「テメェらのせいで余計に人が死んでんだぞ! この人殺し!」
「よせ! ジャン!」
アニと共に遅れて駐屯兵団本部へ乗り込むと、ミカサとアルミンがオレの指示に従ってくれたのか到達した人たちが整列していた。
その中でただ一人、怒号を上げマルコによって羽交い締めにされながらも暴れているのがジャン。何があったのかは、だいたいなんとなくわかる。
立体起動装置を付けておらず、ジャンの足元でぐったりうなだれている男性の同期と、なぜか頬を血に染め涙を浮かべている女性の同期。
いやごめん、やっぱわかんねえわ。え? どういうこと?
「補給所に巨人が入ってきたの! どうしようもなかったのよ!!」
「それをなんとかすんのがお前らの仕事だろ!?」
前言撤回、だいたいわかった。
「どうする?」
一歩踏み出そうとしたところで、アニに声をかけられ止まる。
振り返ると、やや面倒くさそうな。というよりも、うざったそうな顔をしたアニがオレの目を見て言う。
「行ってくるよ」
「そ」
こんなところでギャーギャー騒いでる場合ではないので、紳士アルフレッド・ガイスギーチは止めに入る宣言。アニ・レオンハート嬢、顔を赤く染め乙女な視線でこちらを見上げ......はせず。普通に顔色一つ変えず真顔でした。お前行ってこいよ、うるせえから止めてこいよ、という雰囲気だけは出てたけども。
しかし、振り返りざまにアニがやや満足そうな顔をしていたのは脳内にしっかり刻み込んでおき。ジャンとマルコの方へあえて足音を鳴らしながら近づいていく。
「ジャン、マルコ」
「あっ、フレディ!」
ガッ! という音がして、ジャンがオレのジャケットを掴む。
おいマルコてめぇ。あっ、フレディ! じゃねえよ。なんでジャンを離したんだよこの野郎。お陰様でシャツにシワが着いたじゃねえかよテメェこの野郎! オレはジャンのママじゃねえんだぞ!
「コイツらだ! コイツらのせいで俺たちは!」
「落ち着けジャン、この手を離せ」
「前線にいたお前にはわかんねぇだろうなァ!? コイツらのせいでどれだけの仲間が死んだか!!」
ぐい、とジャンの手首を返す。手首を内側に回されたことで人体の構造上ジャンは指に力を入れることができなくなり、オレはジャケットを掴む手を離しながら間接を極める。
それでも無理に動かそうとしたため、ジャンは痛みで顔を歪ませる。許せジャンよ、痛みで冷静になれるならまだ余裕はあるはずだ。
つか本当に黙ってください余計なこと言わないでください。14班の頼もしいレディたちがさっきからとんでもない目で見てますよあなた。
同期が死ぬところは確かに前線に行く道中に少し見たくらいだけども。前線は前線で大変なんだぞお前。普段温厚なミーナとルースも今にもブチギレそ......ァアッ! アニさんサシャさん! その手をお納めください!!
「ジャン、確かにオレたちは補給を受けられ無かった。けど、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ?」
「......この腰抜け共が自分たちの役割を放棄してなけりゃ、俺たちは今頃壁の上だったんだぞ?」
「腰抜けなのはオレたちも同じだ。思い出せ。さっきまで、ここに居る奴らがどうなっていたか。ジャン自身がどうなっていたかを」
オレの言葉に、ジャンはバツが悪そうに目をそらす。
ジャンの言うことは最もだ。補給班が動き、補給所がしっかり機能していれば少なくともガス欠で喰われる兵士は居なかっただろう。ただ、反逆罪だ何だと言われようが、その気になれば立体起動で逃げられるオレたちとは違い、補給班には守るべき場所が。逃げては行けない理由がある。
名誉を捨てて命を守る選択すらまともに取れない状態で、実物を見たこともない、ましてや心の準備すらしていない状態で巨人に怯えるなと言うほうが無理な話だ。
本部までやって来た同期たちも、ついさっきまでは本部に籠城するだけの補給班と変わらない顔をしていた。その気持ちはジャンにもわかるはず。
「ジャン、何も補給班を許せと言ってるわけじゃない。今はただ、生きるために必要なことをしようって話をしてるんだ。今ここですべきは補給班を咎めることではない、わかるだろ」
「......」
「オレたちは皆で生き残るんだ、足りない勇気は持ってる奴が出させてやるしかない。それに本部に巨人が侵入している可能性だって考慮してただろ? 頼むぜ、ジャン」
胸に拳を当てながら、目を見て言う。ジャンは数秒間黙ってオレの瞳を見つめた後、振り返って地団駄を踏んだ。
「......ックソ! この野郎!!」
補給班が巨人からの目線を隠すために横向きにしていたテーブルや椅子を蹴り。一通り体を動かして発散したのか、ジャンは息を切らしながらオレを見る。
