あれから荒野を駆け抜けたオレたちは、日が暮れてしまったこともあり森の中で一夜を明かすことに。
手っ取り早く2つ焚き火を起こし、携帯型の鍋を火にかけ兵団の支給品であるスープを温める。主食はこちらも支給品の野戦糧食、かったくてパッサパサのパンだったものである。
パンだったものをかじり、温かいスープで流し込む。携帯することを目的としているため寮で出てくるものとは異なり、野菜がかなり小さく刻まれている。そのため野菜が溶けてとろみがあり、塩は貴重品なので味付けが煮込んだ野菜のうま味だけのスープ。
初見には訓練で疲れた後にこれかよとなるかもしれないが、慣れるとこれが美味しい。内地で生活していたときも質素な食事を主にしていたオレには食べ慣れた味だが、ジャンは未だにこの食事になれないのかよく文句をつけている。
「チッ、兵団の支給品は味気ねえな」
あぐらをかいて糧食をかじりながら言うジャン。味気ないのは認めるが、よく噛むことでうま味が出てくるしオレは割と好きなんだけどなぁ。乾燥しているから貴重な水分の消費が激しくなる、というところは微妙だけど。
「トカゲ捕まえておけばよかったですね」
「......もういい。トカゲはたくさんだ」
サシャが場を和ませようとしたのか、ジャンのトカゲ追いを茶化すようにして言う。ジャンはそれに少し気まずそうな返事をする。
そんな会話を聞き流してスープを啜る。隣にいるクリスタも同じようにスプーンを使ってスープを口に運ぶが、何か違和感があったのか『んっ』と声を漏らした。
「どうした?」
スープが熱かったのだろうかと思って聞くと、クリスタは口元を抑えながらふるふると頭を横にふる。
「大丈夫、スプーンにささくれがあったみたいで」
「見せてごらん」
スープの入った器を地面に置き、クリスタが口元を抑える手をどけて確認する。
う~んキレイな唇。プルッとしてハリと艶があって、桃色の健康的な唇で結構。口を開けてと言うと照れながらも小さく開いたので確認するが、傷はなさそうだった。
なんかちょっと、変な気持ちになってくる。それを抑え込むために今度はクリスタが使っていたスプーンを手にとって確認すると、中頃より少し奥の方にささくれが。野菜を一緒に食べようとスプーンを咥えたら本格的に刺さって危険だなぁと考えていると、クリスタがオレの肩を叩く。
「そんなにまじまじ見られると、ちょっと恥ずかしいから」
「ふふ、カワイイ! じゃなくて。危ないからオレの使う?」
「へっ!?」
思わず心の声が漏れてしまったが、クリスタにこのままささくれスプーンを使わせるのは気が引けるので自分のスプーンを差し出してみる。
顔を真っ赤にして目線を泳がせるクリスタのあわあわとする様子が大変可愛いのだが、ちょっとエレンとジャンが騒がしいな。
「やっ、でも。それって......どうしよう。お言葉に甘えようかな......いやいや、親切心で言ってくれてるのに私ってば変なこと考えて......う~」
ついには頭を抱え始めるクリスタ。オレの使ったスプーンがそんなに嫌だったのかな......ショック!
「巨人を狩ろうとするより現実的だろぉ?」
ジャンの小馬鹿にしたような声がする。そちらを見ると、2つの焚き火の間で背中合わせになっていたエレンとジャンが何やらまた争いそうな雰囲気が。
班長であるマルコ、アルミンとサシャはその状況に心配そうな険しい顔をして行く末を見守っている。コニーは食べることに夢中で気づいておらず、ミーナは近くにいるが涼し気な顔でスープを飲んでいた。
全く気づいてないコニーの図太さもすごいが、ミーナは本当に立派になった。入団式のときは豚小屋出身です! とか言わされて心が折れかけてたのにそれが効いたのか割と何があっても動じなくなっている。おどおどしたミーナも可愛かったが、今の彼女が本当に心配することがあると眉をハの字にして顔に出るところのギャップ萌えが凄まじい。
「お前それどういうことだ......? 何のために訓練兵団に来たんだッ!」
「少なくとも命を粗末にするためじゃあねえよ」
「なんだと!?」
君たちもう1周回って仲良しでしょ。なんでただ飯食ってるだけでそんなに喧嘩できるかな。
立ち上がり睨み合うエレンとジャン。マルコと彼の横にいるアルミンへと視線を移すと、この出来事をトラブルと捉えたアルミンが記録係としての仕事を全うしようとするのをマルコが止めていた。
「い、いいってアルミン! 食事中の雑談だから!」
マルコが記録しようとするアルミンを止めたのを確認すると、評価が下がることはないなと思ったのかジャンが更にエレンを煽る。それにエレンの熱が更に上がり、ついにはつかみ合いにまで発展した。
もうめんどい。あとそっちで勝手にやってくれよ。オレはクリスタとイチャイチャするもんねっ!
