849年のある日。オレたち104期生は、過去最大規模の訓練へと身を投じる。
その名もトロスト区襲撃想定訓練。読んで字のごとくウォール・ローゼの一角であるトロスト区が襲撃を受ける。つまり4年前のシガンシナ区及びウォール・マリアのような地獄と化した状態を想定しての訓練だ。
と言ってもどうせトロスト区の一部だけでしょ? と思ったそこの君こと昨日のオレ。全然違うぜ! なんとトロスト区をまるっと貸し切り状態やんね!
「やりすぎだろ......」
頭の中で考えていたことに引っ張られ、歩きながらも思わず言葉が漏れてしまう。
いつあの日のようになるかわからない、というのは最もだ。だがしかし、何も104期生のためだけにこのトロスト区を貸し切りにするのは如何なものか。当然、訓練があるということは住民に事前通知しているらしい。オレたち訓練兵にとっては戦闘の訓練、住民の方々にとっては避難訓練というわけ。
立体機動で建物の壁にじゃんじゃん穴ぽこが空いちゃうし、窓ガラスも割れちゃうだろうし。何なら不真面目なやつが居れば盗みを働く可能性も無きにしもあらず。それでも住民の方々が協力してくれるということは、4年たった今でもあの日の傷が癒えきっていないことを証明しているといって良いだろう。
特に、トロスト区の人たちは次はここが破られるんじゃないかと不安で仕方ないはずだ。もう一枚壁があるのと壁を挟んですぐ向こうに巨人が居るのとでは心持ちも変わるはず。
「まさかこんなデカい訓練になるとは思ってなかったな、フレディ」
その声に顔を上げてみれば、ライナーが後ろを振り返りながらオレに声をかけてきていた。
「まあ、ね。だけど、昨日の今日でやることに意味があるんだろう」
トロスト区まるっと全部を戦場に変えるこの訓練がキース教官から教えられたのはつい昨日のこと。
そしてオレたち104期生は昨日の時点でトロスト区入りをして現在、各々の班に与えられた持ち場に向かって歩きで移動している最中。まだ1日の猶予があるだけありがたい、実際にはいつ有事が起きるかわからないのだから。
だがやはり訓練なので班の構成は最小限、ということで3名となっている。これに関しては完全な抽選、ということだ。もう一度言おう、抽選。らしい。
「......」
チラリと後ろを見てみると、ベルトルト・フーバーがまるで親の仇でも見るかのような目でオレのことを睨んでいる。
おいふざけんなよイカサマしてんだろ。なんでライナーとベルトルト・フーバーの班なんだよこんちくしょう! ていうかベルトルト・フーバーてめえ、そんな目で見るんじゃねえよ。普通立場逆だろこの大量殺戮者がヨォ。
愚痴りたいことは山ほどあるが。ここで不審な行動をすればオレだけでなくアニが寝返ったと疑われる可能性もある。それだけはなんとしてでも避ける必要があるのだ。
マーレの戦士とやらがどれほどの強さなのかまでは理解できていないが、オレなら最悪ライナーとベルトルト・フーバーを殺すことができるだろう。でも巨人化できる人ってどうやったら殺せるのかな、首チョンパくらいしか思い浮かばないけど。
......頭痛えなぁ。なんか『ユミルちゃんにかかればそんなことしなくてもイチコロよ!』とか愉快なお姉さんの声といたいけな少女が頷くイメージが頭に浮かんできたけど、きっと気の所為か。物騒すぎ。
「よし、俺たち3班の持ち場はここか」
ライナーが地図を見て立ち止まる。それに続いてオレも立ち止まるが、ベルトルト・フーバーはそんなオレの横を素通りしてライナーの隣に立ち、なにやらこそこそ話。ハブるなこの根暗! アニちゃんは絶対オレが貰うもんね!
「じきに訓練が始まる。ベルトルト、フレディ、立体機動装置で屋根まで上がるぞ」
背嚢をおろして立体機動装置を装備し始めるライナーとベルトルト・フーバー。
オレは少し2人とは距離を置いてから立体機動装置を装備する。だって怖いじゃん、無防備なときに何されるかわかんないし。
念の為立体機動装置の点検を手順通りに今一度行っておこう。気づかぬうちに後ろのベルトルト・フーバーに細工されてる可能性もある。っていうか、アニがあの2人には気を付けてって言ってたし。でも深く追求せずに受け入れておきます、秘密はちょっと知っちゃってるけどアニが話してもいいなと思ってくれるまで待つのが紳士さ。
「ライナー、こっちは準備できたぞ」
「よし、立体機動に移れ!」
一通り確認し、不審な点も違和感もなかったので立体機動で建物の屋根まで登る。
しっかし不安になってきた。立体機動装置は使い手のクセで傷やらが変わるので見る人が見ればわかるのだが、それでも不安なものは不安。これも全部アニのせいだ。
そんなアニの班はクリスタとユミルの第22班、後方支援だとか。オイやっぱ仕組まれてんだろ! オレもこんなむさ苦しい野郎どもの班で最前線じゃなくてそっち側が良かったなぁ!!
でもこんな訓練だけど実はちょっとやる気があったりする。なんと駐屯兵団の方々が視察に、つまりリコちゃんが見に来ているのだ!
