ウォール・ローゼ南方面駐屯の第104期訓練兵団入団式から、早いもので2年が経過した。
この104期生、歴代でも粒ぞろいの優秀であるという評価を得ている。まだ卒業もしていなければ巨人と対峙したこともない子どもたちをそのように評価するのは時期尚早であろう。しかし、私もいまだかつてこのような訓練兵たちを見たことがない。
やはり真っ先に名前の上がる者が2人居る。ミカサ・アッカーマンとアルフレッド・ガイスギーチだ。
アッカーマンはあらゆる科目を完全にこなす逸材。まるで初めから何をすれば良いのかを理解しているかのようにやりのけてしまう彼女は入団当初、同郷のアルミン・アルレルト、そして私の友人であるグリシャの息子、エレン・イェーガーの3人で居るところを良く見ていた。
アルレルトは小柄で細いため体力や立体機動に関しては下から数えるほうが早い。しかしその頭脳と座学での非凡な発想力はズバ抜けており、この104期と同期でなければ上位10名を狙える逸材であっただろう。
また、イェーガーはアッカーマンやアルレルトのようにズバ抜けた運動能力や頭脳も持ち合わせては居ないが、その根性と努力は友人の息子であるという贔屓目を抜きにしても称賛に値するものがある。特に、立体機動の適性検査の件は私がつくづくただの傍観者にすぎないことを自覚し、自己嫌悪に陥ってしまうほど衝撃であった。特別な人間というものは選ばれてなるのではなく、自らを証明することでなれるのだとイェーガーは示した。
これ以上は考えないようにしよう。今更過去を悔やんでも意味のないことだ。
104期生には他にも他の訓練兵を寄せ付けない強烈な個性や強みを持った者がいる。
例えばライナー・ブラウンはその体格とリーダーシップから同期の多くに慕われているようだ。彼もまた、才能があるのかと問われれば少し疑問が残る。恵まれた体格は才能であるだろうが、その性格からまっすぐに能力を伸ばしている。
ブラウンのことを語るならば、ベルトルト・フーバーは外せない。104期生の中でも文字通り頭一つ抜ける背丈に、立体機動や座学、対人格闘術等そのポテンシャルは計り知れない。しかし引っ込み思案な性格が本来の成長を邪魔しているように思える。ブラウンとフーバーの性格が逆であったとしたら、おそらく首席候補はフーバーでブラウンは今頃開拓地に居たのかもしれないと思わせるほどだ。
入団当初はこの2人に幼馴染であるというアニ・レオンハートが微妙な距離感で行動を共にしていたが、今やレオンハートはブラウンともフーバーともつるむところを見ていない。ミーナ・カロライナやルース・D・クライン、そしてガイスギーチとは良く話しているところや対人格闘術の訓練をしているのを見かける。
レオンハートはアッカーマンほどではないにしろ、間違いなく逸材の1人。連携性に難があるが、以前実施した立体機動を用いて拠点設営から目標討伐という丸2日かけて行う訓練ではクライン、ガイスギーチ、ジャン・キルシュタインの3人で非常に優秀な成績を収めた。
キルシュタインもまた優秀な訓練兵だ。立体機動はトップクラスであり、指示を素早く理解して行動に移すことができる。
だが憲兵団を目指しているためか加点の大きい訓練とそうではない訓練とで露骨に訓練態度に差が出る。何かと軋轢を生むことが多いにしても、上位10名は十分に狙えるであろう。
サシャ・ブラウスとコニー・スプリンガーも上位10名の候補である。
ブラウスは出自が関係しているのか、野生の勘とでも言えるものが非常に優れている。故に組織行動には向かず座学はとても優秀とは言い難く、食料庫から度々盗みを働こうとしていた初期の彼女では上位に入ることは難しかっただろう。
