長距離移動の訓練から数日経った。
窃盗団の出現、それによりクリスタと立体機動装置が奪われるという最悪の事態に一時はどうなることかと思われたが、死傷者なく取り戻せたため今では笑い話となっている。しかも窃盗団の引き取りにやってきた憲兵団が、幼少期に仲良くしていたご近所さんだったので驚きだ。向こうも驚いてたけど、積もる話はお手紙でということで絶賛文通中。
調査兵団、駐屯兵団、憲兵団のお姉さん方と文通する訓練兵とかここトロスト区以外の104期生どころか今まで居なかったのではないだろうか。モテ男は辛いぜ。
それはさておき、記録係のアルミンがキース教官に窃盗団とのいざこざを報告する時にオレたち第1班は気が気でなかった。大切な立体機動装置を奪われるだけにとどまらず、仲間まで人質にされるとはどういうことか! と走らされるんだろうなぁと考えていたからだ。
実際、深刻そうな顔をしたアルミンの口から全員揃って教官室に呼び出しと言われた時は皆の顔が死んだが、渋い顔のキース教官から
「良くやった。困難に立ち向かうその勇気こそ、兵士にとって必要不可欠だ」
とお褒めの言葉をいただいただけなのでよかった。
いや、そうならもっとにこやかな顔しとけよハゲジジイとは思ったけど。まあ彼の苦労を考えると仕方ないか。
オレたち第1班の窃盗団騒動は104期の中で広まったらしく、やけに尊敬の目を向けられることが増えたが......オレが爆睡しすぎて起きるの遅れたからクリスタも立体機動装置も攫われたわけで。その辺りがあるから素直には喜べない。でも他の皆が立派だったのでお兄さんは鼻が高いです。
それに、ああいった経験があるからオレたちの仲は更に深まったと思う。ジャンとエレンが小競り合いをすることが減ったし。無くなったわけじゃなくて減っただけだけど。
あとはやはり、彼女。クリスタがオレの近くに居る時間が長くなった。今もまさに、食後に食堂すぐ横のベンチで夜風に当たるオレの真横に座っている。
「どうしたの?」
長い金髪を風に揺らしながら目を細めていたクリスタをガン見していると、視線に気付いた彼女が首をかしげ優しい顔をする。
言動全てに可愛いが集約されている。やはりクリスタは美しい、そして可愛い。名字お揃いにしよ。
「いやぁクリスタも変わったなって。良い意味だよもちろん、自信があって好きだなと」
「またそういうこと言う。フレディが危ないから変わらなきゃ、って思ったんだけど?」
「スゥ......ありがとう」
「うん、正解」
ニカッと歯を見せて笑うクリスタに今日も幾千もの魂が浄土に帰りました。
今のところで謝罪したら多分だけど『違うだろォ!』って怒られてたな。そんなクリスタ想像できないしヒストリアもやらなかったけど。
というかもうクリスタのことをヒストリアって呼びそうになって最近危ない。見た目が同じでも、まだ言動が違ったからヒストリアではなくクリスタと呼び分けることができたのだが。言動が同じだとうっかり口を滑らせそうで不安で仕方ない。
こうして2人で話している時にヒストリアなだけで、普段はちゃんとクリスタやってるから人前でなら大丈夫なはず。でもヒストリアが心を開いてくれたようで嬉しいことに変わりない。
仲良くなるまで2年かかったが、すぐに心を開かれると逆に不安なので安心した。と同時にオレのことちゃんと忘れてるんだな、と寂しい気持ちにもなったけど。
「な~にやってんだぁ~フレディ?」
「グエ」
突如後ろから首をホールドされる。若干かすれたような低い声とこの長い腕に背中に感じる感触は間違いない、そばかすユミルだ!
