「質問がある方は居ますか?」
青と白、重なる2つの翼。自由の翼を胸に宿した短い黒髪で褐色の、そばかすが特徴的な女性がオレたちに問いかける。
教壇の上に立つイルゼ・ラングナーと名乗った彼女は、調査兵団所属の兵士。訓練兵団であるオレたちに調査兵団とはどのようなものか、というのを伝えるために出向いてくれたいわゆる先輩、OGだ。
教壇の横にはイルゼ・ラングナーの前に説明をしていたバラの紋様が刻まれたジャケット、駐屯兵団所属のメガネと短い銀髪......というより亜麻色? の髪が特徴的なリコ・ブレツェンスカが後手を組んで立っている。
さあ一言言わせてもらおうか。2人とも可愛い!
まずはリコ・ブレツェンスカ、名前がクッソ言いにくいけどそれを覆すほどの可愛さがある。これが標準なのかツンと尖らせた唇に太めの眉、そしてやや冷たい印象を受ける瞳。あまりにも属性が多すぎる、これは絶対に笑顔だと印象が変わってくるやつだ。そしてそれを見た普段の彼女を知る人々を無自覚に惚れさせるやつだ。オレもふとした瞬間に微笑みかけられたら堕ちる自信があります。
そして今、教壇の上で若干狼狽えているイルゼ・ラングナー。褐色の肌に黒髪というなんとも業の深い組み合わせ、そしてそばかす! これだけ聞くとユミルにも似てるが、男勝りなところがある彼女とは異なりイルゼ・ラングナーからは少女のような無邪気さに似たものを感じる。実際、調査兵団に入ってからまだ日は浅いとのことなのでそれほど歳は離れていないであろう。リコ・ブレツェンスカも同様に。
極めつけは壁外調査などのことを語っている時の生き生きとした表情、そしてその後に繰り出される喋りすぎたかもと恥ずかしげな表情のギャップ。今の誰も挙手しなくてちょっと目が泳いでるところもまた可愛い......いや、誰か質問しろよオレが質問するわ待ってろイルゼちゃん!
「あっ、えーと......そちらの黒い髪の方!」
すっと手を挙げると、イルゼ・ラングナーは一瞬目を見開いて嬉しそうな顔をしたあと、オレに向かって手を指した。指ではなく手のひら全体で指すという立場上部下というか下っ端でもあるオレたちへの丁寧さに感涙に咽ぶこと待ったなし。
萌えというか父性というか。とりあえず抑えて冷静に、紳士たるもの自己紹介からだ。
「はっ! アルフレッド・ガイスギーチと申します。ここで大々的に宣言することではないのかもしれませんが、私は壁外調査へ強い関心があり、調査兵団への入団を希望しております。そこで、イルゼ・ラングナー殿に壁外調査とは如何様なものか。現実的な実際のお話をお聞きしたい所存であります」
と言ったが、実際のところオレは何を言われても調査兵団に入る気満々だ。にも関わらずこんなことを聞いた理由は1つ。オレと同じ調査兵団を志望すると言ったミーナをビビらせるため。
確かに同じ兵団に入って目の届くところに居てほしい気持ちはある。それでも壁外調査時に常に同じ班にしてくれとは言えないだろうから、それならばまだ駐屯兵団に居てくれたほうが安心感があるというもの。女は壁の中に引っ込んで温かい飯でも作ってオレを待ってろ! とは口が避けても言えないのでね。
そんな意図があっての質問だが、イルゼ・ラングナーは口を一文字にして目を閉じ考える。次に目を開いた時、彼女はとても楽しそうに残酷な現実を語った。
「壁外調査は常に危険が伴います。実際、私は同期や上官が、仲間が喰われるのを何度も見てきました。生きて帰れても戦線復帰どころか、平凡な日常に戻れなくなった仲間たちも居ます。犠牲が出ない壁外調査などありません」
でも、と一呼吸置いてイルゼ・ラングナーは語る。
「それでも私たちは、この尊い犠牲がいつか人類の大いなる一歩になることを信じて進み羽ばたき続けます。この翼に誓って。......アルフレッド・ガイスギーチくん。貴方が訓練兵を卒業する時もその決意が変わらないのであれば、ともにこの空を羽ばたく翼になれることを心から願っています」
左胸の自由の翼に手を添えながら語るイルゼ・ラングナーは、それはとても穏やかで確かな決意に溢れたいい表情をしていた。
調査兵団が常に人手不足というのは知っているが、それでも甘い言葉だけでなく厳しい現実を見させてくれる彼女に感謝の気持ちでいっぱいだ。ありがとうございますイルゼちゃん、僕は絶対に調査兵団に入って貴女のお世話をサせていただきたいです。できればおはようからおやすみまで。
「何も、調査兵団がすべてというわけではないぞ」
不意に教壇に上がる人、リコ・ブレツェンスカはイルゼ・ラングナーの横に並びオレのことをビシッと指さして語る。
