1日の終わり。疲労が溜まった体を労る為に誰よりも早くベッドに潜り込んだオレが再び目を開けると、そこは寮ではなく満天の星空の下。
道、とやらに誘われたことを確信してあの名を叫ぶ。
「フリーダァーーーッ!」
返ってきたのは静寂のみ。いつもならひょこっと現れるはずの彼女が、今日はやけに遅い。
呼んでおいて待たせるのか、と若干の憤りを覚える。といってもいざ顔を見たら怒れなくなってしまうのだから惚れた弱みというのは恐ろしい。言い訳だがあんな人が近くに居たら男子なら誰でも惚れるだろ。初見殺し過ぎてズルい気がする。
しかし、ただ待っていてもつまらない。かといってオレの体は寝ている状態だから何かをする気にもならない。意識だけを呼んでいるらしいので運動したとて筋肉が付くわけでもないし、ここはボーッと空を眺めているだけでもそれなりに楽しい。
どれほど経っただろうか。星空と木のような光るなにかを眺めていると、背後から砂を踏む音が聞こえる。
ようやくお出ましか。上体を起こして振り返ると、そこに居たのは金髪の小柄な少女だった。
いや、は?
「えーっと......君は?」
どうしよう、フリーダだと思って浮かべたこの笑顔をどこに片付けよう。知り合いだと思って声をかけたら全くの別人だったけど、勘違いしたということが恥ずかしくてその人の背後に向かって声をかけ続ける不審者になった記憶が蘇ってきた。
しかもこの娘なんにも言わないんだけど。ていうか道に居るってどういうことだ? オレを呼べるのはフリーダだけだって話だったけど、肝心のフリーダが見当たらないし。幼少期に金髪だったなんて話も聞いてないから彼女ではないハズ。
であればすることは1つ、紳士的に自己紹介あるのみだ!
「ごめんね、急に言われても戸惑うよね。自己紹介をさせてほしい。僕の名前はアルフレッド・ガイスギーチ。フリーダって名前の長い黒髪のお姉さんを探しているんだけど、見なかったかな?」
相手はまだ年端もいかない少女。できるだけ刺激しないように、角が立たないような声色で聞いてみる。
少女はすこし頷いた後、顔を上げると同時にオレの背後を指差す。振り返ってみるが、そこにあるのはあの光り輝く木のようなものだけ。面白い冗談だな小娘と少女の方へ向き直ると、少女の背後でフリーダがニコニコと笑顔を浮かべて立っていた。
「探した?」
「おま......んん。いや、ずっと横になってたよ。ところでその子は?」
お前、と言ってやりたいところだが少女が居る手前グッと堪える。女の子は健全に育ってほしいからね、強い言葉は禁物です。
フリーダはニッと歯を見せた後、少女のことを突然後ろから抱きしめた。ビクリと少女は肩を震わせ、涙目でこちらを見上げてくる......いや怯えてますがな。
「ちょ待てフリーダ、その娘怯えちゃってるってば」
「ええ? そうなのユミル様」
今度は少女の頭の上に顎を乗せ始めるフリーダ。相変わらずの自由さに呆れてしまうが、少女が知り合いと同じ名前。しかもフリーダが様付けて呼んでいることが引っかかった。
それが顔に出ていたようで、フリーダは自慢するかのように宣言した。
「こちらが、私たちユミルの民と王家のご先祖様で巨人化の能力を初めて身に宿したお方。始祖ユミル様だ!」
「へえ、随分な有名人と知り合いなんだな!」
「もちろん! もう仲良しだもんね!」
「......」
ユミル様すっげー勢いで首振ってますけど。涙がこぼれ落ちてますけど。
っていうか、何さらっとすごいことを言ってるんだこのフリーダム女。始祖ユミル様って言ったら幼い頃にフリーダから読み聞かせてもらった本で聞いたことがあるが......え、何。コイツとうとうあの伝説上といっても過言ではない人物とも接点を持つようになったのか。なんというか言葉にならないが......ひとまず必死に目で助けを求めている始祖ユミル様をフリーダから開放しよう。
「ちょ、アルくん何すんの!」
「アホ。始祖様が怯えちゃってるだろ。ごめんね、このお姉さん頭がちょっとあれだから」
自分の頭を人差し指でトントンと叩いた後、内に絞った唇を弾いてパッ、という音を出す。
マズイ、始祖ユミル様と言うがあまりにも守ってあげたくなる雰囲気が強すぎて子供扱いしてしまった。
恐る恐るうつむく始祖様の顔を覗き見ると、笑うのを我慢しているのか頬を膨らませていた。ツボが謎すぎるがお怒りではないようなので安心。
「私の扱い雑すぎじゃない?」
「愛ゆえの扱いだよ」
「うわ~、チャラいね。なんか嫌かも」
「同感です」
適当に返事をしてしまったが、正直自分の発言にドン引き。フリーダもそんなオレがおかしいのか口元を抑えながら笑う。
ふと視界の隅に金髪が入る。ななめ下を見てみると、始祖様が僅かながらに口角を上げてこちらを見ていた。
「始祖様?」
急に微笑みかけられて戸惑っていると、始祖様がオレの右手を両手で握る。突然手を握ってくるなんて、始祖様もしかして情熱的な感じ?
