進撃ロスのサラリーマン、転生し超大型巨人を継承する   作:ダブドラ

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 大変お待たせいたしました。

 キリが良いところまでと思ったら7000字を超えてしまい自分でも驚いております。

 ちなみに次回の番外編は前編と後編でそれぞれ今回と同じくらいの文字数になる予定なので、およその目安になれば幸いです。

 


二十一話 告白

 

 

 

 

 

 「きゃっ!?」

 

 

 腰掛けていた椅子がいきなり消えた事で、アニが可愛らしい声を上げながら尻餅をついた。

 

 それを横目に、俺はひとまず辺りを見回してからアニへ手を差し伸べる。

 

 

 「大丈夫か?」

 

 「・・・ありがと」

 

 手を取りながら頷くアニ。その頬は部屋にいた時よりも紅い。

 

 

 「所で、ここは何処?」

 

 

 ・・・・・・さて、どう説明するべきか。

 

 五年前、この世界に転生したあの日以来ここへ来たことは一度もなかった。それが今になって何故?

 駄目だ。今考えた所で答えが出るとも思えない。

 

 取り敢えずは──

 

 

 「俺にも分からない。ただ、過去に一度だけ来たことがある」

 

 

 正直に答えよう。

 

 むしろ隠す方が説明が難しくなる。

 何せ今の俺は記憶を見ただけ、と言うには知りすぎているからだ。

 

 部屋の中にいる時はこの場所の事も伏せるつもりだったが、直接現地に来てしまった以上それも無意味だ。

 

 「過去にって、まさかあの日に?」

 

 「そうさ。五年前、ここで俺は知ったんだ。ベルトルトの事も、俺に巨人の力が宿っている事も」

 

 「知るって言ったって、ここには何もないんだけど・・・」

 

 

 そう。アニの言う通りこの空間には何もない。俺があの時出会った少女も、ここから見える範囲にはいない。

 弱ったな。実際に引き合わせられれば手っ取り早かったんだが・・・。

 

 

 「俺が初めて来た時は女の子がいたんだ。奴隷のようにボロボロな格好で、砂遊びをしている少女が」

 

 「そうなんだ。・・・・・・それってまさか」

 

 「どうした?」

 

 「何でもない。それより、これからどうするの?」

 

 

 はぐらかされてしまったが、アニも同じ予想を立てたのだろう。向こうに何も知らないと思われている俺が触れることは出来ないが、反応で何となく分かる。

 

 とそれは良いとして、重要なのはアニの言うように今後の事だ。

 以前は勝手に元の場所へ戻って来られたが、今回も同様とは限らない。あの少女に接触する事が戻る為の条件だとしたら直ぐにでも探しに動くべきだろう。

 

 だがまずは、しなければいけない事がある。

 

 

 「取り敢えず辺りを探索するしかないと思う。でもその前に、話の続きを聞かせてくれないか。マルコを殺したのがアニだって、どういう事なんだ?」

 

 「言葉通りだよ。私のせいで、マルコは死んだ」

 

 

 そう言うと、アニは星空を見上げながら語り始めた。

 

 

  

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは、トロスト区奪還作戦でリヴァイ兵士長が現れた直後くらいの事。私は後衛班として、エレンに近づく巨人の群れを迎え撃っていた。

 

 市街地を数体の巨人がゆっくりと歩く中、その進路上に割り込んで奴らを討伐した私の前に、ライナーが現れたんだ。

 

 

 「持ち場は良いの」

 

 「こっちも片付いたから問題ない。それより、話があってな」

 

 そう言ってライナーはある方向を見つめる。視線の先には、大岩の前で力なく座り込む巨人化したエレンの姿があった。

 

 「・・・まさかエレンも巨人の力を持っていたとは思わなかったぜ」

 

 正直私も驚いた。直接手合わせした事もあったのに全くそんな素振りはなかったし。おそらく本人も知らなかったんだろうけど、そうなると色々と疑問がある。

 

