訓練が始まってから数時間。もうじき日が暮れ始めるだろうという時間帯で、すでに巨人の模型は一通り狩り尽くされたのか姿を見せない。
最初からカッ飛ばし、最初に巨人模型のうなじを削いだのはオレだが、一番多く討伐したのはおそらくミカサだろう。オレはライナーとベルトルト・フーバーに隙を見せないように、今まさにそうしているように闇雲に動き回っているので巨人模型の発見率はそこまで良くない。頭使ってないので当然といえば当然だ。
途中他の班を見る余裕は当然あったが、ミカサはバシバシとうなじを削いでいたし、後方支援班だったはずのジャンは鬼のような形相で巨人模型を探していた。そしてそれをコニーとサシャに横取りされていた。ウケる。
しかし、我らがウォール・ローゼ南方面の第104期訓練兵団が優秀というのはどうやら本当のことらしいね。見知らぬ顔の、おそらく別方面の同期訓練兵団と比べると立体機動の練度に差があるとオレでもわかる。
中でもミカサたち上位の上澄みは流石としか言いようがない。かくいうオレ自身も自慢じゃないが立体機動に関してはそれなりに得意な部類であると自負しているし、先程からビュンビュン飛び回っているので驚いた顔で見られるのにも慣れた。ウェーブのかかった短髪の女の子と、おかっぱ頭の男なんて目ん玉かっぴらいてたし。なんか尊敬の眼差しを向けられていた気がしなくもないが。
「っぶね!」
そんな考え事をしながら移動を繰り返していたら、民家の壁がすぐ目の前に迫ってきていた。
急いで腰を捻り、ガスを噴射して方向転換。慣性で引っ張られる手足を無理矢理自分のものにし、次のアンカーを刺して完全に姿勢制御。身長が高いと手足も長くなるからこういうのが難しいんだろうか。
にしても油断してるとすぐコレだ。オレもまだまだ成長の余地あり、ということか。
改めて自分の慢心に気を引き締めようとしたところで、身体の右側から寒気のような背筋が震えるような、なんとも言えないムズムズとした嫌な感覚を覚える。
このまま進むのは危険だ、という虫の知らせのようなものに従って速度を落としてみると、建物の死角からエレンが飛び出してきた。
「うおッ、わりぃフレディ! すまん!」
「平気平気! 前見て!」
「ああ!」
飛び出してきたエレンは回避姿勢を取った後、謝罪しながら去っていく。その後ろにはトーマスとフランツが続いていた。
ああいう素直に謝れるところがエレンの良い所なんだが、どうしてもジャンと一緒だと2人そろってクソガキに退行するんだから不思議だ。お前が、いやお前が! っていうのを何度見たことか。
そんなことを考えていると、背後からも先ほどと同じような嫌な感覚。スッと身体を右にずらしてみると、オレのすぐ横をかすめてアンカーが飛んできた。
「どうしたフレディ、ガス欠か?」
「いや......」
アンカーを発射したのはライナー。オレと速度を合わせ、いつもの貼り付けたような爽やかスマイルを見せてくる。殺すぞテメェ。おっと間違えた、殺す気かコイツ。あやうくアンカーで脳天か、よくて肩をぶち抜かれるところだった。
絶対狙ってるでしょコイツ。流石のフレディさんも腹が立ちました。
ガスを少し強めに吹かし、前に出る。エレンたちとは違う方向に進むと、誰にも発見されていなかったのかまだ設置されたばかりなのか、手のつけられていない小さめな訓練用巨人模型を発見したので近づく。
大きさはおよそ5メートル級だろうか。体感だが意外と大型の巨人よりも小型の方が難しい。非推奨であるが大型の巨人であれば巨人自体にアンカーを刺す十分な的があるものの、小型だとそうもいかない。故にうなじを狙うのが難しいと思っている。
左右の建物をうまく使い、うなじの部位を通りすぎるように位置調整して加速する。ゆっくりすぎると巨人に補足される可能性があり、速すぎるとうなじを狙うことが難しい。ガスを吹かす強弱、アンカーを刺す場所、離すタイミング。
細かいところまで考えると逆に難しいのが立体機動、自分の感覚も頼りにしてうなじを削ごうとした瞬間、今度は頭部から寒気が。
キース教官は風が吹いたらこういう気持ちなのかな、などと考えながらうなじに対してアプローチし直す姿勢を取ると、上から振ってきたベルトルト・フーバーがうなじを叩き斬った。
はいコイツら完全に確信犯です! あわよくばオレのことをアンカーで突き刺そうとしてるし、あわよくばオレのことを巨人模型のうなじもろともぶった斬ろうとしてます! おまわりさんコイツらですよ~!
