進撃ロスのサラリーマン、転生し超大型巨人を継承する 作:ダブドラ
とある作品に感銘を受け、自分でも書いてみました。
素晴らしい原作を残しつつ、僕なりに書いていきますのでよろしくお願いします。
「あぁ、遂に終わっちまった・・・・・・」
本日何度目になるかわからない呟きをした俺は今仕事を終えた帰りで、絶賛進撃の巨人ロスに陥っている。
ロス。即ち進撃の巨人が完結してしまったのだ。
ただ終わったのは原作だけでまだアニメが残ってはいるが、物語そのものが幕を閉じた事に変わりはない。
「何か見るか・・・・・・」
どうにか気を紛らわせようと、ポケットからスマホを取り出し起動しようとした時だった。
ドンッ
突然、背後からの衝撃と共に俺の体が前方へ押し出された。
加えて運の悪い事に乗車列の先頭に立っていた為、俺は振り向いた姿勢のまま線路上に投げ出されている。
それと同時に真横から電車が既に迫っており、ホームでは誰かが非常停止ボタンを押したらしく警報音が鳴り響いている。
死ぬのか、俺は?
まだ単行本を揃えられていないしアニメも見ていないのに!? というか進撃の巨人以外にも見たいアニメとか漫画とかまだまだあるってのに!
何で、誰が押した? 後ろの人か?
俺はせめて犯人の姿を見てやろうとホームを見渡そうとした。だがそれと同時に想像を絶する衝撃に襲われる。
そして俺はあっけなく意識を手放し、その短い生涯に幕を閉じた。
◇
「・・・・・・ん、あれ?」
何だ、ここは。一体何がどうなってる?
俺はつい先ほど、確かに電車に撥ねられた。それから直ぐに視界が暗転し、痛みと同時に意識が途絶えた。間違いなく即死だった・・・・・・筈だ。
だが今、俺の意識はハッキリしている。
そして周囲には天使や鬼のような非現実的な存在ではなく、
よく見ると年齢も性別も様々で、加えて中には怪我をしている人もちらほらいるようだ。
俺は困惑していたが、状況を理解するべく周囲の声に耳を澄ませてみる。
『まさか壁が破られるなんて・・・・・・』
『ねぇママ、怖いよ・・・』
『大丈夫よ。兵士のお兄さん達が守ってくれるからね』
『なんで、なんで今日なんだ。なんで・・・・・・』
すると聞き取れた会話の中に、いくつか気になる単語が混じっていた。「壁」、それから「兵士」だ。
後はずっと気になっていたんだが、周りにいる人の服装はどこか見覚えのあるものばかり。加えて今の発言を合わせると、つまり・・・・・・
俺は「進撃の巨人」の世界に転生している?
それも壁が破られたという事は、今は原作開始から少しした所だろうか。
・・・とりあえずここが何処の避難所なのか分からないし、一旦動いてみることにしよう。そう思って布団を掴んだ時、ふと自分の手が目に映る。
それは正しく子供の手だった。
常日頃から見ている少しシワの寄った手ではなく、スベスベとした少年の手。
そうだよ。転生したなら原作キャラの誰かに憑依しているかもしれないじゃないか。
俺は布団から飛び出すと、飛びつくように窓を見る。
曇りのない透明な板には、10歳くらいの少年が写り込んでいた。
顔に見覚えは・・・・・・無い。髪は黒で、顔立ちは少し面長だ。強いていえばベルトルトと似たような系統か。
こうしてちゃんと見てみると、目の前にいるのが自分だとは到底信じられないな。
そう思いながらじっと窓を見つめていた時、不意に横から床の軋む音が聞こえてきた。反射的に音のした方を向くと、銀髪の女性が俺を見て目を見開いている。
「君、目が覚めたのか」
「ええっと、貴方は・・・?」
「おっと、すまない。私はリコ。リコ・ブレツェンスカだ」
・・・・・・いきなり原作キャラと出会うとは。
リコ・ブレツェンスカといえば原作で駐屯兵団の精鋭班にいた人だ。見ると兵団の制服を着ており、胸元にある徽章には二輪の薔薇が描かれている。この時点でもう駐屯兵団に所属していたのか。
「リコさん、ですね」
「ああ。君は?」
名前、名前か・・・・・・。そういえば今の俺の名前って何だ?
家族が生きていれば聞けるかもしれないが、俺だけがここにいるという事は高確率で
“そういう事”なんだろう。
どうしようか、何かそれっぽい名前でも考えるか? でも俺のセンスじゃ・・・・・・ん?