 とはいえゆっくり考える時間もなかったから、私は話を続ける事にした。

 

 「で、話って何?」

 

 「エレンの事だ。このままなら多分、駐屯兵団がうなじから引きずり出すだろう。そのタイミングで巨人化して強奪出来ないかと思ってな。奪えたら後は穴を潜ってウォール・マリアまで逃げるだけだ」

 

 「逃げるなら私の方が良いんじゃないの」

 

 「いや駄目だ。固定砲で狙われたらひとたまりもない。更にリヴァイ兵士長も襲ってくるとなれば、女型の硬質化じゃ防ぎきれん」

 

 

 確かにその通りだ。

 複数箇所を同時に硬質化させる事は出来ても、砲台の数を考えたらとても足りない。その点全身を常に硬質化している鎧なら気にせず逃げられる。

 

 いくら人類最強でも硬質化させた皮膚は切れないだろうし。

 

 

 「ウォール・マリアまで逃げた後は?」

 

 「シガンシナ区の外門から故郷を目指す。その時はアニの力を借りたい。あの距離を走り切るには女型の持久力が必要だ」

 

 「良いよ。でも、エレンなら目を覚ました後で抵抗しそうだから、ちゃんと抑えておいて」

 

 「任せておけ。俺に抜かりはない」

 

 「・・・そう」

 

 

 何処からそんな自信が来るのか分からないけど、信じるしかないか。

 

 極力顔には出さないようにしつつ、私は呆れ気味にため息を吐いた。

 

 

 

 「後は巨人化するタイミングだが・・・・・・おっ」

 

 

 ふと、ライナーがエレンの方に再び目を向ける。私も屋根の端へ寄り目線を動かしてみると、今まさにミカサと女性の駐屯兵がうなじからエレンを取り出そうとしていた。

 

 「よし、ミカサ達が動き始めたら巨人化する。アニは先に壁へ向かってくれ」

 

 「分かった」

 

 

 

 「必ずエレンを連れて帰るぞ。俺達の故郷に」

 

 

 私は首だけを向けて何も言わずに軽く頷き、立体機動装置のグリップをそれぞれの手に持つ。それから振り返って一歩、踏み出そうとした次の瞬間。

 

 

 

 巨人と目が合った。

 

 

 

 それと同時に周囲が段々と遅くなって見える。

 

 ライナーと話している間に足音はしなかった筈なのに、いつここまで迫っていたんだろうか。

 近くに他の巨人はいないから、複数の足音でかき消されていたとも思えない。

  

 呑気にそんな事を考えている間にも、巨人はその手を私に向けて伸ばす。

 

 駄目だ、間に合わない。

 

 今からでは私が刃を装着するより、奴の手に掴まれる方が早いだろう。

 ライナーはというと、巨人化するつもりで持っていたらしき右手の刃を下ろして駆け出そうとしている。

 

 

 

 ・・・・・・こうなったら掴まれたタイミングで巨人化するしかない。

 

 それから、エレンを攫う。後はライナーにエレンを預けてうなじから出るだけだ。

 

 

 覚悟を決めた私は、迫りくる手を受け入れるように目を閉じる。

 

 

 

 

 

 ───直後、私の身体は前ではなく、後ろに引っ張られた。

 

 

 

 

 「マル、コ・・・?」 

 

 

 不意に漏れた、自分でも分かるくらいに動揺の混じった声。 目の前に会ったのは、私の代わりに巨人に掴まれた同期の姿だった。

  

 ライナーに至っては後ろで開いた口も滴る汗もそのままに、只々愕然としている。それが何に対してなのかは言うまでもない。

 

 

 それよりも、今は急がなければ。

 

 

 「ぐっ、アニ・・・早く・・・逃げ・・・・・・っ!」

 

 

 自身を噛み砕かんと迫る巨大な口に抗いながら、マルコは必死に声を絞り出す。

 でもこの状況を前にして、逃げるなんて出来るわけない。

 

