ですが他にも思いついているエピソードはあるので、時々ねじ込むかもしれません。
「よし、そろそろ行くか」
いつもの訓練兵団服ではなく、白いシャツに紺色のスラックスというシンプルな服装のオレは、運動用の着替え等を詰めたカバンを手にして立ち上がる。
昨日のトロスト区襲撃想定訓練はオレたち第104期訓練兵の卒業前最後の大規模な訓練であり、また、大人数が参加したこの訓練での成績を集計するための時間ということもあるだろうが、なんと5日も訓練はお休みで束の間の自由を手に入れた。
基本的に同期はシガンシナ区外ではトロスト区もしくはウォール・ローゼ南方面の出身者が多いのだが。やはり訓練兵としての覚悟というものか、帰省していない人たちも多い。
例えばサシャは故郷がオレの出身であるヤルケル区に近いダウパー村ということもあり、また訓練所に居たほうが食べ物があるからという理由で残っている。
コニーの場合は故郷ラガコ村なら余裕を持って帰れる距離だろうが、一人前になってからじゃないと母ちゃんに何言われるかわからねえ、という可愛い理由で残っている。
ジャンは以前のトロスト区襲撃想定訓練で同期の前で母親にジャン坊と言われたのが堪えたのか、しばらく挙動不審だったし帰省はしないのだろう。
オレの場合は愛馬のウーシュカの足なら故郷のヤルケル区まですぐに帰れるだろうが、どうせ帰ったところで2年以上放置している家の掃除をして終わりだろうしで帰省する予定はない。一応こんなでも貴族階級ではあるのでヤルケル区の中でそこそこの土地を与えられているし、手つかずなぼうぼうの草とかでそもそも家までたどり着けない可能性もある。なんなら資産とか全部置いてきたからね。
847年の第104期訓練兵団結成に伴い入団するのが一番都合が良い、というフリーダの助言に従い家には『訓練兵団に入団します』という誰宛でもない置き手紙だけ残してきた。中二病っぽいね。
訓練もないし帰省する予定もない、なら休みの5日をただぐうたら過ごすのかと言われればそうではない。昨日リコちゃんから言われた3人の同期女性をお出かけに誘ったのだ。
つまり今日と明日、そして明後日はデート! ちなみにミカサ、クリスタ、アニの順番でございます。順番に特に意味はない。
他にもお世話になっている娘たちは居るが、また別の機会で......というか、ユミルやらサシャやらミーナやらとは既にお出かけの実績がある。ミカサとアニとは訓練所の外まで出たことはないし、クリスタも前回はユミルが一緒だったので2人きりは初めて。胸が踊ります。
「よお、フレディ」
さてそんなルンルン気分で歩いていたオレだが。後ろからかけられた声に足がピタッと止まってしまう。
自分でもびっくりするくらいに鈍く首を動かして振り返ってみれば、ライナーがいつもの腹立つスマイルを浮かべて立っていた。
「なんだよ、野郎に用はねえよ。こっちは忙しんだよどっかいけ! シッシ!」
「ヒデェな。まあ、そう言われても仕方ないか......悪かった、昨日のこと」
「はぁん?」
急に腰を折り曲げて頭頂部を見せてくるライナー。筋肉ダルマ流の新手の威嚇かなにかかと思ったが、いや、これは謝罪か。
このままコイツを放置してミカサとの待ち合わせ場所に向かおうかとも思ったが、流石にそこまで鬼ではないので顔を上げさせる。拳で。
「オラッ」
「グハァッ!?」
額に拳を受けたライナーは軽く吹っ飛び尻もちをつく。
見上げてキョトンとした顔は女性がやれば大変かわいらしいだろうが、コイツがやると間抜けの何かにしか見えない。つまり見苦しいので目をそらす。
「そんな顔すんなよ、ライナー......」
「誰のせいだ!」
思ったよりもキレの良いツッコミが返ってきたな。脳みその1割くらいは筋肉に侵食されず残っていたようですね。
立ち上がったライナーは困ったような顔をしたまま次の言葉を詰まらせる。言いたいことがあるが、どう言えばよいのかわからない、というところだろうか。正直時間が押してるので言うならさっさと言ってほしい、お前にかける時間なんてこっちには少しもないんだよ!