「ぐるじぃよお~」
「相変わらずいいリアクションしてくれるじゃねえか」
「ちょっとユミル、可哀想だよ」
ギャハハと笑いながら頭を撫でくりまわしてくるユミル。
クリスタあるところにユミルあり、という感じだったが、窃盗団騒動の後からユミル単独でオレに絡んでくることが増えたと思う。しかも接し方が完全に犬かなんかと同じだ、悪い気はしない正直に。
ユミルはあの訓練をオレたちよりも先に終えていたため兵舎で待機となっていたが、窃盗団の件をどこからか仕入れたようで帰ってきた時には大層心配してくれた。クリスタだけじゃなくてオレも心配してくれた時は惚れた。
「しっかしよくやったよなあ? ここ数日はお前たちのお陰で対人格闘術の訓練に真面目に取り組む訓練兵が増えた、とか教官も喜んでたぜ」
オレの首を離したユミルは、代わりに腕を肩にまわしてきて横に座る。
どういうわけかユミルはやけに肩を組みたがる性格のようで、オレも初めはされるがままだったが今となっては肩を組み返すこともある。
いつもひょうひょうとしているユミルをなんとか赤面させて乙女チックな顔を見てみたいが、逆にオレが赤面させられる気がするので難しいな。一番ユミルに似合うのは豪快に笑う笑顔だが、それが出るのが基本的にオレかクリスタをからかっている時なのがなんとも。
「相変わらずどこで知るんだって情報を仕入れてくるなユミルは」
「皆が訓練に真面目になったのは嬉しいことだね。でも、私の横にはまだ真面目にやらない人が居るんだけど」
「本当だ。おいフレディ、クリスタを困らせるなよ」
「いやお前だろ!」
対人格闘術をサボることに関してはトップクラスの成績であるユミルに、サボり魔という認定を受けたことで即座に反論する。
やっぱりユミルはオレをからかうのが好きなようで、満足げに口を開いて笑っている。
喜んでもらえるなら何よりだぜ。クリスタもオレとユミルの絡みを見るのが好きとか言ってたし、現に笑うのをプルプル震えながら我慢してる。笑えよ、クリスタ。
「っふ、仲良しだよね、ユミルとフレディって。お互い遠慮ないっていうか」
「まあ仲良しじゃなかったらこんなことしてないからな。オラオラ姉ちゃん、いい体してんねぇ」
「おい、私だって一応女だぞフレディ? 大体てめえのほうがいい体してんじゃねえか」
「イヤンッ!?」
組んだ肩を強く寄せてみると、ユミルはニヤリと笑いオレの尻を鷲掴みにしてくる。
コイツ遠慮も容赦もねぇよ......少しは恥ずかしがれよ! ミカサに蹴られユミルに鷲掴みにされ、オレの尻が可愛そうじゃねえか!
さっきまではオレがユミルにセクハラする側だったのに、今となっては立場が逆転してしちまった。肩を組まれることはあってもこんなに密着することは最近までなかったから気づかなかったが、こいつ本当にスタイルいいんだよな。身長と比較しても手足長くてすらっとしてるし、何よりも母性の象徴がデカい。非常に捗る。
104期生お尻部門とくびれ部門はアニが圧倒的だが、お胸部門は中々悩ましくなってきた。アニももちろん候補者だが、サシャとユミルとは一歩差があるように思われる。加えて柔らかさを考慮した時、今オレの右胸に感じているユミルのお胸と、抱きつかれたときに感じるサシャのお胸が素晴らしいったらありゃしない。
ここに来てダークホース登場か......サシャかユミル。非常に難しい好カードとなりました。104期生ではなくオレが出会ってきた女性に幅を広げればお胸部門は圧倒的にフリーダなんだが。
「お前失礼なこと考えてるだろ?」
「ええ? まさか。それよりもユミル、そろそろお尻を揉むのはやめてくれ」
「いいだろ減るもんじゃねえし。お互い様だよなぁ?」
「はい。助かります」
クッ! オレとしたことが尻派なのに、押し付けられたユミルのお胸に思わず頷いてしまった!
胸当ててやるから代わりに尻触らせろって、もうそれ発想がエロオヤジじゃねえかよ。耳元で囁かれるのくすぐったくて苦手だから変な反応になっちゃうじゃん。右隣でスケベにセクハラされて、左隣で気付いてないクリスタが『仲良しだね』とか言ってすっごい笑顔なのに光と闇、陰と陽、スケベと純粋の対比を生み出してます。
「何やってんの?」
ふと顔を上げると、お尻部門最優秀者。アニが手で前髪を横に流しながら歩いてくる。
若干息が切れているようだが走ってきたのだろうか。ともかく、アニのおかげでユミルの尻揉みから開放されたので感謝だ。
「ありがとうアニ」
「え? なんかしたっけ......隣、失礼するよ」
「う、うん」
そのままクリスタの横に座るアニ。
彼女も窃盗団騒動の後から変わったなと思う。クリスタと同じように、気付いたら近くに居るようになったというか。朝すれ違うときにアニから『おはよう』と一言もらった時は誇張なしで涙が出た。そして引かれた。
「今日もクリスタの対抗心が燃えてるな。お前は有罪だフレディ」
「なんの罪だよ。オレはユミルのことをセクハラで訴えたいんだが」
「そいつは勘弁してくれ。お前も私も役得ぐらいあっていいだろ」
オレのお尻を揉むことを役得だと思ってんのかコイツ。ユミルが女性で良かったとしか言えない。
にしてもクリスタの対抗心ね。確かにクリスタはアニのことを意識しているような気がするが、アニはあまり気にしてないんだろうか?