イルゼちゃんが雪山踏破訓練のときに手紙をくれたように、リコちゃんからも手紙を貰っているのでこの訓練があることを前々から知っていたりするんだけど。情報漏洩疑惑は一旦置いておいて、それだけが唯一のモチベーションです。
キース教官的には南側領土の最高責任者、ピクピク司令? が来るのでそっちのほうがプレッシャーだろうけど。ちゃんと兵士が育っているかを一番えらい人に見られるって心臓に悪そう。頭皮にも。
「俺たちの役目は前衛として壁内に侵入してきた巨人を可能な限り討伐することだ。状況に応じてバラバラに動くことも視野にいれる」
「ああ。ライナー、僕は後ろに付くよ」
「わかった。フレディ、俺とお前の横並びの後ろにベルトルトをつける。いいか?」
「あ、うん。どうぞ」
何も言えねえよ。普段の訓練では何かと班長になることが多かったからわからなかったけど、みんなもこんな気持ちだったのかな。意見出しやすいように工夫してたつもりじゃダメか。
ていうかもう断れねえよ、なんか2対1だもん。超仲いい奴とその片方と少しだけ交友がある奴の3人組がどれだけ地獄かわかるでしょう。特に1の方が自分だと想像してみてください、もう胃が痛いです。命の危機も感じてます。
まあ流石に白昼堂々と訓練中に斬り掛かっては来ないでしょ。実戦を想定しての昼から夕暮れまでの訓練だし、その間にリコちゃんへのアピール頑張ろう!
自分にも人にも厳しいリコちゃんから『よくやったな』って言われたらもう天にも登る気持ちになれるはずだ。野郎の手で天に登るつもりは毛頭ない。キース教官は毛根ない、エーイ。
しかも104期生っていうけど、なんか別の訓練所の人も来るらしいな。オレたちはウォール・ローゼ南方面の訓練所所属だが、他の場所で訓練を受けた人たちがどういう感じなのか興味はある。見慣れない顔があったらちょっと注目してみるか。
屋根の上で周りを見渡す。数多くの兵士たちがブレードを構えている姿は壮絶だ。1人1人の顔を見てみると全く知らない人が何人も居たので、あれが別の訓練所にいる104期生だろう。
コニーの班とサシャの班、ミカサの班とエレンの班も見つけた。あいつらの班も前衛を担当するんだろう、頑張ろうぜという気持ちを込めて軽く手を振ってみれば、4人ともしっかりした顔で頷き手を振り返してくれる。いいね、青春してるオレ!
とホクホクしていたタイミングで訓練の開始を告げる鐘が鳴り響き、多くの訓練兵たちが雄叫びとともに走り始めた。
「俺たちもいくぞ!」
「ああ!」
それに続くようにライナーとベルトルト・フーバーも走り出し、前衛を任されているため門の方へと移動を始める。
事前にライナーから言われていた陣形はガン無視し、少し遅れてから移動を始めよう。あの2人は真面目に信用ならないので。
「おいどうしたフレディ! 置いてくぜ!!」
「お先に失礼しまーっす!」
ちょっと時間をズラそう、と思っていたオレの横をコニーの班とサシャの班が通過していった。相変わらずの元気さに思わず笑ってしまったが、流石にライナーたちとの距離が離れすぎると不審に思われるだろうし、壁の上からこちらを見ている駐屯兵団の人たちにも変な奴認定されかねないので動こう。
まずは手頃な建物を左右に見つけて。これはあくまで実戦を想定しているので巨人にワイヤーを掴まれたりしないようなことを心がけてフックを刺す。そのまま後ろ方向に体重をかけてギリギリまで踏ん張り、そこから一気に前向きに飛んでワイヤーの巻取りとガスの噴射を最大限に活かして加速する。
この立体機動も完璧にものにしたし、そろそろ名前でも付けて私が開発しましたとドヤ顔したいところだ。アルフレッド式超加速とか......いや、無いな。絶対に無いわ。ダサいの極みだ。
そんなことを考えながら急加速したオレはコニーの班もサシャの班も追い越し、ライナーたちにすぐ追いつく。それでも速度を落とすことなく前線に一番乗り。
「フレディ! 単独行動での先行はよせ!」
ライナーから注意を受けるが、それは無視です無視。お前らといっしょに行動するよか先行したほうが安全だよこの野郎!
「まずはイチ!」
ぐんぐん加速して街を置き去りにしていくと、巨人の模型がぐわっと壁の向こう側、死角から飛び出してくる。
このままでは巨人模型の顔部分と直撃コースだったため、身を翻して下方向にガスを噴射、高さを調整してから足の力で体勢を変えて空中でうつ伏せの状態となり、巨人に足を向けるような形でうなじにあたる部分を通過するついでに削いでおく。
ギリギリの深さまで抉り取ったことを確認し、体勢を整える前にアンカー射出機を回転させて建物に突き刺し、それを軸にして立体機動の標準的な姿勢制御の状態へと移行。
我ながら上手に対応出来たとは思うが、急に飛び出してきたのにはちょっとドキッとした。リコちゃんが見てくれているか壁の上を探してしまうのは男の子なので仕方ないです。
おっと、なんか立派な口ひげを蓄えてタスキをかけているハゲたおっさんがすんごい目を見開いてこっち見てるぞ。あ、その横にいるショートカットのお姉さん! 望遠鏡で見てるからファンサしちゃおうかなってああ! リコちゃんあんなところに! ちゃんとこっちを見ているではないですか、頑張っちゃおうぜ!
「速すぎだ! 慎重に行け!」
「そうだぞ! お前の単独行動は無謀だ!」
エンジンがかかってきたところで後方から声がする。結構ガチで怒ってるけど聞こえてないフリしちゃおう、後で詰められたら必死だったとか言えば大丈夫大丈夫。いざとなったらアニとミカサに守ってもらう、女の子に守ってもらう気満々で立体機動を続けた。
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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サシャ
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ユミル
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ミーナ
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イルゼ
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リコ
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憲兵団のお姉さん
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フリーダ
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ルース
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キース教官
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ライナー