超大型巨人の出現、及びトロスト区の外門破壊により、5年前と同様に壁内は再び地獄となった。
しかし、この5年間を人類は何も対策をせずにのうのうと過ごしてきたわけではなく、超大型巨人または鎧の巨人出現の際の作戦が用意されていた。
また巨人が南側からやってくるという情報と、5年前の襲撃が南方のシガンシナ区からだったことをもとに、駐屯兵団は最南端であるトロスト区に精鋭を多く置いている。
だが今回の作戦で最悪だったのは、その駐屯兵団の精鋭でも及ばぬ精鋭中の精鋭が揃っている、調査兵団が壁外調査に出たタイミングでの襲撃だったこと。
早馬を出して後から調査兵団を追いかけようにも、既にトロスト区は中も外も巨人に包囲された状態。そのような状況下では1人でも多くの戦力が必要であると、駐屯兵団のみならず、先日解散式を終えたばかりの第104期訓練兵も作戦に導入された。
担当場所はトロスト区を横に3分割したうちの真ん中、中衛を駐屯兵団とともに。
というのが訓練兵の役割だったのだが、そんな中でも憲兵団から名指しで前衛に配置された者と、それに付いていき前衛を志願した訓練兵が4人居る。
それは既に先遣班が全滅し絶望的状況になった駐屯兵団の中でも噂となり、のこり少ないであろう前衛の兵力だけでは訓練兵をかばいきれないと、中衛の駐屯兵もいくつか余裕のある班は前線を上げる。
そして、そこで見た光景は彼らにとって衝撃以外の何物でも無かった。
「おいおい、嘘だろあれ......なんだってんだよ」
「......信じられない。あれが、あれが卒業したばかりの訓練兵? あんなのまるで......」
「へっ、随分と活きの良い新人じゃねえか......!」
周囲に新たな巨人が出現しなくなったことに違和感を持ち、前進した駐屯兵たちはただ建物の上で立ち尽くすことしかできなかった。
その視線の先にあるのは、背中に交差する2本の剣を背負い、瞬く間に巨人を蹂躙していく5人の訓練兵。彼らは巨人に対しての恐れなど一切感じさせず、熟練の兵士をも凌ぐ機動力で1体、また1体と確実に巨人を屠っていく。
「凄いな、あんなにも完成された班があるなんて......前衛に出るに当たって即席で結成された訓練兵たちだと聞いていたが、あれはまるで調査兵団の精鋭部隊じゃないか」
「私たちの精鋭部隊とは比べ物にならないわね。訓練兵を前衛に投入しろだなんて憲兵団は腐りきったかと思ったけど、あれほどの逸材なら納得してしまう自分も居る」
「そういや、1人だけ訓練兵で後衛に配置されたやつが居るんだろ? 首席だって聞いてたが、アイツらの成績順位は一体いくつなんだ?」
1人の駐屯兵が疑問をぶつけるも、班員は誰もそれに答えることが出来ない。
それも仕方のないことだ。後衛に配置された首席、ミカサ・アッカーマンの名前はトロスト区の駐屯兵団でもよく知られている。駐屯兵団精鋭部隊の班長であるイアン・ディートリッヒが高く評価しており、わざわざ彼自ら名指しで連れ出しに行ったほどであるためだ。
だが今彼らの眼の前でまた巨人を屠る、前衛訓練兵第14班の班員の名前がすぐにでる者は居なかった。知っているのは班の名称である前衛訓練兵第14班だけ。
そこで、1人の駐屯兵が奇声を上げながら巨人に飛びかかり、14班の中でも一際異彩を放つ唯一の男性である訓練兵を見て何かを思い出したように声をあげた。
「たしか、精鋭部隊のブレツェンスカ班長が個人的に仲良くしている104期訓練兵が居ると聞いた。名前は確か、アルフレッド・ガイスギーチ......もしかしてあれがそうじゃないか?」
「ガイスギーチだって?」
「聞いたことが?」
「いや、前衛班の兵が1人、苦い顔して呼びに行った奴の名前がそんなんだったと思ってな」
そして再び14班に視線は集まる。1人ひとりの顔と立体機動を見た駐屯兵は思った。この集団はあまりにも強烈な個を持っているが、ずば抜けているアイツがガイスギーチで、アイツが班長なのだろうな、と。
「イヤッッホォォォオオォオウ!!」
奇声を上げながら巨人に向かって特攻する黒髪黒目、女性ばかりの14班の中で唯一の黒一点である少年こそアルフレッド・ガイスギーチ。
叫びながら巨人と正対するトチ狂ったかのような行動に、気をおかしくしたのではと思う駐屯兵はもう居ない。なぜなら彼はこの戦場を楽しむかのように、それは自然な笑みを浮かべながら立体機動をしているからである。
ひょうひょうと巨人の手を躱し、目を奪ったり腕を挙げれなくしたり、体の向きまでコントロールするほどに翻弄し討伐の手助けを。かと思えば独力で巨人をいとも簡単に仕留めてしまうその姿に駐屯兵は目を奪われるが、14班は彼だけの班ではなかった。
