オレは強い。ので、色々頑張る   作:ばるす

23 / 42
14+α.チカラ

「おはよう」

 

 その声でオレの身体は寝袋の僅かな窮屈さから開放される。背中の感触も寝袋と小屋の申し訳程度なマットレスから、妙にフカフカなものになる。

 目を開けると、これをかけてきた人物。フリーダが長髪を垂らしてオレの顔を覗き込み、豪快に笑っている。その横にはいつもどおり幸薄そうな表情の始祖様ことユミルちゃんが。

 

「寝て僅か数秒の内に起こされるとは思わなんだ」

「いつものことでしょ」

 

 笑いながら手を差し出してくるフリーダ。その手を取って起き上がり、伸びをする。

 今頃現実世界のオレはおねんね中だ。やはり身体のダルさは感じないが、あまりにも頻繁かつ長時間この道に居ると、現実世界との区別があやふやになっておかしくなりそう。そうなったらフリーダとユミルちゃんになんとかしてもらおう。

 

 ちなみにユミルちゃん呼びは本人から了承を得ているので、不敬だからといって〆られることはない。始祖様と呼ぶたびに少し寂しそうな表情をするので、死を覚悟で呼んでみたら思いの外喜んでくれたのだ。

 まだそこまで仲が深まっていなかった時にもユミルちゃん呼びしたことがあるが、その時は自分の威厳を示すためかまばゆい光と共に大人の姿になったな。美人すぎスタイル良すぎで微笑みを浮かべる超綺麗なダイナマイトボデーお姉さんにフリーダと2人揃って大興奮したらドン引きされ、すぐにいつもの姿に戻ったけど。

 あの姿は言ってしまえば奴隷時代の姿だろうし、ただの女の子だった今の姿のほうが本人的には気が楽なのかもしれない。それはそれとしてべっぴんすぎるので定期的に見たい気持ちもある。

 

「見てたけど、アルくんモテモテじゃん。しかし上手くまとめたよね」

「そうか? 心臓バックバクだったけど」

「ユミル様も感心してたから」

「......」

 

 無言でサムズアップするユミルちゃん。こういうユーモラスな行動はしっかりフリーダに引き継がれてるわ。いうてユミルの民全員の先祖様なんだけど。

 しかし、自分でもあの状況を上手く切り抜けたなと思う。ミーナから『じゃあフレディのタイプは!?』と聞かれ、その場にいる5人の良いところを1つずつ挙げて誤魔化そうかとも思ったが。素直に『素敵な人』とだけ答えた。

 

 絶対にこうじゃなきゃ嫌だ、というのがないのでなんとも言えない。1人ひとりに違う良さがあるのだからこういう人だけと視野を狭めるのは良くないだろう。

 普段の行いもあってか、ミーナたちはそれで納得してくれた。初恋のフリーダを例に挙げようとも思ったが、コイツがそもそも愉快で快活でクールでお茶目で真面目でと、色々詰め込まれすぎてるので素敵な人としか言えなかった。

 

 オレが開放された後はミーナ、ルース、サシャ、アニ、ミカサの順番で好みの男性について発表会が行われた。

 これが非常に恥ずかしかった。普通は例えば、背が高いとかあっさりした顔とか、優しい人とかなんだろうが。ミーナ、ルース、サシャは言う時の表情こそ違えど『フレディ』と告白まがいのことを言うし、アニも無言ながら顔を真っ赤にして目で『あんただよ』と訴えかけてきた。可愛かった。

 しかし面と向かってしっかりとそういうことを言われるとこんなにもむず痒いとは思ってなかったな。ミカサは羞恥心の1つも感じられない真顔で『エレン』と言ったあと、何故か誇らしげな顔してたけど。もうアイツ駄目だよ。

 

「そんなアルくんにいいお知らせと悪いお知らせがあるんだけど。どっちから聞きたい?」

 

