解散式の後、オレたち104期生はトロスト区のレストランを貸切状態で使っていた。
219人も余裕で収まる大きな会場は、椅子1つにつきパンが2つとジョッキの水1つにスープが1つ。そしてテーブル1つにつき2つの大皿でじゃがいもが用意されていた。
いや、うん。わかるよ。パンとスープだけだったから豪華なのはさ。しかもスープなんて豆と野菜がいつもよりたくさん入ってて美味しかったし。
ガッカリしてる奴も居たが、食べ盛りかつ民を守るための兵士に提供される豪華な食事がこれならばと、食糧事情の苦しさがチラ見えしてきて文句も言えないというものだ。
しかしじゃがいもの提供の仕方はいただけなかったな。あんなん早いもの勝ちみたいなところある置き方だったから小皿に取り分けず手づかみで食ってるやつ居たぞ。サシャとかサシャとか。
そんな同期たち全員同じ場所に揃って食べる最後の晩餐は佳境を迎えていた。
一通り全員がお腹を膨らませた後、教官の目を気にすることがないとなれば騒ぐ奴も居る。卒業おめでとうとジョッキを打ち当て合い雄叫びを上げる者や、これからの生活に目を輝かせる者、辛かった思い出に涙を流す者など様々。
当然仲が良い人たちが固まっているが、上位10名は選択肢が1つ多いだけあって自然と彼らだけで固まっている。
そんな中オレはというと、ユミルとミーナ、そしてルースの3人と一緒に思い出話に花を咲かせていた。
「いやぁ~、入団した時のことが昨日のようだよ。私、入団早々キース教官からの洗礼を受けてさ。正直帰りたかったけどフレディのお陰でなんとかここまで耐えられた」
「あれ? オレなんかしたかな?」
「励ましてくれたじゃん!」
「いや、でもそれだけじゃない? そんなに特別なことしたかな」
「フレディにとってのそれだけでも、私にとってはありがたいことだったんだよぉ」
肩に手を置いて微笑んでくるミーナ。可愛い。
ただ今にして思えば、入団当初のオレは結構キャラを作ってたな。クリスタほどじゃないにしろ、必要以上に仲良くなっても苦しいだけだっていう諦めがあったし、営業スマイル全開の気取った奴だったかも。
「そういえばフレディもキース教官に詰められてたでしょ。あれ私後ろだったから見てなかったけど、何かやったの?」
「確か決め顔でめっちゃこっちにウインク飛ばしてた」
「うわー、やってそー。でもその後にさ、急に人が変わったみたいな雰囲気になったから、私フレディのこと最初はちょっと怖かった。ユミルは?」
「私か? 私はそうだな......正直、気に入らなかったな」
「ブフッ! ファッ!?」
ルースの質問でミーナからちょっとした黒歴史を掘り返されたと思いきや、急にユミルからの気に入らん発言で思わず吹き出してしまう。
なんでや!? 結構すぐに仲良くなったやんオレたち! あれか、クリスタに被ってサシャに餌付けしてたからウザかったとか!? どうしてだよユミル! オレの太ももにずっと手を置いてるくせに! ちょっと意識しちゃうじゃないか。んん?
