「何事だ!」
よく通る声と共に立体機動でこちらに近づいてくる、小柄なメガネの女性。駐屯兵団の精鋭部隊班長、リコちゃんだ。
タタッとリズム良く左右の足を着いてオレたちの側に着地したリコちゃんは、辺りを一瞥する。首が短くなって死んでいる巨人、やたらムキムキで地面に膝を着いている巨人と、その巨人に全身をぐちゃぐちゃにされて死んでいる巨人だったもの、そして『私はバカです』という木板を背負うオレに、その腰に涙を浮かべながら抱きついているルース。
リコちゃんはもう一度周囲を見た後、何故か傾いたメガネを直さず問うてくる。
「......何事だ?」
シュバッ! とルースが姿勢を正し、他の面々も気をつけの体勢に。さらに遅れてやって来たジャン、ライナー、フーバーも横に並ぶ。
いつもふざけ倒しているしちゃん付けで呼んでいるが、ここは戦場。そして彼女は上官にあたるので、オレも全員に習って足を肩幅に直立の姿勢をとり言った。
「補給を済ませ、これより撤退しようとしていたところであります!」
「いらん、そのわざとらしい言葉遣いをやめろ。私が聞きたいのは......そうだな。まずはアルフレッド、それはなんだ」
ため息と共に呆れたような顔でオレのことを指さす。
それ、とはもちろん背中に背負っている木板のことだろう。回れ右をしてその板を見せながら、リコちゃんにことの顛末を簡単に説明する。
「駐屯兵団本部の補給所を奪還する際、賭けに負けて業を背負うことになりました!」
「お前はバカだな。超級の」
再びため息をついたリコちゃんは、オレの横に整列しているメンバーを見る。
彼女は小柄だが、それ故に睨みあげるような目力と迫力があるためジャンとアルミンはかなり緊張している様子。
ジーッと横へ順々に視線を移すリコちゃんは、ライナーとフーバーを見た後僅かに眉を落とし視線を鋭くする。
見えていないと思っていたが、以前トロスト区で行われた訓練の時に偶然を装ってオレにアンカーを刺そうとしたり、巨人模型のうなじごと斬りつけようとしていたのをリコちゃんは見えていたのだろうか。
やたらとリコちゃんから険しい視線を向けられたライナーとフーバーの喉が動くと、彼女は再びオレに視線を移した。
「まずは初めに、謝罪させてくれ。すまなかった」
かと思えば、リコちゃんは頭を下げる。突然上官にそんなことをされて皆がアワアワしていると、彼女はゆっくり頭を上げて言った。
「駐屯兵団本部が陥落したのは、紛れもなく我々駐屯兵団の責任だ。アッカーマン訓練兵、後衛から前線の撤退支援に出向いたと聞いている。礼を言わせてくれ」
「い、いえ、私は......」
「それから。君たちが無事で良かった。安心してくれ、間もなく後衛に居た精鋭部隊が撤退支援にやってくる。まぁ、肝心な時に後衛に居て何が精鋭部隊だ、と思うかも知れないがな」
自虐的に言うリコちゃんだが、立体機動装置のブレードが柄に装備されている一組しかないあたり、補給もせずにすぐこちらへ駆けつけてきてくれたんだろう。
そんな彼女に文句を言う奴など居るものか。居たらこのオレが直々にしばいてやりますよもちろん。
「ありがとうリコちゃん。助かるよ」
ガイスギーチスマイルと共に爽やかさを意識した声で言うと、リコちゃんは一瞬だけ雰囲気を柔らかくしたあと、これまた一瞬目を見開くとオレの胸元を掴み、引き寄せて列から離す。
互いに背を向けた状態になると、リコちゃんはオレにだけ聞こえるようにつぶやいた。
「おい、他の訓練兵も居るんだぞ。取って貼り付けたような敬語は不要だが、いつもの調子も辞めてくれ」
「えー、難しいな......ど、どうすればいい?」
「私にも私の面子があるんだ。頼んだぞ」
「うん。いや、わかりました? でいい?」
リコちゃんは頷くとオレを解放し、咳払いをする。
イルゼちゃんと居る時なんかは同期だからか柔らかな雰囲気になるなと思ってはいたが、目元が理由か。
いつもは駐屯兵団の中でも精鋭として気張っているからか、やや高圧的な雰囲気を感じる彼女。オフの時は眉毛の角度とか全然違うかもしれない。
なんてことを考えていると、ドシン! と地面が揺れる。
全員が驚いてその方向を見ると、ムキムキの巨人。エレン巨人が力なくうつ伏せに倒れていた。
拳をめり込ませていたトーマスを喰った巨人の体が蒸発していったことで、支えを失ったんだろう。顔から地面に倒れた様子からして、起き上がることは無さそうだ。
「そうだ、アレは一体何だ? 巨人が巨人を殺したのか?」
「ぼ、僕たちもわかりません。偶然なのか、あの巨人が本部周辺の巨人を駆逐してくれたお陰で、ここまでたどり着くことが出来ました」
「そんなことが......」
アルミンの説明に、にわかには信じ難いと言った様子のリコちゃん。
普通の目線で考えれば、自分の目で見ない限り、巨人が多数の人間を無視して巨人を殺しに行く、なんて信じることは難しいだろう。
ただ、彼女は残っている死体からそれ以外に考えられないと納得したのか、オレたちに目線を移す。