「お前の優等生ぶりにはもう飽き飽きだぜフレディ......まあ、今に始まったことじゃねえけどな」
「悪になりきれない奴には言われたかねえよ。バーカ! アホ! 間抜け!根性無し!」
「なんだお前ェ!?」
「お、落ち着けってジャン!」
再びマルコに抑えられながらも、ジャンは「HA・NA・SE・YO!!」等と言いながらこちらに抗議の目線を向けてくる。
もう面倒だから無視でいいや。元気そうだし。つかコイツは何回闇落ち寸前まで行くんだよ、お前本部に来る前にも似たようなことやったぞオレ。ジャンの悪口で終わるってオチも一緒じゃねえかよ。
仲間思いで責任感もあるのはいいことだけど、その割には予想外だらけの戦場で理想の結果を夢見がちですぐ熱くなるのどうにかしてくれよ。お前のママに言いつけるぞ。
なんてことを考えていれば、おっといけない。オレとしたことが紳士なのにも関わらず大切なことを見落としていた。
ジャンに構いすぎて、目の前で涙を流すレディこと女性同期のことを忘れていた。あんま見たことない顔だけど、違う訓練所の人だろうか。それか、極端に関わりの少ない人か。どちらにせよ。
「はい」
「......え?」
屈んで目線をあわせた後、ポケットからハンカチを取り出し、それを女性同期......いや同期かも怪しいのか? 補給兵に渡す。
急に何だ、と困惑した顔をしていたので、彼女の右頬に着いている血を軽く拭った。
酸化して色が変わっていたから予想していたが、かなり前に着いたもののようで落ちなかったのだが。それでも涙くらいは拭ってもらおうと無理やり手に握らせる。
「その血は?」
「これは......同じ班の......」
「巨人に?」
フルフルとポニーテールを揺らしながら、女性補給兵は否定する。いいよねポニーテール、可愛い。
しかし、ならどうして血が着いているのか。オレが疑問に思っていると、補給兵はある場所を指さす。立ち上がって指が指し示す方へ歩いてみれば、鉄砲を口に咥えて横になっている訓練兵。
まさかと思い後頭部を確認してみれば、髪の毛は血に染まり脳髄が撃ち抜かれていた。正直キツイっす。
状況からするに、巨人に喰われるくらいならと自決したと見るのが妥当だろう。額に傷がないことから、口の中から脳を撃ち抜いたのは確かだし。それに、まだ引き金に指がかかっていることからも他殺とは考えにくい。
無理もない話だ、逃げる手段も選択も無いのだから。ハンカチを渡した女性補給兵の目が腫れているあたり、ずっと泣き続けていたのか。
「あれ、待てよ。そういや駐屯兵団の人らはどうした? 一緒に居るはずじゃ......」
いくら補給班といえど、いや。むしろ補給班だからこそ駐屯兵団の人たちが着いていないとおかしい。この位置がどれだけ重要なのかはわかるはずだ。
まさか内部に侵入した巨人に駐屯兵団が喰われたのか? とも思ったが。仮にそうだとしたらわざわざ籠城する必要がない。上官が死んだのなら拠点は落ちたも同然、逃げる口実が出来るはずだ。
そう考えたオレに対して、女性補給兵が再び涙を浮かばせながら。ずっと座っていたことで足に力が入らないのか、四つん這いで近づき手を握ってくる。
「隊長が! 増援部隊編成の任に就くからと、私たちを置いて......! 抗議はしたの! でもそれ以上は反逆罪としてこの場で罰すると!!」
よほどショックだったのか、女性補給兵は大粒の涙を流し咽び泣く。
あっ、これちょうどいい口実やん! と思いながら周りを見てみれば、案の定本部に乗り込んだ全員が『そりゃないわあ』と言いたげな顔をしていた。先程まで補給班にキツく当たっていたジャンまでもだ。
人間、共通の敵ができれば団結しやすいというもの。あまり作戦に伴う配置を確認できてはいないけれど、ここを任されていたのは確かキッツ・ヴェールマンだったか。あの図体はでけえ髭面オヤジ。
確かに判断と行動は正当ではある。増援部隊編成を任されているのなら、すぐにでも向かって人手を増やすように手配するべきだ。しかし、この補給兵の感じからして碌な説明も無かったんだろう。
おまけに駐屯兵団の部下たち全員連れて行きやがったな。アホがよお、補給所が陥落しないように増援部隊を出すんだとしても誰か置いてかなきゃ巨人のほうが早いだろうが。
柔軟性も冷静さも無い行動だが、その理由と判断だけは一丁前に正しさがあるんだから困ったものだ。まあ今回はそれを知ったうえで存分に悪者にさせていただきます、はい。
「隊長って、あの髭面ジジイか! あのヤロー、敵前逃亡はなんとやらとか言っておいてそりゃないぜ!? ったく本当信じらんねよなぁ~!?」
なんてわざとらしく言いながら周りを見れば、全員がうんうんと頷く。
