進撃ロスのサラリーマン、転生し超大型巨人を継承する 作:ダブドラ
今回やっとあのキャラが登場します。
トロスト区編は次回で終わる予定です。
次章が本作においてかなり重要になるので楽しみにしていただけると幸いです。
ウォール・ローゼ壁上。
あの後ピクシス司令が到着され、俺は司令とリコさんに続いて壁を登った。
「以上が、現在に至るまでの経緯になります」
「成る程のう・・・・・・」
──ドット・ピクシス。
今、俺の目の前でリコさんの説明を聞いているこの老人こそ、駐屯兵団司令官にして南側領土の最高責任者だ。
その言動から“生来の変人”と呼ばれているが、一訓練兵に過ぎない俺からすれば遥か上の存在。
作戦の提案は慎重にしなければ。失敗は許されないんだから。
「ベルツァー訓練兵」
「はっ!」
と、いきなり司令に呼ばれた俺は反射的に敬礼をする。目上の人間にいきなり声をかけられると背筋が伸びるのは、前世もといリーマン時代の癖だ。
「そう固くならんでええ、楽にしてくれ」
「っ承知しました」
司令の言葉に従い休めの姿勢になる。さぁ、ここからが正念場だぞ。
「リコから聞いたが、何やら壁の穴を塞ぐ案があるそうじゃな」
「はい。一つ考えがあります」
よし来た。実はリコさんに司令への状況説明と併せて俺の名前を挙げてもらっていたんだ。
グラントという訓練兵が壁を塞ぐ方法について考えがあると言うので聞いては貰えないか、と。
だが、普通なら一訓練兵の意見が通るわけはないと思うだろう。そもそも案を伝える前に門前払いされるのが関の山だ。
実際アルミンはキッツ隊長の説得と見事な敬礼で司令に話を聞いてみようと思わせていた。
なら俺も同じ様に、とはいかなかった。エレンの尋問は状況的に巨人化して中断させる他なかったし、その結果司令がウォール・シーナ側に長く留まることになり会うタイミングを失ったからだ。
とはいえ成績上位者であることに加えて、司令と対面するまでに精鋭班での戦いや補給室の奪取など、いくつか結果を出してきた。
だから話を聞くくらいはしてもらえるんじゃないかと考えてもいたんだ。
その結果、こうしてチャンスを得ることができた。
「では聞かせてもらえるか。お主の案とやらを」
「勿論です、司令」
そして、俺はピクシス司令へ説明を始めた。
まずはトロスト区内にある大岩の事だ。
「ふむ、あの岩か。」
「はい。あれ程の大きさならば穴を塞ぐにはうってつけかと」
「じゃが、どうやって穴まで運ぶ? そこも考えがあるのか?」
「はい。賭けではありますが・・・」
「どれ、言うてみい」
ピクシス司令に促され、改めて深呼吸をする。
原作でのアルミンもこんな心境だったのかと考えながら、俺は緊張しつつも口を開いた。
「エレン・イェーガーをご存知でしょうか」
「報告で聞いておる。何でも巨人のうなじから現れたそうじゃな」
「ええ。彼は力尽きてうなじから出てくるまで、二十体もの巨人を殺害しました。・・・・・・巨人の姿で。私もその光景を目にしています」
「ほう。それで?」
「彼が巨人の肉体を生成し纏えるならば、巨人になってあの大岩を持ち上げる事も可能だと私は考えます」
俺が言うと、司令は顎に手を当て数秒考え込む。
そして被害の確認をしていた側近の一人、アンカさんを呼びつけてこう言った。
「エレン・イェーガー訓練兵をここへ呼んでくれ。話があるとな」
「はっ! 直ちにキッツ隊長へ連絡します」
そう答えるや否や、アンカさんは駆け足でゴンドラへ乗り込んだ。
それを見送ると、司令は表情を崩さず俺の方を向く。
「後はイェーガー訓練兵次第じゃな」
「司令、良いのですか?」
「この策には賭けてみる価値がある。お主の言い方からそう判断したまでよ」
「っ、ありがとうございます!」
やった、一先ず何とかなった。まだ決まったわけじゃないが繋げる事は出来たんだ。
司令に頭を下げながらも確かな達成感を感じつつ、俺はエレンの到着を待つのだった。
◇
「来たようじゃな」
あれから数分後、キッツ隊長を先頭にイアン班長、ミタビ班長に左右から挟まれる形でエレンがやって来た。