クリスタとアニへ視線を向ける。クリスタは唇をぎゅっと閉じてアニのことを凝視しており、アニは無表情のまま足を組んで座っている。
例えるならばなんだろう。お兄ちゃんを取られそうで焦ってる妹? いや、流石にそれは自惚れすぎか。でも一度そう考えたらそれにしか見えなくなってきた、見てるだけで微笑ましいところとか。
「えっ、と。アニはどうしたの? 何かあった?」
「アルフレッドを探してたんだよ。食堂にも居なかったし」
「ふ、フレディを? じゃあ晩ごはんはまだなの?」
「いや、急いで食べたよ。クリスタたちと居るなら良かった」
「へ、へぇ~?」
ガッツリ意識してるなクリスタ、アニに対してやけに身構えてる。
そこが可愛らしい。さっきから危ない感じの笑い声が後ろから聞こえてくるあたりユミルも同意見なんだろう。
「フレディなら大丈夫だよ。私が居るし」
「それは安心だね。誰かに襲撃されない限りは」
「む、私だって人ひとりくらい守れるよ。兵士だもん」
「格闘術ができたほうが安心だと思うけど」
前言撤回。アニもクリスタのことバチバチに意識してるわ。
これはあれだな。ペットのお散歩をどっちがやるかで争う姉妹だな。オレはユミルの犬でありアニとクリスタの犬でもあるのか......人権はどこへ。
いかん、2人の交差する目線の間に稲妻が走ってる。巨人化しちゃ駄目ですよ。
「それで、お前は何しに来たんだ? アニがただ仲良くおしゃべり、っつー訳じゃないだろ?」
「いや、アニもおしゃべりくらいするよ......」
ナイスだユミル! と言いたいところだが、一言多いです。アニも女の子だからおしゃべりはするだろうに。
幸いにもアニはなんとも思っていないようで『ああ』と声を出して要件を思い出したのか、オレの顔を見ながら言ってくる。
「今度、雪山踏破訓練が開催される。やり遂げれば評価は高く付くけど、最初っから調査兵団志望のアルフレッドはどうするかと思って」
「雪山かぁ」
面白そうではあるが、何もわざわざ無理してまで参加する必要があるのかは疑問だ。そもそも今の時期に訓練になるほどの雪山となると、近場かどうかも怪しい。
が、だからといって残っても普段通りの訓練をやるだけだ。アニは憲兵団に入る為にもちろん参加するだろうし、クリスタには自由参加という概念無いから参加、するとユミルもついていく。その他の調査兵団志望を公言してる人たちもやる気に溢れてるから参加すると、つまりオレはボッチになる。
これは行かないとさみしい思いをするやつだ。慣れない環境下でしんどいだろうが、普段と違う訓練をすることで疲労が溜まってもリフレッシュにはなるだろう。調査兵団志望なら尚更やるべきな気がしてきた。先輩方はどうしたか今日書く手紙で聞いてみようかな。
それにこれはアニからのお誘いだと考えていいのではなかろうか? 雪山を無事に踏破したら結婚してくれ。
「参加しようかな。何事もやってみるべきだし。でもごめん、オレ訓練の詳細聞き流してた」
「そんなに難しいものじゃあないね。詳細は出てないけど、3人1組とは言ってた」
「さ、3人1組......」
クリスタがこの世の終わりかのような顔をしているが、3人1組か。
アニは多分オレのことを誘う気満々だし、となると残りの1人をこの場で決めるならクリスタかユミルか、となる。クリスタが参加するならユミルは同じ班になりたいだろうし、クリスタも同じだろう。どうするべきか。
なるべく要望を叶えてあげたいのに相変わらず1つしかないこの身体に不満が出てくるが、今回は先に話を持ちかけてくれたアニの班に参加するか。これで『いや私はもう残りの2人決まってるけど』とか言われたらクリスタに泣きつく。
「じゃあアニ、よければオレと組まないか? せっかく聞きに来てくれたから」
「いいよ。あんたが参加するなら誘おうと思ってたんだ」
危ねえ、涙回避。
オレが泣くことは避けられたが、クリスタが口をへの字にして不貞腐れてる気がする。私のフレディとか物騒な言葉が聞こえたけど流そう。ユミルに押し付けよう。
「ユミルはどうするんだ?」
「私はクリスタがやるならやる。まあフレディが居ないんじゃあ変に3人組よりもクリスタと2人のほうがいいんだけどな」
「やるよ私は! 雪山くらいどうってことない!」
「おっ! 気合入ってるねえフレディ?」
「そこでオレに投げるな」
クリスタはお前と違っていつでも気合バッチリで訓練に取り組んでるだろうが。
