オレは強い。ので、色々頑張る   作:ばるす

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11.鷲鼻戦士と夜の密会

 訓練兵団も残り1年となった。

 夕食を取りながらこれまでの2年間を振り返って、何が一番印象に残っていますかと問われると。正直数日前にキース教官と会話して知った憲兵団に毛嫌いされているということしか思い浮かばない。他にも色々あったのにその話ですべてが吹き飛んでしまった。

 理由はわかっている。レイス家にとってガイスギーチ家ほど目の上のたんこぶは存在しないからだろう。ガイスギーチ家は145代フリッツ王に従い壁の中に一緒に入ってきたものの、その思想に失望して以来王政とは関わりを持たない形だけの貴族だったからな。貴族と言えば聞こえは良いけど普通に農家してました。

 それにオレがフリーダと接触していたということをレイス家が知っているかはわからないが、どちらにせよ憲兵団に入団すれば中央第一憲兵団にも目をつけられて厄介なことこの上ない。誰が憲兵団なんか行くかよ、バーカ! と憲兵団のお偉いさんの前で言ってやりたいくらいだ。

 

「はぁ」

 

 おっと、目の前のアニが急にため息。もしかしてオレが彼女が志願している憲兵団の悪口を言ったからでしょうか。

 大丈夫です、憲兵団にもいい人は居ます。王に尽くす、という使命感が強い人や街の治安を守るためという人も居た。極稀にだけど。大体はお察しですけど。

 チラリとアニの顔を覗き見る。頬杖をついてパンを眺めているだけでも画になる彼女だが、何か悩み事でもあるようだ。立体機動訓練でオレとアニがいた班は少し遅めの夕食となったことにお冠なのかもしれない。

 

「何かあった?」

 

 穏やかに問いかけてみる。アニは頬杖をついたまま目線だけをオレに向けた後、逸らして数秒。再びこちらを力強い目で見たかと思えば姿勢を正した。

 

「......アルフレッド。あんたと話がしたい」

「え? ああ、なんでも言ってよ」

「いや、今じゃなくてもう少し暗くなってから。2人きりになれる場所で」

「ほっ!?」

 

 これはまさか、告白というやつでは!? しかも暗い中で2人きり、つまり月の下で想いを伝えちゃう的なやつか!?

 

「一応言っておくけど、今日のはあんたが思ってるようなことじゃないよ」

「あ、うん」

 

 考えを読まれていたのか、アニに先手を打たれ少ししょんぼりとしてしまう。

 それが面白かったのか、アニは軽く笑ってからパンを口に放り込む。

 その姿が脳裏に焼き付いて離れないまま夕食を終えて自室に戻り、アニと約束した時間になる。同室の人たちを適当に誤魔化して抜け出したオレは、事前に待ち合わせ場所としていた倉庫の裏側へと向かう。

 歩くタイミングを少しずらしたり、ちょっと道を変えたりして後をつけられていた時の保険をかける。目的の倉庫裏をチラリと覗き見ると、アニが腕を組んで木にもたれかかっていた。

 

「来たよ、アニ」

 

 声を掛けるとゆっくり目を開くアニ。足音を立てずにこちらに近づくと、オレが来た道をジッと見つめた。

 

「尾行はされてないね」

「一応気をつけて来たつもり。アニとの約束だから」

「......行くよ。ここで話す時間は勿体ない」

 

 一瞬動きを止めたアニは、何も言わず振り返りもせず歩き出す。彼女が考えていることがわからずにオレは立ち尽くしてしまうが、ここで取り残されては意味が無いのでアニのいいお尻を追いかけていく。

 

「あれは誰にでもやってる。勘違いするだけ無駄」

「なにが無駄だって?」

「違うから。そんなんじゃないから」

 

 追いついたかと思えば、アニは更に歩く速度を早くしていく。もはや競歩の域に達している速歩きに食らいついて10数分。森を抜け開けた場所に出てくる。

 月明かりだけで良くここまでたどり着けたなと素直に尊敬するが、これだけスムーズに到着したということは何度も来ているということが想像できる。となると、ライナーとベルトルトと3人で密会をする場所であろうか。もしかしてオレ抹殺される?