 私は刃を改めて引き抜くと、真っ直ぐ巨人へ向かって走り出した。

 

 

 否、走り出せなかった。後ろから強い力で腕を引かれた事でバランスを崩してしまい、そのまま両脇の下から伸びてきた二本の腕に羽交い締めにされてしまったのだ。

 

 

 「離して。…ライナー」

 

 

 そう言いながら、私を羽交い締めにした張本人を強く睨みつける。

 

 

 「駄目だ」

 

 「何で、このままじゃマルコが・・・!」

 

 「今までの話を聞いていたかもしれないんだぞ!? その疑いがある以上、生かしておくわけにはいかない!」

 

 

 確かにライナーの言う事は間違ってない。私達が話している最中、近くにマルコが潜んでいた可能性は充分にある。

 

 でも、それでも。

 

 「それなら後で聞けばいいでしょ!? もし聞かれてたとしても、まだ誤魔化せないと決まった訳じゃない!」

 

 「違うぞ。話を聞かれた事自体が問題なんだ。たとえ今誤魔化せたとしても、マルコが誰かに漏らさないとは限らない!仮にそうなったら俺達でアイツの口を塞がなきゃならないんだ。アニ、お前にそれができるのか!?」

 

 

 その小声の一言に、私は口籠ってしまう。

 

 マルコをこの手に掛けるなんて、そんな事したくない。それ以前に誰が人なんか殺したいと思うの?

 

 それに私達の手で殺したなら、死体を隠さなきゃいけない。でも巨人に喰われた場合は証拠も何も残らないし、誤魔化す事もそう難しくない筈。

 

 

 

 

 ───だからってマルコを見捨てるの?

 

 

 突如、頭の中で声が響く。

 

 うるさい、私は兵士じゃない。目的を思い出すんだ。ここでマルコを助けても、後で殺す事になるならリスクが高い。

 あのまま見殺しにすれば、そんな事は気にせず任務に

集中できる。その任務だって大きな手がかりを得たんだ。

 

 

 何も迷う必要なんてない。

 

 

 

 なのに、何で。

 

 

 

 何で身体が動いてるの。

 

 

 

 

 私が迷っている間にも、身体は前へ進もうとしていた。ライナーに抑えられて動けないにも関わらず、脚だけは懸命に動いている。

 

 マルコを、助けようとしている。

 

 

 「ぐっ、うぅっ、あああ゙ッ!!

 

 

 必死にマルコへ手を伸ばし、藻掻く。

 グリップを落とした事も気にせず、無我夢中で。

 

 「落ち着け・・・アニ!」

 

 

 そんなライナーの呼び掛けも無視して私は手を伸ば続けた。

 

 ───けど、その手が届くことはなかった。

 

 

 

 「うあ゙あ゙あ゙ああああ!

 

 

 巨人が、マルコに齧りついたんだ。そのまま肉に歯が食い込む嫌な音と共に、悲痛な叫び声が響く。

 声は直ぐに掻き消えて、抵抗していたマルコの手はだらんと力なく下がった。

 

 

 間に合わなかった。マルコを見殺しにしてしまった。その事実に打ちのめされ、私はその場に膝をつく。ライナーも既に私から離れ、唖然とした顔で巨人を見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 「その直後だよ。グラントが飛んできて巨人を殺したのは。後は知っての通り」

 

 

 アニの話を聞き終えて、俺は開いた口が塞がらなかった。勿論マルコの事は衝撃だったが、それ以上にライナーの行動に冷や汗が止まらない。

 

 まさかあの場でエレンを攫おうとするとは・・・・・・。

 

 もしあそこで巨人が現れてなかったら、今頃エレンは海の向こうで実の兄と出会っていたかもれない、なんて考えただけでもゾッとする。

 

 ただ、過程は違えど原作に近い結果に終わった。という事は未来からの干渉はあったと見て良いだろう。

 

 