「あの巨人について、何か情報は無いか? 巨人を利用するなど危険極まりないことだが、少しでも情報があればこの窮地を切り抜けるヒントになるかもしれない」
「オレは前線に居たから、あまりよくは。でも、前線にあんな巨人が居たら気づくよな?」
14班のメンバーに問いかける。アニは、ミーナ、ルースは静かにうなずき、サシャは「明らかに雰囲気が違いますもんねぇ」と考え込む。
次いでアルミンとジャンに視線を移すが、中衛に居た彼らも首を横に振るだけ。
最後に、リコちゃんと同じ後衛に居たミカサだが。彼女も有益な情報は持っていなかった。
「あの巨人は、普通の巨人とは異なり運動能力が高かったです。それだけの個体が居れば、いくら混乱したこの状況下でも情報が回るかと」
「確かにな、見た目からして異様だ。何が理由で巨人が巨人を......待て。あれは何だ?」
リコちゃんに続き、エレン巨人を全員で見下ろす。
巨人を殴り、踏みつけ、ボロボロになった手足から白い煙を放って蒸発している。そこまでは普通の巨人と変わらないのだが、傷がついていなかったうなじからも白い煙を放っているのだ。
見る人が見れば違和感を感じるその死に様。じっと観察してみれば、うなじからの白い煙の奥に何かが居た。
ばっくりと裂けたそのうなじの中に、何か。人のようなものだ。
屋根上からゆっくりと観察していると、人のようなものは巨人のうなじから押し出されるようにして出てくる。まるで兵士の様な服を着用している、というか早い話がエレンだ。エレンが出てきた。
中身を知っているオレはともかく、他の人たちは煙に紛れて出てきたものが誰なのかは把握していない様子。しかし、エレン大好き星人のミカサは流石というべきか気づいたようで。屋根上から飛び降りて近づいていった。
「ミカサ!」
アルミンの静止も聞かずに、巨人のうなじから出てきたエレンに近づくミカサ。未だ下半身は巨人の中にあるエレンを受け止めると、胸に耳を当てた後にすすり泣き始めた。
感動の再開。でも、場所が場所だ。
「とりあえず、回収してくる!」
それだけ言い残してオレも下に降りる。エレンが出てきたからか、既に巨人の体は全体的に蒸発を始めている。
このまま待っていればエレンの体だけが勝手に残るだろうが、巨人が周囲に居ないとは言い切れないので。ミカサとエレンに近づいていく。
「フレディ......エレンが、エレンが......っ!」
「わかってる。いや、どういうことなのかはわからないけど。一旦ここから離れて、リコちゃんたちのところまで上がろう! いいね!?」
「っ、うん!」
いつもの『ええ』とか『わかった』とかではなく、年頃の少女らしい返事をしたミカサと共に、エレンの体を巨人の体から引き剥がす。
手始めに、それぞれエレンの右腕と左腕を肩に担いで、スクワットするような体勢で足腰の力で持ち上げてみる。
巨人の体が蒸発しているからか、シュルシュルと案外すんなり抜けていく。
付近の警戒は14班の四人とリコちゃんがしてくれているので、回収したエレンをミカサにおぶらせ、オレは背中に付けていた『私はバカです』という木板を外し、その紐でエレンとミカサとをくくりつける。
涙声で「ありがとう」と言ったミカサはおぼつかない手つきで立体機動に移り、付近で最も高く安全であろう駐屯兵団の屋上まで登っていった。
その後をオレたちが追っていくと、エレンを降ろしたミカサは泣き声を上げながら彼を抱きしめていた。
「コイツは......同期か?」
「ほら、あの巨人駆逐マン」
「......ああ、そうだな。確かにこんな顔だったか」
目をつぶっているエレンのことを思い出せなかったリコちゃんだが、ミカサの肩越しに顔を良く見て思い出す。
巨人駆逐マンで通じるのもおかしな話だが、事実なので仕方ない。
エレン自身は五体満足だが、左足の膝下と左腕の肘下からの布がなにかにちぎられたように存在していない。
その左手をアルミンが握ると、小さくつぶやいた。
「無くなった腕と足が、戻ってる......」
その発言に、場の空気が固まる。
普通の人間では失った手足が短時間で戻るなんてこと、起き得ない。まるで巨人のようだ。
そうリコちゃんも思ったのか、エレンを見る目が巨人を見る目と同じようになっていた。
ここは一肌脱ごう。
「アルミン、エレンは巨人に喰われたのか?」
「喰われた、っていうより、飲み込まれたというか......僕の目の前で、腕を噛みちぎられて、そのまま腹の中に落ちていったんだ......」
「......もしかしたら、そこにヒントが......!」
飛び出す素振りを見せるため、屋上の塀に足を掛けた。と同時に、右腕をアニ、左腕をサシャ、右足はミーナ、左足はルース、襟首をリコちゃんに掴まれた。
「なにバカなことしようとしてるのフレディ! それじゃコニーのこと言えないよ!?」
「丸呑みされて巨人を殺せる巨人になれるなら、今頃人類は勝利してますってェ!」
ミーナとサシャがオレを引き留めようと、言葉を掛けてくる。