途方に暮れながらズボンのポケットに手を入れてみた所、何かが指先に触れたので摘まみ上げてみる。それは二つ折りにされた一枚の紙だった。中は見たことのない言語で書かれているが手に取るように意味が分かる。
これが、俺の名前か。
「俺は、グラント・ベルツァーです」
「グラントか。良い名前だ」
リコさんがそう言って微笑む。窓から射す光に照らされた銀髪が煌めいて、つい引き込まれてしまいそうだ。やっぱり美人だよなこの人。
「それで、俺に何か・・・?」
「まあな。様子を見に来たのが一つと、もしグラントが起きていたら諸々伝えておこうと思ったんだ。何でここにいるのかとか、知りたい事だらけだろう?」
確かに今は知りたい事で溢れている。目が覚めたら避難所にいて、それ以前の事は何も覚えていないんだから。
「では、順を追って説明するぞ」
「お願いします。リコさん」
それから俺がここに来るまでの事を一通り聞いた。リコさんはウォール・マリアが破られた時、シガンシナ区にいたそうだ。そして逃げ遅れた避難民がいないか外門の近くまで行ったところ、倒れている俺を見つけてここまで運び込んでくれたらしい。
「あの、ありがとうございました。助けて頂いて」
「なに、兵士として当然のことをしたまでさ。むしろ君の運の良さに驚いたくらいだ」
それは俺もそう思う。だって外門付近で倒れていたら普通巨人に真っ先に狙われるだろう。なのに今俺は五体満足でここにいる。まさに奇跡だ。
「・・・・・・無事でよかったよ。本当に」
そう言うリコさんの声は、少し震えていたような気がした。
「そうだ。グラントの分の食糧も渡しておこう。眠っていて受け取れていないだろうからな」
「そんな、態々すみません」
「謝る必要はない。子供は食わなきゃ大きくなれないぞ」
俺はリコさんからパンを一つ受け取る。確か原作でも配給としてパンを配ってたな。それも一人一つだけなあたり、食糧難の深刻さが伺える。
「では、私はそろそろ行くよ。君の安否も確認できた事だしな」
そう言って歩き出すリコさんに、俺は頭を下げる。するとリコさんは左手を軽く上げて応えてくれた。
◇
再び一人になった俺は手元にあるパンを一口齧る。
美味い。まぁ少し物足りなさはあるけども。
そりゃこの世界のパンが俺の元いた現代と同じレシピで作られている訳は無いし、仕方ないことだ。
でも今の身体は目が覚めるまで何も食べてなかったらしく、普段食べていたパンよりも美味しく感じる。
そんな風に思いながら、残りのパンを口へ運ぼうとした時だった。
「っ!?」
突如として稲妻が落ちたような衝撃が全身を駆け巡り、目の前が白く光る。視界がはっきりした時には、そこは先程までいた避難所ではなかった。
見渡す限りの砂漠と、頭上には満天の星空。そして奥の方には神々しい光を放つ大木、のような何かが見える。
ここは、まさか・・・・・・。いや、立ち止まっていても仕方ないし、とりあえずあの光の方へと歩いてみるか。考えるのは歩きながらでも出来るしな。
そして歩き始めて数分が経った頃、砂漠の中にぽつりと一つ、人影が見えた。
・・・・・・女の子、か?
近づいてみると、人影の正体は小さな女の子だった。女の子は所々がはねた金髪のロングヘアーにボロボロの白いワンピースのような服を着ている。
完全に始祖ユミルだよな、この子。
「・・・・・・」
ん?なんだ、手に持った棒で何か書き始めたぞ?
始祖ユミルと思しき少女が砂の上に書いたのは、この世界、もっといえば
『私の手を取って』
文字を読み、顔を上げた俺の前には立ち上がって右手を差し出す少女がいた。
「この手を取ればいいのか?」
そう聞いてみると、少女は静かに頷く。どうやら従うしかなさそうだ。
ゴクリ、と唾を飲み込みながら俺は少女の手を取った。
すると、再び視界が白く光り脳内に映像が映し出される。これは、記憶・・・なのか?