 とにかく、今はアニの事だ。

 マルコを救えなかった事への罪悪感も手伝って原作以上に精神的にきているだろうから、このままにはできない。

 

 

 

 

 「やっぱり優しいな。アニは」

 

 

 俺は、思っている事を素直に伝える事にした。

 この場所に来る前にも言った、俺から見たアニ・レオンハートの事を。

 

 

 「・・・・・・ふざけてるの?それとも慰めてるつもり?」

 

 「俺は至って真面目だよ。慰めてるってよりは、ただ思った事を口に出しただけなんだけどな」

  

 俺が微笑みながら言うと、アニは相変わらず俯いたまま一言、ポツリと零した。

 

 

 「私は優しくなんてない」

 

 

 「そんな事ないよ。じゃなきゃ、俺はこうしてアニと話せてない」

 

 「どういう意味?」

 

 「巨大樹の森で戦った時、俺に対して硬質化を使わなかっただろ? 使えば間違いなく殺せた筈なのに」

 

 そう。あの時、女型の巨人は硬質化を使わなかった。少なくとも俺が戦いを挑んだ時は一度も。

 もし使われていれば二撃目の掌底で俺はミンチにされていただろう。

 

 「それ以前にも、マルコの所に謝りに来てくれた。という事はさ、アニは随分仲間想いなんだな、って」

 

 

 すると、俯いていたアニの顔が再びほんのりと紅くなっていく。やはり直球の褒めに弱いらしい。

 

 

 「俺に拳を振るった時、少しでも迷いがあったなら、それはアニが優しさを持っている証拠だと思う」

 

 「・・・・・・でも、私は動かなかった。あの時、ライナーを引き剥がせた筈なのに、それにも気付かないでマルコを見殺しにしたんだよ」

 

 「それも状況を考えれば、冷静な判断ができなくても仕方ないと思うぞ。それより、とにかくマルコを助けようとしてくれた事が俺は嬉しいんだ」

 

 

 もしこれで迷いなく見捨てる方を選んでいたら、流石に俺も許せないだろうな。けれど、助けようと身体が動いたのなら、その事実を無視して責めるなんて出来ない。

 

 

 「だから、恨んでると言うならライナーの方だな。アイツにはちゃんと話を聞いた上で一発殴らないと気が済まない」

 

 「・・・ふふっ」

 

 「ん?」

 

 「アンタって本当優しいね。初めてだよ、そんな風に言われたの」

 

 

 ふと、アニが小さく笑みを浮かべた。どうやら少しは励ましになったか。

 

 

 「ねえ、さっきの質問の答え、まだしてなかったでしょ」

 

 「そういえば、そうだったな」

 

 「ここまで話して断ったりなんてしない。良いよ。アンタの作戦に乗る」

 

 

 そう言ってぎこちなく差し出された手を、俺は笑みと共に握り返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 アニの説得に成功し一安心、という所で俺たちは周囲を散策していた。

 無論この場所から元の兵舎に戻る為だ。

 

 出口らしき場所はないが、あの少女ならあるいは戻してくれるかもしれない。

 

 そう言ってそれなりに時間が経っているあたり、成果はお察しだが。

 

 

 

 

 

 「ねえ、あれって」

  

 それから辺りを虱潰しに探す中、ふとアニが一方向を指差した。

 

 その先にいたのは───子供だった。

 

 だがそれは少女ではなく少年で、見た目は幼少期のエレンに瓜二つ。まさか、遂に直接会いに来たって事なのか?