この場をやり過ごすための演技とはいえ、本当にオレがそんなことをしようとしていると思われていることにちょっと悲しい。最初はクール系のキャラで行こうと思ってたんだけどなぁ。
「勇敢と無謀を履き違えるなアルフレッド! 今のお前は馬鹿野郎だ!」
「全く持ってそのとおりです、ブレツェンスカさん!」
少し言葉が破綻しているリコちゃんと、それに同意するルース。
しれっとリコちゃんに同意して評価を得ようとしているな? と思ったが。たぶん普通にルースも必死になっているだけか。
これはあくまで話題をエレンからそらすための演技。そろそろ辞めにしようと力を緩めると、オレの右腕からミシッという音がした。
「あ、アニ」
「......」
流石に強く握りすぎじゃないですか、と抗議しようとアニに目を向ける。
彼女は何も言わず、じっとこちらを『やめてくれ』と懇願するような目で見つめるだけ。あっけに取られていると、いつの間にか近づいてきたミカサに腰のベルトを掴まれて思い切り投げ飛ばされる。
落下点、というかほぼ直線移動の先にいたジャンに受け止められると、ミカサは目を赤くしながら言った。
「......エレンは、多分。運が良かっただけ。彼も、一人の人間だから」
「はい」
「貴方のそれは命を無駄にしようとしているのと同じ。絶対にしないで」
「すみません」
度が過ぎたようだ。普通に怒られてしまった。
後ろのジャンからも「全くだぜ」と言われるなど、演技だとしてもやっていいことと悪いことがあると学びました。次に活かすとは言っていないが。
しかし、少なくともこれでリコちゃんのエレンに対する不信感を多少は拭えたことを祈ろう。完全に敵を見る目をしていた彼女だが、一連のやり取りの中で考えを改めたのか、顎に手を当て考え事をしている。
上手くいけばエレンを『巨人に飲み込まれた後、その内部で生存していたことでなんらかの要因によって巨人へと変身する能力を身につけた』という、ファンタジー人間にすることができる。
そうなれば、保守派の『反逆されるかもわからんし、怪しいからとりあえずぶっ殺すか!』のグダグダを回避できるはずだ。リコちゃんはどちらかと言うと保守派なので、上手いこと言いくるめてしまいたい。
「エレンが、これをやったって言うのか......」
「......」
いけね、コイツらのこと。鎧と超大型のこと忘れてた。
リコちゃんが現場を目撃している以上、すぐに大胆な行動に出ることは無いはずだ。あり得るとしたらアニを利用するとか。
「アニ?」
「.,.....どうして......なんで......」
何やら絶望したような表情のアニ。声をかけても反応しないとは、かなり重症だ。
せっかくアニを引き込めたと思ったのに、オレがすっかりエレンが巨人から出てくることを忘れていたせいでこじれてしまったかもしれない。
エレン巨人を観察していたミカサたちの様子見をせず、14班は14班でさっさと撤退したほうが。いや、どちらにせよエレンが巨人になれることはいずれ知れ渡る話だ。コレばかりは隠しようが無かったか。
「おーい! 撤退だ!」
とそこに、リコちゃんに追いついたのか後衛の精鋭部隊がやってくる。
いくつか見たことのある顔の人たちだ。ミカサはなんかまたエレンを抱きしめながら泣き始めてしまったし、アルミンまで泣いているのでぎょっとした顔をしている。
こうなった経緯の説明は全部リコちゃんに任せよう。同僚の話のほうが信じやすいもんね!
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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サシャ
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ユミル
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ミーナ
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イルゼ
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リコ
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憲兵団のお姉さん
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フリーダ
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ルース
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キース教官
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ライナー