 眠る前のことを考えていると、フリーダが左右の手の人差し指を立てながら質問してくる。右手はいいお知らせ、左手が悪いお知らせということだ。

 悪いお知らせは最悪耳を塞げば良いので、迷わずフリーダの右手を取った。

 

「いいお知らせで」

「りょうかい。いいお知らせは2つあるんだけど、まず1つは女型と顎の掌握」

「......はい?」

 

 ちょっと何言ってんのこの娘。時々ユミルちゃんと揃ってオレのことをハブるの止めてほしいんだけど。そんなわかりますよね? みたいな感じで言われても困る。なんやねん女型と顎の掌握って。

 まあ巨人のことなんだろうけどさ。女型の巨人と顎の巨人、つまりはアニとユミル......そばかすの方が持つ力を掌握したということなんだろうか。だからなんだ、と今のオレには思えてしまうが。

 考えても仕方がないので、フリーダに続きを促す。彼女はうなづいてから口を開いた。

 

「つまるところ、女型の巨人継承者のアニ・レオンハート。そして顎の巨人継承者のそばかすユミルを意のままに操れるってわけ」

「んな馬鹿な。それじゃなんでもさせ放題じゃん......え、マジなの?」

「......」

 

 表情1つ変えないフリーダを見て、彼女の言ってることが本当なのではと疑問になり、横で頷くユミルちゃんを見て本当なんだと確信に変わった。

 意のままに操れるだなんて、夢が広がりング! とは言えない。誰しもがあの人を操ってみたい、とゲスな想像をしたことがあるだろうが、実際にそれをできる。しかも仲のいい人をと言われると困惑しかない。

 

「アルくんが持つ始祖の巨人、座標の力は不完全。もとより王家の血筋でもユミルの民でもないし、当然といえば当然だけど。それでも私の一部を取り込んだおかげか限定的にならその力を使えるというわけ」

「限定的にっていうけど、そもそも座標の力とやらがわからないんだけど。何ができるの?」

「何って言われても、ユミル様に言わせればエルディア人の身体構造を改造したり自由に巨人化させたりとかできるらしいよ。私がアルくんにやろうとしてた記憶改竄もそれだし」

「めちゃくちゃだなあ」

 

 じゃあなんだ。壁内人類の為に超強力なウイルスでも開発して、それに対しての抗体を持たせた後に世界中に蔓延させるとかできるっていうのか。

 

「できるね。いつかの流行り病の時もやってたし」

「心読むなよ」

 

 むちゃくちゃすぎる。ユミルちゃんが本気出せばそんなこともできるのか。

 そういえば、ミカサたちアッカーマン一族もそうやって生まれたんだったか。エルディア人の標準があれになったらオレこの世界で生きてく自信ないわ。尻がいくつあっても足りない。

 

「女の子で言うと多分アルくんが今一緒に寝てるアッカーマン以外の娘と、文通してる人とヒストリアのことも操れると思うよ」

「一緒に寝てるとか人聞きの悪い。同じ部屋なだけだろ」

「いや猟師の娘は潜り込んでるけど......とにかく。女型は予想してたけど顎まで掌握できるとは思ってなかったから、流石だね」

 

 言われてみればオレもユミルとこんなに仲良しになれるとは思ってなかった。でも掌握したら何かいいことあるのかな、掌握ってちょっとなんか嫌な響きじゃんね。

 ぽかーっと口を開けて居ると、フリーダが苦笑する。

 

「始祖の巨人はユミル様に通じる道に過ぎないんだよ。王家の人間のみが真価を発揮できる、というのはここに居るユミル様が初代フリッツ王の血を引く者の命令のみを聞いていたから。要は奴隷であり続けたからなの」

「普通な顔して結構エグいこと言ってるぞフリーダ。見ろよユミルちゃんの顔、嫌なこと思い出させんなよって顔してる」

 

 ユミルちゃん、ちょっと震えちゃってるじゃん。あまりにも不憫!

