オレは強い。ので、色々頑張る   作:ばるす

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14.ドキ☆ドキ 雪山踏破訓練:4

 暑い。おかしな話だ、雪山にある小さな小屋で寝ているのに暑いと感じるなんて。

 聞いたところによると、雪山で遭難した人たちの遺体は着衣を脱いでいることがあるという。なんでも人間は体温が下がると当然身体を温めようとする機能が働くのだが、この時に低体温症かつ極寒の環境下にいると体温と外気の温度差で暑いと感じるそうなのだ。

 寒い冬だとぬるいお湯でもとても熱く感じる現象と似たものだろうか、それによって凍死した遺体は服を脱いだ状態で発見されることもあるとか。

 

 道から帰還し目が覚めた直後なのでそんな考えが頭によぎったが、寝ぼけた脳みそが身体から受け取った情報を処理し始めると暑さの原因が他にあることを理解する。

 まず第一に、寝袋がほぼはだけてる。眠る時は1人用の寝袋に入り、その上から掛け布団をかけたのだが下半身しか寝袋に入っていない。しかもなんか狭い。加えて顔に生暖かい呼気、呼吸音からするに鼻息が規則正しく拭き掛かってくすぐったい。

 薄く目を開けてみると、幸せそうな顔でよだれを垂らすサシャの寝顔が目の前に。驚いて身体が動きそうだったが、起こしては申し訳ないのでそっと身体を仰向けにして落ち着かせる。オレ自身が暑がりなのに加えて、サシャはもともと体温高めなのに寝ているから暖かさがすごい。いい匂いがする柔らかい人間湯たんぽだ。

 

 しかしどうしたものか。部屋の温度を下げないためにただでさえ小さな窓にカーテンをしているので時間がわからない。体感的には割と寝た気がするのでそろそろ日が昇っててもいい頃合いだと思うが。

 目をつむり、すっかり眠気が飛んでいった頭でどうするか考える。このまま二度寝でも決め込んじゃおうかな、と考えたところで引き戸が開かれる音がした。

 鍵は確かにかけた。つまり、すでに目を覚ましていた人が外に出て戻ってきたのだろう。もしそうでなければ前回の反省を活かしこの状態から挽回する手段を考える必要がある。

 

 音から察するに小屋の中へ入ってきた人物は上着を脱いだようだ。わざわざ脱ぐということはこの時点で襲撃者という線は薄くなったが、それでも意識を向け続けていると静かな足音がオレの方へと向かってくる。

 その足音はちょうどオレが寝ている場所、つまりオレの頭の上で止まり、覗き込んでくるような気配を感じた。

 

「うわ......」

 

 朝だからか、若干かすれているし低い声だが誰かわかる。アニだ。

 おそらくオレの寝床に潜り込んでいたサシャを見ての一言だろう。何やってんだコイツ、という呆れた顔が想像できる。直後にサシャの寝息が止まり『フゴッ』と豚のような声をだしたのはアニが寝ている彼女の鼻をつまんだからだろう。鬼畜。

 

 さぁアニちゃん。オレも無防備だぞ! チューくらいしても知らないフリしてあげるよ! どうする、煮るなり焼くなり好きにしてくれ!

 若干期待を持ったまま待ってみると、顔すぐ上に何かが伸びてくる気配。ゆっくりと降りてきたその気配は、オレの鼻にツンと触れる。感触からするに指先だろう、オレも鼻をつままれるのかと思ったがそれはされず。

 かわりに瞑った目が見る暗闇が更に暗くなり、右頬をふわふわとした何かがそっと撫でた。

 

 アニがオレの顔を覗き込んでいる、それも垂れた彼女の前髪がオレの頬に当たるくらいの距離で。

 これもしかして本当にチューされちゃうやつ? 結構期待しちゃうよ?

 ウッキウキで待っていたが、小さく笑ったのか一瞬だけ鼻息が顔にかかり、気配が遠のいていく。直後にアニは咳払いをした。

 

「ンン......アルフレッド、起きなよ。もう日が出てる」

 

 うわ~気遣ってくれてるのか耳馴染みのいいめっちゃ穏やかで優しい声! もうこの声で毎朝起こされたい!

 だがここですぐに起きてはつまらない。もうちょっとアニの反応が見たい。

 目を閉じたまま寝てるフリを貫き通す。アニは声をつまらせるとオレの肩を指先で2度つつく。それでも無反応のままで居ると、再びアニが顔を近づけてくる雰囲気が。

 

「お、起きなってアルフレッド。はやく」

 

 あまりの心地よさに耳が絶頂し鳥肌が立った。

 ゼロ距離で囁かれるのはヤバい。アニの声帯から発せられた空気の振動が声となり、普段の低い声とは違って吐息多めな少し高い声は恥じらいの奥に懇願するような必死さも感じさせる。耳が幸せだ、一生オレのために囁いてくれアニ。

 

 このまま天国へと旅立ちそうになったがなんとか意識を肉体にとどめ、引き続き寝ているフリを決行。しかしアニがオレの肩を掴んで揺らし、本格的に起こそうとする段階に入ったため渾身の演技をして目を開く。

