虚ろの底で 抱きしめて (旧版)   作:SoCOi

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二:鼎談 あさが ふけていく

 またしても、早朝の藤原氏宅にて。今朝は客人が喧々諤々、ここの主人に迫っている様子である。

 

「――だから、この家の普請をどうにかするくらい、やったらどうかと言ってるんです」

 

「そうさなぁ……」

 

「あなたがその気ならば、人手を出す手回しくらいできるんですからね」

 

「うん、うん」

 

「別にあなたにとって、面倒ということもないでしょう?」

 

「ふんふん」

 

「じゃあ今日にでも、お願いしてきましょうか?」

 

「ほほう」

 

 

「……」

 

 

「ん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ばあん!

 

 

「なっ、なんだよう。乱暴するなよ。(これ)だってもう、だいぶ古いんだから」

 

「人の話を聞いているのか、あんたは!こんなものより、まず家の心配をしないか!」

 

「嫌だなあ、聞いてるわよ。――でも、これでいて別に困ってないしなあ。そして恥ずかしながら、人足に出す銭もなし」

 

「……差し当たっては、わたしが立て替えてあげます。――大体、日がなここに籠ってぼおっとしているくらいなら、ちょっとくらい稼ぎをしてみたらいいんですよ」

 

「べつに籠りっきりってわけじゃないよ。ほら、竹林(そこ)の道案内だってしてるし」

 

「それを稼業にしているわけでもないでしょう。――実入りがなくてもいいから、せめて人間らしい生活をだなあ」

 

「ふん、例えば?」

 

「目標があるとか、生きがいがあるとか、そういうものでしょう」

 

「そうかあ。――まあ、生きがいなら、当面は……」

 

「ええ?」

 

 

 

 

 

 間も良く、がたがたと家の戸が開かれる。目をむけると、今日二人目となった客人が、きょとんとした様子で軒先に立ちすくんでいる。

 

 

 

「ほうら、来たよ」

 

「……だれぇ?」

 

「あんたこそ、誰だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『鼎談 あさが ふけていく』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小さな卓にまた一人が加わった。遅れてきたルーミアは、もうひとりの客人の顔をまじまじと見つめたまま、不思議そうに小首をかしげている。

 

 妹紅がルーミアの肩に手を置いて、言葉を切り出す。

 

「とりあえず、この子の行く末を見届けることが、私の生きがいです」

 

「えっと……いきがいです」

 

「ちゃんとした紹介が、ほしいかな」

 

「そうね。――こいつはルーミア。空き巣の妖怪です」

 

「あきすじゃないよ!」

 

「……」

 

「あきすじゃないよ!」

 

「空き巣じゃないよ!」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ばあん!

 

 

「ひぃっ!」

 

「にゃっ!?」

 

「……私は、上白沢慧音(かみしらさわけいね)という。人里で寺子屋を開いている。まあ、先生だな」

 

「今度は頭突きだぁ……怖いよう」

 

「うう……」

 

「驚かせたね、ごめんな。妹紅(このひと)があんまり茶化すもので()()、ね」

 

「また泣きべそかいてる。よっぽど怖かったんだなあ。よしよし」

 

「妹紅は黙っていてください」

 

「はい」

 

「ルーミア、だったね。妹紅とはどういう間柄なのかな?」

 

「う、うん。ひるまはここを借りて、ねているんだよ」

 

「そうかそうか。それで、どうして()()()()()()を借りることになったんだい?」

 

「さいしょ、だれもいないと思ってここでねて、おきたら妹紅がいて、で……」

 

「ほら、空き巣でしょ?相当まぬけだけど」

 

「……」

 

「ど、どうぞ続けて」

 

「……暗くなってたべてやろうと思ったら逆におどかされて、それをあやまられて……」

 

「んん?」

 

「うんと……いろいろあったよ」

 

「どう?わかった?」

 

「……なんとなくはな。でも、やっぱり()()()()()()にわざわざ通う理由はわからないままなんだが」

 