「お前、良い奴を演じてただろ? 薄っぺらい笑顔で、ひたすら周りと円滑にやり過ごそうとしてる顔だった」
「確かに」
「わかる」
「ちょ待てよ。なに、オレそんなわかりやすかったの? この際だからぶっちゃけちゃうけど、確かにみんなとこんなに仲良くなるつもりなかったけどさ。そこまで?」
「そりゃあもうわかりやすかったさ。ただ今は大好きだぜ? 本当のフレディくらい表裏がなくて面白いやつはそうそう居ないからな」
オレの太ももに置いていた左手を妖しげに動かしてかと思うと、ガッと豪快に肩を組んで右頬に頬ずりしてくるユミル。
彼女の柔らかな肌にグリグリと圧迫され思わず『グワァー』と情けない声を出して抵抗してみると、反対方向からはミーナが人差し指で左頬をエグッてくるし、ルースが意味もなく『瓦割り! 瓦割り!』などと言いながらオレの頭に手刀を落とす。
んー幸せ! こうやってまったり出来る時間こそが本当の幸せであると気づけたのは、間違いなく彼女たちや同期の仲間たちのおかげだ。
そしてオレはそんな仲間を何があっても守る覚悟で居る。なぜなら私は強いので。ミカサの次に。
「そういえば、改めてだけどフレディたちって兵団はどこを志願するの? やっぱり調査兵団?」
ふと、ルースがそんなことを聞いてくる。確かに、大っぴらに志願する兵団を公言しているのはオレとエレンにジャンくらいだ。
ミーナとは以前にアニとも一緒に話して、オレが居るなら調査兵団にすると言っていた気がする。しかしユミルはどうするんだろう、クリスタについていくにしても憲兵団選んだらあれだし。
気になるがまずはオレが言おうか。
「オレはもちろん調査兵団、これはずっと変わってないよ」
「私も! 2年前からずっと調査兵団志望」
「凄いなぁミーナは。私もフレディの話を聞いて調査兵団って思ってたけど、やっぱり私の立体機動じゃ足手まといになりそうだから駐屯兵団かな」
「いいや、お前の判断は悪いことじゃないぞルース。私に言わせれば、志だけある奴よりも自分の実力をしっかり理解している奴の方が強い」
「ありがとユミル!」
尊い。左隣を見てみればミーナも同じ意見なのか、合った目はまるでおばあちゃんのようだった。それを言ってしまえばオレはおじいちゃんのようだっただろうけど。元気してっかな天国の爺ちゃん。
にしてもユミルがこんなにも面倒見が良い姉御になるとは。クリスタ命なのは今も昔も変わらないけど、よほど無茶なお願いでなければ大抵は『貸し1つだ』とか言って聞いてくるようになったのはこの3年間の成長だろうか。
と思ったが、これがユミルの本来なのだろう。そこにルースがユミルの志望兵団を問うた。
「ユミルは? どこにするの?」
「私も調査兵団だ。コイツといると退屈しないし、何より外が今どうなっているか気になるからな」
「何気にユミルの志望兵団って初めて聞いたかも。私たちと同じだったんだね」
「まあ十中八九クリスタも調査兵団にするだろうからな......おっと、お呼ばれみたいだ」
ユミルの視線の先をオレたちが追ってみると、成績上位10名が集まったテーブルの中でクリスタがこちらに視線を送っていた。その横のアニは来いよと言いたげな顔で流し目を向けてきており、サシャは口をぽかんと開けてオレを見ている。
全く、モテ男は大変だぜ! まぁアニあたりはエレンとジャンがヒートアップしててうるさいから黙らせろとか思ってそうだけど。ミカサが最近エレンを伸び伸び育てる方針に切り替えたのでここらで止めさせよう。
クリスタたちが座っているテーブルまで移動しようと立ち上がると、ユミルは着いてきたがミーナとルースは『私たちはあっちに行ってくる!』といって別の方向へ向かっていった。
変な気を使わせたのかもしれないが、ミーナとルースが居るとアニのキャラ崩壊必須なので逆に良かったのか?
「あっ、ユミル! フレディ!」
「よおクリスタ。変なことされてないか?」
「大丈夫、って、ちょっと! ユミル!」
「いいだろクリスタ? お前の志願する兵団次第では、中々会えないんだからよぉ」
「変なことしてくるのはユミルだってば! やっ」
近づくや否や、ユミルはクリスタを背後から抱きしめ両手で胸やら腹部やらをいじり始める。加えて他の人からは見えないように自分の体を使ってうまくカバーしているため、あられもない姿となっているクリスタを見れるのは壁を背に立つオレと、じゃがいもをスプーンに乗せて近づいてきたサシャだけ。
涙目になって必死にもがくクリスタだが、体格差とユミルの無駄に洗練された動きで中々振りほどけず。その姿を両目をガン開きにして見ていると、サシャのスプーンが口元に近づいてきた。
「フレディ! この芋、なんだかいつもより美味しく感じます! 食べてみてください! ほらあーん!」
「いいの? ありがとうサシャ......あれ、確かに。なんかいつもよりちょっと塩が効いてる?」
「ですよね!? さっきからずっと言ってるのに、誰も同意してくれないんですよ! やっぱりこの味の繊細さを共有できるのはフレディくらいです!」
「味覚には自信ありますから。非常にグッドです」
両手の親指を立てる。それを向けた先は、スプーンを手に嬉しそうにぴょんぴょんはねている耳と尻尾が見えるサシャと、クリスタの乱れた姿を見せてドヤ顔をしているユミル。
2人とも笑顔だが、方や味の共有が出来て嬉しいという純粋な笑顔。方や可愛い女の子のちょっと危ない様子を可愛いと思う同志に対しての悪い笑顔。対照的すぎるが、それでいい。