 

 若干ビビリながら歩き、先導するアニが立ち止まったのは木々に囲まれた丘の下。小さな洞窟のような形となっており、これならば密会に最適だなと納得。

 というかこれ、普通に巨人化して作っただろ。パッと見は自然の地形っぽいけど丘をえぐった感満載。しかも椅子が1つだけ置いてあるぞ。なるほど野郎2人は外に追いやってるんですか。

 

「はい。座りなよ」

 

 椅子が1つだけ、と思っていたが。アニはどこからかもう一つの椅子を持ってくると、はじめから置いてあった椅子に座りその横に置いた。

 お言葉に甘えて座ると、しばし無言の時間。下手に動くと伏兵に襲撃されかねないと黙りこくっていると、アニが沈黙を切り裂いた。

 

「ここは私のお気に入りの場所。誰にも見られず1人でボーッとするのにうってつけだから」

「確かにここは静かで空気も綺麗だから、何も考えずに居られるな。けどいつもここまで来てるの?」

「私が黙ってると、怒ってると勘違いされて面倒だからね」

「アニは悪くないよ。誰にだって喋りたくない時くらいある」

「あんたも?」

 

 アニの質問で考え込む。ありがたいことにオレの周りはいつも人で溢れてる。真面目に将来の夢を語り合う友人や、暴行してくる友人、一緒にバカやる友人や癒やしてくれる友人が。

 喋らなくても喋らされるという状況だし、じゃあアニみたいに人目のつかないところで黄昏れようにもフリーダと始祖様に呼び出される。あれ、オレのプライバシーなさすぎじゃないかな。

 

「どうだろう、オレはむしろ1人だと色々考え込んじゃうから。こうやって誰かと話してる時のほうが落ち着くかも」

「アルフレッドらしいね。私もあんたなら2人きりでも落ち着く」

「それは愛の......ごめんって」

 

 途中で茶化そうと思ったら普通に睨まれたよ。素直じゃないなぁアニちゃんは。

 

「アルフレッド、例えばの話をしてもいい?」

「どんな?」

 

 睨んできたかと思えば、急に空気感が変わるアニ。

 少し重たい雰囲気に身構えると、アニは俯いたまま例え話とやらをする。

 

「例えば。もしあんたが離れ離れになった家族のもとに帰るため、やりたくないことをやらされるとしたら......どうする?」

「......そうだなぁ......」

 

 え何。急に重。これオレの答え次第ではアニちゃんの今後の行動変わるんじゃないの。

 どうするって言われても。オレだったら自分が正しくないと思ったことならやらない、でどうにかこうにかしようとするけれど。その答えがアニのためになるのか。

 もうどうにでもなれ、だな。

 

「オレだったら間違っていると思ったらやらないで、どうにかして最善の結果になるよう足掻くかな。それが戦士だから」

「戦士」

 

 ピクリ、とアニの眉が動く。オレのことを観察するように目を細めるアニに笑いかけてから話を続ける。

 

「オレの名字、ガイスギーチには戦士っていう意味があるみたいでさ。家に伝わってる話だと、ご先祖様はとても勇敢で女神からその名を預かったとかなんとか。まあとにかく、この名字に恥じない為にオレは自分が正しいと思ったことのために戦い続けることを選ぶよ」

「その結果がどうなったとしても?」

「結果は誰にもわからないから。それでも自分が動くことで何かが変わるなら、オレはやるよ。戦士として」

「......戦士として、ね」

 

 アニが何を考えているのかはわからない。ただオレは、アニに人を殺してほしくない。彼女が全く殺しをしていないとは思っていないが、アニも女の子だから。血みどろな感じはよろしくないかと。

 静かにアニの反応を待つ。彼女はオレの言葉を聞いて考えることがあるのか、口を閉ざして目をつむる。ひょっとして寝たか? と思うくらいの時間が経過してから目を開き、目にかかった前髪を手でかき分けしっかりとオレの目を見て言った。

 

「参考になったよ。私ももっと、自分のために生きてみる」

「相談ならいくらでも乗らせてもらいますよ。可愛いアニちゃんのためなら」

「ふふっ。じゃあ、可愛い私のお願いも聞いてくれるの?」

 

 白い肌を月明かりに照らしながら、今まで見た中で一番穏やか。というよりは感情豊かな笑顔で冗談を飛ばしてくるアニ。

 おいおい、どうしたんだよアニちゃん。可愛すぎんだろお前。

 笑うと可愛いなっていうのはずっと思ってたけれど、年相応の少女みたいに笑われるとお兄さんギャップ萌えで心臓が飛び出ちゃうよ。戦士とか始祖奪還とか忘れて結婚しようぜ、アニ。座標の力とかいうのがほしいなら僕使えるらしいよ! でもフリーダの語彙力が壊滅的すぎてあんまり使い方理解できてないですけど!