 

 

 「走るぞ!多分あの子は何か知ってるはずだ!」

 

 

 俺はアニに合図をしつつ走り出した。

 

 だが、その距離は一向に縮まらない。砂に足を取られながら走っても走っても、少年の姿は小さいままだ。

 

 途中で振り向き後ろを見る。俺はアニがしっかりついてきている事を確認し、再び前を向いた。

 

 その時だ。

 

 

 「うぉっ!?」

 

 突然、直ぐ目の前に少年がいた。

 完全な不意打ちについ声が出てしまったが、少年は微動だにしない。というか、見れば見るほどエレンにそっくりだな・・・。

 

 明らかに違うのは、肌が少し濁っている事と、目元が濃い影で覆われて瞳が見えないことか。死体、とまではいかないがなんとも不気味だ。

 

 だが近づいてくれたのは都合が良い。話せるか分からないが、一先ず何か────

 

 

 

 

 「      

 

 

 

 

 

 

 

 「「っ!?」」

 

 

 

 それは、ほんの一瞬の出来事だった。俺が声を出そうとしたのとほぼ同時に視界が白く光り、気がつくと部屋の中に戻ってきていたのだ。

 

 後は視界が光る直前、見間違えじゃなければ少年が何か喋っていたような気がする。いや、正確には口が動いていた、と言うべきか。

 

 何にせよ今は気にしてもしょうがないな。

 

 

 

 俺はゆっくりと立ち上がり、辺りを見回す。

 

 座る為に動かしたままの椅子、開いたカーテン・・・どうやら本当に戻って来たらしい。正確な経過時間は分からないが、体感よりは経ってなさそうだ。

 

 

 「戻って、来たんだ」

 

 「みたいだな。おそらく、あの子供に戻されたんだろう」

 

 「あの顔・・・・・・誰かに似てなかった?」

 

 椅子を片付けながら、アニが尋ねてくる。彼女は幼少期のエレンを知らないのでこの反応も当然だろう。

 

 「言われてみれば、確かにな」

 

 「それに私は、昔あの子と何処かで会ってる気がする」

 

 

 あぁ、そういえば原作でアニ達とエレン達がニアミスしてる描写があったような。いや、描写が無くても避難所が同じだった可能性はあるか。

 

 俺は出会えなかったが、近くにいたのかな。

 

 

 おっと、今はそんな事を考えている場合じゃない。

 

 「まぁ戻って来られた事だし、今日はこの辺りでお開きにしよう。明日の為に少しでも寝ておかないと」

 

 「わかった。私も準備したいから帰るよ」

 

 「ああ、今日はありがとう。・・・・・・また明日」

 

 「また明日」

 

 

 アニは少し口角を上げながらそう言うと、静かに扉を開けて明かりの消えた廊下を歩いて行くのだった。

 

 

 気のせいかもしれないが、今のアニの表情は憑き物が落ちたようだった。

 

 

 少なくとも、俺にはそう見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 翌日、俺は約束の時間より十数分ほど早く支部の前に立っていた。勿論アニを待つために。

 

 

 昨夜はそれなりに眠れたし、調子は悪くない。言う事や一通りの段取りはメモに纏めたので準備もバッチリだ。

 

 

 後はアニが来れば・・・・・・おっ?

 

 

 「おはよう」

 

 「おはよう、アニ。昨日はよく眠れたか?」

 

 「うん。寝つきは良い方だから」

 

 

 およそ人生を左右する賭けに出る前とは思えない平和な会話の後だが、本題に入るとしよう。

 

 

 「それじゃ中に入るが、用意はいいか」 

 

 「私は大丈夫」

 

 

 そう言って、アニはフード付きのコートを羽織る。

 ちなみに、これは訓練兵時代に行った兵站行進の訓練で着用していたモノだ。

 

 

 「よし、行こう」

 

 

 

 

 そして、俺達は運良く一度も同期に出くわさずに団長の待つ執務室前に辿り着いたのだった。

 ちなみに途中で聞いたんだが、憲兵団の公務についてはヒッチに頼んで何でも一つ頼みを聞く代わりに病欠にしてもらったらしい。

 

 いつかその頼みとやらを聞けるように、何としてもアニを守らないと。

 

 

 「まさか誰にも会わないなんてね」

 

 「一人くらいはすれ違うかと思ったが、都合が良いこともあるんだな」

 

 「むしろ不気味なんだけど」

 

 「・・・確かに」

 

 

