昼を過ぎ夕方前。オレたちは当初の予定通り、入山口からもっとも近い山小屋まであと少しだ。
この3人ならペースを上げれば更に先へと進めただろうが、雪山踏破訓練の主目的は走力ではないためなるべく落ち着いて進むようにしている。道中、調査兵団員を追加で3名発見したのだが、やはりアニとミカサが居ると大船に乗ったつもりでいられるので非常に楽だ。
余計なことを考えなくてもいい、というのか。こちらの意図をすぐに理解してくれるのでやりやすいったらありゃしない。まるで自分が班長に向いているのではと錯覚してしまうほどだ。
ちなみにイルゼちゃんはまだ見つけられていない。おそらくだが彼女の性格からして中頃か終盤にかけての位置に潜伏しているだろう。いや最終盤だな。お疲れ様を言うことを狙ってそう。
「着いたね」
内部の温度が逃げないようにするためか、山小屋は大きな1つではなく、小さなものがいくつか並んでいる形。それらの前まで到達すると、アニが一番に口を開く。疲れが溜まっているのだろうと顔を見ると、白い息を吐くいつもの気だるげな顔が。
どちらかというと肉体的疲労よりも、同じような景色が続くことにたいしての精神的疲労のほうが大きそうに見える。そういえば前日によく眠れなかった、とも言っていたから早く休憩しよう。
先頭に居るオレは適当な小屋の引き戸に近づき、手をかける。すこし開いたところで中から話し声が聞こえ、一瞬だけ扉を引く手を止めて耳を澄ます。
きゃぴきゃぴとした女性の話し声だ。なんか『雪が全部お肉だったら幸せなのにー!』とか聞こえるぞ。これ誰かわかるな。
「どうしたの?」
オレがいつまでも扉を開かないことを不審に思ったのか、ミカサが近づいてくる。目線で扉の向こう側に人がいることを訴えると、彼女は扉に耳を当て、続いて隙間から中を除いて頷く。
話し声的に女性3人だけ。1人ならばラッキースケベを狙いたいところだが紳士として踏みとどまったが、ミカサからゴーサインが出たのでゆっくりと戸を引く。
「あれ? フレディたちだ」
戸を引いて先に目があったのは黒い髪をポニーテールにした少女、ルース・D・クライン。やほーと手を上げたので、それに手を上げ返してから更に戸を引き、レディファースト精神で後ろに居るミカサとアニを先に小屋の中へと入らせ、オレも2人が室内に入った後に続いて雪をほろってから足を踏み入れる。
内装は至ってシンプル。真ん中には2列に並んで談笑程度なら出来そうなスペースがあり、両横にはもっぱら睡眠用に作られたであろう2段ベッドのようなスペース。しっかりカーテンもあるので最低限のプライバシーは守られそうだ。
しかしこの空間幸せすぎる。美少女が5人とか何この天国。アニとミカサと、サシャとルースに......ん?
「あなたは誰?」
ミカサの一言で場が凍りつく。
いや、オレも一瞬思ったよ。あれ? って。でも普通に考えたらサシャの班だからああ彼女か、ってなるんだよ。そこで踏みとどまれるんだよ。なんならアニは兵舎で同室だからか疑問にも思わなかったみたいだし。
それを誰? って直球で聞いちゃうミカサ、さすがアッカーマン。力の代償に遠慮を失ったのか君。
「えぇ!? 酷くない!?」
誰? とミカサに言われた人物。髪をおろしたミーナは大きく口を開けて驚く。その後に視線をアニとオレに向けてきたので、隣に居るアニとアイコンタクトを取り、互いに彼女がミーナであると気付いてるのを確認してから頷く。おーおー、泣きそうな顔で喜んでらぁ。
「サシャの班に居たのはルースとミーナのはず。ミーナはどこ?」
「目の前にいるよ!」
「......? あなたはミーナじゃない。サシャ、ミーナ出身地に戻った?」
「いや私が! 正真正銘、豚小屋出身の家畜以下のメス豚ミーナ・カロライナですゥ!!」
おいおい、メス豚が増えとるやんけ。可愛い女の子が涙目でメス豚です! とか言ってるのちょっと来るから止めてほしい。
「グフッ」
「最低」
急に脇腹を襲った抉るような衝撃で息が漏れる。その方向では肘を斜め下に振り下ろしたアニが半泣き状態のミーナを見ながら冷たい言葉を放った。
うん。最低っていうのは、きっとエレンに夢中でミーナの顔を覚えてなかったミカサに言ったんだな! オレの良からぬ妄想に対してじゃない! そのハズだ!