「土地を奪還すれば、もっと美味しいものをお腹一杯食べれますから! 私たちなら出来ます、頑張りましょうねフレディ!」
「ああ、そうだな! ところでサシャも調査兵団なのか? てっきり食いっぱぐれない憲兵団かと」
「私をなんだと思ってるんですか!? 確かに最初はそう考えてましたけど、土地を奪還しないとフレディと約束した狩りが中々出来ませんし。なにより余裕ができればさらなる美味しいが待っていると私の勘が言っています!」
「サシャの勘はよく当たるからなぁ。なんだかオレもやる気が出てきた、まずは芋を使った料理が発明されるように頑張ろう!」
「ぁあそれ最高ですぅ! 素晴らしい流石フレディ!」
ほんと元気で勇気づけられるなサシャには。出会った頃からずっと明るい気持ちにさせてくれるサシャのお陰で、オレが本当の自分を出すようになったと言っても過言ではない。あとはアニに物理的に襲われたときとかも思わず素が出ちゃってたけど。
もしもサシャがガイスギーチ領に来たら大喜びだろうな。領主であること抜きにしてもみんな野菜やらなんやらをお裾分けしてくれるし、サシャの反応が最高すぎてもっとお裾分けしそう。ヤルケル区の人気者間違いなしですね、僕のポジションが奪われます。
「クリスタはどこにするんだ? 憲兵団か?」
「はぁ、はぁ......ひ、人に変なことしておいて、良く平気で居られるよね! 全く!」
「怒んないでくれよ。ほら、フレディも気になってるぜ? だろ?」
「ハイ」
「流されすぎだって......私も調査兵団」
解放されたクリスタが息を整えながら言ったのは、調査兵団。
またしても調査兵団か、今期は調査兵団が中々に多くなりそうだ。イルゼちゃん大喜びだね。オレとしては守るものが多くて更に強くならねばと思うばかりですが。
でも今のクリスタが調査兵団を志望するなら止めない。以前までの彼女なら自暴自棄になっているのではと止めたかもしれないが、今のクリスタはヒストリアらしく自分の意思で動いているから何ら心配はない。
ただやっぱりね、お兄さんとしては理由が気になるわけで。オレと違って偽王家から圧力を受けているわけではないだろうに、どうして憲兵団ではないんだろうか。
「ふふ。フレディったらなんでって顔になってるよ、もう。あなたが行くから調査兵団にするのに」
「またオレが理由? ......あ。ありがとうございます」
「うん。危なっかしいことしないように側で見守ってるっていう約束、ずっと続いてるからね」
「はぁクリスタしゅきぃ」
そういえばとクリスタがヒストリアらしくなった日のことを思い出して感謝を伝えてみると、彼女は良い笑顔で笑う。その笑顔に早口で言葉が溢れちまったぜ。
やっぱ女神すぎ、これもうクリスタが安心して見てられるようにしっかりしないと。自分は大丈夫だと思うのは悪い癖だってよくフリーダにも怒られてたし。
ていうかもうこれはプロポーズでは? 遠くからじゃなくて側で見守るとか、もうそれ夫婦じゃん。どうしよう、お嫁に来てくれるかな、オレが婿入りしたほうが良いのかな。
つーかもうヒストリアじゃんこれ。ユミルに言われたようにオレも入団したときはキャラ作ってたけど、クリスタもそこからここまで自分を出せるようになってお兄さん嬉しい。
《ぶっちゃけちょっと思い出してるよね》
それあなたが悪いでしょ。つうか急に語りかけられると振り向いたりしちゃいそうだから予兆くれよ。あ痛い、頭痛は止めて。
「アニはどうするんですか? さっきからずっと黙ってましたけど、私たちは言ったんですから聞かせてくださいよ」
「私?」
頬杖をついて穏やかな顔をしていたアニは、サシャに話を振られ唇をきゅっと結んで少し考える。
今度こそ憲兵団だろうな、と思っていた彼女の口から出た言葉は予想外のものだった。
「......調査兵団」
「え? なんです? そんな兵団ありませんよ?」
「だから、調査兵団だってば。サシャ、あんたたちと同じ」
「あれ? 私そんな兵団希望しましたっけ」
「あんた......」
あかんこれ、予想外すぎてサシャの脳の処理が追いついてねえ。
だが意外だと感じたのはサシャだけでない。オレはもちろん、ユミルも目を見開いたかと思いきや、急に肩を震わせ吹き出すようにして笑い始めた。
「だっはっは! アニが調査兵団だって!? おいおいおい、どういう風の吹き回しだよアニちゃあん? え? なに? なんかあった? 離れたくない人でもいんのか? んん?」
「うっさいよ、ユミル。別にそんなんじゃないって......ただ、内地にこだわる必要がなくなっただけさ」
「じゃあ上位10名じゃない人なんですねぇ」
「怒るよサシャ」
「おいおいアニ、そんなにオレが好きなら素直にグフッ!?」
ユミルとサシャに続いておちゃらけてみると、アニから容赦ないボディブローが飛んでくる。危ねえ、ギリギリで腹筋に力入れられて良かった。
にしても内地にこだわる必要がなくなったとはどういうことだろう。壁を破壊してまで欲しがった始祖の巨人の力が必要なくなった、とは思えないけど。後ろの会話を聞いた感じ、ライナーとベルトルト・フーバーは憲兵団志望らしいが。
本当にオレが居るからとかいう理由で調査兵団選ぼうとしてるとしたら、責任取らなきゃいけなくなっちゃうじゃないすかもう。ヒストリア! 真の女王として即位しオレに一夫多妻制を適用してくれ! 幸せにしたい女の子が多すぎて困っちゃう!