しかし、14班やミカサにアルミン、クリスタやユミルといった良く一緒に居た人たちはオレの演技力に注文があるのか苦笑したり様々だ。なんだよ、文句あるか。他の奴らは純粋なのか単細胞なのか疑問にも思ってねえんだぞ。
「そんな状況下なら正常な判断も難しいってもんだ。とにかく一刻も早く補給活動を再開させないと。みんな! 一旦ここを離れよう! 外の巨人が暴れまわっているとはいえ、外から見える位置に固まっているのはまずい!」
エレン巨人が奮闘してくれているようだけど、普通に窓ガラスをぶち破って入ってきたから風穴空きまくりで巨人に見つかりやすいんだよなここ。時と場合によってはここで全滅もあり得ただろうからエレン巨人を強化してくれたユミルちゃんには頭が上がらない。
「アルミン、悪いが頼めるか?」
「うん、任せて。名演技だったね」
「うっ、うるせいやい!」
思わずチクリとされたので声が上ずってしまうと、アルミンはしてやったりといった笑顔で全員をまとめて扉の奥へ。人が1列に並んで退場していく様は綺麗ですね、共通の敵が出来たお陰で皆冷静です。
「うっ、私は......私たちは......」
「おっとっと、大丈夫大丈夫。ほら、ここは危険だから中に入ろう。他の人たちも! バリケードから出てきてくれ!」
補給兵は自責の念があるのか、涙が止まらないようなのでハンカチで拭いながら言う。オレの声を聞き、机の下に隠れていた補給兵たちも動き出す。
もれなく全員顔が死んでるけど、キッツ・ヴェールマンが悪いよね! っていう風潮にしといたから多分大丈夫。先に行った奴らが慰めてくれるでしょ。
「中に侵入してきた巨人の数はわかる?」
「......少なくとも、5体は確実に」
「多く見積もっても10にはいかないか。ありがとう」
補給兵の手を取り立ち上がらせる。まだおぼつかないが、動く気力は出てくれたのか自力で立ってくれた。
「あの、ハンカチ」
「気にしないで、それあげるから」
「でも......」
「それはね、レディにあげる用のだから。ちなみにオレはあと6個のレディにあげる用ハンカチ! 2つの自分で使う用ハンカチ! そして1つの野郎に投げつける用ハンカチを隠し持ってグフッ!?」
お気に入りのハンカチコレクションを自慢しようとしたところ、脇腹と尻に強烈な衝撃が。
この拳のめり込み具合、この馬車に轢かれたような尻への衝撃。間違いなくアニとミカサでした。
「馬鹿なこと言ってないで、私たちも移動するよ」
「余裕があるのなら偵察に行ってきてもらおう」
「や、あの。ごめんなさい、当たり強くない?」
なんで? オレ悪いことしてなくない?
誰か残っている人が居れば助けてもらおう、そんな気持ちで周りを見るが、サシャ、ミーナ、ルースは生気のない目でオレを射抜き。大爆笑するユミルに抱きかかえられたクリスタは唇を尖らせそっぽを向き。なんか知らんが様子を見に来たアルミンとコニーは頭を抑えていた。ふざけんな。
「......みんな反抗期なのかなぁ」
《どう考えても乙女心を理解してない君が悪いね》
思わず出た言葉に反応したのはフリーダ。ユミルちゃんも高速で頷いてらっしゃるのか脳内にその描画が浮かんでくる。乙女心を教えてあげる、とか幼少期にオレに教育してきたやつはどこの誰だよ。
「フレディ、作戦があるんだ。君の意見も聞きたくて」
「アルミン......ああ! 任せてくれ!」
「ほんとにコイツの意見が参考になるか? 俺よりもバカだろ? いや俺はバカじゃねえけどよ」
「コニー◯ね」
「おかしいだろ!」
現在公開可能な情報
アルフレッド・ガイスギーチは、ズボンやジャケット、シャツ、ありとあらゆるところに小物を仕込んでいる。ある時は貴族としての嗜み、ある時は紳士としての嗜みと称し、よくもそれだけの数を仕込んでおけるなと言いたくなるほど様々なアイテムを隠し持っている。
特に多いのはハンカチであり、戦場で清潔な布を得るための努力は惜しまない。女性に渡す用のハンカチは基本、市場でそれなりに上等なものを買うが。自分で使うものは着られなく鳴った服の綺麗な部分等を再利用しており、男性に渡す用のものはボロ布から作ったほぼ雑巾扱いが出来るようなモノ。
兵士としての基本の格好である衣類には、彼が幼いころに母親から教わった裁縫の技術を活かし、本来の仕様には無いポケットが多数着いている。自ら作ったハンドメイドの特注仕様になっている。
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キース教官
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