「......」
アルフレッドとは対象的に、静かで冷静沈着。金髪を揺らしながら彼が隙を作り出した巨人を容赦なく沈めるのはアニ・レオンハート。
無駄のない巧みな立体機動と剣捌きは、短期間で次席まで順位を伸ばすほどの努力の賜物。
「次はこっち行きますよ!」
そんなアニの次に討伐が目立つのは、どことなくアルフレッドにも似た雰囲気を持つ茶髪の女性、サシャ・ブラウス。
めちゃくちゃ、とも言えるであろうアルフレッドの立体機動に完璧に付いていき、必要とあればサポート役もこなす姿は阿吽の呼吸そのものだった。
「そっちいったよ!」
「こっちもよろしく!」
目立つ3名がいれば、彼らが目立つために奮闘する者も居る。
アルフレッドと同じ黒髪を持つ2人の女性訓練兵、ミーナ・カロライナとルース・D・クラインは的確な立体機動で巨人を誘導し、次々と討伐補佐を重ねていく。
104期の中でも特に小柄、小動物的イメージを持たれるクリスタ・レンズよりも小さいミーナはその体を活かした立体機動を、地形や周囲の状況を把握する能力に優れたルースは頭を使った立体機動で巨人たちを翻弄していく。
散々振り回された巨人たちは最後に見る光景は、作戦通りとばかりにニヤリと笑ったミーナとルースの笑顔。アルフレッドやアニとサシャによって一瞬にしてうなじを削ぎ落とされる。
完璧すぎるこの役割分担と班行動は、駐屯兵団たちにここが戦場の最前線であることを忘れさせる。何人もの仲間が目の前で食われ、何人もの仲間が犠牲になったこのトロスト区で輝きを放つ訓練兵たちを見て、彼らが黙っている訳がなかった。
「やるじゃないか......よし! こっちも続くぞ! 後輩に任せっきりだと示しがつかない!!」
「私たちも続きましょう! 少しでも多くの巨人を討伐して、彼らの負担を減らすのよ!」
「おいお前ら着いてこい! ここが俺たちの死場だ!!」
次々と駐屯兵団が雄叫びを上げ、巨人に立ち向かう。不思議なことに、その先頭にあるのは薔薇ではなく2本の剣。
嵐のように巨人をなぎ倒していく14班に続いて、駐屯兵団も負けじと奮闘する。一度は巨人に掴まれ仲間に助けられた者も、怯むことなく巨人へと立ち向かい続けた。
「すげえなあの訓練兵たち! 追いつけないぜ!?」
「ありゃ上澄みの上澄みだ! 俺たちは俺たちの出来ることに集中しよう!」
立体機動をしながら、横目に見る14班に驚きを隠せない駐屯兵。
通常、立体機動は腰に備え付けられた射出機からアンカーを飛ばすことで機動力を得る。そのため、腰から引っ張られるような格好となり、両手足は後ろ側に流れるのが普通である。
ところがアルフレッドたち14班は、まるで体に掛かる負荷など初めから無いかのように、方向転換が可能な前傾姿勢で常に巨人を狩ることができる姿勢を取っている。
ガスが過剰に吹かされている様子もなく、ただ効率の良いガスの使い方に姿勢制御とアンカーの巻取りだけで、駐屯兵団を置き去りにしていく。
それを見た駐屯兵たちはもはや笑うしかなくなっていた。
「アルフレッド」
「うん。ミーナ」
「オーケー!」
更には名前を呼び合うだけで、まずはミーナが先頭に立って巨人の股の下を通り抜ける。アルフレッドがそれを追いかけ前かがみになった巨人のうなじを削ぎ、通り抜けたミーナはその奥に居た巨人の前方で宙返りして顔にガスを浴びせて怯ませ、アニが討ち取る。
という連携で2体の巨人をあっという間に討伐するところを見て、目の前の光景が信じられず顔を見合わせる駐屯兵も。
だが彼らの通った後に残る巨人の残骸が、それが夢などではなく現実であることを駐屯兵団に思い知らせる。
あまりにも簡単に巨人を討伐する姿に思わず見とれてしまう駐屯兵も居る。だがここはあくまで戦場、その油断が命取りになる。
「危ないですよ!」
「え? きゃあっ!?」
中衛から前衛へと上がってきた女性の駐屯兵がアルフレッドたちの動きに気を取られ、迫りくる巨人の手に気づけなかったその時。
どこからともなく現れたサシャが女性兵を抱きかかえて巨人から遠ざけると、ルースが間髪入れずにその巨人の注意を引き、それを見ていた女性駐屯兵の班員がトドメを刺した。
「すまない! 恩に着る!」
「いえ、支援に感謝します!」
ルースは駐屯兵からの言葉に短く返すと、女性兵を担ぎ上げていったサシャへとついていく。
行ってみて彼女は思った。やっぱりそうなるよな、と。
「あ、あの......」
「はい? なんでしょうか」
「い、いや! その、助けていただき、ありがとうございました......」
「あははっ、気にしないでください! 怪我がなくて良かったです!」