 悲しんでいる子どもを放置する趣味は無いのでそっと抱きしめてみると、震えは止まった。相変わらずひんやりとした手触り、夏に抱きまくらにするにはもってこいですね。

 

「ユミル様本人が言ってたことだからここはちょっと心を鬼にして。初代フリッツ王の命令に囚われ続けたユミル様は気が遠くなる時間奴隷やってたわけだから、力を発揮するためにはまだ誰かの命令が無いと駄目みたい」

「子孫に奴隷やってたとか言われて、もうユミルちゃんの精神は限界だよ......」

「つまるところ王家が継承した始祖の巨人とはユミル様に命令する者で、ユミル様は道を通じてその命令をユミルの民に伝えたり、継承者のやりたいことを実現するわけ」

 

 なんとなくわかったような気がする。座標の力って万能すぎてスゲー! だったけど、実際にはユミルちゃんとお話できる権利だったわけか。スゲーのは座標の力ではなくてユミルちゃんだったか。

 奴隷根性で王家の命令を聞いてたけど、人怖いになっちゃってそれ以外は受け付けませんと。そこにこんな天真爛漫なフリーダが無理矢理入ってきて、おまけに全く持って知らん男が来た時の心情は悲惨だったろうな。ごめんなさい。

 

「そこでその命令を下す者としてアルくんに私がなんとか持ち逃げした座標の力を譲渡したでしょ。けどやはり不完全でアルくんがユミルの民じゃないことも合わさって、座標から道を通してユミルの民に命令ができないみたい」

「それじゃあ何もできないのと一緒じゃないのか? ユミルちゃんの本領発揮にオレじゃ役者不足ってことだろ?」

「座標を通してができないだけで、アルくんとの道が繋がってればできるよ。さっき言った女型と顎の掌握っていうのは、道が繋がった状態というわけ」

 

 全てが交わっているこの座標からが駄目で、オレからならいけるとは。川の上流から何かを流しても下流に付く頃には薄まってるけど、中流あたりから流せば下流でも残ってる的な感じなんだろうか。

 そうなると大事なのはどうやってオレとの道を繋げるかだが。先程フリーダがあげたオレが命令できる人の名前を聞けば何となく方法はわかる。それは

 

「とにかく仲良くなれば、オレとの道がつながってユミルちゃんの力を発揮できるってことか」

「そのとーり! だけどそれがすごい難しい。ユミル様の力を通せるほどの道を外から作るとなると、ちょっと好きとかくらいじゃ全然足りない。力を行使できるのは、選りすぐりのアルくん大好き人間たちに対してだけってわけ」

「それはちょっとうれしいかもしれないな。そんなふうに思ってくれている人たちに命令できるって聞いて、一瞬でも邪なことを考えた自分をぶん殴ってやりたい」

「顎の継承者は案外簡単に落ちたけど、女型の継承者は手強かったね。本人が自覚してくれたから何よりだったけど」

 

 またコイツは人聞きの悪いことを言ってるよ。ユミルを軽い女、アニをめんどくさい女みたいに言うんじゃないよ。2人とも最高に可愛いんだから。

 ていうかこっちのユミルちゃん大丈夫か? 寝てない? オレのシャツ掴んで船を漕ぎはじめてるぞ。

 

「そして2つ目。アルくん的にはこっちのほうが嬉しいかもね?」

「え、なに。フリーダが生き返るとか?」

「ま大体正解かな」

「っはは! 流石にそんなわけ......ハァ!?」

 

 生き返るってどういうこと!? そんなおとぎ話でも禁忌扱いされるようなことが現実に起こり得るのか!?