しかし途中からまるで人が変わったかのように訓練に取り組むようになり、組織行動ではガイスギーチと組めばまさに阿吽の呼吸。座学も苦手ながら平均近くの成績を叩き出すようになり、食料庫から盗みを働く素行面も若干の改善が見られ、月に1度のペースに減っている。それでも問題児であることに変わりはないが、立体機動の技術と鋭い嗅覚がブラウスをブラウス足らしめている。
スプリンガーは頭の回転がやや。いや、かなり鈍いが小回りの効く動きを得意としており、その頭脳がもう少しまともであれば対巨人のみならず対人での隠密行動をこなす優秀な兵士となっていたであろう。
単独行動でも団体行動でも扱いづらいところがあるが、それを抜きにしても地力の高さがスプリンガーの助けとなっている。自らを天才と表するなど自信過剰なところが見受けられるが、卒業後が楽しみな訓練兵の1人ではある。
104期生では同期から成績以外で注目をされている人物が居る。クリスタ・レンズだ。
レンズが注目されているのは、その外見なのだろう。同期の男はあわよくばレンズと近づけるように、と立ち回っているようだが、彼女のそばに張り付くように居るユミルによって防がれている。また、レンズ自体がユミルとガイスギーチの両名の間に居ることが多いためか、知名度の割にはさほど交友関係が広くないように見られる。
先ほど名前を上げたブラウンでさえレンズと同じ班での立体機動訓練となると、途端に成績が悪くなることがある。まだ子どもであるため浮つく気持ちも理解できるが、そのような訓練兵はガイスギーチを見習う必要がありそうだ。
ここまで書き記し私は気付いた。104期訓練兵の中で最も特異な人物、アルフレッド・ガイスギーチに言及していなかったことを。
そもそも104期生たちは平均として能力が高いが、レンズ以外の名前を挙げた者たちは特に抜きん出ている。そんな彼らが特に注目を置くのがこのガイスギーチだ。
中でもレオンハートとブラウスは彼に関心が強いようで、2人のどちらかとガイスギーチが同じ班で行動すればトップの成績を上げる。
ガイスギーチの優れた点はやはり人をまとめ上げることであろう。身体能力や頭脳にも優れてはいるが、アッカーマンのように圧倒的ではない。しかしレオンハートやブラウス、キルシュタインやスプリンガーにユミルといった扱いが難しかったり団体行動では欠点が見られる面子も彼が指揮すれば熟練の兵士といっても差し支えないほどになる。
ガイスギーチの欠点は天性の女好きなところであろうか。兵団説明でやってきた調査兵団所属のイルゼ・ラングナーと駐屯兵団所属のリコ・ブレツェンスカの2名と文通を交わしているとだらしない顔をして語っているのを聞いたことがある。
たちの悪いことに、ガイスギーチは女好きであり人誑しでもある。第34回壁外調査の際、ラングナーの所属する班は馬を失うという大失態を犯したという。だがラングナーの生きるという強い意思が招いた結果か、平原で馬を失い立体機動装置が損傷を受けた者が居たにも関わらず、全員が生存して壁までたどり着いたところを壁の見回りをしていたブレツェンスカの班に救助されている。
それとガイスギーチの人誑しと何の関係があるのかというが、ラングナーは特別休暇を貰ったとのことでわざわざ訓練兵団まで来てガイスギーチを訪ねたのだ。理由は単純明快、ただ顔が見たいからというだけだった。彼の顔を見た瞬間にラングナーは人目もはばからず涙を流し抱きついていた。
加えてちょうど訓練が無い日を狙って来たようで、落ち着いた後に2人は街に繰り出し門限ギリギリにガイスギーチがホクホク顔で戻ってきた。その時のレオンハートたちの様子から察していたが、翌日の対人格闘術の訓練ではガイスギーチが見たこともないほどボロボロになっていた。
誰からも好かれる、というのは兵士であっても悪いことではない。現にガイスギーチが生きる理由となったことでラングナーは生存した。あの状況で壁までたどり着くなど、調査兵団始まって以来だろう。
