朝食を取ったオレとアニ、ミカサはそっと小屋を抜け出した。
前日はそこそこ遅くまで起きていたのか、オレたち3人が朝食を終えそうな頃に起床したサシャとミーナにルースは、寝ぼけた顔をしていたものの事情を話すとすぐに飛び上がり協力を申し出てくれた。
非常にありがたいことだったが、サシャが猛吹雪なら人数が多ければ多いほど遭難の危険性が上がると言うので3人はしっかり待機して口裏を合わせてもらうことにした。お祈りしてもらえるというのでしっかり受け取った。あとサシャがオレの寝床に潜り込んでいたのは単純に賭けに勝ったかららしい。何を勝手に賭けたんだ。
「で、勢いよく飛び出したはいいけど......これ、見つかる?」
前方の視界すら限られるほどの吹雪の中、オレの後ろに居るアニから率直な疑問が。
見つかるかどうかは運次第! なんて言ったら蹴り飛ばされてぶん殴られるだろうから言えない。
状況は良くない。現に今、はぐれないようにオレを先頭に後ろに続くアニとミカサの3人でロープを腰に結び1列になっているほどの視界だ。加えて雪も膝にまで届きそうな深さで、どこが道なのかもわからない。
こんな状況下で闇雲に動くのは自殺行為......いや、待てよ。
「安心しなさいアニ、オレには考えがある」
「それいま思いついたやつでしょ」
「閃きが大事なのさ」
流石痛いところをついてくる。だが事実なので適当に誤魔化すしかない。
そんなオレを見かねてか、ミカサが近づいてきて一言。
「早く」
「ハイッ」
やべえよコイツめっちゃ怖えよ。エレンが他の女の子と楽しそうに喋っている時なみにおっかねえ顔してやがるよ。
もったいぶっているつもりはないのでちゃんと言わせてもらいます。非常に単純ですが。
「オレが思うに、あの2人がこの天候の中で適当な行動をするとは考えにくい。だから捜索範囲を絞る。アニが言うにはまだ日が出ていない頃に出発したようだから、そこから天候が荒れるまでに進める範囲を予想しよう」
「そこからどうするの? ひたすら範囲内を歩き回る?」
「ノンノン。ミカサ、オレたちにはこれがあるだろう」
自分が背負っているバックパックをコンコンと2度叩く。中身は寒冷地でも使用できるようにガス等を調整した立体機動装置だ。
「移動範囲を絞った後は、こいつで高いところから見渡す。当然のように真っ白だろうし木々で見えにくいだろうけど、もし開けた場所でもあってそこにたどり着いていれば」
「そこで天候が回復しているまで待機している可能性が高い、ってわけ?」
「その通り。それに2人も同じことをしているかもしれないし」
「わかった。そういうことならもう少し歩こう」
ただ肝心なのはあの2人がどのあたりまで進んだかの予想だったのだが、ミカサが歩くことを提案する。
その心は、とアニと一緒にミカサを見ていると、彼女はマフラーで隠れた口元を出してから語る。
「以前、長距離走でクリスタとは同じ班になった。その時のペースと時間を考えれば、吹雪になった場所はまだ少し先のはず」
「わかった、ミカサの感覚を頼ろう。絶対にクリスタのペースにユミルが合わせるだろうし」
コクリと頷いたミカサは、再び口元をマフラーで隠す。今更だが顔の半分が隠れていると勝手に脳内で理想の顔を想像し、全貌があらわになるとガッカリするとよく言うが、ミカサは隠れてても隠れてなくても美人だな。それで惚れてる素振り見せないとかエレンは本当に男か。まさかアイツもオレが本命か!?