しかしオレとアニと、後1人は誰かな。参加する意思だけ出しとけば人数を集めなくても当日勝手に決めてくれるだろうけど、やっぱり信頼できる人がいいな。ミーナかルースかだとアニも納得するだろう。
駄目な人選の例を上げるならベルトルト・フーバーだとオレは多分暗殺される。あいつのオレを見る目は完全に狂気と殺意を孕んでる、特にアニと居る時はヤバすぎる。アニも気付いてるっぽいけど。
あとライナーも駄目だな。あいつも最近は何考えてんのかわかんねえよ。オレのお尻を狙ってんのかってくらい情熱的な目で見てくることがあるが、生憎オレはそっちの気はない。あのクソ筋肉ダルマがクリスタに欲情したら殺す。
「後の1人、アニは誰かいい人いる?」
迷ったら相談。そのつもりでアニに話を振った時、またひとり人が増えていることに気付いた。
「ミカサ?」
アニが自らの横に立つ少女の名前を呼ぶ。いつもの赤いマフラーを装備したケツ蹴り大好きさんことミカサが、興味深そうな顔でオレたちのことを見ていた。
「その1人、私がなっても?」
「え?」
「え?」
急な提案に驚くオレ。少し遅れて同じ反応をするアニ。
3人1組でミカサが? エレンとアルミンも参加するだろうに、何故オレとアニのところに?
思わず勘ぐってしまったが、顔を見合わせたオレたちはとりあえず『よろしく』という返事だけをする。ミカサは頷いたあとにすぐこの場を去り、ますます謎が深まるばかり。
まあ、当日には忘れててエレンたちと組んでるだろ! と呑気にオレたち4人は世間話をするのだった、
現在公開可能な情報
憲兵団のお姉さん:イーリス・ハイゼンベルク
年齢:25
身長:160cm
体重:未記載
容姿:茶髪を一本に束ね細身でほんわかした雰囲気の顔立ち
性格:アルフレッド・ガイスギーチに言わせれば能ある鷹は爪を隠すを体現した性格。憲兵団としての彼女は大変立派で志を持った優秀な人材だが、その内にはギャップ関係なしにドン引きするほどのものを秘めている。幼少期のアルフレッド・ガイスギーチや歳の離れた妹に叱られて幼児退行を起こす変態。
実家はヤルケル区ガイスギーチ家の近くにあり、家族ぐるみで付き合いがあった。アルフレッド・ガイスギーチが物心ついた頃には訓練兵団に入団し、本人曰く次席で卒業。すぐさま憲兵団に入団し、実家に帰ってきては幼いアルフレッド・ガイスギーチと遊ぶことを生き甲斐としていた。
仕事熱心故か本人の性癖か、小さな子どもにバブみなるものを感じて幼児退行することを出戻りと表現し、家族とガイスギーチ家にはそれを公言している。フリーダ・レイスほどはアルフレッド・ガイスギーチと接触する機会がなかったものの、その密度故に印象深く彼の記憶に刻まれた。
訓練兵団卒業後も立体機動装置を完璧に使いこなせる数少ない憲兵団、というなんとも言い難い評価を受けており、彼女が警備を担当するエリアからの信頼は厚い。
また、温情深いが容赦はないという一面もあり、アルフレッド・ガイスギーチたち第1班を襲った窃盗団のうち、発砲した男は問答無用で開拓地での強制労働にすべきと言い放った一方で、数名はウォール・マリア出身の難民でありやむを得ない事情と今回の件は未遂に終わったということを考慮し監視付きでウォール・ローゼでの職を与えるべきだと進言した。
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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サシャ
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ユミル
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ミーナ
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イルゼ
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リコ
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憲兵団のお姉さん
-
フリーダ
-
ルース
-
キース教官
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ライナー