 いや、でもユミルちゃんが自分の子孫の身体を弄り倒せるんだ。そっち系の何かでだろうか。わからんが。

 

「今までは道を通して誰かの肉体を没収、みたいな強引な手段くらいしか無いと思ってたけど。もしかしたら硬質化を応用することで、犠牲を出さず座標にとどまっている私の意識を移す器が作れるかもしれないの」

「どの巨人」

「おお、はやいはやい。落ち着いてね」

 

 フリーダが生き返る。その可能性があるというだけで居ても立っても居られず食いついてしまう。

 オレが突然動いたことで、船を漕いでいたユミルちゃんが目を覚ましてしまったので謝罪だけしてフリーダに目を向ける。

 

「ごめんねユミルちゃん。んん、どの巨人ですか。教えて下さいフリーダさんっ!」

「ふふ。戦鎚の巨人、それが私の考えていることを実現できる可能性が最も高い巨人。硬質化で色々と器用に作れるから、ユミル様が私を形作るのに必要な分だけ生み出してくれればいけると思う」

「戦鎚の巨人か......」

「言っとくと居るのはパラディ島の外、マーレ国ってとこだからね。継承者は女の子みたいだし、アルくんなら道もつながるんじゃないかな。特性を発現させやすい女型でも接種した脊髄液次第では可能性が」

 

 マーレ国ねえ。アニたちの出身地だったか。

 海を渡るとなると、アニとユミルを無理矢理動かそうにも無理だろうし。なんとかして移動手段を確保せねば。そのためには巨人を殲滅......いや、もともとはユミルの民だから開放と言うのが正しいのかな。とにかく巨人の脅威をなくさないと駄目かぁ。

 先が思いやられるが、フリーダが生き返るならそんなものどうってことない。一緒に見たいものや行きたいところ、やりたいことがある。一番は立体機動だな、無様にズッコケるとこが見たい。身体能力自体は普通だろうし訓練無しならいい画が見れそうだ。

 

「さて。アルくんが私のこと大好きだってわかったところで。悪いお知らせを1つ」

「ああ、なんでも言ってくれ。今ならなんでも受け入れられる」

「じゃあ言うね。悪いお知らせっていうか、言ってなかったことを言うんだけど。アルくんが知ってるこの世界の記憶、実は違う世界のものなんだよね」

 

 またコイツはわけのわからんことを。もうどうにでもなれ精神だが、オレがフリーダから受け継いだ記憶が違う世界だろうがそんなの関係ねぇ!

 

「それで、何か問題が?」

「問題ってわけじゃないけど。あれはアルくんが、もしかしたらガイスギーチという一族自体がすでに存在しない世界のものだから。ショック受けないかなって」

「まさか。ていうか断片的にしか記憶してないけど、オレの姿が無いから何となく察してたぞ。それに違う世界ならオレがいるこの世界ではああならないってことでしょ? それってむしろ良いお知らせだよ」

「うわーポジティブ。眩しい。カッコイー!」

 

 頭をフリーダにわしわしと撫でられ顔を隠すようにうつむく。フリーダが生き返ったらまたこうやってヒストリアも加えた3人で仲良くできるのかな、と思うと笑みとなんだか涙が溢れてくる。

 フリーダ本人からもう死んだとは聞いても、ここで会えるから大丈夫だって言い聞かせてたけど。オレは寂しがり屋なので現実世界で会える可能性があるならすごく嬉しいし、何でもする位の気概がある。

 叶うなら両親とも再会したいけど、あの2人はユミルの民じゃないから座標に意識がなくてできないんだろうな。それでもまた3人で話せるだけで満足だ。

 

 視線を下から感じる。ユミルちゃんがオレのことを不思議そうな顔で見ていた。

 どうして笑っているのに涙が流れているのか、そう言っているようだ。声は聞こえないが考えがわかるというか。

 ユミルの疑問は尤もだろう。嬉しいのか悲しいのかどっちなのかと。オレはフリーダに撫でられながらユミルちゃんの頭にそっと手を置き、自分の涙を拭って伝える。

 

「ユミルちゃん。オレは今、最高に嬉しいよ」

 

 その言葉にユミルちゃんは優しい笑みを浮かべ返してくれた。

デートする人

  • アニ
  • クリスタ(ヒストリア)
  • ミカサ
  • サシャ
  • ユミル
  • ミーナ
  • イルゼ
  • リコ
  • 憲兵団のお姉さん
  • フリーダ
  • ルース
  • キース教官
  • ライナー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。