◇
気づくと俺は、壁の外側に立っていた。眼前にはウォール・マリアの開閉扉を破壊し、その役目を終えた超大型巨人が蒸気を噴出させながら座り込んでいる。そしてその足元には、今の俺と同じくらいの年齢の少年がいた。
・・・・・・ベルトルト・フーバー。
作品を象徴するキャラクターと言っても過言ではない超大型巨人の正体。壁外からのスパイとして兵団に潜入し、調査兵団と死闘を繰り広げた。
そのベルトルトを突如大きな影が覆う。
ベルトルトがゆっくり振り返ると、そこにいたのは一体の巨人だった。
張り付いた笑顔が特徴的な金髪の十五メートル級。ネットじゃカルライーターと呼ばれる、後に主人公の母親を捕食する巨人だ。
原作通りに巨人はベルトルトを無視し、壁内へ進攻する。
当のベルトルトはこの後仲間である
それから程なくして、再びベルトルトの前に影が現れる。仲間が来たと思ったのかベルトルトは顔を上げるも、すぐにその表情が青ざめた。
現れたのは黒髪の巨人だった。
仲間ではなかった衝撃と、巨人と目が合ってしまった恐怖にベルトルトは逃げ出した。向かう先はおそらく壁内、シガンシナ区の内門付近か。
上手くいけばライナー達と合流できる可能性があるし、それが無理でも兵士に見つけてもらいさえすれば避難民としてウォール・ローゼに入ることも不可能じゃない。
一刻も早く巨人の手から逃れようとひた走るベルトルト。だが動揺し足元への注意が逸れたのか、進行方向上に落ちていた小石に躓いた。
そのまま大きく転んだベルトルトはすぐに立ち上がろうとする。
しかし次の瞬間、後ろに迫っていた巨人の手に捕まってしまった。
「うわああああ!!!アニ、ライナー!!! だれか、助っ」
静寂に響き渡るベルトルトの断末魔。
助けを求める声は誰に聞き届けられることもなく、非常にも、その全てを言い切るより先に巨人の口が閉じられる。
それと同時に鮮血が噴き出し、骨の砕ける音が響き渡った。
やがて完全にベルトルトを捕食した巨人は、全身から勢いよく蒸気を発し、傍の倒壊した家屋にもたれかかるようにして倒れ込む。
オイ待て。どういう事だ。ベルトルトが──
死んだ?
それからしばらくして、蒸気が弱まりその勢いを失った頃。ようやく家屋の中が見えてきた所で、俺は言葉を失った。
蒸気が晴れて見えてきたのは骸と化した巨人。全身の肉はほぼ蒸発し、うなじにいくらか残った程度だ。
そんな光景の中、俺の視線はある一点に釘付けになっていた。
あれは・・・・・・俺だ。
髪型、顔、服装の何れも今の俺と同じ。紛れもなく俺自身だ。
俺が、巨人の中から姿を現した。
「はっ!?」
映像はそこで途絶え、気がつくと俺は避難所に戻っていた。
・・・・・・嘘だろ。今の映像が事実なら、俺は巨人に転生してベルトルトを喰った事になる。それは即ち、
兎に角確かめなければ。
そこからの俺は驚くほどに冷静だった。避難所の外へ出て手近な枝を手に取ると、それを折って尖らせる。そのままそいつで、俺は自らの掌を切りつけた。
出来上がった横一本の切り傷からは血が流れ、焼けつくような痛みが走る。
治れ、治れ、治れ。
そして傷を見つめながら、俺はひたすらに念じる。普通ならいくらそんな事をしても無意味だが、どうやら今の俺は普通ではないらしい。
何と切り傷が塞がったのだ。
これで俺が巨人の力を宿している事が事実だと分かったわけだが、そうなると非常に不味い。何せベルトルトがいない以上、これから始まるのは
そういえばあの少女は何も言わなかったが、おそらく今後どうするかは俺次第って事だろう。
・・・・・・とはいっても巨人の力がある時点で選択肢なんぞ一つしかないが。
──兵士になる。
隠れ続けて全てが終わるのを待つなんて御免だ。ならこの力と、俺が持ちうる原作の知識をフル活用して少しでも抗ってやる。
結末を変えるのは無理でも、その過程を捻じ曲げる事は出来るかもしれないしな。
さてと、一度避難所に戻るか。
俺は日が落ち始めたので屋内に戻り、自分が寝ていた布団の上に座る。
そして少し考えを纏めていた時だった。
「なあ、ちょっといいか?」
誰かが背後から俺に話しかけてきたのだ。その声色からしておそらく子供だろうか。
「ああ、俺に何か・・・・・・っ!?」
振り向いた先にいたのは、俺も良く知る二人の少年少女だった。俺は驚いて息を呑んだが、二人もまた俺の顔を見て目を見開いていた。
考えてみればそうだよな。同じシガンシナ区からここに入ってきたならば避難所だって同じでも不思議じゃない。
・・・・・・まさかいきなり出会うとはな。
────ライナー、アニ。
◇◇◇
── シガンシナ区外門前 グラント保護後
「ライナー、後は任せるよ」
「ああ。しっかり捕まってくれ、アニ」
ベルトルトは作戦通りウォール・マリアの外門を破壊してくれた。後は俺が内門を破るだけだ。
戦士隊としてこのパラディ島に送り込まれた俺達は、道中犠牲を出しながらも壁まで到達。侵攻作戦を実行に移している所だ。
そして俺は今、この身に宿している鎧の巨人に変身しうなじから上半身を出す形でアニに話しかけていた。
「それじゃ、いくぞ」
「了解」
それからアニが持つ女型の力で呼び寄せられた無垢の巨人が外門の穴から中へ入っていく事を確認すると、俺はうなじの中に戻り巨人の肉体を動かす。
これからベルトルトを回収し、壁を登って二人を待機させ、内門を破壊した後で再度合流。後はそのままウォール・ローゼに潜り込むだけだ。
◇
俺はアニが落ちないよう右手で覆いながら走り、外門の直ぐ目の前までやって来た。そこでは座り込んだ超大型巨人の身体が蒸発を始め、所々骨が見えている。
さてと、ベルトルトは・・・・・・
何処だ?
