でも自己満足なので楽しんでいただける人には楽しんでいただいて、合わない人には合わないで良いと思ってます。ぼくのかんがえたさいきょうのへいし(笑)の物語なので。
2日目の夕方。日が昇っている間は立体機動の訓練。いや、訓練に入るための適性検査のための姿勢制御訓練というビッグイベントがあった。
簡単に言えば最初のふるいだ。これが出来ないのであれば立体機動など夢のまた夢、開拓地へ逆戻りということ。幸いにもオレは運動神経というのが良い方ではあるので思いの外余裕だった。緊張はしたけれども、それは明日の本番に取っておくべきだ。
それに昨晩、フリーダから呼び出しを食らったせいで寝た気がしない。体は休まっているのだが、なんというか精神が休まっていない気がする。感覚的にはもう丸1日以上起きているのだから仕方ない。だから早めに休もうと思っていたのだが。
「頼むフレディ! 俺の練習に付き合ってくれ!」
夕食の時間まで1人で外のベンチに座って黄昏れていたところを、エレンに話しかけられてしまった。
彼の後ろでは申し訳無さそうだが両手を合わせてお願い、といった様子のアルミンと、こちらを生気のない目で睨みつけるミカサ・アッカーマン。
オイふざけんなよエレン、お前せめてミカサにオレのこと紹介しとけよ。この子めっっっちゃオレのこと睨んでるぞ。当たり前だと思って今朝の全体自己紹介で言ってなかったけどオレには男色の気なんて無いから、エレンを君から取るつもりなんて無いから睨まないで!
「お前、昼間の訓練ですごい上手くやってただろ!? 姿勢制御のコツだけでもいいから教えてくれ!」
「とは言ってもなぁ......」
頭を下げて頼み込んでくるエレン。こういう真っ直ぐなところは非常に好印象なのだが、まっすぐ過ぎて前ばっかり見るのはやめてほしいな。後ろ見てよ後ろ、ミカサが今にもオレに殴りかかりそうな勢いなんですけど。私のエレンに頭を下げさせるなんてコイツは一体何なんだとでも言いたげな顔で睨んできてるんですけど。
とても恐ろしい表情をしているミカサにうろたえていると、なんとアルミンから援護射撃が飛んできてしまった。
「僕からも頼むよ。フレディはこう、天性のものがあるように感じるんだ」
「それ言ったら、ほら。エレンの後ろのミカサだってとても上手くやって」
「教える人は多いほうがいい。エレンがお願いをしているのだから」
「あ、はい。教えます」
コッワ。なんだコイツ、ビビっちゃって即答しちまったよ。どんだけエレン命なんだよいいことだけどさぁ。
まあ人に教えることは自分のためにもなるし、復習のつもりで付き合うか。エレンがキラッキラした笑顔でありがとうとか言ってるけど、軽く流しとこう。アッカーマンのお嬢さんが怖いんだ。
「まずは一度落ち着いて、頭を使って整理しよう。何が出来て何が出来ないのか。それを整理することでイメージトレーニングにもなる、イメージトレーニングは大事だよ」
「お、おう......」
訓練用の吊り下げ機の前でオレが語ると、エレンとアルミンが揃ってなにやら言いたげな表情をする。
別に変なことは言っていないと思うのだが、なにか問題発言でもしてしまったのだろうか。そう思っていると、ミカサが口を開いた。
「驚いた。あなたは何でもノリと勢いでこなしてしまうタイプだと思っていたから」
「それは褒め言葉として受け取っておくよ。てかコラ、お前らふたりとも。人に頼んどいてそれかよ」
「わ、悪い」
「僕もミカサと同じ意見だったから驚いちゃったよ」
このシガンシナ区組は無自覚に人をディスってきますね。
ただせっかく頼ってくれたんだし、一旦は見本を見せておこう。ベルトにフックを通してと。
「じゃあエレン、上げてくれる?」
「ああ」
エレンがハンドルを回し、グググという音とともにワイヤーが巻き取られて体全体が徐々に浮かび上がり、やがて足裏が地面から離れて十数センチ。
左右2本のワイヤーで体全体を支える、と聞くと難しく感じるだろう。しかし全身に張り巡らされたベルトで姿勢制御をすると考えれば......比較的楽にはなる。
「すげぇ......」
「イメージが大事なんだ。ただこうやって浮いてる最中にそんなことを考える余裕が無いっていうのも事実。だから練習前にイメージを固めて、いざ浮いた時には反射で姿勢制御ができるようにする。その辺りの言語化はミカサのほうができると思う」
「姿勢制御技術は私よりフレディのほうが上。あなたはそのまま見本になってて」
あれ、自己紹介聞いてないと思ったけどまさかのフレディ呼びをしてくれるんですかミカサさん!? これはたまらんなぁ。エレン、オレは君が羨ましくって仕方ないよ。一途さが突き抜けてる気がするけどいい子に変わりないし、黒髪だし清楚だし。どっかのフリーダムお姉さんよりよっぽど......痛え。頭痛が。
「フレディ? どうしたの?」
「ああ、なんでもないよアルミン。目に砂埃が入っただけだから」
危ない危ない。エレンとミカサの絡みを見ながらニヤけてたらアルミンに不審がられてしまった。慌てて目の辺りを触って誤魔化したが、さっきから頭痛がひどいな。フリーダのせいだろうし、これ今夜はお説教だ。
「前後のバランスに気をつけて、腰巻きと足裏のベルトで重心を制御する。そうすれば」
ミカサがこちらに近づいてくる。見本としてなにかしてほしい動作があるのだろうか、と思ったが彼女はオレの横を素通りし、気配が背後で立ち止まった。
次の瞬間。
「アイタァァアアア!?」
パァン! という破裂音とともにオレの尻に鋭い痛みと衝撃が走った。
その勢いは凄まじく、ワイヤーで宙吊りになっていたオレの体は下半身から前に投げ出され、上半身は後ろに倒れそうになる。
急いで、というよりも半ば無意識のうちに体が動き、両足の膝を伸ばして腰を反らしバランスを取る。ミカサに文句を言ってやろうと空中で仰向けになったオレは、彼女の顔を下から見上げる形になる。クソ、このアングルでもキレイな顔立ちしてるのがちょっとムカつく。てか絶対に今のはさっきの嫉妬をぶつけてきただろこの八つ当たり東洋アッカーマン!
