ウォール・ローゼ、トロスト区の商店街の一角。
訓練を終えたオレたちウォール・ローゼ南方面第104期訓練兵団は、教官たち及び駐屯兵団の皆様からのありがたいお言葉。つまり訓練よりもキツイ終了後のなっがぁ~いお話までの僅かな時間で自由行動を与えられた。
すでに避難訓練をしていた住民たちは各々の仕事場や家に戻っており、オレは屋台で気の良いおっちゃんから貰った人情の詰まった蒸した芋をかじり、いわゆる閉会式が行われる集合場所に戻ってきた。
途中、トロスト区出身の同期たちが家族とささやかな再会を喜んでいるのが目に入ったが、この蒸した芋といいトロスト区は人情で溢れている。だからだろうか、トロスト区出身と聞けば真っ先に顔が思いつくこの男は元気に吠えていた。
「テメェらどういうことだ!」
いつものように声を荒げているのはジャン。だが今日は珍しくその対象が何かと競り合うエレンでもなければ、訓練の手柄を横取りするコニーやサシャでもなく。むしろ普段ならなだめられている側の人間。そう、ライナーとベルトルト・フーバーに対してだった。
何やら言い争っているような雰囲気に面倒事の匂いがしたオレはあの3人の視界に入らない用意に移動し、オレと同じように蒸した芋片手に座っているポテトフレンズのサシャとコニーの元へ向かった。
「あらやだ、喧嘩ぁ? おっかないわねぇ」
「あ、フレディ! どこほっつき歩いてたんですか!」
「お前が居ないから大変なことになってるぞ」
はい? と気の抜けた声が出てしまったが、じゃがいもはコニーをかじって......おっと失礼間違えた。コニーはじゃがいもをかじってから顎でジャンたちの方を見ろと促す。
別に相手が違うだけでいつものジャンだろう、と思ったが。何やら原因はオレにあるのか、早く行ってやれよという目を向けてくるコニー。とじゃがいもを置いてけと言いたそうな顔のサシャ。
行っても行かなくても面倒なことになりそうだし、まだじゃがいも残ってるしで一瞬迷ったが。それでも行かない方が後に長引きそうだなと名残惜しさにじゃがいもをひとかじりしたオレは決心する。
が、芋を持って登場するのはやはり格好がつかない。もう一度芋をかじったオレはそれをサシャいわく半分という名の1/3と2/3に分け、コニーに1を、サシャに2を押し付けた。喜んでたので何よりだが、今になってこの2人が持っている芋はちゃんと正規の手順で手に入れたものなのか心配になりつつ、今にもライナーへ飛びかかりそうなジャンの元へ向かった。
「落ち着けじゃん、ジャン」
「あぁ!? 今それどころじゃ......って、フレディ!? お前なにやってたんだよ!」
何故かやけに驚いた顔をしたジャンはオレの両肩を掴み、激しく揺らし始める。脳が揺れてちょっと気分が悪くなってきたところでオレは正直に答える。
「ちょっと散歩して、芋貰って、食べながら戻ってきた」
それを聞いたジャンは拍子抜けしたのか、あんぐりと大きく口を開けて見事な馬面を見せつけてくる。流石のオレもコレにはまいった、としか言いようがない。悔しいが負けを認めよう。
とおふざけに持ち込んでみようとしたが、ジャンは急にキッとライナーたちを睨みつけて言った。
「ふざけんのも大概にしろよこの筋肉ダルマが!」
「だから俺は言っただろう。フレディが戻ってくるかは知らん、と」
話しの内容が掴めない。なぜジャンはこんなにもブチギレていて、ライナーは無表情のまま腕を組んでいて、ベルトルト・フーバーはその後ろで突っ立っているのか。いやベルトルト・フーバーはライナーの腰巾着だからか、ハハッワロス!
コニーの圧に負けて来てみたは良いものの、逆にオレが来たことでややこしくなっているじゃないかと頭を悩ませていたその時。心強い助っ人がやってきた。
「言い方ってもんがあると思うけど?」
「アニ......ッ!」
親愛なる隣人、アニ・レオンハート! はライナーの前に立ちはだかるようにしてオレとジャンの横からスッと割って入る。その存在感たるや、まさしく小さな巨人。 いやこれはちょっと不謹慎というかいい気分しないか。何だろう、眠れる獅子?