作戦決行前に巨人の身体から出た後は動かないよう打ち合わせている筈だが、何処にもその姿が見えない。
「ねぇ、私は見つけられてないんだけど、いた?」
アニの問いかけに、俺は首を横に振って答える。
「これってマズいんじゃないの。早くしないと巨人が来るよ」
俺は再度頷き、門から離れた場所に移動し壁を登る。やがて頂上へ辿り着くとアニを降ろし、再びうなじから顔を出して話しかけた。
「とりあえずアニ、お前は内門から離れた位置で待機していてくれ。また直ぐ迎えに行く」
「ちょっと、どうするつもり?」
「作戦通り内門を破壊する。もしかしたらベルトルトはもうウォール・ローゼの中にいるかも知れないからな」
「これでベルトルトまで死んでたなら、作戦どころじゃ無いと思うけど」
「だがこのままじゃ俺たちは帰れない。何の成果も無く、ただ仲間を死なせただけだ。・・・・・・そんな状態でどんな顔して戻れば良い?どんな顔で母さんに会えば良い!?」
俺が強く言うと、アニは俯いて押し黙る。少し言い過ぎたかも知れないが、俺達に選択肢なんて無いんだ。
「作戦は続行するぞ。まだアイツが死んだとは決まってないんだからな」
「・・・・・・はぁ」
そして、俺は不満そうにしながら頷くアニを手に乗せ、壁の上を移動。内門まで後少しの所で壁を降り、砂埃を上げながらその姿を奴らに晒した。
アニが砂埃の中に紛れたことを確認すると、俺はふくらはぎの鎧を剥がし、開閉扉に向かって全速力で走る。
「オオオオオオオオッ!!!」
腹の底からの雄叫びを上げ、俺は内門をぶち破った。
その後アニを再び回収し、ウォール・ローゼ方面へ走ったのだった。
◇
「潜入できた、って事でいいのかな」
「ああ。何とか入り込めた」
こうして壁内に潜り込んだ俺たちは、道中で兵士に見つけてもらい上手くウォール・ローゼ内まで辿り着いた。
「ここがトロスト区か」
そして避難所に着くと、俺はアニと二手に分かれ、ベルトルトを探すべく建物内を見回った。
見ると年の近い子供は何人かいるが、そこにベルトルトはいない。
「・・・ダメ、か」
「こっちも空振り。それらしい奴はいなかったよ」
そしてアニと結果を言い合うと、俺は思考を切り替える。
──最悪の可能性へと。
「考えたくなかったが、超大型が奪われたと考えよう。今度は継承者を探すんだ」
「巨人に食べられずに死んだ可能性は?」
「俺は限りなく低いと思う。外門周辺には多数の巨人がうろついていたし、ベルトルトの存在を見過ごす筈はない」
俺はそう言いながら周りを注意深く見る。一体誰が継承者なのかなんて分かるわけ無いが、探すしか無いんだ。
◇
それから進展もなく、もう何分経ったかも分からなくなった頃。
「ねぇ、あれ」
ふと、アニがそう呟く。その視線の先には俺と同い歳くらいの子供がいた。
さっきは見かけなかったが、外にいたんだろうか。
黒髪の短髪に、面長でどことなくベルトルトに似てるような・・・・・・。
──っ!?
なんだ、今のは。
今、ほんの一瞬だがあいつにベルトルトが重なって見えた。
「なぁアニ、今」
「・・・え? ちょっと、ライナー!?」
何でかは分からない。だが、気づいた時にはもう、俺はあいつの元へ向かっていた。珍しく大声を上げたアニを無視して。
俺はそのまま声を掛けた。
「なあ、ちょっといいか?」
お読み下さりありがとうございました。
今作はウォール・マリア陥落時点では死ぬべきじゃなかったベルトルトが、もし死んでしまったら?と思った事をきっかけに書きました。
また、ライナー視点で壁内に潜り込む下りは自分でも調べて見たのですが、おかしな点があるかもしれませんのでご指摘、アドバイスを頂けると非常に助かります。
次回もよろしくお願いします。