 

「もちろんもちろん。アニのためならこのアルフレッド・ガイスギーチ、空を落とすことだってできますとも!」

「それができるんだったら私はあんたのことを尊敬するよ。今はただ、あんただけでも生き残ってくれたらそれでいい。あんたも大概死に急ぎ野郎だからね」

「僕は死にません! だからアニ、結婚しよう!」

「......馬鹿だね、アルフレッド。私にその資格はないよ」

 

 何かを小さく呟いてゆっくり腕を伸ばして来たアニは、ぽすんと優しくオレの胸に右拳を突き当てる。

 思い切りぶん殴られるかと思っていたので拍子抜けしたが、アニの瞳に若干の涙が浮かんでいることに気づく。アニもアニで、何かしら抱え込んでいるんだろう。アニだけじゃない、皆何かを心の奥にしまいこんでる。

 オレがその全てを解消できたらどんなにいいことかと思う。それだけの力があればと何度思ったことか。

 

「ねえ。あんたは本当に調査兵団に入るの?」

 

 自分の無力さを恨んでいると、椅子の上で体育座りの格好になったアニがオレを見上げながら聞いてくる。

 入るも何も、オレ的にはもう調査兵団以外の道が残されてないんですが。散々調査兵団に入りますアピールしておいて他に行くとかヤバいやつだろ。憲兵団はそもそも拒絶されてるから入りようがない。駐屯兵団もリコちゃんの部下以外は興味ないです。

 

「もちろんそのつもり」

「そう。じゃあ、私が調査兵団に入るって言ったら?」

「エ」

 

 アニの言葉に思わず固まってしまう。

 調査兵団にアニが? 確かにアニなら戦力になるだろうけど。でもアニは憲兵団を目指しているし、記録通りならそれには深い事情があるはずだ。

 いや、オレがフリーダから受け継いだそれにオレ自身が存在していなかった時点でもう当てにならないのかもしれないが。それでもわざわざ調査兵団に入るメリットは無いだろう。

 色々と考え込んでもどうしてアニがそんなことを言ったのかがわからなかった。諦めたオレはアニの肩に手を置いて、もしそうならと前置きをして覚悟を語る。

 

「何があっても、オレがアニを守る」

 

 しっかりと目を合わせて告げる。ちょっと保険をかけたりもしようとしたが、ここはきっぱりと言い切るのが紳士。

 せめて同期くらいは、という気持ちから出た言葉だが、アニは目を見開いてからいつもの笑顔を見せる。

 

「あんたに守られてばかりになるくらい、落ちぶれたつもりはないけどね」

「まあまあ。女の子を守るのが紳士の役目だから」

「自分で言う? まぁ、聞いておいてなんだけど調査兵団には入らないよ。今はまだその時じゃないし......そうだ。今からでも憲兵団を目指しなよ」

 

 名案、と言わんばかりの表情で言うアニ。ちょっとよくわからない。なにが『そうだ』なんだよ。何をひらめいてんだよ。

 

「なんでそうなったよ」

「私を守るんでしょ? 私はどうしても憲兵団に入らないといけない理由がある。それならアルフレッドが憲兵団に来ればいい」

「暴論すぎんだろそれ。いやアニを守るとは言ったけど、それは調査兵団に入ったらであって」

「憲兵団に入った女の子は守らないんだ。それがあんたの言う紳士なんだね」

 

 コイツ、急に元気になりやがったぞ!? しかもなんか怒られてる気がするんだけど。

 アニの目はなんだか生き生きとしていて、どこかで似たようなのを見たことがある。この目は......そうだ、ミカサがオレをぶん殴ろうとしたり尻を蹴飛ばしてる時の目だ。

 何故104期クール系代表のお二人は揃いも揃ってバイオレンス系女子なんだ。かたや物理、かたや精神で責めてくるなんて新しい扉が開いちゃいそうです。

 