「え? この前はフレディたちが居るからって言ってなかった?」
「ちょ、クリスタ」
「言ってたよねサシャ。私の聞き間違いじゃないでしょ?」
「......あ! あれ冗談じゃなくて本気だったんですか?」
「やめて。静かにしてッ」
「本気だよ。だってアニってあからさまにむぐっ」
そこまで言ったところで、アニがクリスタの口を塞ぐ。
顔を真っ赤にして目を泳がせるアニは恥ずかしさからか口元を震わせ、クリスタは目だけでわかるほどしてやったりという表情。
金髪可愛い女の子どうしの絡みは見ているだけで癒やされる。クリスタに対しては手心を加えるアニと、アニに対してはやけに強気でいくクリスタ。普段とは正反対の対応をし合う両者は完璧だ。
オレの肩に手を置いて見たことないくらいの笑顔を見せるユミルと、脳内では騒ぎまくっているフリーダ、そして両手をブンブン振っている光景が浮かんできたユミルちゃん。
やはり思うことは皆同じ。サシャとかお腹抱えて笑ってるし。
そしてそこに近づく1人の影が。
「アニ」
やってきたのはミカサ。アニの名前を呼んだ時、一気に周りが静まり返る。
そのまま接近したミカサは、アニの肩にそっと手を置いた。
「可愛い」
静かになったこの場に、とんでもなくいやらしい笑顔をしたミカサの声はやけに大きく聞こえた。
アニがミカサの言葉を理解したと同時に、ただでさえ赤かった顔を更に赤くし、全身を震わせいつもより数段階高い声で叫んだ。
「ミカサあんた! 待てェッ!!」
「それはできない」
そのまま逃げるミカサと追うアニの2人は会場を出ていった。
残されたオレたちは4人は顔を見合わせ、今日1番笑った。
この時間は有限だ。だからこそ楽しく、かけがえのない美しいものなのかもしれない。そんな思いのまま息を切らすこともなく戻ってきたミカサと、汗を浮かべ肩で息をするアニの2人を出迎えた後もしばらく宴は続いた。
このまま終わればよかったんだが、ベルトルト・フーバーがバカみたいに睨んできてたのが引っかかる。厄介なことになりそうだぜこりゃあよぉ。
現在公開可能な情報
現時点で調査兵団を志望する第104期訓練兵は、アルフレッド・ガイスギーチの影響とエレン・イェーガーの自由を求める演説によってという者が多い。
特にアルフレッド・ガイスギーチの影響を受けて調査兵団を志望する者は、差はあれどどこか彼の危うさを感じている。
第104期訓練兵団が結成された当初、アルフレッド・ガイスギーチは失う恐怖から必要以上に周りとの交流を深めないつもりでいた。それが彼曰くあまりにも素敵な人が多すぎるという理由で全てを背負う覚悟を持つようになる。
そんな彼のいざという時は自分の身を犠牲にしてという決意を見抜いた彼女たちは、間違いなく壁内人類にとって重要な役割を果たすことになるだろう。
デートする人
-
アニ
-
クリスタ(ヒストリア)
-
ミカサ
-
サシャ
-
ユミル
-
ミーナ
-
イルゼ
-
リコ
-
憲兵団のお姉さん
-
フリーダ
-
ルース
-
キース教官
-
ライナー