密度が高く固めのパンを千切り、スープに浸してから口に運ぶ。咀嚼して飲み込んだ後、スープだけをスプーンで口に運ぶ。
年頃の少年少女が集まる訓練兵団。訓練の時や休憩時間にはよくいざこざが起きるが、夕食の時間はみんな大抵穏やかだ。エレンとジャンがたまに喧嘩しているが、それも今日は起こらない。なぜならオレが食堂に入った時間が遅かったためエレンは食堂に見当たらず、ジャンが珍しくオレの前で食事をしているからだ。
「相変わらずの食い方じゃねえかフレディ。内地育ちはテーブルマナーから違うってか?」
スープが口の端についたのでハンカチで拭っていると、頬杖をつきながら見せつけるようにスープを啜るジャンがニヤニヤしながら声をかけてくる。
普通に汚い。
「ッブハ!? おいフレディ! テメェ何しやがる!」
「ジャン、食べ物には敬意を払え。テーブルマナーとは見てくれだけでなく、作ってくれた人と環境、そしてそれを食す事ができるということに対して最大限の感謝を示すためにある。お前はいよいよ面だけでなく食い方も馬並みに......いや、馬に失礼だな」
「んだとコラァ!」
ジャンの頭を思いっきりひっぱたいて説教すると、青筋を立てたジャンがテーブルに両手をついて勢いよく立ち上がる。
コイツ、本当は素直でいい奴なんだがいかんせん中身がまだまだガキすぎる。それ故か少し持ち上げるだけで割となんでも言うことを聞いてくれるから扱いやすくはあるんだけど。
「座れよみっともない。いいか、憲兵団っつーのは王の近衛兵も勤めるんだ。そこで下品な作法で食事でもしてみろ」
「......ッチ」
ドカッと椅子に座り、咳払いをしてからチラチラとオレの真似をして食事を進めるジャン。憲兵団に入れれば将来安泰とは限らず、そこに居続けるための最低限は必要だということを理解しているのか、内地育ちのオレが憲兵団について話すと大抵大人しくなる。正直あんまり憲兵団のこと詳しくないけど。
その時、オレの頭にいたずらごころが芽生えた。ここは1つ、オレが数少ない憲兵団について知っている知識を教えてやろう、と。
「ああジャン、憲兵団について1つ教えておくよ」
「あ? んだよ」
口では興味なさそうだが、目がガンギマってるぞコイツ。どんだけ憲兵団ラブなんだよ。
しかし残念、これから僕が教えるのは憲兵団のリアル! しかし悪い実態と書いてリアルと読むんだなこれが。
「憲兵団って普通に腐ってるから、入ってもすぐ快適な暮らしとはいかないぞ。むしろ歳だけを重ねた穀潰しに雑用やらなんやらを押し付けられて、これなら壁の外に出たほうがマシだってなるかも」
「......は」
手からスプーンを落とし、唖然とするジャン。百点満点のリアクションいただきありがとうございました、パンが何故かいつもより美味しく感じるぜ!
ちなみにコレは冗談でもなんでもなく、事実だ。子供の時に新人の憲兵団たちがそう零しているのを何度も聞いているし、フリーダも憲兵団があれじゃあ偽の王家が民衆の恨みをかうのも時間の問題だかなんだか言っていた。記憶を消せると思って子どもに色々愚痴ったりするの止めたほうがいいですよと今なら言える。
ジャンはその現実を知ってショックだったのか、少ししてから『嘘だと言ってくれ!』だのなんだの騒いでいるが紳士なので気にしない。けどやっぱり何故だか飯が美味い。
「あっ、居た! フレディ!」
「ちょっと来て!」
狼狽えているジャンを尻目に上がってしまう口角を抑えながら食事をしていると、突然耳馴染みの良い女性の声が続けて響き、両肩を掴まれる。
口に放り込もうとしていたパンを止めて振り返ると、焦っているのか額に僅かながらの汗を浮かべたクリスタとミーナが。
すっごくいい匂いします、さてはお風呂上がりですかね。気づかれないように肺いっぱいに2人を取り込んでから答える。
「どうしたんだ2人とも、そんなに急いで」
「今ね、外でアニとミカサが......」
「とにかく頼れるのはフレディだけなんだよ! 早く来て!」
腕を持ち上げ、ミーナがオレを無理やり立たせる。残り僅かだったスープを一気に流し込んでから水を飲み、余ったパンを手に2人の後を追う。
「パァン!?」
「サシャ、それあげるよ」
「神ィ!!」
パンはオレが2人に声をかけられたくらいから何かを察知したのであろう、離れた席からじっと見ていたサシャに押し付ける。外に出てみると、僅かながらに冷たい夜風が頬を撫でた。
「何の人だかりだ......?」
が、食堂を出て少し歩くとなぜだか熱気のこもった人の集まりが。クリスタとミーナが早く早くというので人混みをかき分けてみると、その中心に居たのは異様な雰囲気を醸し出しながら睨み合うアニとミカサだった。