「ハッ、ほら! これ!」
しばらくの間、私がミーナだ、いやあなたはミーナじゃない、という押し問答を繰り返していた2人。そこでミーナが思い出したような顔で垂らした髪の毛を左右両手で握るように掴み、お下げ髪を簡易的に再現した。
「......ミーナ、いつの間に」
「何を見てたのよぉミカサの馬鹿!」
「あなたは誰?」
「もぉ~~~ッ!!」
お下げとなったミーナを見て、真剣に驚いた顔をするミカサ。それにミーナが髪の毛を握る手を離して上下に振り、ぷんぷんと抗議するとまた無表情になって誰? と聞くミカサ。
あかんこれ、この2人面白すぎる。からかう側になることはあってもからかわれることがなかったミーナが、まさかイジられるとこんなにもいい反応を見せてくれるとは思わなかった。
サシャとルースはお腹を抱えて笑っているが、横目で見るアニも顔をそむけて小さく震えている。
ミーナは言葉遣いからして育ちが良さそうだし、実は意外とクリスタよりも小柄だから、ミカサからしたらしっかりものの妹くらいの感覚があるからイジりやすいのかな。同じ黒髪黒目だし。あれ、そうだとしたら黒髪黒目で尻をぶっ叩かれたり蹴られたりしてるオレは何だろう。ミーナが妹分ならお兄ちゃん扱いしてくれてもいいんじゃね?
「そのへんにしといてあげようミカサ。ミーナの精神がもう持たないと思う」
「そう。ミーナ、次からややこしいことは止めて」
「あ、私が悪いんだ......あはは。豚は豚なりに気付いてもらえるようにしないと......」
違う、これミカサのイジリじゃなくて真面目に気付けなかったから注意してるわ。アッカーマンは人間のことを輪郭で判断してんのか。
サシャとルースのことを認識できたのは普段の髪型だから、と考えれば辻褄が合う。じゃあ何だ、フード被ってる状態だったら誰が誰とかわからないのかな。エレン以外。
「ミーナ、あんたは悪くないよ。あの猛獣が人間として大切なものを荒野に置いてきただけだから」
「アニ......!」
「これは珍しいですねぇ。アニが優しく声をかけてますよ」
「私は結構見慣れたやつだよ」
力なく座り込むミーナのそばに寄り、屈んで肩に手をおいて優しく言うアニ。サシャは物珍しそうに見ていたが、同室故かルースはアニの優しい一面をしっかりと知っている。
それよりもオレは屈んだアニのお尻にしか目がいかないよ。コート越しでもわかる素晴らしいライン、やはりアニのお尻は至高だ。
顎を触りながらミーナとアニの仲良し具合を見つめ。そしてこの部屋の空気を肺いっぱいに取り込んでいると、ミカサとサシャが近づいてくる。
「フレディ、この後の予定は?」
「まずは腹ごしらえかな。そろそろ日も沈むし、ここで一泊するつもり」
「私たちと同じですね! でしたら、夕飯は一緒にどうですか?」
「それは嬉しい提案だ。情報交換もしようか」
アニと共にミーナをなだめるのに参加したルースは、パチパチと右目でウインクしてまだ時間が掛かりそうだと教えてくれる。まだ日が落ちるまで時間はあるし、夕食を急ぐ必要もないな。
ひとまず日が完全に沈んでから少ししたら眠りにつくくらいの気持ちでいよう。明日は日が出てくると同時に目覚め、準備してあたりがしっかり明るくなってから活動を始めたい。それも山のスペシャリストであるサシャに意見を仰いでみようか。
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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サシャ
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ユミル
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ミーナ
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イルゼ
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リコ
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憲兵団のお姉さん
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フリーダ
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ルース
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キース教官
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ライナー