本人は何が何だか分からない、といった表情でキョロキョロと忙しなく視線を動かしている。
「グラント!? 何でお前がここに・・・・・・」
「すぐに分かるさ。それより、無事で良かった」
尚もエレンの様子が変わる気配はない。そりゃ俺の動向を全く知らないんだから当然だ。
「司令、イェーガーを連れて参りました」
「ご苦労。後はワシから話そう」
そして司令の口から俺が提案した作戦が語られた。
「・・・お言葉ですが司令、私はこの作戦に賛同できません!」
説明が終わって直ぐにキッツ隊長が言い放つ。表情が一切変わらない司令に怯んでいるのか大汗をかきながら。
「不確定な要素が多すぎます! そもそもイェーガーが敵でないという保証がない! 仮に巨人になったとして、そのまま我々に牙を剥く可能性も否定できません! 」
「では他に良い案があるのか? キッツよ」
「ぐっ・・・それは・・・」
「今からあの穴を塞げるだけの資材を集める時間はない。ならばあの岩以上の資材は無かろう?」
司令はキッツ隊長へ問いかけながら、エレンの方へ近づき膝をついた。
「エレン・イェーガー訓練兵じゃったな」
「は、はい!」
「お主に聞こう。穴を塞ぐ事が出来るか?」
「え、あの、その・・・・・・分かりません。どちらにしろ今、俺は現状をほとんど理解できていません。巨人に食べられた後の記憶もハッキリしないので。そんな状態で無責任に答える訳には・・・」
「おっとそうじゃった。質問が間違っておった。」
「───お主はやるのかやらぬのか、どっちだ」
突然、司令の顔つきが変わった。
今までの穏やかな声色とはまるで違う、重く響く声色。同時に放たれる威圧感に、向き合っているエレンのみならず俺も気圧されてしまう。
「・・・・・・やります。俺に出来るかどうかは分かりません。でも、やります・・・!」
そんな中、エレンは答えた。原作と違わぬ決意の籠もった目を向けて言い切ったんだ。
俺は口をポカンと開けたまま、その姿に見入っていた。
「よろしい。では動くとしよう。・・・キッツ」
「はっ!」
「下にいる兵を広場に集めてくれ。それと部隊の再編成もじゃ」
「・・・了解!」
司令は僅かに口元を緩めたかと思うと、直ぐに立ち上がり指示を出す。
ふう、どうにか原作の流れに持っていくことができたようだ。作戦前なのにどっと疲れたな・・・。
「なぁ、グラント」
すると座り込んだ俺の隣にエレンが腰を下ろす。
「作戦を提案したの、お前だって聞いたが本当か?」
「ああ。司令が聞き入れてくれるかは分からなかったけどな」
やっぱりその事か。当人からすれば気になって当然だ。知らない内に自分の名前が挙がってるんだから。
「でも、厳密には俺一人で考えた訳じゃないんだ」
「は? どういう事だよ」
「そもそも大岩を使う事を思いついたのはアルミンなんだよ。それがなかったら作戦も何もなかった。だから、ほとんどアルミンのお陰かな」
「でも、それを司令に提案したのはお前なんだろ。グラントだって凄ぇよ。ずっと堂々としてたし」
「それを言うならエレンこそさ。ありがとう。決断してくれて」
「ああ。司令に言われて目が覚めたんだ。出来るなんてとても言えねぇけど、やってみるよ」
そう言って迷いのない笑みを浮かべるエレンに、俺は手を差し出した。
俺のすべき事は、もう決まっている。
「なら俺は命懸けでエレンを援護する。人類の勝利の為に」
「ああ、よろしく頼むよ」
そして、俺達は握手を交わす。
するとその直後にリコさんが駆け寄ってきた。
「二人ともお喋りはそこまでだ。ついて来い」
「「はい!」」
それから慌てて立ち上がり、後に続いて移動した先では木箱や机が用意されていた。
机といっても樽の上に板を置いた簡易なモノだが、その上に広げられているのはトロスト区の地図だ。
そして、その地図を眺める司令の隣にはいつの間にここへ来たのか、ミカサが無表情で立っている。
「っ、エレン!」
「ミカサ! 何でここに!?」
「大丈夫? アイツらに何もされてない!?」
