ね。――というか、ルーミアがいるのだったら、尚更家の建て替えをした方が、いいじゃないですか」
「確かに、それを言われると耳が痛いのよねぇ」
「……わたし、もしかしてじゃま?」
「いやいや。邪魔になんて思ってないから、こうやって悩んでいるのよ」
「そうなのかぁ……あっ、でも、もこうはびんぼうだから……」
「お前まで、失礼なことを言うんだね」
「取りあえずは私が何とかしてあげるけど……問題は
「うん……あとね、考えがあるって、もこうが」
「考え、だって?」
「考えというか――まあ、それはいいじゃないさ」
「そんなもの、果たして本当にあるのか、怪しいものだな」
「ねえねえ、もこう。おうち建てかえようよぅ。もうふゆだよ?さむいよ?」
「ううむ、これも巡り合わせか……」
「そうですよ、妹紅。私も出資しますし。……いずれは返してもらうけど」
「そうだ、あとでかえせ!もこう」
「ううぅ、わかりました!お願いしましょう!」
「やったぁ!」
「そうそう、そうです妹紅。これで真人間への第一歩が――」
「やっぱり失礼だな。反故にするぞ」
「そんなあ。おかね、かしてもらおう?」
「大丈夫だ。言質は取ったから、強制的に立ち退かせことも出来る」
「できないよ!地上げ屋か、あんたは」
「違いますよ。世話焼きです」
「……お節介焼き、だろ?」
「またそんな、憎まれ口を……わたしは、あなたのために!」
「ふたりとも、けんかしないでよぅ!」
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ルーミアも、慧音が来たことで気分が高揚したのか、珍しく昼頃まで起きていたが、ある時
「寝てしまったか。まあ今日は随分、長々と起きていたなあ」
「ルーミアの、邪魔をしてしまいましたかね、わたし」
「この居候にそんな気を使ってたら、切りがないわよ」
「あなたが、その子にここを貸してやっていることが、意外に思えます」
「なんか、無性に可愛くってね。それもいいか、と思っているのよ」
「生き甲斐、ですか?」
「慰めかもしれないわ。他にも贖罪とか、懺悔とか――そういう気持ちもひっくるめた……」
「投影ですね。あなたの、暗い情感をこの子に」
「少しは背負ってもらってもいいでしょ?宿代替わりよ」
「それは、高く付いたものです……。まあせいぜい、目いっぱい可愛がってあげてくださいね」
「まあね。ここの改築だって、ルーミアのためにやってもらうようなもんだし」
「あなただけなら、本当に、このままでよかったのですか?」
「ちょっとくらい侘しい生活をしていた方が、生きている実感が湧くのよね。自分がどこにいるか、良くわかるというか……」
「それが悲しいことでは、ないんですね。あなたにとっては」
「そう。――でもね、生きていればこんな人生にでも、思わぬものが飛び込んできたりするものよ」
妹紅が、ルーミアへ振り返った。慧音もつられて、ルーミアの寝姿へ目をやった。
そんな二人の視線にも構わず、当の本人は深い眠りのなかに沈んでいるだけだった。
なんだこの回。
慧音さん、キレキャラにしてごめんね。