色々と言いたいことが出来たのでオレが口を開こうとしたところ、エレンが代わりに怒ってくれた。
「おいミカサ! なにやってんだよ!」
「フレディならコレくらいのことで姿勢を崩さないと思った。見てエレン、こうやって重心の位置を調整すれば、この体勢でも平然としてられる。フレディの姿勢制御技術はすごい」
「流石に今のは僕も驚いたよ......フレディちょっと泣いちゃってるし、謝ったほうがいいんじゃないかな?」
「いや大丈夫。なんか、オレの扱いが雑だなっていうか、仲良くなれたのかなっていうか、はは......」
どちらかというとお尻を叩かれた痛みというより、自分から叩いておいて右手をパッパとはらったミカサの行動に傷つきました。なに、オレの尻は汚いってか? 内地育ちのプリケツは駄目ですかそうですか。
若干哀愁的な気持ちになりながらもとの姿勢に戻る。上体を起こす時もベッドの上にいる時みたいに腹筋だけで起きられるわけではないので、文字通り全身を使う形になる。かといってよいしょと反動をつけると今度は前に倒れたりしかねないので、ここが難しいところだろうか。
そして姿勢を正してみると、ミカサが目の前に立ちはだかっていた。
「ごめんなさい」
小さく頭を下げてくるミカサ。
女の子にコレされると弱いんだよなオレ、こっちが悪いような気持ちになってくる。まあ僕は紳士ですから、こんなのちょちょっと許しちまいますよええ。
「気にしないで。むしろ、ミカサがオレのことを信頼してくれてるとは思わなかったし感謝したいくらいだよ。ただ今度からお尻叩くなら言ってほしい、流石に準備しないと普通に痛い」
「わかった。今後あなたのお尻を叩く時は一言声をかけるようにする」
「ありがとう。言われたらちゃんと叩きやすくしとくよ」
「ええ」
冗談っぽく流して握手を求める。握手してくれたのは良いとして、ミカサの目がガチだ。これ今度からなにかやらかしたら速攻でお尻を引っ叩かれるやつじゃない? 墓穴掘った気がするんだけど。
ま流石にエレンやアルミンの近くならボコボコにされることはないだろう。いざという時は2人か、アニならミカサと格闘しても生存できそうだからそっちに頼ろう。オレは叩かれる趣味も叩く趣味もないし、美人さんは好きだけどミカサはエレンとの絡みを遠目で見るくらいでちょうどいい。別に怖くないし、本当だし。
「じゃあエレン、次はやってみて。オレは近くで見るから、ミカサは全体のバランスを。アルミンも後ろからよろしく」
地面に降りてベルトからワイヤーを外し、3人に指示を出す。3人は返事をして素直に従ってくれ、エレンは準備を、ミカサは一歩離れた位置から全体を、アルミンはハンドルを手にワイヤーを巻き取る位置についた。
「落ち着いて深呼吸、イメージをしっかり持って。ここで失敗したからといって世界が終わるわけじゃないんだ、必死になりすぎないように。合図は自分で出してね」
「わかった。今度こそ、できる気がする」
目を閉じて集中するエレン。数回深い呼吸音が聞こえたあと、ゆっくりと目を開けた。
「上げてくれ、アルミン」
「うん」
アルミンがハンドルを回し、ワイヤーが巻き取られていく。エレンの腰部の左右から伸びただらんとしたワイヤーが徐々に張っていき、ゆっくりとエレンの体が持ち上がっていく。
そしてエレンの両足が地面から拳ほどの高さに浮いた時。一瞬だけエレンの姿勢が強くブレたが、上手く下半身を使ってバランスを取り直す。だが
「うわぁッ!?」
目で見てわかるほどに体がこわばってしまったため、柔軟性を失った筋肉が重しとなり全身のベルトで支えることができなくなったエレンは姿勢を崩して前に倒れる。
それを抱きかかえるようにして受け止めたオレは、後ろを向いてミカサとアイコンタクトを取る。その意図に気づいてくれた彼女は駆け寄り、オレに変わってエレンの腰付近を持ってそっと支えた。
「落ち着け。一点に意識を集中するんじゃない、全身を使って姿勢を制御するんだ」
「ぜ、全身で......!」
エレンの目を見ながら言う。オレの言葉にハッとした表情になったエレンは、ガチガチに固まっていた両手と両足を広げてバランスを取ろうとする。
地に足がつかない、というのは普通なら経験することはない。だからこそ本能的な恐怖心で落下の衝撃に備えて体を縮ませ身を守ろうとするのが人間。それをいかにして克服し、バランスを取れるか。それが重要だ。
「その調子! ミカサはエレンが危なくなったら支えてあげて。アルミン、もうちょっと上げちゃおう。このままだとミカサがもし間に合わなかったときに頭から落ちちゃうから」
「わかった」
「うん!」
その後も日が完全に落ちて夕食の時間になるまでエレンの訓練は続いた。エレンの小休憩のタイミングでオレはもちろん時にはミカサが、時にはアルミンも姿勢制御をし、なにかつかめるものがないか試したが、やはりどうしても一定の時間以上は姿勢を維持出来ずに前のめりに倒れてしまう。