「まさか、あの2人が即興コントを!?」
「違うよ! 私はよくわかってないんだけど、2人が今にも殴り合いを始めそうで......」
「ライナーが止めに入ったんだけど......」
クリスタに言われ、彼女の視線を追う。そこには頭を下にしてケツを空に向ける。言葉を選ばなければちんぐり返しの体勢で白目を向き、口から泡を吹いたライナーとその近くで膝をついてライナーに声を掛けるエレンが。
コイツらそっち系なの? と一瞬思ったが、流石にそれどころではないとエレンのもとへ事情を聞きに行った。
「何があった?」
「フレディ! いや、ミカサとアニが急に喧嘩し始めてよ。ライナーが止めようとしたらふっとばされてコレだ」
「お、俺には兵士としての務めが......」
「何やってんだか......喧嘩の理由は?」
と問うが、エレンは検討もつかないのか首を横に振る。続いてライナーに視線を向けると、虚ろな目をして語りだした。
「俺もわからん。場を収めようとあの2人に声をかけた次の瞬間にコレだからな」
「ちなみになんて?」
「あんまりイライラしてると背が縮むし、エレンに愛想つかされるぞ」
「そりゃーお前が悪いわ。すまんなライナー、助けてやれんし擁護できる点が1つもない」
アニに身長イジリとミカサにエレン関連の話を振るのはどう考えても禁手だっつーの。コイツ脳みそまで鎧化して物事を柔軟に考えられなくなったんじゃねえか。
って、やばいやばい。ミカサが半身になったしアニがあの構えをし始めた。女の子が傷つくのは見てられん、止めに入らねば。いやでもオレが一番傷つきそうでちょっと怖い!
ライナーが余計な燃料を投下したせいでヒートアップしたらしい現場。一触即発といった様子で睨み合う2人の間に、オレは立った。
当然というべきか、両者からドスの聞いた声が飛んでくる。
「アルフレッド、何のつもりだい」
「フレディ、邪魔」
正直ちびりそう。アニちゃんなんでそんなにオコなの、ミカサは目が死んだ魚だよ。光を取り戻してくださいお願いします。
それよりもガヤがうるさいな。アニとミカサ、戦ったらどちらが勝つかねぇ......想像もつかないというか、物騒すぎて想像もしたくないわ。
「アニ、あなたは調子に乗りすぎた。フレディと対人格闘術の訓練をするのがそんなに偉いことなのか。私にはわからない」
「私にもあんたの思考はわからないね、ミカサ。アルフレッドのことを馴れ馴れしくフレディなんて呼んじゃってさ」
「そう呼ばないのはあなただけ。馴れ馴れしいのはどちらか」
なに、これ原因オレなの? 名前が出てる張本人が目の前に居るのにこの娘たちオレのことを空気扱いなんだけど。
乙女心とは複雑なり。であれば直接聞くしかない、か。
「2人とも、構えを取るのは止めよう。まずは何があったのかを知りたいんだけど」
「......こいつが」
「......あいつが」
「そゆことじゃあねえんですけど......」
幼児か君たちは。コイツが~アイツが~て。
話を聞くなら、やはりアニからにしよう。意外と表情に出やすいところあるし、嘘をついているならすぐわかるハズだ。
「アニ」
目で訴えかける。アニはバツの悪そうな顔をして構えを解くと、小さく息を吐いた。
「別になんてことはないさ。ただ話の流れで少し複雑になっただけ」
「うん、そうならいいさ。ちなみに複雑っていうのは?」
「どうしてかはもう忘れたけれど、対人格闘術の話になってね。そこであんたの名前が出てきて、気づいたらこうなってた」
おいコイツ今さらっと人のせいにしやがった。目を合わせないあたり確信犯じゃねえかよ。
後ろを振り返る。ミカサも半身だったのが今は脱力して普通の状態なので話を聞くが、事の発端は彼女もよく覚えていないのか目を閉じて数秒、目を開てから話し始める。
「確かなのは対人格闘術ではフレディが一番強い。その上で、二番手をここで決めようという話になったこと」
「ほお? なんだ、オレって一番強い認定されてるの......」
「アニがフレディを倒したところを一度も見ていない。アニと戦うのが駄目なら、フレディ。あなたでもいい」
「オレが良くないんだけど」
急に物騒なことを言い出すミカサ。しかも無表情でジリジリと距離を詰めてくるの、普通に怖いからやめてほしい。
思わず後ずさりしそうになったその時。オレの背後からアニがヌッと出てきてミカサの前に立ちふさがった。
「やめときな。いくら猛獣でもアルフレッドに牙を折られるよ」
「それはやってみないとわからない」
「あんたに力があることは認める。でも、それだけ」
「またそれか。私より弱いせいでフレディを取られるのを恐れているようにしか見えない」
やめて! 私を取り合わないで!