そう思っているのもつかの間。頭がかち割れそうなほどの激しい頭痛に一瞬膝から力が抜ける。
なんだコレは、いつもフリーダにやられるやつの比じゃない。始祖様、お兄さん痛いんですけど! 結構!
頭の中にグリグリと何かを詰め込まれるような圧迫感のある痛み。それを黙って耐えていると、空いている左手をフリーダに掴まれた。
「大丈夫。私がついてるから」
ここで話している時の無邪気な笑顔ではなく、あの頃のオレに向けていたような優しく安心感を与えてくれる笑み。
それを理解した瞬間、始祖様に握られている右手とフリーダに握られている左手の両方から温かい何かが流れ込む感覚が伝わり、頭痛が和らいでいく。痛みに細めていた目を開けてみると、2人に握られる手から光が発せられていた。
「なんじゃこりゃあ!?」
驚いて手を離しそうになるが、2人はそれを許さない。フリーダは依然として笑顔のままだったが、喜びと驚愕が混ざったような、目を見開いた不格好なもの。始祖様は口をポカンと開けていた。
何がどうなっているのか。全く理解できないオレを差し置いて、フリーダは始祖様に話しかける。
「やった......成功した! 私の目論見通り! やりましたよユミル様!」
「......」
成功した、と喜ぶフリーダと頷く始祖様。2人が見つめ合っているところで置いてけぼりをくらったオレが咳払いをすると、フリーダが勢いよく顔を近づけてくる。
「アルくん、これで限定的だけど座標の力は君のもの。正直、王家でもなければユミルの民でもない君がどこまで行使できるかはわからないけれど。少なくとも完璧でなくとも君が望む幸せを手にするだけの助力はできるはず」
「勝手に話を進めるの止めてもらっていい? 全然、全く、何一つとして言ってる意味が理解できないんだけど」
「いいよ、今は気にしない! 始祖ユミル様の認めた自由人間アルくんなら大丈夫だって」
「知らず知らずの内にとんでもないものを背負わされた感じがする」
フリーダは勝手に喜んでいるからと、始祖様に目線を向ける。オレの視線に気づいた始祖様はゆ~っくりと目を逸らす。オイ、それが始祖のやることか。子孫を前にして恥ずかしくないんか。
そもそも座標とはなんだったか。確かライナーがエレンに対してそんなことを......あれ、ちょっと待てよ。どうしてオレがその場に居ないんだ? フリーダに色々喰わされ飲まされして受け継いだ記録の中に、どうしてオレが存在していない。どうしてオレは兵士になっていないんだ。
自分が今歩んでいる道とフリーダに見せられた記録との相違に、得も言われぬ違和感が吐き気となって襲ってくる。かろうじて堪えるが体を支えている足から力が抜けてしまい膝をつく。
ちょうど始祖様と目線が合う形で、オレは始祖様に頭を撫でられた。
「......え?」
撫でると言っても、慰めたり愛情を込めてというよりは良くやったなと褒めるような撫で方。その始祖様の行動に首をかしげていると、フリーダがニヤニヤしながら始祖様に話しかける。
「ユミル様にも見ていただいた通り、彼は自由に愛し愛される人です。過去にも未来にも縛られず、今を生きる人。でも今に囚われず過去を想って未来に胸を膨らませる。きっと気に入っていただけると思ってました」
「......」
「私がアルくんをここに招くことを許してくれたのも、そういうことだったんですよね。ようやく見つけた愛に飢えて囚われた貴女だからこそ」
「本当さあ、置いてけぼり止めてくんない? オレも流石に傷つくよ」
どういうことだったんだよ。そんでなんで始祖様はそんな重苦しい雰囲気を醸し出してオレを見つめてくるんだよ。お嬢さん良く見たら可愛いですね、大きくなったらお兄さんと結婚しますか?