「それはない」
「は? あんた、なに言ってんの」
「フレディが勘違いしていたようだから」
「もうやだ......アッカーマン怖い......」
アッカーマン一族ってもしかして単純に身体能力高いだけじゃなくて読心術も使えるのかな。ガイスギーチ一族にはそういう特殊能力なさそうだから羨ましい。
とにかく、歩く順番を変えよう。ロープを結び直すのは面倒なので変転する形で、ミカサが先頭、アニとオレが続くように。
「それじゃあミカサ、先導を頼んでも?」
「任せて」
しっかりとした返事の後に歩を進めるミカサ。その後ろを2人で黙ってついていく。
吹雪の勢いは未だ収まりそうにない。悪化はしていないが、かといって回復もしていない。時間が経てば経つほど捜索は困難になるだろうから何か手がかりでも欲しいところだ。
しばらく無言で歩き続ける。そこでアニが『ちょっと』と言って進行を止める。
「あれ」
そう言ってアニが指さしたのは一本の木。なんてことない雪化粧をしたただの木だが、よく見ると一部がえぐれている。対角線上に左に向かって少し歩いてみれば、高くなった位置にやはり同じような痕が。
この痕はここまでの2年間でよく見たものだ。少なくとも立体機動装置のアンカーによるものと言って間違いないだろう。2人揃って立体機動するとは考えにくいし、ユミルがクリスタを抱いて立体機動したんだろうな。喜んでやってそうだし。
問題はいつ頃の痕なのかだが、えぐれた内部の見た目からしておそらく最近のもののはず。
「まだ色が明るい。クリスタたちで間違いないと思う」
「だね。アルフレッド、このあたりでいい?」
「うん、ここから飛び上がって見てみる」
急いで腰に巻いたロープを解き、肩に背負ったバックパックをおろし開けて立体機動装置を取り出して装備する。手袋を履いているので少し手こずると、何も言わずにアニとミカサが手伝ってくれた。最高だ。
「ありがとう」
「どうも」
「問題ない。それより、立体機動ではぐれる可能性が」
「それなら大丈夫、ちょっと思いついたやつがあるから2人は離れて」
昨日、この雪山踏破訓練が始まってすぐに頭の中で描いた動き。
アンカーを刺して巻取り、ガスを噴かして加速するという立体機動の概念を覆すと勝手にホクホクしていた、ゼロから一気に最大速を出すための動き。方法はいたって単純、そして計算上の速度からして身体にかかる負荷は大きいだろう。
まずは左右のアンカーをなるべく高い木の、なるべく頂点の位置に突き刺す。
本来ならば引っかかりになる場所がほしいところだが。無いので腰を落として全体重を加え身体が持ち上がるのをこらえつつ、ワイヤーの長さを調整してピンと張らせる。上手く巻取りの強さも調整し、アンカーを柔軟に伸び縮みし弾力性がある紐のように扱う。
「何をする気?」
ギギギ、とオレの全体重と地面に踏ん張る力でアンカーとワイヤー、それがつながる射出装置が鈍い音を出したころ。アニが訝しんで声をかけてくる。そのタイミングで今の身体はこれ以上の負荷には耐えられないだろうな、と直感的に感じたので彼女にニッと笑いかける。
「人間大砲だよ。そんじゃ、発射しま~す」
ワイヤーを巻き取る直前、ベッドの上で弾むように腰を思い切って落とし、その反発で身体が浮かび上がるタイミングと合わせてレバーを引いて一気にワイヤーを巻き取り、同時にガスを鋭く噴かす。
唯一肌が出ている顔に冷たい空気が突き刺さり、鋭い痛みとなる。しかし思った通り、オレの身体は空高く、あの壁程度の高さまで一瞬で飛び上がっている。
下へ視線を向けるが、生憎の天気で2人の反応はよく見えない。だが周りはある程度見えるので急いで空中で身を捩り、周囲を見渡す。
「あれ、もしかして」
木々の中、一箇所だけポッカリと空いた空洞。そこに雪が積もった何かが。
小屋の類である可能性にかけ、一先ずはその方向に身体を向け方角を忘れないように。
上昇しきったオレの身体は重力で徐々に落下し、速度を増していく。それを相殺するためにガスを適宜噴かし、操作装置でアンカー射出装置の発射向きを調節して下向きに射出。
左右どちらのアンカーも綺麗に木に刺さり、地面に落下する前に弾むようにして身体が起き上がる。両足の裏のベルトで踏ん張り、アンカーを外して静かに着地した。
「......凄い。今の機動、とても同じ立体機動装置を使っているとは思えなかった」
アニよりも早く駆け寄ってきたミカサが、若干興奮気味に感想を述べてくる。
立体機動が好きなのか戦いが好きなのか、この技術に有用性を感じてくれているのか。どれかはわからないが、褒められて悪い気はしない。オレはチョロいんだ。
「思いつきでも意外とやってみるものだな。でもちゃんと調整しないと腰やっちゃいそう」
「静止した状態から一気にあの速さまで加速できるなんて、まるで本当に大砲のようだった。フレディ、それは私でもできる?」
「もちろん。ていうか、ミカサのほうが上手く使いこなしそうだね」
難しいことは何一つとしてやっていない。言葉で説明するなら、グググッと溜めてドーン! だから。