このままライナーの横を通り抜けても良かったが、流石にそれは愛想が悪すぎるし殴るだけ殴った変なやつ認定されてしまう。
「で、言いたいことはそれだけ? オレ今すっごく急いでるから」
「あ、ああ。悪い。謝罪がしたかっただけなんだ、呼び止めてすまない」
その場で足踏みをして急いでますアピールをしてみると、ライナーは壁際に体を寄せて道を開ける。
どういう風の吹き回しで謝罪をしてきたのかはわからないが、おそらくベルトルト・フーバーは絡んでないだろう。あれがオレに謝罪すると思えないし、ライナーやそれこそアニがオレに対して頭を下げているところなんて見た日には発狂して襲いかかってきそう。流石に偏見がすぎるか。
別にライナーという人間のこと自体は嫌いではない。それはベルトルト・フーバーもだが、ライナーの場合は訓練兵のライナー・ブラウンという自分で作り上げた存在にガッツリ乗っ取られてるくせに、昨日のように時々訓練兵じゃないライナー・ブラウンが出てきているのが見ててムカつく。大根役者がよぉ、お前もう訓練兵のライナー・ブラウンとして生きていけばいいだろうが、と。
ベルトルト・フーバーに関しては単純に殺意むき出しすぎて寒気が止まらないので生理的に無理。それがなかった最初の1、2ヶ月は全然普通だった。そのタイミングでアニと仲良くなれる前にベルトルト・フーバーとも話せば変わっていたんだろうかと今になって思う。
昨日のアニに詰められてショック受けてる姿はちょっと可哀想でしたしね。ウソです、アニとクリスタのたくましさに胸キュンしちゃってライナーの表情もベルトルト・フーバーの表情もあんま覚えてません。
「じゃオレいくわ! またなサンドバッグ!」
「......サンドバッグだと......? おいフレディ! 不満があるなら話し合いを......待てよッ!」
呼び止められたが面倒くさいので走り抜ける。サンドバッグ呼びにショックを受けていたようだが、我慢強いライナーくんならコレくらいで心折れないよね。それともミカサのサンドバッグなオレにそう言われたのが効いたのかな? だったら許さねえ、お前をボコボコにしちゃる。アニが。
んなことより時間がヤバい。サンドバッグじゃあ済まなくなっちまうぞ~コレ。お兄さん屍になっちゃう。
宿舎を出て、急ぎ足で訓練所の出入り口へと向かう。すでにカバンを肩にかけ、オレと同じよううな白いシャツにトレードマークのマフラー。そして長い灰色のスカートという私服姿のミカサが綺麗な立ち姿で待っていた。
いかにも急いで来ました、というのはわざとらしいので呼吸を整えつつ近づくと、オレが声を掛ける前にミカサが振り向いた。
「......」
「......いや、あの。すみません。本日のお召し物も素敵ですねミカサ殿」
無表情のまま見つめてくるミカサの圧力に、自分でも無理矢理上げた口角がヒクついているのがわかる。
ぶん殴られるか、投げ飛ばされるか。せめて服が汚れないように殴ってほしいな。
半ば諦めからそんなことを考えていたが、ミカサは手を振りかぶったりすることはなく。ただ短く呟いた。
「ありがとう。行こう」
そして歩き出すミカサ。呆気にとられてしまったが、はっとして横に並んで歩く。
チラリと横目で表情を盗み見るが、特に怒っている様子はなく。至って通常通りの無表情。誰かに噂されると面倒なので宿舎からは別々に出る、という手段を取って先につくべき男のオレが遅れたことにも、焦って雑な褒め方をしたことにも怒ってはいないようだ。
だがそれが逆に怖い。なぜならこの後、オレとミカサのデートとはつまり訓練所から少し離れたところにある鍛錬施設で個人的な訓練をする、というものだからだ。
動きやすい服装で、汚れても良いものが好ましい。とはミカサから聞いた唯一の持ち物。
前々から『フレディと1対1での対人格闘術の訓練がしたい』やら『私とあなた、邪魔なしの真剣勝負ならどちらが強いか』やらと物騒なことを言っていたので、人目のつかないところでボコボコにするつもりなんだろう。怖い。
いつもならそんなお願いは適当に流していたが、今回ばかりはオレの方からお世話になっているしどこか出かけたりしないか? と聞いた手前断ることが出来なかった。といってもミカサからは『それなら明日、訓練所外の近くにある鍛錬施設に行こう』としか言われていないのでまだ生きて帰る望みはある。
正直ビビっている。が、アニじゃあないがオレもミカサ相手にどれだけ通用するか気にはなる。技術ではなく単純な力で、というのはアニと違うところだが。去年に腕相撲で瞬殺されてから少しは鍛えられたと思う。あまりにも瞬殺だったのでミカサには冗談だと思われていたが、手の甲が2日くらい腫れてて痛かったのは忘れられない。
振り返ってみれば楽しい思い出ではあるが、ちょっとミカサがトラウマになってた時期もある。今は全然、会話なしで横に並んで歩いてても平気なくらいには克服したが。いや、やっぱ気まずいわこれ。話そう。
「た、楽しみだねー。ミカサは鍛錬施設に行ったことあるの?」
「時々行ってた。使う人は殆ど居ないし、いつも1人だったけど」
「エレンとかアルミンは? 2人もミカサに誘われたら参加すると思うけど」
「考えたこともなかった。エレンは守らないといけないし、アルミンは可哀想」
「......大切な人、なんですね......」
つまり僕は守らなくても良いしどれだけシバいても可哀想じゃない存在ってことですね。ミカサにとってのオンリーワン! やったね!