ともかく、ガイスギーチに関しては話題に尽きない。毎晩立体機動の適性検査装置にぶら下がってあと5センチと呟いているが、残念ながらすでに出来上がっている彼の体がこれ以上成長することはないだろう。驚くことに体は早熟であっても、兵士としては大器晩成型なのか常に成績を伸ばしている。首席はアッカーマンと彼の直接対決状態だ。
しかし、ガイスギーチは首席どころか上位10名に入ることもない。どういった事情かはわからないが、内地出身が関係するのか憲兵団からの圧力を受けている。日頃から調査兵団に入ると公言している彼が憲兵団を選ぶところが想像できないが、憲兵団としてはそれでも彼を入団させたくない理由があるのだろう。
私はとことん自らの無力さを恨んだ。1人の訓練兵に正当な評価を下すことも許されず、言われるがままに上位10名から蹴落とそうとしているのだ。
だが、彼に正当な評価を下せば憲兵団はこの104期生からの志願を一切受け付けないと語る。1人の為にそこまで必死になる理由はわからないが、一度ガイスギーチと会話をして意思を確認する必要がある。
彼が調査兵団を選ぶので気にしないというのなら、私はガイスギーチに頭を下げて感謝をしなければならない。もし本心は憲兵団だというのなら、私は圧力に抗うつもりである。情けないが、これが今の私にできる精一杯なのだ。
「......もうこんな時間か」
蝋燭の減り具合を見て、キースは呟く。手記を書いている本を閉じて引き出しに仕舞い鍵をかけた彼は立ち上がって窓から外を眺める。
「教官としてのキース・シャーディスが否定されることになっても。傍観者の私にもできることがあるはずだ。グリシャ、カルラ」
キースのつぶやきは星空に吸い込まれて消えた。
現在公開可能な情報
憲兵団。というより現在壁内の王として君臨する偽のフリッツ家はアルフレッド・ガイスギーチの存在を危険視している。
ガイスギーチの名字からわかるように彼らはユミルの民ではないため、壁内の少数民族と同様に始祖の巨人の記憶改竄が効かない。
加えて代々のガイスギーチ家やアルフレッド・ガイスギーチの両親が権力や財産というものに興味を示さない人物であったため記憶改竄が通じない民族のように貴族としての地位を与えても懐柔することができず、いつ王家として君臨しているフリッツ家が偽物であるとバラされてもおかしくないと危険視されていた。
そのためアルフレッド・ガイスギーチの両親暗殺を画策してシガンシナ区に呼び出したところ、そこにタイミングが良いのか悪いのか超大型巨人が出現し死亡。王家の秘密を知る1人息子のアルフレッド・ガイスギーチによる報復を恐れ、遠ざけるために憲兵団へ入団させないようあの手この手で妨害工作をしている。
ガイスギーチ家はかつてのエルディアが併合した部落に存在していた非常に優秀な戦士の家系であった。故にその誇りを忘れぬように自らの言語で戦士を名字として名乗っている。
部族が併合され、エルディアが帝国となっても表舞台には姿を現さず。人知れず戦士としての役目を全うしてきた家系。エルディア帝国によってアッカーマン家が生み出されたことで徐々にその立場を追われたものの、カール・フリッツ145世が壁に閉じこもる選択をした時は王に忠誠を誓うとして壁内に移り住むことを選んだ。
東洋の一族と共に王家の思想に逆らったアッカーマン家とは異なり、特に大きな動きを見せることはなかったためウォール・シーナのヤルケル区でひっそりと暮らしていた。
アルフレッド・ガイスギーチとその両親が特別危険視されたのは、母親が東洋の一族の生き残りであり王家がアッカーマン家と同じではないかと訝しんだためである。
また、ガイスギーチ家にはこんな伝説がある。
我々は大地の悪魔を討ち取り、女神からの祝福を受けた一族である。ガイスギーチ、戦士という言葉はその時に生まれたのである。
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