むさ苦しい争いから目を逸らしてオアシスを見ると、まだ迷っているようで一点を見つめながら考え込んでいた。
「クリスタ、遠慮しなくていいよ。器に口つければ飲めるから」
「......じ、じゃあ、フレディの使わせてもらうね。食べ終わったらちゃんと、洗って返すから」
「洗わなくてもいいよ。家宝にするから」
「え?」
「なんでもないなんでもない。はいどうぞ」
スプーンを手にし、持ち手をクリスタに向けて差し出す。クリスタは頷いた後にそれを受け取り、恐る恐るといった様子で自らのスープと野菜を掬ったあと、意を決したような顔でパクリと一口に頬張る。
ゆっくりスープを口から引き抜くその所作がやたら官能的に感じてしまいガン見していると、クリスタが咀嚼して飲み込んだ後に笑いかけてくる。
「美味しいねっ」
「それはよかった。焦らず食べてね」
あーマジ可愛い。どうしてこんなにも可愛いんだクリスタは。
クリスタとフリーダは異母姉妹でどちらも目麗しいのだが、2人の父親はチラっと見たことがあるけど子どもながらに小汚え小さいおっさんだなぁとか失礼なことを思った記憶しかない。たぶん若い時はイケイケだったのかもな。レイス家がそもそもヒストリアとフリーダ以外大して知らないんだけど。
隣で嬉しそうにスープを飲むクリスタを見ながら、オレは地面に置いた器を取ろうと上体をかがめる。その時だった。
「離せよ! 破けちまうだろうが!」
「テメェよりマシだこの野郎!」
互いにシャツをつかみ合っていたエレンとジャンが、押し合いの末にオレの近くまでやってきて。2人の足がオレの取ろうとしていたスープを蹴散らし、オレのブーツに降り掛かった。
「......あ」
誰かがそう声を漏らした時、我慢の限界に達して立ち上がる。
オレに気づかず言い合いを続けるエレンとジャン。2人の後頭部に手を置いて互いの頭をぶつけさせた後に、エレンの顔に拳を、ジャンの顔には回し蹴りを叩き込む。アニが対人格闘術の訓練でよくやってくる一連の動作だが、決まるとすごいスッキリする。
「ってぇなぁ!」
「何すんだよ!」
仲良く吹き飛んだが頭に血が上りきっている2人はまだ自分が何をしたのかわかっていないようで、額と頬を赤くしながら威勢よく吠える。それもオレの顔を見た瞬間に静かになるが、それで終わりにするほど甘い人間になったつもりはない。
「いい加減にしろッ!」
腹から声を出して一喝すると、その声量に驚いたのかエレンとジャンは体を跳ねさせる。馬たちも驚いたのか耳を立てているのでそちらには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
しかしこんな大声を出したのは久しぶりなので頭が若干クラクラする。ただ、スープも台無しにされてもう堪忍袋の緒が切れた。
「さっきから黙って聞いてればくっだらないことで言い争ってばかりで、お前ら2人は何をやっているんだ。こんなガキが巨人を駆逐できると、憲兵団で内地に行けると本気で思っているのか!?」
正直、もう見てられない。いつまで経っても兵士としての自覚を持てていないエレンとジャンにはキツく言っておかなければならない。
しかしオレの言い方に文句があるのか、エレンが反論しようと口を開いた。
「俺は」
「黙れよエレン。お前が巨人を駆逐して壁の外を知りたいのは結構だ、そしてその気持ちはオレもわかる。だが、いつまでもそんな調子じゃお前はそうそうに巨人の餌だぞ。何も怒るなと言ってるわけじゃない、冷静になれと言っているんだ。いっときの感情にまかせていたら、いつかお前もお前の仲間も死ぬ」
厳しいことを言うようだが、今のオレたちは訓練中で兵士だ。2年間の訓練で未だに精神面に成長が見られないようなガキに容赦する必要はない。
それはジャンも同じだ。
「ジャン、何度も言うが訓練は遊びじゃないし憲兵団に入ることがゴールじゃない。そうやって団体行動を乱し人のことを小馬鹿にするような態度ばかり取るようなやつはどの兵団からも必要とされない、ただの使い捨ての駒にしかなれないぞ」
説教されたことで、エレンとジャンは顔を下に向けて黙り込む。オレなりに全ての訓練に真面目に取り組んできたためかお前だってという反論が飛んでくることはなかった。
焚き火がパチパチと燃える音のみの時間が数秒続き、エレンがオレの足元に視線を動かして呟く。
「......悪い」
「違うだろ」
不貞腐れたように言うエレンに対して、間髪入れず声を上げる。エレンとジャンのみならず、班の全員が驚きの顔をしているが今日のオレはここでは止まれない。
スープのかかったブーツを指差しながらお説教を続ける。
「その態度は何なんだよ、正座だ。見ろ、お前ら2人は班の規律を乱しただけにとどまらず、くだらない言い争いでオレたち訓練兵に充てられた貴重な食料を無駄にした。壁が破壊されてから時間が経ったが、未だ一部の民衆は飢えを耐え忍ぶ生活を送っている。にも関わらずオレたちが食事できているのは何故か。考えたことがあるのかッ!」
ただ騒ぎを起こしただけならマルコに任せようと思っていたが、食べ物の恨みは恐ろしい。人々が知恵を出し合い、言いたくはないが王政の無茶な奪還作戦で人口が減ったことで今生きている人間の食べ分は多少確保できている。それでも苦しんでいる人が居るのにオレたち訓練兵が毎日三食食べられているのは、人類を守る立派な兵士となれることを期待されているからだ。
そんな期待を裏切ってばかりいる2人には正直失望した。というオレの気持ちが伝わったのか、エレンとジャンは正座し同じタイミングで謝罪の言葉を口にした。
「すまなかった」
「申し訳ない」
本当はまだ言いたいことがあるのだが、マルコの流石にもう許すよね? という視線にため息をついて諦める。