「さっきから失礼だな」

 

「えっと――えへへ、それはね?」

 

「それは?」

 

 

「……もこうと、なかがいいからだよ」

 

「……」

 

「おっ。……照れるなあ」

 

「えへへっ」

 

「……はぁ。なんだかなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――と、いうわけで、晴れてルーミアは私の(うち)の居候となった次第であります」

 

()()()、つかれてる?」

 

「まあ、ね。――というか、ルーミアがいるのだったら、尚更家の建て替えをした方が、いいじゃないですか」

 

「確かに、それを言われると耳が痛いのよねぇ」

 

「……わたし、もしかしてじゃま?」

 

「いやいや。邪魔になんて思ってないから、こうやって悩んでいるのよ」

 

「そうなのかぁ……あっ、でも、もこうはびんぼうだから……」

 

「お前まで、失礼なことを言うんだね」

 

「取りあえずは私が何とかしてあげるけど……問題は妹紅(このひと)にその気があるかどうかなんだよ、ルーミア」

 

「うん……あとね、考えがあるって、もこうが」

 

「考え、だって?」

 

「考えというか――まあ、それはいいじゃないさ」

 

「そんなもの、果たして本当にあるのか、怪しいものだな」

 

 

 

 

 

「ねえねえ、もこう。おうち建てかえようよぅ。もうふゆだよ?さむいよ?」

 

「ううむ、これも巡り合わせか……」

 

「そうですよ、妹紅。私も出資しますし。……いずれは返してもらうけど」

 

「そうだ、あとでかえせ!もこう」

 

 

「ううぅ、わかりました!お願いしましょう!」

 

「やったぁ!」

 

「そうそう、そうです妹紅。これで真人間への第一歩が――」

 

「やっぱり失礼だな。反故にするぞ」

 

「そんなあ。おかね、かしてもらおう?」

 

「大丈夫だ。言質は取ったから、強制的に立ち退かせことも出来る」

 

「できないよ!地上げ屋か、あんたは」

 

「違いますよ。世話焼きです」

 

「……お節介焼き、だろ?」

 

「またそんな、憎まれ口を……わたしは、あなたのために!」

 

「ふたりとも、けんかしないでよぅ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ルーミアも、慧音が来たことで気分が高揚したのか、珍しく昼頃まで起きていたが、ある時()()と気を失ってしまった。

 

「寝てしまったか。まあ今日は随分、長々と起きていたなあ」

 

「ルーミアの、邪魔をしてしまいましたかね、わたし」

 

「この居候にそんな気を使ってたら、切りがないわよ」

 

「あなたが、その子にここを貸してやっていることが、意外に思えます」

 

「なんか、無性に可愛くってね。それもいいか、と思っているのよ」

 

「生き甲斐、ですか?」

 

「慰めかもしれないわ。他にも贖罪とか、懺悔とか――そういう気持ちもひっくるめた……」

 

「投影ですね。あなたの、暗い情感をこの子に」

 

「少しは背負ってもらってもいいでしょ?宿代替わりよ」

 

「それは、高く付いたものです……。まあせいぜい、目いっぱい可愛がってあげてくださいね」

 

「まあね。ここの改築だって、ルーミアのためにやってもらうようなもんだし」

 

「あなただけなら、本当に、このままでよかったのですか?」

 

 

「ちょっとくらい侘しい生活をしていた方が、生きている実感が湧くのよね。自分がどこにいるか、良くわかるというか……」

 

「それが悲しいことでは、ないんですね。あなたにとっては」

 

「そう。――でもね、生きていればこんな人生にでも、思わぬものが飛び込んできたりするものよ」

 

 

 妹紅が、ルーミアへ振り返った。慧音もつられて、ルーミアの寝姿へ目をやった。

 

 

 そんな二人の視線にも構わず、当の本人は深い眠りのなかに沈んでいるだけだった。 

 




なんだこの回。


慧音さん、キレキャラにしてごめんね。
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