「ハイィ」
「あーあー、やってるよ。流石女フレディ」
抱きかかえた女性駐屯兵に微笑むサシャと、それに顔を赤くする女性駐屯兵を見てルースはため息をつく。
サシャは女性の中でも高い身長に加え、明るく活発な性格と親しみやすさ、そして女性から憧れられるスタイルの持ち主。そして強烈な個性故に男性ではなく女性から惚れられる、いわゆる沼に落とすタイプの人間。
そのことにいち早く気付いていたルースは、サシャに対して女フレディと数多くの人から慕われる班長の名前を借りたあだ名をつけていた。
とはいえ、人を担いだままではサシャも動きづらいというもの。急に『一緒に頑張りましょうね!』と微笑みかけたかと思えば、女性駐屯兵を宙に投げ出す。
女性駐屯兵は慌てて立体機動に移ったが、その目はずっとサシャを捉えていた。まさに目がハート状態、それにサシャ本人は気づかないままアルフレッドへと近づいていく。
「フレディ、助けてきましたよ!」
「おー! サシャに任せて正解だった、ありがとね!」
「いえ! 班長の命令ですから!」
「これは脳が破壊されちゃうだろうなぁ......ゲッ!?」
自分を助けて微笑み、まるで王子様のようだった女性兵。それが班長の前では尻尾を振る大型犬のようになり、褒めろと言わんばかりの笑顔を浮かべている。
サシャに助けられた女性駐屯兵はその光景を見せつけられ、その豹変具合とアルフレッドへの嫉妬やらなんやらで脳が破壊されるのではとルースは思ったが。実際に様子を見てみるとその正反対だった。
「おい! 集中しろ! 後輩たちに助けられたままでいいのか!?」
「集中してるっテェ!? 今の私なら! あはは! 巨人なんて怖くないわよぉ~!!」
「って、待て!? 単独行動は......えぇ?」
「えぇ?......って、そうなるよね、うん」
ルースは目を向けた先で、やけに恍惚な表情をしていた女性駐屯兵に思わずギョッとした。かと思えば急に先陣を切って10メートル級の巨人を討伐した姿にため息。そしてそれを見ていた彼女の班員に思わず同情する。
自分が14班の中で1番まともに訓練兵らしい、と思っている彼女らしい反応だが、実際の所は駐屯兵団からしてみればルースもしっかり14班らしく無茶苦茶やっている、と思われているなど知るよしもなかった。
「もう少し頑張ろう! みんな着いてきて!」
アルフレッドの声は彼の14班だけでなく、周りに居る駐屯兵にも届くくらい不思議と響いた。
前衛の生き残りや中衛から上がってきた駐屯兵は例外なく地獄を見てきた。だがそれでも、14班の躍動は彼らに勇気を与える。
先遣班の全滅、ほぼ壊滅状態の前衛班。そこに後から加わり前線を押し上げるまでに至った彼らの活躍を称し、駐屯兵団の証言をもとに書かれた戦記が後にトロスト区で人気となった。
その名も『栄光の14班 死から最も遠い兵』。班長であるアルフレッドが『14という数字は死が遠いで縁起良いんだよ多分』と適当に発言したことを聞いていた駐屯兵によって決められたタイトルは、5人をトロスト区の人気者にする代わりに羞恥心で精神的ダメージを与えたとかなんとか。
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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サシャ
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ユミル
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ミーナ
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イルゼ
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リコ
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憲兵団のお姉さん
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フリーダ
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ルース
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キース教官
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ライナー