と言いたいところだけど、またさっきの一触即発状態に戻ってしまった状態で言ったら何されるかわからないから止めておこう。
ていうかアニ、ミカサに力だけとか言うけど自分も大概パワー系なとこあるだろ。あのすっ転ばせる技とか相当足が強くないとできないぞ。ミカサもミカサで自分がエレンを取られるのビビってるのか? とか言われたらすぐピキるくせに煽るな。君が一番そういう煽りへの耐性弱いんだから。
しかしもうこの2人を抑えるには、わたくしが一肌脱がないといけないみたいだ。
再度2人の間に割って入る。左右からの鋭い視線と容赦ない殺気が痛いが、こんなの紳士には屁でもないのです。
「事情はわかったよ。2人が仲違いしたとかじゃなくて良かったけれど、2人とも言葉にトゲがありすぎる。アニ、ミカサは確かに力持ちだけど女の子を猛獣って呼ぶのは良くない。ミカサも変なことは言うものじゃないよ、取られるも何もオレがアニに格闘術を教えてもらってる側だし、ミカサともぜひ手合わせしたいとは思ってるからね」
ぶっちゃけミカサとはやり合いたくないのが本音ですけどね。ミカサから対人格闘術で一番強い認定をもらえていることは嬉しいが、いざ立ち会うとガッカリされてサンドバッグコースになりかねない。
それでもミカサに。というと語弊があるかもしれないが、その驚異的な力には興味がある。2人みたいに強くてクールな女の子って、やっぱりいいよね。しかも可愛い系だし。
オレの言葉にアニとミカサも思うことがあったのか、しばしの沈黙。
どちらも口を一文字にして微動だにしないので、若干笑ってしまった。ひとまずはアニの肩に手をおいてみると、顔を上げて口を曲げた後に謝罪の言葉を発した。
「......悪かったね。ミカサ」
「......いいや、私も冷静さを欠いていた。ごめん」
仲いいだろコイツら。可愛いが渋滞してます!
とりあえず仲直りできたのならば全部解決。見物客たちをさっさと引っ込ませておこう。
「じゃあ、これで仲直りだね。ほら見てる人たちも! 早く戻らないと教官が来るかもよー! 解散解散!」
両腕を振って散れ散れと指示する。そこ、つまらないとか言うな。飯を賭けるな。
そのまま腕を振っていると、一瞬両手の指先に何やら柔らかいものがあたった気がして動きを止める。
なんの感触だ? ゆっくりともう一度同じくらいに腕を伸ばしてみると、今度は確かに触れたその感触。首を左右に振った直後だった。
「死ねッ!」
「フンッ!」
アニのハイキックが顔面に。ミカサのローキックが尻に直撃してオレの体はくの字に折れ曲がった。
ああ、痛すぎると声が出ないって本当なんだな。2人の足がめり込んでるのをヒシヒシと感じます。でも、柔らかかったし普段の仏頂面が赤面してるのは良かった......我が生涯に一片の悔い無し。今行くぞフリーダ!
現在公開可能な情報
アニ・レオンハートとミカサ・アッカーマンによる怠慢騒動の発端は些細なもので、誰かが言った対人格闘術なら誰が一番強いかという話から始まったものである。
アニ・レオンハートに対してライナー・ブラウンが『アニは誰が一番だ? お前か?』と問うたところ、彼女はアルフレッド・ガイスギーチの名前を出した。それを聞いていたミカサ・アッカーマンはアニ・レオンハートの実力を認めているからこそ、そんな彼女が認めるアルフレッド・ガイスギーチが自分とは対人格闘術を組んでくれないことをアニ・レオンハートに持ちかけた。
当初はアニ・レオンハートも何故かを真剣に考えていたが、ライナー・ブラウンの『ミカサにビビってんじゃあないのか? それよりもアニ、フレディが取られるかもしれないぜ』という発言からこじれにこじれていつの間にか『二番手はどちらか』という話にネジ曲がってしまった。全ての元凶はライナー・ブラウンであるが、その張本人をタコ殴りにして投げ捨てたことで2人はすっかり忘れていた。
両者の胸を触って強烈な仕返しをされたアルフレッド・ガイスギーチは倒れ込み気絶。アニ・レオンハート、ミカサ・アッカーマンはそれを無視して寮へと戻ったが、冷静になってから戻った頃にはアルフレッド・ガイスギーチは彼を呼んだクリスタ・レンズ、ミーナ・カロライナと偶然通りかかったユミルとサシャ・ブラウスによって自室に搬送されていた。
そうとも知らず同じタイミングで寮を出て、アルフレッド・ガイスギーチが居たであろう場所にて出会ったアニ・レオンハートとミカサ・アッカーマンは互いの目的を察し何も言わずにすれ違うと、気まずい雰囲気をごまかすために広場を1週歩いてから寮に戻った。
デートする人
-
アニ
-
クリスタ(ヒストリア)
-
ミカサ
-
サシャ
-
ユミル
-
ミーナ
-
イルゼ
-
リコ
-
憲兵団のお姉さん
-
フリーダ
-
ルース
-
キース教官
-
ライナー