「アルフレッド・ガイスギーチと言ったな。調査兵団の志は素晴らしいものであるという前提のもとで言わせてもらうが、駐屯兵団にも同じような志はある。我々は有事の際に民間人を守る盾となるのだ。あの日のことを思えばたるんでいたというのは認めざるを得ない、しかし諸君らも覚えておいてほしい。我々は帰る場所を守り続けるという使命を胸にいだいているということを」
腰に手を当て最高の決め顔で語るリコ・ブレツェンスカ。その横でイルゼ・ラングナーはアワアワとし、リコ・ブレツェンスカの腕を掴んだ。
「横取りしないでよ!」
「人聞きの悪い。優秀な人材がほしいのは駐屯兵団とて同じ、それは君たち調査兵団が壁外に向かう際の露払いを我々がしていると考えれば同意してくれるだろう? どんな後輩ができるか楽しみだなイルゼ。あ、言い忘れていたな! 訓練兵を上位10名で卒業出来なかったとしても、駐屯兵団で実績を挙げれば憲兵団へ入団することも可能だぞ!!」
というリコ・ブレツェンスカの発言に、内地入りを目指している同期たちが沸く。
しかし彼女が望んでいるのはそういった人材では無いようで、やれやれと首を振りながら視線をオレに固定し不敵な笑みを浮かべた。やだカッコイイ、惚れちゃうわ。
そんなリコ・ブレツェンスカの行動に気づいたのか、イルゼ・ラングナーは前に割って入りオレの顔を見ながら必死に呼びかける。
「アルフレッド・ガイスギーチくん! 2年後に会った時、貴方が私と同じ翼を背負っていることを期待してますよ! いや、無理強いはしませんけど、でも期待です!」
グッと胸の前で両手の握りこぶしを作るイルゼ・ラングナー。おいおい、コレだからモテ男は辛いぜイルゼちゃん可愛すぎて尊いぜ。略して尊イルゼ。
しかし、オレの本能なのかフリーダから受け継いだ記録なのかイルゼちゃんからは死亡フラグの匂いがプンプンするぜ。どうにかしてこの嫌な感じをかき消したいのだが。
-----些細なことでも世界は変わるものだよ。
......あれ、頭おかしくなったかな。フリーダの声が聞こえた気がする。
急いで辺りを見回してみるが、未だに駐屯兵団からでも憲兵団に行くルートがあることに湧いている同期、呆れた顔をしているエレンたち、オレのすぐ横で調査兵団の厳しさを知りながらも覚悟を決めたようなミーナと、彼女の姿も気配もない。クリスタは今日も可愛い。
よくわからないがこれがフリーダからのアドバイスだとすれば、素直に従おう。世界の運命を変えることは難しいかもしれないが、オレがここでなにかすることで救われる命があるならやるべきだ。それで他の犠牲が出たとかだったら病むけど、イルゼちゃんを救えたかもしれないと後悔するくらいならば。
オレは立ち上がり、イルゼ・ラングナーのもとへ足を動かす。突然席から立ち上がり近づいてきたオレにイルゼ・ラングナーは驚いていたが、彼女の目の前に立ちそっと耳打ちする。
「先ほどのお話、とても感動しました。私の決意は変わりませんのでぜひ今後ともイルゼ・ラングナー殿からお話を聞きたいのですが......よろしければ、文通などしていただけませんか?」
「ブンッ!?」
予想外だったのか、イルゼ・ラングナーは顔を赤くしながら半ば吹き出すような反応をする。ブンッ、てなんだよ。聞いたこと無い音出てたけど。
考え込む様子からするに断られるかとも思ったが、懐から手帳を取り出して何かを走り書きし、それをちぎったあとに折りたたんでオレのジャケットの胸ポケットにそっと入れた。
「わ、私の寮の住所です。そこ宛に送っていただければ、私も返事はするので」
モジモジとしながら、語尾が小さくなっていくイルゼ・ラングナー。
やはり壁外調査について語るときの堂々とした佇まいからこれというギャップ、なんとも言い難いものがある。というか普通に了承されたことが驚きだ、普通に馬鹿なことを言うなとあしらわれるかと思ったのだが。
胸ポケットを抑えて礼を言うと、イルゼ・ラングナーは控えめな笑顔で頷く。そこにリコ・ブレツェンスカがニヤニヤしながらやってきて呟く。
「良かったなイルゼ、将来有望そうな奴に口説かれて」
「へ、変なこと言わないで! 彼は私たちの活動に共感してくれただけで」
「いいえ口説きました。個人的に文通したかっただけです」
イルゼ・ラングナーが話している間にリコ・ブレツェンスカがこちらを『どうだか?』という目で見てきたので被せるように口説いた宣言をする。短くピッ、と謎の言語を発した後にイルゼ・ラングナーは固まってしまった。
初で可愛いですねイルゼちゃん。でもオレは澄ました顔してるリコ・ブレツェンスカにも興味があるんです!