ただ本当に調整だけはしっかりやらないと駄目だな。身体か装置か、どちらかが壊れそう。
腰を叩きながら感覚を思い出していると、呆れ顔のアニが近づきオレの顔についていた雪をハンカチで取ってくれる。
「確かに凄い技術だけど。それ危ないんじゃない?」
ポンポンとオレの髪やまつげに付着し固まりそうになっている雪を落としながら言うアニ。
あまりにも自然にやってくるものだから受け入れてしまったが、面倒見がとても良くて薬指にお揃いのリングをつけたくなってきたよ。
「最悪の場合は腰椎損傷とかもあるかもしれないけど。そこはちゃんと、ね?」
「はぁ。まあアンタなら寝たきり状態でも気付いたら歩いてそうだね、お見舞いくらいはしてあげる」
「できれば果物を持ってきてくれると嬉しいな......ありがとう」
「ん、どうも」
雪を取ったあとには乱れた前髪をしっかりと分けてくれる徹底ぶり。まさに母性。イーリスさんが言っていたバブみというのが何となくわかったが、それを幼い子どもで感じたがるのはちょっとわからない。
一通りアニとイチャついた後。上空で得た情報についてを喋ろうとしたが、ミカサが何かもの言いたげな表情でオレの顔を覗き込む。数秒してから今度はアニの顔を。
かと思えば、すっと離れてオレとアニをじっと見つめる。そして腕を組んでから一言。
「2人は恋人どうし?」
「ブフッ!?」
「は!? なに言ってんのよ!?」
お、珍しいアニの高い声。
いやそれは置いておいて。この娘は思春期になったのか? すっごい真顔でとんでもないこと言ってくるじゃん。
「ミカサ落ち着こう。そんなこと急に言われても」
「昨晩、フレディとアニが寝た後に理想の恋人関係についてをサシャたちが語っていて。私には2人が、サシャたちの言っていた理想に見えた」
「だってよアニ。バレちゃったね」
「ば、馬鹿なこと言ってないで、ちゃんと訂正しなさいよ! まだそういうんじゃないって!」
「まだ?」
テンパっていたのか、いつもよりも早口かつ声のトーンが高いアニ。彼女の発言にミカサが食いつき、質問攻めにあっている。『好きなの?』とか『どうすればそういう関係になれる?』とか『アニ、面白い』とか。
最後のやつに関してはちょっと笑ってたから悪意あるが、それ以外のは普通に気になって質問してるんだろう。ミカサもそういうのが気になるお年頃だ。
その様子を眺めていると、詰め寄るミカサから逃げるようにのけぞって誤魔化していたアニがキッと目を鋭くさせて睨んでくる。
この事態をどうにかしろ、ということか。確かに悪ノリしたオレが悪いので話の方向をもとに戻そう。
「2人ともちょっと聞いて。さっき立体機動装置で上に上がった時、気になるものがあったんだ。多分、小屋か何か。クリスタたちが到達しているかもしれないから、その方角に行こう」
オレの言葉でミカサはアニに対しての追求を止め、わかったと頷く。アニは相変わらずオレのことを睨んできているが、これも夫婦喧嘩の予行練習だと思っておこう。ユミルちゃんアニの寿命どうにかして!
「方向は?」
「こっち。オレの右足の向いてる場所」
「......ああ、だからアンタはさっきから動かなかったんだね。この薄情者」
「そんな言う?」
アニの言葉に心抉られながら、オレたちは小屋らしきものが見えた方向へと歩き始める。
いつでも確認ができるように立体機動装置を装備したままだが、これはかなり足にくる。小屋にクリスタたちが居なくても休憩したいくらいだな。
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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サシャ
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ユミル
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ミーナ
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イルゼ
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リコ
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憲兵団のお姉さん
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フリーダ
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ルース
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キース教官
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ライナー