眼の前でブレードを振りかぶりうなじを削り取ったベルトルト・フーバーを睨む。コイツは一瞬だけオレと目を合わせたかと思うと、何事もなかったかのように移動を始めた。当然、オレはブレードを構えたままその後ろをついて行く。
「ベルトルト!」
なにかに気づいたらしいライナーが名前を呼ぶと、ベルトルト・フーバーはすぐ後ろまで迫ったオレを見てハッとした表情になり、ブレードを胸付近でクロスさせて防御姿勢を取る。
オレはそんなベルトルト・フーバーの横を......素通りした。
「おっし、これで24!」
そして記念すべき24体目の巨人模型のうなじを削ぎ、その場を離脱する。
チラリとライナーとベルトルト・フーバーの様子を伺ってみると、苦虫を噛み潰したような表情でオレのことを見ていた。
事故に見せかけてオレのことを痛めつけるのが叶わなかったからなのか、オレが気にする素振りを見せなかったからなのかはわからないが、確かなのはアニが言う通りあの2人はちゃんと危ないということ。殺意もろ出しだから逆にわかりやすくて助かるけども。
こんなやつらと誰が戦場に行きたいんだよ真面目に。あの嫌な感覚のおかげで気づけたけど、それも座標、始祖の巨人の力の片鱗なんでしょうか。だとしたらもうユミルちゃんバンザイすぎるよ。
「おいフレディ!」
聞き慣れた馬面の声に立体機動を止めて屋根の上に着地する。すぐ横に着地したジャンは珍しく焦ったような顔をしていた。
「お前さっきの見てたけどよォ。あれどういうことだよ」
「あれってなに?」
聞き返すとジャンは『とぼけんじゃねぇ!』と言って距離を詰めてくる。その分だけ後退りしていると、ジャンはオレがベルトルト・フーバーに斬られかけたあたりの場所を指指しながら叫んだ。
「ベルトルトのことだ! ありゃ完ッ全に狙ってたぞお前のコト! なんか怒らせるようなことでもしたんじゃねえか!?」
ジャン坊、成長したな......まさか君の口から直接的ではないにしろ人と人の関係性を心配するような言葉が出るなんて。
訓練兵団の卒業も近くなってきた頃だし、成長してなかったらそれはそれで困るけども。だがここはあまり大事にしたくない、面倒だし更に目をつけられそうだからな。
「いやぁ別にオレは何もしてないよ。ただまあ、ベルトルト・フーバーも必死に訓練やってたからああなったんじゃないい? 訓練に事故は付き物だし、現に立体機動の訓練で大怪我した奴らだって居ただろ?」
「......ッチ、この性善説男が。俺だったら上位のために速攻で教官に報告するけどな」
「心配ありがとなジャン。明らかなやつだったら流石に報告はしとく」
「あれどう考えたって明らかだっただろ」
呆れているのかピクピクと眉毛を痙攣させながら言うジャンの肩を二度叩いたオレは、ある一方を指さしてそっと呟く。
「そういやあっちに巨人模型あったぞ。多分まだ誰も見つけてない」
「ハッハハ! 持つべきもんは使える奴だぜ! サンキューフレディ、憲兵団に入るのはこの俺だァッ!!」
途端に元気な表情となり、走り出して立体機動に移るジャン。マジで表裏が無いなアイツ、ってもまあ巨人模型なんて無いんだけどね。
ジャンに嘘をついたのはもしもの時の保険というやつ。この訓練が終わった後をライナーとベルトルト・フーバーに狙われたら面倒だ。多分ジャンなら『あの野郎ウソ付きじゃねえか! 一発ぶん殴ってやる!』とか言ってオレのことを探すだろうし、そこで姿が見えないとなればジャンたちがオレのことを探してくれると思う。
単にあの2人と3人だけの時間を作りたくないのだ。なるべく人を近くにつけておくならやかましいジャンが適任というわけ、尊い犠牲となってくれ。
元気よくジャンが飛び立っていった方向を見て、壁の上を見る。オレはそこまで目がいい方ではないがわかる、リコちゃんが腕を組んでこっち見てるわ。サボるなとか思われてそう。
これも真面目にやれと怒られそうだが、大きく両手を振ってアピールしておく。それを影から覗き見ている筋肉ダルマと背高ノッポがオレに今手を出すのは得策ではない、と思ってくれることを願おう。
デートする人
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アニ
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