「アルくんは実際問題女好きではありますが、それはそれとして全員を愛すだけの度胸と覚悟があります。もちろん私も」
「っと、どうしたフリーダ」
急に寄りかかってきたフリーダを受け止める。女好き呼ばわりをされても否定できない自分の行いが恨まれるが、フリーダなりに始祖様に何かを伝えようとしているので黙っておこう。コイツはこういうときはやってくれる人、のはず。
「ほら、羨ましいですか? コレが愛ですよぉ?」
抱きついたり頬ずりをしたりしながら始祖様を煽るフリーダ。この行動に何の意味があるのかをオレが理解できる日は来ないんだろうけれど、されるがままになっておく。すごく、幸せです。
そのまま体を触られたり、小声で抱きしめてと言われるがまま抱きしめたり、始祖様の前でフリーダの思いつく限りのイチャイチャを披露する。公開処刑とはこのことか、と羞恥心で顔が熱くなっていくが、フリーダも同じなのかすぐに目をそらすのでお互い様だと冷静になる。
肝心の始祖様はというと、オレとフリーダのイチャつきを見ながらにっこりと。心做しか先ほどまではその顔に陰りが見えていたがスッキリと明るくなった気がする。
「......」
「......あ、そういう。失礼しました」
始祖様の顔を見て何かを察したフリーダは恥ずかしそうにうつむきながらオレから距離を取る。その間も始祖様はニコニコとしており、なにか満たされたように満足げ。
フリーダの行動といい始祖様の笑顔といい、いよいよ置いてけぼりに我慢できずフリーダの耳元で『ねえ』と囁く。彼女は可愛い悲鳴を上げてから振り返った。
「な、なに!? どうしたの!?」
「いや、始祖様どうしたのかなって」
「始祖様? ああ、いや。なんかもうユミル様は色々吹っ切れたみたいで。取り戻すんじゃなくて母親として見守るスタンスに入ってるみたいだね」
「ふむ。なるほどよくわからない」
見守るとはつまり、始祖様として子孫の幸せを願う的な高尚なものなのだろう。確かに今の始祖様からはエルディア人じゃないオレでも見守ってくれそうな母性を感じる。けど、なんというかこう。やたらと恋愛関係の話を聞きたがり1人で盛り上がる親戚の叔母みたいな気配なのはどうしてだろう。始祖様を厄介オタク認定したら流石に怒られる。
少なくとも始祖様が純愛派ならいいです。いたいけな少女の見た目してこじらせてるとかだとちょっとキツイ。
「アルくん。ユミル様が色々お話を聞きたいみたいだけど」
「お話って、どんなことを話せば?」
「104期生でどの娘が一番お気に入りか」
「ブッ!? やっぱロクでもねぇじゃねえかよ!」
お気に入りってなんだよ人聞きの悪い! 女の子はみんな美しい、オレは女の子全員が大好きなんだよ! でもハンナにはそういう感情向けてないです。彼女にはフランツという良きパートナーが居るので幸せになってもらいたい。
そもそも優劣などつけるものではないのだが......いや始祖様ニッコニコじゃん。なんか光ってるし。
「すごい。ユミル様のあんな喜ぶ姿見たことない......!」
「え、あれ喜んでんの? 光ってんのは怒りのパワーで髪が逆立ちそうになってるからとかじゃなくて?」
「すべての愛に答えるその姿に感銘を受けたって」
「わからん。どうやってフリーダと始祖様が意思疎通してるのかも。今日がわからないことだらけでわからない」
泣きそうだ。理解できないことが続いて頭がパンク寸前なんだろう。
しかし、始祖様がオレの女の子を愛する気持ちに同意してくれたのならそれは喜ばしいことなのだろう。よくよく考えたらユミルの民とはつまり目の前の始祖様の子孫。何千年も遡った母親に認められたと考えたらなんだか軽くなった気がした。
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グリシャ・イェーガーに敗れ死の寸前に座標へと自らの意識を残したフリーダ・レイスは、そこで始祖ユミルと出会う。
愛した男から最後まで自分の欲していた愛を受けられず失意のまま命令に従い続けている彼女を開放するために、フリーダ・レイスはこの終わりがない空間で彼女とともに過ごした。
時にはともに砂をこねて巨人の体を作り、時には自分が好きな少年と少女の話をして。彼女の求める愛とは何かを考え、少年。アルフレッド・ガイスギーチの見る世界を一緒に覗き込んだりもした。
そうしてアルフレッド・ガイスギーチが他の女性に鼻の下を伸ばし、フリーダ・レイスが嫉妬心からいたずらをして。アルフレッド・ガイスギーチはそれを甘んじて受け入れ嬉しそうにする様子を見て。始祖ユミルは新たな愛の形を2人に見出し、アルフレッド・ガイスギーチという自分が見る新たな物語の主人公と、彼のばらまく愛を見守ることにした。
座標にフリーダ・レイスがやってきた初日からこの日まで。執拗にお願いをしてくる彼女に若干ビビっている始祖ユミルはアルフレッド・ガイスギーチにフリーダ・レイスの意識に残っていた座標の力を譲渡する手助けをすることに。
譲渡された本人が力の使い方もわからず本来世界が歩む道では自らが存在していないという違和感に膝をついたとき、始祖ユミルはユミルの民ではないアルフレッド・ガイスギーチのことを初めて子として認識した。
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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憲兵団のお姉さん
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