ともかくアニがやってきたことで場の雰囲気が変わった。主にベルトルト・フーバーが急に殺気立ち始めた。
アニの名前を呟いたかと思えば彼女を見たあとオレのことを憎むような目で見て、またアニに視線を移してそっからガン見。もうおっかねえよ、見ろよジャンの顔。さっきまでの威勢はどこいったのかベルトルト・フーバーの行動にクッソビビってるぜコイツ。
「アニ。俺はジャンにフレディはどこに行ったんだ、と聞かれただけだ」
「それに対して戻ってくるか知らない、ってあんたが言ったんならジャンもこうなるだろうさ。クリスタから聞いたよ」
「......なに?」
なに? じゃねえよ。お前なんでちょっと口角上がったんだよライナー。
ああそうだ忘れてた、コイツはクリスタを見る度に鼻の下を伸ばしてやがった! このクソゴリラ、僕たちのクリスタちゃんに対して不敬罪で吊し上げてやるからな! 覚えとけよ!
「アニ、ちょっと待ってよ......」
「......」
「おいおい、どうしたんだよ」
「急に走り出さないで......」
なんてことを考えていたら息を切らした膝に手を置くクリスタと、死んだ魚のような目をして無言でライナーたちを見つめるミカサ、なんかわからんけどついてきた、と顔に書いてあるエレンとアルミンがやってくる。
随分豪華な面子だこと。で誰か説明はよ。なんなんこの集まりは?
というオレの切実な願いを知ってか知らずか、クリスタが一つ深呼吸してから話し始める。
「ライナー、訓練のときにたまたま見ちゃったんだけど......フレディにアンカー当てそうになってたよね?」
「......それは......」
「ベルトルト、ジャンから聞いたけどあんたフレディごと斬ろうとしてたんだってね」
「......」
え、なに。この娘たちオレのこと好きすぎじゃない?
てかジャン! お前いい奴じゃねえかやっぱり! 馬面馬面言われてるけど半分髪型のせいで見た目良いし背も高いし、ガキっぽさがなくなればモテモテだろうに。っていうのを言うと調子に乗って更にモテモテから遠ざかりそうだけども。
「は? お前らそんなことしてたのか!?」
「お、落ち着いてよエレン。まだそうと決まったわけじゃ......ほら、偶然かもしれないし!」
「私はそうは思わない」
「ミカサ!?」
シガンシナ区組もエレンを筆頭に盛り上がり、アルミンがなだめようとしたところでミカサ唐突の爆弾発言。
あたふたとしたアルミンがオレに助けを求めるような目で見てくるが......諦めてくれ。ミカサが頑固なのは君たちが一番よくわかってるだろう、もうコイツは一度決めたらてこでも動かない硬い意志の持ち主だから。
「やーい、怒られてやんの」
「テメェは黙ってろこの間抜け!」
「グフッ」
こちとら7対2やぞ、とライナーたちを煽ろうとしたらジャンに口を塞がれる。間抜けじゃなくてお茶目と言ってくれ。
そして肝心のライナーたちはと言えば、それぞれクリスタとアニから詰められ、良くも悪くも純粋無垢なエレンから懐疑の目を向けられ。ミカサはなにか思う所があるのか2人とそこまで接点が無かったからなのか、半眼で睨まれ。まさしく四面楚歌といった状態に言葉を詰まらせている。
ざまあねぇぜ、と思ったことは認めよう。人が怒られてるの安全圏から見るのが好きな人も多いでしょう、私は普通に心が痛みますけど。
このまま2人が何を言うのかを待ってもいいが、いかんせんギャラリーが増えすぎた。ユミルとかすごくニヤニヤしてて何を言い出すかわかったもんじゃないし、マルコあたりの真面目な人の耳に入ることは教官の耳に入ることと同じだ。そうなると事情聴取は避けられないと思う、助け舟じゃあないがこの話は終わりにしちゃおう。
依然としてオレの口を塞ぐジャンの手をどけたオレは新鮮な空気を吸ってから話す。
「事故だって事故」
「わざわざ壁上の駐屯兵団から見えにくい場所を選んで斬り掛かったのが事故?」
「......」
アニさぁ......君絶対にベルトルト・フーバーのこと嫌いじゃんもう。見てよあの絶望した顔。ちょっと笑える。
つかこれどうするよ。もうどうしようもなくなってきてるぞ。せめてなんか反論しろよお前ら、なんで黙ってるだけなんだよ。ていうかマジで狙ってたのかあれ!? まあ偶然やろって流そうとしてたオレの気持ち返せよ畜生ども!