 

「ん~......あれ、アニ? おはよう」

「......やっと起きたね。ねぼすけ」

 

 さっきからずっと起きてました、なんて口が裂けても言えない。

 アニはため息を着いて簡易マットレス、オレの顔をすぐ横に腰掛けて足を組む。104期生トップのいいケツと太ももが顔のすぐ横に来たことで、思わず飛びついてしまいそうになったが自制心で抑える。

 すでに鮮明になっている視界でアニのことを見上げてみると、彼女はいつもどおりの整えられた髪型で良く眠れたのか顔もスッキリしている。

 

 そう言えば昨日、ミーナがアニは朝弱かったのに最近は誰よりも早起きしていると言っていた。しかもその理由がこそっと耳打ちしてきたルースいわく、朝食をミーナたちやオレと一緒の時間に食べるために、早く寝て早く起きて身だしなみを整えているからだとか。

 可愛いね、予想される朝が弱かった理由は可愛くないけど。ライナー殺す。

 

「ほら、早く準備しな。予定通り朝食の後に出発......と言いたいとこだけど」

 

 アニが言い終わると同時に、再び引き戸が開かれる。入ってきたのはコートを雪で真っ白にしたミカサ。

 雪を手で払い落とした彼女はコートを脱いでフックにかけると、オレが起きていることに気付き近づいてきたので寝袋から起き上がりアニの横に並ぶ。

 

「おはようフレディ、ちょうどよかった」

 

 ミカサはオレたちの向かい、彼女が眠っていた簡易マットレスに腰をかけた。

 そこでアニは何か事情を知っていたのか、ミカサに問いかける。

 

「どうだった」

 

 その問いかけに、ミカサは頷いてからオレとアニの目をしっかりと見て口を開く。

 

「猛吹雪で訓練は一時中止。各自小屋での待機命令が出てる」

「やっぱりね。あの天気でうろつくのは自殺行為だし妥当だよ」

「あの天気......」

 

 2人の言っていることを確かめるために立ち上がり、引き戸へと向かう。途中にミーナとルースの寝床をチラ見すると、2人ともぐっすりだった。

 引き戸の前に立ち、手をかける。なんだか絶妙に振動している気がするが、そっと半分ほど開いてみると。

 

「ブファッ」

 

 横殴りの雪が顔に張り付き、急いで戸を閉める。ネックウォーマーとフードを被っていなければ呼吸もできないほどの猛吹雪に、急に部屋が寒くなったような気がする。

 だがこの状況下で先程までアニとミカサは外に出ていたのか。ミカサが入ってきたときは彼女が盾になっていたからかわからなかったが、こりゃ出歩くのもためらわれるほどだ。こんな猛吹雪初めて見たからちょっとワクワクしちゃったけど。

 

「外で調査兵団が訓練兵の点呼を取ってる。先のほうにある小屋も巡回を終えて、ここが最後」

「なるほど。てかオレはまただいぶん寝てたな......けど、参加した人は皆ちゃんと揃ってたんでしょ? あ、ダズは下山したからあれだけど」

 

 雪中行軍の経験がなくとも危険だとわかるほどの天気なら、どれだけ点数が欲しい人でも出歩くことは無いはずだ。

 そんな考えで言ったオレの言葉に、ミカサは口を一文字にして目を伏せる。

 予想外の反応に、風が吹く音だけになった部屋でオレの『あれ?』という気の抜けた声が響く。ミカサにとって言いづらいことなんだろうか、と思っているとアニが重々しい雰囲気のままオレの疑問に答えてくれた。

 

「1つだけ、まだ確認が取れてない班がある」

「......どの班?」

 

 心の準備の為に、一拍置いてから聞く。アニは唇をキュッと一瞬だけ強く結んでから教えてくれた。

 

「クリスタと、ユミル」

 

 まさかの名前に息が詰まる。が、むしろその2人で良かったのかもしれないと冷静になることができた。

 理由は単純、ユミルが居るからだ。アイツの性格上クリスタを見捨てて自分だけ助かる道は選ばないだろうし、最悪の自体になればクリスタをうまいこと気絶でもさせてから巨人化するだろう。それだけオレはユミルのことを信頼している。

 なにより、以前の窃盗団襲撃時はフリーダがヒストリアの危機を察知してオレに起きろと急かしたが、今回はそれがなかった。彼女もユミルのことを信頼しているのだろうか、掌握がどうのこうのとか言ってたけど。

 

 ひとまずあの2人は遭難者認定するとして。一番いただけないのはこの天気で先を進むことを選択した、ということだ。そりゃ遭難するよといえるほどの天候、クリスタが頑張ろうとしすぎたのかユミルが面白がったのかわからないが、見つけ出した暁にはしっかりと説教するべきだ。

 しかしあの2人がそんな軽率な行動を取るとも思えない。本当に最悪の状況としては、第三者によって2人が襲われた、もしくは連れ去られたということだ。

 ユミルちゃんにお願いすれば道を通じて場所を特定できると思うが、それは最後の手段として。アニとミカサに誘拐の線があるか意見を求めよう。

 