「明日もこの訓練は続く。その時に2人が人類を守る兵士である自覚、班の為に行動する冷静さと仲間を助けるためには何があっても屈しないという覚悟を見せてくれ」
オレの言葉に頷くエレンとジャン。それを確認してから、マルコとアルミンの方に顔を向ける。
「アルミン、今の出来事はしっかり記録してほしい。エレンとジャンの小競り合いはもちろん、オレが2人殴ったところまでを。その先は食事中の雑談として流してくれ」
「う、うん。わかったよ」
「それからマルコ、君もだ。衝突を避けてばかりではいけない」
「......わかった」
一通り言いたいことは言えたので、大人しくクリスタの横に戻る。道中コニーとサシャ、ミーナからとてつもない尊敬の念を向けられた気がするが悪い気はしないですね。
元いた場所に腰掛けて戦闘糧食をかじると、クリスタが優しい顔でこちらを見ていた。
「お疲れ様」
「うん? ああ、ごめん。みっともないところを見せたね」
恥ずかしくなってしまい笑って誤魔化すが、クリスタの目はオレを捉えて離さなかった。
「そんなことないよ。あの2人喧嘩を始めたらこの場で止めに入れる人は居ないから、すごく頼りになった。ありがとう」
「クリスタに感謝されるようなことかな?」
「ああいう雰囲気は苦手だから。それにフレディの新しいところが知れたのも嬉しかったよ」
からかう気持ちなど一切感じられない、純粋無垢なクリスタの笑顔に心が洗われるう。
けどオレもさっきは感情的になっていたから、冷静になれとか言っていた手前あとになってから恥ずかしさが出てきてしまう。
頬を指でかいていると、クリスタが顔を覗き込んでくる。
「ユミルに言ったら羨ましがるかもね、フレディがエレンとジャンにお説教してたよって。班が発表された時、絶対おもしろいこと起きるのに! って、すっごい悔しがってたし」
「ほんと快楽主義者だなユミルって。もしこの場に居たら卒業してもずっとからかわれ続ける未来が見えるよ」
「確かに。皆で美味しいご飯を食べながら、今日のことも思い出として笑い話になったらいいな......」
それに同意して糧食をまた一口かじる。スープが無いので水分を奪われてむせると、クリスタがスープの入ったスプーンを差し出してくる。
「はい。食べて」
「ふぇも、ほれふりふたの......」
「フレディと一緒に食べたいから。それに私の乾パンはあと少しだけだし、2人で食べても足りるよ。ね?」
女神だ。翼と後光が見えるが、これは幻覚でもなんでもない、紛れもない事実だ。
サシャにパンをあげた時のオレはこう見えていたのかな。だとしたらあれだけ懐いてくれるのも納得。オレがそれやられたら普通に惚れちゃうもん。
「ありあお」
「どういたしまして」
礼を言ってからスープを食べる。糧食とスープの質素な甘みが合わさり美味しさが上がる。これはクリスタ成分も感じますねえ、実に味わい深い最高だ!
「ふふっ」
直後にクリスタは、やけに嬉しそうな顔でスープを掬って口に運ぶ。その笑顔にまた惚れ直してしまう結婚しようそうしよう。
食事を終えたオレは一足先に口を濯いで歯を磨き、近くの川辺でブーツを洗ってから寝袋を広げる。エレンを殴ったからミカサに半殺しにされるだろうなぁという恐怖から逃げるためには、フリーダと始祖様とおしゃべりするしかないんです。
しかし、1日がかりの訓練になるとはなぁ。汗を完璧に流せないのは毎日シャワーを浴びたい派の人間としては嫌だが、どうしてか女の子たちは常にいい匂いなんだから不思議だ。お花みたいな甘いような爽やかなような匂いが、汗の匂いと混じってちょっといけない香りになるので心臓に悪い。
あんなにも可愛いクリスタからもフェロモン的な何かが醸し出されるので煩悩が浮いてくるが、フリーダからヒストリアのことをスケベな目で見るのは駄目だと言われているので明日の訓練はより一層気を引き締めよう。
フリーダいわくまだ子どもだから駄目らしいので、ヒストリアさんを幸せにします。どうか僕との結婚を認めてください! ってフリーダに言う準備しとかないと。あーあ、親御さんに挨拶したい魅力的な女性が多くて大変だぜ!
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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サシャ
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ユミル
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ミーナ
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イルゼ
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リコ
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憲兵団のお姉さん
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フリーダ
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ルース
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キース教官
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ライナー