なぜかオレ以上にかカチキレてるアニと、本当のことを言ってよと言いたげな潤んだ瞳で見つめてくるクリスタ。オレが何を言ってもこの2人がややこしくしそうだなぁと遠い目をしていると、ミカサが一歩前に出た。
「黙ってないで、言わないとわからない」
「そうだぞ、ライナー、ベルトルト。実際のところどうなんだ?」
「エレン、フレディ。もし必要なら私が無理矢理喋らそう」
「やめてミカサ。脳筋すぎ」
そんなことしたら余計こじれるわ! もうこれオレじゃどうにもなんねえよ。
わざとじゃないって一言でも言えばオレもそれに乗っかるのに、ベルトルト・フーバーがアニに詰められて動揺してるせいでライナーも下手に喋れなくなっちゃったじゃん。
真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である、とは言うけども。ベルトルト・フーバーは特にアニ関連でメンタルが弱すぎる。話しかけられるたびに拳や足が飛んできてもめげなかったオレを見習ってくれ。
そろそろ集合時間が近づいていることもあり、周りに集まった同期たちがぞろぞろと寄ってくる。この状況下ではなおのことライナーも動けないだろうな、と面倒事を避けたい一心で目線を送ろうとした時。急に集まっていた同期たちが道を開けて心臓を捧げる敬礼をし始めた。
「何の騒ぎだ? これは」
「リコちゃん」
やってきたのは小柄なメガネっ娘のリコちゃんことリコ・ブレツェンスカ。普段の感じでちゃん付けして呼んでしまったが、普通に上官なので慌てて敬礼。
エレンたちも彼女の薔薇の紋章に気づいて敬礼するが、リコちゃんは手を振って『いらんいらん』とそれを解かせる。
「お前たち、そろそろ時間だぞ。早く整列しないか」
コレはまさに天の一声。上官にそう言われたら従うしかないので、納得してなさ気なアニやらクリスタやらをなだめ、ライナーにも目線を送り他の同期たちに続こうとする。
だがそんなオレの肩をリコちゃんの手が掴む。
「待て、アルフレッド。少し話をしようじゃないか」
「えっ、告白ですか?」
「アホ」
カツン、とリコちゃんからチョップをおでこに受ける。むしろご褒美なので全然ありがたいのだが、リコちゃんの表情を見るにお説教が確定しているので早く逃げたかった。
「お前はふざけ過ぎだ。いちいちこっちに決め顔するな、訓練だがこれは実戦を想定したものだぞ。仮に壁が破られるようなことがあって、私が壁上に居たら決め顔しながら立体機動する気か?」
「もちろん。リコちゃんに良いところを見せるためならこのアルフレッド・ガイスギーチ、死力を尽くすつもりであります!」
「決め顔のまま巨人の口に飛び込む姿を見る羽目になる私の身にもなれ」
「泣いてくれる? ねえねえリコちゃん、泣いてくれる?」
そこまで言ってリコちゃんは流石にイラッとしたのか、こんどは強烈なデコピン。
乾いた音とともに鈍い痛みが額に走り、思わず『うっ』と声を漏らす。リコちゃんはそれはそれは大きなため息をついたので、すかさず深呼吸。
「......なにをしている」
「いや、リコちゃんのため息を吸って逃げた幸せを回収しようかと。戻したほうがいい?」
「初めの頃のアルフレッドはどこに行ったんだ。あの手紙にあった好青年の見る影もないぞ」
「リコちゃんとお話できるのが嬉しくって」
これは本心。だがそれを聞いたリコちゃんは何かを我慢するように口を閉じて眉間を抑える。
数秒すると復帰したのか、ため息をつこうとしてそれを飲み込んだ彼女はオレの胸を人差し指でつつきながら言った。
「一応言っておくが、私だって人間だ。お前が死んだら泣くに決まってる。だから真面目にやれと言っているんだ」
「......はい」
「ふっ、素直なところは変わっていないな。にしてもアルフレッド、さっきの女子たちにはお礼しておけよ」
「さっきの女子たち?」
リコちゃんからの愛情に背筋が伸びる思いでいると、突然そんなことを言い出す。聞き返してみると彼女は歩き始めたのでそれについていく。
「何があったかは知らんが、金髪2人と黒髪1人があんたをかばってるように見えてな」
「あー、あの3人か。いや、うん。オレも前々からそう思ってたとこだけど」
「それならちょうどいいじゃないか。この訓練の後にしばらく休みがあるんだ、デートでも誘ってやれ。もちろん、手紙でやり取りした私とイルゼと3人で出かけるのとは別日でな」
それだけ言い残したリコちゃんはオレの背中をぽんとたたき、駐屯兵団の人たちが集まっている場所に向かっていった。ちょっと耳が赤いところとか推せる。
しかしデートねえ、どこも誘えるような場所ないのが男として悲しいが......アリだな。休日でも外に出てなかったし、トロスト区の活気ある感じを見てたらお出かけも楽しそうだ。
そうと決まればどうやって誘おう。そもそも承諾してくれるかな。
と考えながら訓練兵団の列に混ざったオレは、教官たちとピクチク? 司令のお言葉を聞き流し、またリコちゃんにお説教されるのであった。
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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サシャ
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ユミル
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ミーナ
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イルゼ
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リコ
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憲兵団のお姉さん
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フリーダ
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ルース
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キース教官
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ライナー