「2人とも。クリスタとユミルだが、この天気で出歩くと思うか?」

「ユミルはともかく、クリスタが居るなら出歩くとは思えない」

 

 先に反応してくれたのはミカサ。彼女の言う通りだ、ユミルなら面白がってということも考えられるがクリスタが止めないわけがない。馬鹿なこと言ってないで、待機だよ! って言ってる姿が想像できる。

 だがアニはオレとミカサの意見とは違ったようで、髪を直しながら申し訳無さそうに言った。

 

「実はあの2人が出発するところを見てたんだ。日が昇るすこし前くらいの時間に目が覚めて、夜風に当たってる時にね」

「あらぁ......ってことはそのときは普通の天気だった?」

「うん。だから多分、クリスタとユミルが1人少ないハンデを考えて早い時間に出たのかも」

 

 アニの言う事も十分にありえる。いや、むしろユミルが居ながら誘拐されるというオレの考えよりもしっくりくる。クリスタが人数不利なら行動を早めようといえばユミルは頷くだろうし、彼女も最悪の場合には自分がどうにかすると考えるだろう。

 それに山の天気はよく変わる。山をよく知るサシャでさえ昨晩は早い時間に行動して小屋にたどり着く、という計画を立てていたくらいだ。まさか突然訓練が中止するほどの猛吹雪になるなんて普通の人が予想できるわけがない。

 

 貴重な目撃情報があったおかげで、2人はただ単に悪天候に巻き込まれただけという認定でいいだろう。訓練は中止で各自待機とのことだが、普通に探しにいっちゃおう。なんならユミルがすでに下山していて入れ違いという可能性もあるが、潜伏している調査兵団員のイルゼちゃんもまだ見つけられてないし。

 問題はアニとミカサがどうするか。まあ無理させる必要も無いし待機で......ん?

 

「どうしたの? アニ」

 

 太ももを指でつつかれ、目を向けるとアニが何か物言いたげな顔をしていた。

 何か追加の情報でもあるのかと待っていると、彼女は『いやさ......』と言いにくそうに話し始める。

 

「アルフレッドはクリスタとユミルのこと、探しにいくでしょ。私も行く」

「へ?」

「まさか急に天気が変わるなんて思ってなかったけど、あの時に声をかけなかったのは落ち度だし。手伝わせて」

「アニ......!」

 

 やっぱいい娘だなアニは。普段クリスタに対して対抗心みたいなの見せたり、ユミルに対してはぶっきらぼうなのにちゃんと仲間思い。頼むアニ、オレと永遠の愛を誓い合ってくれ。

 思わず感極まってしまったが、ミカサが片方だけの口角をあげたなんとも不自然な笑顔。というより笑うのをこらえているところを見てこの後を予想し、ニヤけたのがバレないように顔を背ける。

 

「そういうところがアニらしい」

「何さ。悪かったね」

「私は褒めているつもりだけれど」

「......そう。どうも」

「フレディ、私も当然参加する」

 

 尊い。純粋に褒めようにも不器用すぎてトゲのある言い方になってしまうミカサも、褒められて照れているアニもどちらも素晴らしい。この一瞬を切り取って永久保存したいくらいだ。

 だが、今の最優先はクリスタとユミルの2人だ。ただでさえ体力の消耗が激しいなかに猛吹雪となれば、急ぐに越したことはない。立ち上がり、凍らないように布団の中に入れていた水を飲んでから宣言する。

 

「ありがとう2人とも。よ~し、それじゃあクリスタとユミルの捜索作戦を決行だ!」

 

 1人で拳を掲げたとき、腹の虫が盛大に鳴る。

 やべえ、そりゃ朝起きてすぐだからお腹も空くわ。どうしよう、まず朝食かな。アニとミカサは......ヒエッ、絶対零度! 雪山よりも冷たい視線でこちらを見ている!

 クソ、いやしかし待てよ。捜索作戦を開始すると宣言しただけ、ここは作戦内容を告げよう。これだ!

 

「んん。まずは腹ごしらえが大事だ。作戦その1、出発前の入念な準備として、朝食と身だしなみ、そして装備の確認をせよ!」

「口だけは達者だね。まあ、私の言う事を信じてくれたから」

「これもあなたの強さか、フレディ」

 

 なんかわからんけど、2人の視線がキース教官もハゲ散らかして逃げそうなくらい冷たいやつからちゃんと温かいやつになったのでヨシだ。

 まずは朝食を食べて、そしたら調査兵団の人たちに見つからないように出発。猛吹雪の視界不良では立体機動は不可能と見てよいだろうし、雪が積もって道かどうかの判断も難しいと思われる。

 前途多難、2人を見つけられるかはわからないがやるだけやってみよう。でもいざという時にアテにしてるのがアニとミカサ、そしてユミルちゃんとフリーダなのが情けないぜ。男なのによお。

デートする人

  • アニ
  • クリスタ(ヒストリア)
  • ミカサ
  • サシャ
  • ユミル
  • ミーナ
  • イルゼ
  • リコ
  • 憲兵団のお姉さん
  • フリーダ
  • ルース
  • キース教官
  • ライナー
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