や全ッ然嬉しくねえわ。ミカサ怖い、トラウマの克服って簡単にはいかないんだね。
冷や汗が背中に流れているのを感じながら歩き続ける。しばらく無言の時間が続いたが、それをミカサが『でも』といって打ち破った。
「フレディは遠慮する必要が無いから。気が楽だからこうやって誘える」
「ほぉ......」
「そういう意味では、フレディも大切な人」
「ミカサチャァアン! アァ!」
なにコイツ急にデレるやん可愛いじゃねえかよぉ、ええ?
思わず甲高い声を出してしまった。可愛いの許容量を超えるとこういう変な声が出るのはフリーダとイーリスさんのが伝染ったんだろう。おかげさまでミカサに『うるさい』って尻を叩かれたぜ。でも大丈夫、プリッとサせておいたから音の割に痛くなかった。
叩かれ続けて3年近く、ミカサの尻を叩く技術が仕上がってきたので当たりどころが悪くなければそんなに痛みはない。これが叩かれる快感なんですね。
ミカサのデレと尻に遅れてやってきたジーンという熱い感覚の両方を思い出としてしまい込んで。駄弁りつつオレたちは足を進めるのであった。
現在公開可能な情報
トロスト区襲撃想定訓練の際、ライナー・ブラウンとベルトルト・フーバーによるアルフレッド・ガイスギーチへの危険行為はジャン・キルシュタインとクリスタ・レンズ。
両者ともに後方支援の班だったが、ジャン・キルシュタインは成績のため。クリスタ・レンズは同じ班のアニ・レオンハート、ユミルとともに事前の訓練予定通り前線を押し上げる行動を取っていたため目撃することに。
意図的に危険行為を行ったとあれば教官に報告する義務があるが、ライナー・ブラウンとベルトルト・フーバーともにそのような行動を起こす問題児とは認識されていなかったため、ジャン・キルシュタインもクリスタ・レンズも即時に教官に報告することはせず。訓練終了後に一度本人たちに確認しようとしたところでアルフレッド・ガイスギーチの姿が見えないことに気づいたジャン・キルシュタインがライナー・ブラウンを問い詰めたことが先日の騒動の発端である。
余談だが、クリスタ・レンズが迷った末に同じ班のアニ・レオンハートとユミルに自身が目撃したことを話したところ、ユミルは閉会式が開かれる場所へと即座に足を運びアルフレッド・ガイスギーチの姿を探しはじめ、アニ・レオンハートはライナー・ブラウンとベルトルト・フーバー両者を『殺す』と発言したため、クリスタ・レンズと近くを通りがかったエレン・イェーガー、ミカサ・アッカーマン、アルミン・アルレルトになだめられていた。
アルフレッド・ガイスギーチが閉会式が開かれる場所へと到着した時、ユミルがニヤニヤしながら様子を伺い、アニ・レオンハートとクリスタ・レンズたちが遅れてやってきたのは上記の理由からである。
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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サシャ
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ユミル
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ミーナ
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イルゼ
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リコ
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憲兵団のお姉さん
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フリーダ
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ルース
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キース教官
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ライナー