「いやそういうことじゃないよ。でもほら、アニがどうしても憲兵団に入らないと駄目ならオレもどうしても調査兵団に入りたい理由があって」

「イルゼ・ラングナーだっけ。あの人が関係してるとか」

 

 体育座りから普通に座りなおしたアニは、目線を空に移して若干笑ったまま言う。

 完全にオレのことをからかってやがる。しかしオレがイルゼちゃん目当てで調査兵団に入団するような軽薄なやつだと思われてるのは心外だ。イルゼちゃんはオレが調査兵団に入団する理由の7割くらいだ!

 

「イルゼちゃんは関係な......くはないけど。でもそれだけじゃないんだってば」

「どうだろうね。あんたは私に散々あんなことを言っておいて、他の娘と仲良くするようなやつだから」

「それは、その。なんというか。アニのことはもちろん好きだ! けど、それはそうとしてイルゼちゃんも好きなんだよ!」

「アルフレッドの言う紳士ってのは、女の子1人を選ぶこともできない甲斐性なしなんだ」

「......ぐう」

「ぐうの音出てるよ」

 

 もう僕の負けです。いいじゃないか、女の子はみんな可愛い、みんな好きなんだよ。それがアルフレッド流紳士なんだよ。

 もとはといえばオレをこういうふうに教育したフリーダが悪い。父さんと母さんはオレが社交の場に出ても恥ずかしくないような教育をしてくれたけど、フリーダはとにかく女の子を大事にしろ、女の子はみんな繊細だ、とかそんなんばっかしだった。王家の思想ならぬフリーダの思想を植え付けられたんだ。

 

 オレをいじめて喜んでいるのか、口元を緩ませたアニの綺麗に整った横顔を見ながら言い訳を考える。そうこうしているうちにアニはオレの視線に気づいたのか、こちらに目を向けたかと思うと驚いた顔で近寄ってくる。

 

「あんた、目......」

「目?」

 

 まばたきして目にふれる。特になんともなっていない。

 いや、なんともなっていたのかもしれない。頭の中でフリーダが『やばいやばい!』とか『覗きすぎた!』とか騒いでる声が響いてる。始祖様の声はやっぱりしないけれど、呆れてるというのがなんとなくわかる。

 数回目をパチパチさせてみる。アニは訝しげな顔をしたあとに前のめりになっていた体をもとに戻した。

 

「いや、なんでもない。あんたの目が光ってるように見えたんだ。でも私の見間違いか」

「月の光で反射してたとかかな?」

「多分。......月が綺麗だね、アルフレッド」

「オレにとってはずっとそうだったよ。アニ」

 

 それに対しての返事はなかった。横目で見るアニは耳を真っ赤にして唇を尖らせ、地面に視線を向けて月など見てはいなかった。

 甘いな小娘。愛い奴よの小娘。結婚しよう。

 そのまましばらくの無言が続き、2人で消灯時間ギリギリになってから寮に戻った。

 もっと仲良くなれたのではと帰り際に『またねアニちゃん!』と言ってみたらとんでもない蹴りが飛んできたので、やはり乙女心とは難しいものだ。




現在公開可能な情報

アニ・レオンハートが見たアルフレッド・ガイスギーチの瞳は、彼本来の黒い瞳ではなく青色に鈍く光っていた。
アルフレッド・ガイスギーチがまばたきをしたことでもとに戻ったため、アニ・レオンハートは見間違いと片付けたが。実際はフリーダ・レイスが道を通じてアルフレッド・ガイスギーチとアニ・レオンハートが『なんか急に良い雰囲気になってんだけど!?』と様子を覗き見ることに熱中しすぎたあまり、道を通じて強い念を送ってしまったがためである。
瞳の色こそ違えど、始祖の巨人を継承した王家の人間が不戦の契りと相反する考えを持った際、初代レイス王の思想を送られている時も同様の現象が見られた。

デートする人

  • アニ
  • クリスタ(ヒストリア)
  • ミカサ
  • サシャ
  • ユミル
  • ミーナ
  • イルゼ
  • リコ
  • 憲兵団のお姉さん
  • フリーダ
  • ルース
  • キース教官
  • ライナー
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