 ギリギリまでそんな会話を交わしながら、俺は扉の取っ手に手を掛ける。この先にいるんだ、あの三人が。

 

 

 「ここで合図をするまで待っていてくれ」

 

 「分かった」

 

 「じゃ、行ってくるよ」

 

 

 その言葉と共に扉を開き、俺は遂に執務室へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 「失礼します」

 

 「来てくれたか、グラント」

 

 第一声はエルヴィン団長だ。

 その左隣にはミケさんが、右にはリヴァイ兵長が腕組みをしながら立っている。ハンジさんはちゃっかり手前のソファに腰掛けていた。

 

 

 「早速本題に入ろう。今回君を呼び出した理由は、勿論女型の巨人についてだ」

 

 「実はナナバから聞いたんだけど、グラントは女型とも戦ったんだってね?」

 

 「は、はい」

 

 団長の説明に補足しながら近づいてくるハンジさんに、思わず後ずさる。

 待機命令を無視したことは事実なのだから、お叱りがあって当然だ。

 

 「あーっと、別にその事を責めるつもりはないんだよ。命令無視には違いないけど、お陰で新しい情報を得られるかもしれないんだし」

 

 ハンジさんが両手を上げて取り繕う中、今度はミケさんが近づいてきた。

 

 

 

 「良く、生きて戻ってくれた

 

 

 

 僅かに口元を緩めながら、一言。ミケさんはそれだけ言って元の立ち位置に戻っていく。

 

 この後の事を考えると申し訳なさが勝つが、それでも胸が熱くなる。同時に込み上げてくるものを抑えながら、俺は団長に向き直った。

 

 

 「ミケの言う通りだ。先の壁外調査では、女型の巨人の襲来や左翼側へ飛来した投石で多くの犠牲が出た。その規模はこれまでとは比にならない程だ」

 

 「ちょっと待って下さい。投石って・・・」

 

 「作戦中、君も紫の煙弾を見ただろう。その少し前に左翼側で投石が飛来したと、ハンジから報告があったんだ」

 

 左翼側で起きた緊急事態、そんな事があったのか。

 投石・・・・・・状況からしても奴と見て間違いないだろう。まさかもう来ていたとは。

 

 「そう、だったんですか」

 

 「私も驚いたよ。だって紫の煙弾が上がった所なんて初めて見たからね。それにさぁ・・・」

 

 

 そうハンジさんが言いかけた瞬間、リヴァイ兵長が机に強く手を突きこれを遮った。

 相変わらずの無表情だが、どこか不機嫌そうなのが伝わってくる。

 

 「ハンジ、雑談なら後にしろ。話が進まねぇだろうが」

 

 

 兵長から放たれる圧に、場が静まり返る。これには流石のハンジさんも愛想笑いを浮かべて黙ってしまう。

 

 

 「では、早速聞かせてくれ。女型の巨人に関する君の意見を」

 

 

 

 よし、ここだ。

 

 ついに訪れたその時。俺は小さく深呼吸をしてから、ゆっくりと話し始めた。

 

 

 

 「分かりました。でもその前に・・・実は皆さんに、俺達から話さなければいけない事があるんです

 

 

 その場の空気が変わる。団長達の表情は強張り、真っ直ぐに俺を見ている。

 

 

 「入って来てくれ」

 

 静まり返った空気を破るように声を出す。すると扉が開き、フードを被ったままのアニが入って来た。

 作戦通りだ。

 

 

 「・・・君は?」

 

 団長の問いに答えるように、アニがフードを外しその顔を露わにする。

 

 「ストヘス区憲兵支部所属、アニ・レオンハートです」

 

 

 そして、俺は口を挟まれる前にと、間髪入れずその一言を口にした。

 

 

 

 

 

 「彼女が、アニが女型の巨人の正体です。そして、以前トロスト区に現れた超大型巨人。アレの正体は──  

 

 

 俺なんです

 

 

 

 

 

 

 




 次回、番外編「Lost Girl 前編」

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