「というわけで、リコ・ブレツェンスカ殿。よければ貴女とも文通をさせていただきたいのですが」
「ほう? 構わないが、私はそう安い女ではないぞアルフレッド。ただまああんたの評判は聞いている、駐屯兵団に心変わりしたのなら喜んで歓迎しよう」
スラスラとイルゼ・ラングナーと同じように住所を書いた紙を渡してくるリコ・ブレツェンスカ。ノリというか流れで言ってみたが、言ってみるものだな。年上お姉さん2人と文通できるだなんて、オレワクワクすっぞ。
それは一旦置いておいて、ここは謝罪するべきだ。オレの質問からこのざわめきが起きてしまったし、許可なく勝手に立ち上がってなおかつ文通しませんか、など言語道断。筋は通すべき。
「お二人共、ありがとうございます。そして申し訳ありません、勝手な行動を取ってしまい」
「あいや、気にすることはありません! むしろ、壁外調査や私にまで興味を持っていただけて嬉しいというか......いやなんでもないです!」
「同感だ。まあ、もうじき時間だしこの騒ぎを聞いてあの教官が戻ってくるだろう。ひとまず君は席についたほうが良さそうだな」
「はい、ありがとうございます。それでは」
頭を下げてから座席に戻る。距離があったため何をしているか見えなかったのか、ミーナが怒られたのかと心配してくれる。その優しさが身にしみます。アニもなんだかんだ気にしてくれたようなのでウインクを返したが、ため息で返されてしまった。やはりクール可愛いアニちゃんバンザイ。
そしてまもなく、リコ・ブレツェンスカの予想通りキース教官が何の騒ぎだと扉を開けて入ってきた。途端に静かになるのだから教官というものはすごい。ほどなくして兵団の説明は終わったが、オレは去り際に目線を送ってくれた2人とのこれから始まる文通に胸が踊り仕方なかった。
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優秀な人材というのは、どこも欲しがるもの。特に調査兵団は慢性的な人手不足であり少数派精鋭なところもあるので優秀な訓練兵をなんとか招き入れたいという思惑がある。それは駐屯兵団も同様であるが、憲兵団に関しては訓練兵団から直接入れるのが上位10名という規定のためあぐらをかいて上記の兵団のように説明等を行うことがめったにない。
イルゼ・ラングナー、リコ・ブレツェンスカ両名はこの説明にあたってもし優秀な人材がいれば目星をつけておいてほしい、と所属兵団から軽いお願いのようなものを受けていた。そこで説明前に教官たちにかるく優秀な人材はいるかと問うたところ、今期は豊作だと様々な名前が上がった。
戦闘であれば、頭脳であればと名前が上がる中、もちろんそこにはアルフレッド・ガイスギーチの名前もあった。イルゼ・ラングナーとリコ・ブレツェンスカの両者はガイスギーチという聞き馴染みの無い名字であったことも起因してか、やけにその名前を印象に残った。
特にイルゼ・ラングナーに関しては調査兵団の説明にあまり興味がなさそうな訓練兵が多い中、ひときわ目を輝かせて聞いていた少年がアルフレッド・ガイスギーチと名乗ったことで、半ば運命的なものを感じていた。
この104期生においてミカサ・アッカーマンと並ぶ逸材、しかし集団の中では彼女よりも上だろうと評価されるその人物が、調査兵団を志望していると聞いたときの胸の高鳴りについて彼女は手記を3ページも消費してしまうほど書き込んでいた。
それを帰りの馬車でリコ・ブレツェンスカに見られ、恥ずかしさのあまり馬車から飛び出しそうになるハプニングもあった。
デートする人
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アニ
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クリスタ(ヒストリア)
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ミカサ
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サシャ
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ユミル
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ミーナ
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イルゼ
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リコ
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憲兵団のお姉さん
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フリーダ
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ルース
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キース教官
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ライナー