どうしたものか、と考えたがそう言えばエレンのベルトって一部が破損してるんだっけか。ベルトを全身に張り巡らせてようやくバランスを取ってるような代物、それが一部だけでも破損したらしんどいだろうにそれで短時間とはいえ姿勢制御するって、よくよく考えたら才能の塊では。ヤダ、うちの子ひょっとしてギフテッド?
楽しい楽しい自主練の時間は夕食を知らせる鐘がなったことで終わりを告げる。エレンは結局最後まで自分の納得する状態とはならなかったようだが、明日に向けて希望が持てたのかなにかを掴んだのか、教えを請われた時の表情とは打って変わって明るい顔で感謝された。
同様にミカサとアルミンからもお礼を言われたのだが、君たち本当に仲いいな。そんな君たちにお願いなんだけど、夕食の時にオレがミカサにお尻を叩く時は云々の言葉が何故か捻じ曲がって広まってたから訂正してくれ。いやミカサは口下手すぎて逆にややこしくなりそうだからエレンとアルミンに頼もう。
今まさに1つ前のテーブルの端で1人食事をしているアニからはゴミを見るような目で、隣で食べているミーナはなんとか弁解できたので大丈夫だが先程までは同情するような悲しい目で見られてたからパンがしょっぱいよ。
まだ2日目なのに色々あって楽しいなぁあはは。クソ、フリーダに泣きつこう。笑い飛ばしてくれる存在のありがたみを知った十代です。
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立体機動における姿勢制御訓練で、アルフレッド・ガイスギーチは非常に高い評価を受けた。稀代の天才、万年に1人の逸材とまで言う教官も居るほどで、調査兵団所属の人類最強とされる兵士に並ぶ逸材となるのでは、という声も上がるほど。
並外れたバランス感覚は凄まじく、同期のミカサ・アッカーマンやアニ・レオンハートにサシャ・ブラウス、コニー・スプリンガーが身体に備わった素質で。アルミン・アルレルトやジャン・キルシュタイン、ライナー・ブラウンとベルトルト・フーバーが論理に基づいてそれを行うとすれば、アルフレッド・ガイスギーチは本能と知性を両立させた論理に基づく無駄のない最小限の動きを本能的に一拍も置かずに繰り替えすことで姿勢制御を実現させる。
キース・シャーディスもその非凡な姿勢制御技術に強靭な体幹力は高く評価した上で、実際の立体機動ではガスとの兼ね合いや目まぐるしく変わる景色、そして状況でどれだけ冷静で居られるかのほうが大切だという経験則からアルフレッド・ガイスギーチ本人に上記の評価を伝えることはしていない。そのため、あれだけの姿勢制御ができるフレディですら褒められないのか......と一部の訓練兵たちの心に火を付ける結果となり、キース・シャーディスも嬉しい誤算だったと語る。
余談だが、アルフレッド・ガイスギーチが初めて姿勢制御訓練を完璧にこなした際に同期のアニ・レオンハートに向かって笑顔を振りまいたことをキース・シャーディスは見逃さなかった。かと思えばミーナ・カロライナ、クリスタ・レンズ、サシャ・ブラウス、ユミルといった面々にも同じようにアピールをしていたため、キース・シャーディスはアルフレッド・ガイスギーチの報告書に【女好きの傾向あり。悪質なことに、同期の異性からはそれらが好意的に捉えられている傾向があるため団体での訓練では彼の所属する班の女性割当に注意すべし】と記されることになった。
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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サシャ
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ミーナ
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イルゼ
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憲兵団のお姉さん
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フリーダ
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ルース
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キース教官
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ライナー