「俺なら大丈夫だ、何もされてねえよ」
ミカサは案の定エレンに掴みかかるが、その間に割って入るようにしてイアン班長が現れた。
「安心しろ。君たちの身の安全は司令が保証して下さるそうだ」
イアン班長のその一言を聞き、ミカサはゆっくりとエレンから離れる。
「これから改めて作戦会議をする。先に編成について説明するので良く聞いておいてくれ」
作戦、といっても事情を知らないミカサに向けたものである側面が大きい。
内容自体は原作と同じで、ミカサは戦力増強の為イアン班長の指揮下で行動することになった。
俺はというと、エレンと共に岩まで向かった後は少し離れた位置で状況を見る役割を任された。
巨人が外から侵入して来た場合、直ぐに対処に向かえるようにとの事だ。
所属もミタビ班からリコ班へ異動する事になった。
これを聞いた時のリコさんの嬉しそうな様子は忘れられそうもないな。
・・・・・・何せあんな悪い笑みを見たことがないから。
「グラント、用意は良いか?」
「問題ありません。何時でもいけます」
「よし。それじゃ見せてもらおうか、お前の成長ぶりを」
「が、頑張ります」
名場面と名高いピクシス司令の演説を聞き終え、俺はリコさんと話しながら準備を整える。
そして、トロスト区奪還作戦が幕を開けた。
◇
作戦開始の合図と共に先行したエレンの後に続き、俺とミカサを含む精鋭部隊が移動を開始。
俺はイアン班の後ろでリコさんと並走しながら大岩を目指していた。
「後少しで到着だ。・・・・・・頼むぞ、イェーガー」
ふと、リコさんの呟きが聞こえたので俺も前方を見る。まずは巨人化が上手くいくかだ。頑張れ、エレン。
すると直後に雷鳴が轟きエレンが光に包まれた。
空中で巨人の肉体が生成され、翡翠色の目に光が灯る。やがて巨人となったエレンは民家を破壊しながら着地し雄叫びを上げるのだった。
ウオオオオォォォォッッ!!!!
「あれが、巨人になったイェーガーか」
リコさんを始めとした精鋭部隊の先輩方がエレンに目を奪われている中、俺は周囲を見回す。
今のところ巨人は入り込んでいないようだ。
だが駐屯兵団お手製の巨人を利用したバリケードが破られるのも時間の問題だろう。
「・・・エレン?」
そんなミカサの声が聞こえ、振り返ってみるとエレン巨人がその場に立ち尽くしていた。
・・・やっぱこうなるのか。
ゆらりと身体を動かしながらエレン巨人はミカサの方を向く。そして次の瞬間──
ミカサ目掛けて構えた右拳を振り抜いた。
完全に不意の一撃だったが、ミカサはどうにか回避するとエレン巨人の顔に張り付く。
「エレン!私が分からないの?私はミカサ。貴方の、家族! 貴方はこれから、あの岩で壁の穴を塞がなくてはならない!」
「アッカーマン!危ない!」
「・・・ぐっ!」
ミカサの説得も届かず、エレン巨人は再度拳を振るう。しかしイアン班長の叫びによりミカサが直ぐにその場を離れたため、振るわれた拳はエレン巨人自身の顔面へ炸裂。
原作と同じく、自らの拳で自分の顔の上半分を破壊したエレン巨人は岩を背もたれに力なく座り込んでしまった。
「おいおい、あれじゃ唯の頭の悪い巨人じゃないか」
「ああ、知性なんて微塵も感じられなかったぞ」
エレン巨人を見ていた周りからそんな声が聞こえてくる。そりゃそうだ。誰もがエレンの事を心から信用しているわけじゃない。
隣を見るとリコさんが信煙弾の装填を終え、銃口を天に向けていた。
「分かってたよ。秘密兵器なんてないって。・・・・・・分かってた」
そうぽつりと言ってからリコさんは引き金を引く。
真っ赤な煙の線が、空へ真っ直ぐ伸びていった。
「グラント、撤退の用意をしておけ。巨人が来る前にイェーガーを回収してここを離れるぞ」
煙弾銃をしまいながら声をかけてくるリコさんに、俺は答えられなかった。
ふと振り返った先の光景に、言葉を失ったのだ。
「おい、グラント?」
「リコさん、どうやら遅かった様です」
「何を言って・・・・・・なっ!?」
どうやらリコさんも気づいたらしい。既に穴から巨人が入ってきた事に。
ここまでは原作と同じだ。壁内に巨人が入ってくる事自体は。問題はその数だ。
明らかに多い。
具体的な数を覚えてはいないが、それでも多いことは分かる。原作の比にならない数がこちらへ迫っている。
「総員戦闘準備!巨人をイェーガーに近づけるな!」
と、イアン班長が指示を出す。その声に迷いは感じられなかった。
「正気か!?ここに残ってもいずれ全滅するだけだ!それよりイェーガーをうなじから引きずり出して逃げた方が・・・」
「俺は正気だ。リコ、指示に従ってくれ。十分で良い。それだけ耐えれば希望はある」
「・・・・・・分かったよ。行くぞ、グラント!」
「了解!」
十分耐えればという部分に引っかかりを覚えたが、今は呑気に考える暇はない。
立体機動装置からブレードを引き抜き、俺はリコさんに続いて戦いへ臨むのだった。
◇
「セェヤッ!」
「こっちだ、このウスノロめ!」
数分後、俺はリコさんと共に巨人を迎え撃っていた。互いに足とうなじを状況に合わせて狙い、着実に数を減らしていったんだ。
「後少しで十分経つか?」
「多分、後二分ですね」
状況的には問題なく、ミカサや精鋭班のおかげでイアン班長の言う十分がもうすぐで経過しようとしている。
だが、このまま経過させてくれるほど現状は甘くなかった。
「奇行種が四体出現!精鋭班は対処をお願いします!」
駐屯兵の一人から齎された報告に、再度俺は穴の方を見る。
そこには報告通り四体の奇行種がおり、こちらへ全速力で向かってきていた。
四足歩行の小型が一体、あれが一番早い。七メートルくらいの個体と後二体はいずれも十メートル超え。
一度に来られたらかなり厄介だ。
「小型と十メートル級一体は俺の班で引き受ける! 残りはリコ班とミタビ班で対応してくれ!」
「了解だ、イアン!」
「私達も行くぞ!」
そして俺はリコ班に続き、もう一体の十メートル級へ向かっていく。
どっちをやるなどと話し合う余裕なんてないので先に行動したのだ。
「グラント、うなじを狙え!」
巨人に近づくとリコさんがそう叫び加速する。俺も指示通りうなじを狙えるように飛び上がると、ズシンと音を立てて巨人が転んだ。
リコさんともう一人の先輩が足を削ってくれた様だ。俺は心の中でお礼をしつつ、急降下しながらの一太刀でうなじを削り取るのだった。
「よし!」
「やったな、グラント!」
そう言って笑いかけてくるリコさん。俺も笑って返そう、そう思って少し近づこうとした時だった。
「リコ!悪い、しくじった!」
「ミタビ?どうした!?」
「奇行種がもう一体いやがったんだ!そっちへ向かってる!」
そう叫びながら現れたミタビさんの視線の先には、八メートルあるかどうかの巨人が走っていた。
どうや建物の陰にいたらしく気づかなかったようだ。
いや待て、呑気に言ってる場合じゃない。
このままいくともうすぐエレンの方に到達する。早く討伐しなければ・・・・・・!
そう思い、ガスを蒸して加速しようとした俺の横を突然何かが横切った。
“何か”は凄まじいスピードで奇行種へ迫ると、身体を回転させながら瞬く間にうなじを削りその死骸の上に降り立った。
“何か”・・・いや、“誰か”と言うべきか。
その人物は俺たちと同じ立体機動装置を身に着け、兵服のマントを羽織っている。
だが違うのは背中の徽章だ。
俺が背負う二振りの剣では無く、リコさんたちが背負う二輪の薔薇でもない。
その背に輝くのは青と白の翼。
“自由の翼”だ。
「オイ、そこで突っ立ってるガキ」
こちらから見て左寄りに分けられた黒髪、俺に向いている鋭い目。首元には白いクラバット*1が光る。
まさか、こんな早くに帰ってきたというのか。
人類最強の男が。
「説明しろ、こいつは一体どういう状況だ」
──リヴァイ兵士長が。
お読み頂きありがとうございました。
個人的にはピクシス司令の話し方が中々難しかったですね。
何度も違うな、こうじゃないと推敲を繰り返してました。
後はリヴァイ兵長がようやく登場しました。
僕としても調査兵団組の登場回を早く書きたいと思っていたので、ようやくここまで辿り着くことが出来て感無量です。