進撃ロスのサラリーマン、転生し超大型巨人を継承する   作:ダブドラ

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 大変長らくお待たせし申し訳ありません。

 今回は番外編になります。

 後編は明日の20時頃に公開されます。(予約投稿済み)


番外編 Lost Girl 前編

 

 

 

 

 ここ最近、毎晩の様にあの日の事を夢に見るんだ。

 

 トロスト区奪還作戦でマルコが巨人に喰われる夢。どれだけ手を伸ばしても届かず、ただ一方的に悲鳴を聞かされるだけの夢だった。

 

 

 第五十七回壁外調査を二日後に控えた今日も、その夢は変わらず私の眠りを妨げる。

 

 

 「・・・・・・まただ」

 

 

 折角の非番だというのに、公務に行く時とそう変わらない時間に起きてしまった。

 

 正直二度寝したい。けれど眠気は吹き飛んでしまったし、それより寝汗で服が身体に纏わりついて気持ち悪いので一先ずそれを拭う事にしよう。

 

 

 

 私は同部屋のヒッチを起こさないよう部屋を出て、寮の廊下にある手洗い場の蛇口を捻る。流れ出た少しぬるい水で顔を洗い、タオルで水気と寝汗を纏めて拭き取っていく。

 

 ふと、鏡に映る自分の顔を見て目を見開いた。

 

 だってあまりにも酷い顔をしていたから。目元には深い隈が出来ていて、肌は見てわかる程に荒れている。疲れ切った顔、と言うのも生温いくらい。

 

 ……ダメだ。次の任務は何としてもやり遂げなければならないのにこんな状態では。

 

 私はもう一度強く顔を洗い直し、いつもよりきつく髪を結んで自室へと戻った。

 

 

 

 

 それから、部屋に戻ると机の上に二通の手紙が置かれていた。

 

 起きた時にはなかったような気がするけど、まぁいいか。よく見ればヒッチがいないし、おそらく彼女が持ってきてくれたのかもしれない。早速、着替えて読むとしよう。

 

 さて、まず一通目はライナーから。内容は壁外調査に向けた演習がどうだとか上官がどんな人だとか、要は当たり障りのない世間話。

 

 だけどそれだけでは終わらない。実は、この手紙にはとある仕掛けが施されてる。 

 

 それは特定の順番で便箋を六角形に折ると、隠されたメッセージが読めるというもの。私たちはこれを使って任務の為の情報交換をしてきたんだ。

 

 今回は……次の壁外調査の進軍ルートと、エレンがいると思われる陣形の配置についてが記されていた。これは今日中に頭に入れておかないと。

 

で、二通目は……っ!?

 

「へぇ、このライナーなんとかってアニの同期?」

 

「何だ、ヒッチか」

 

 と、いつの間にか戻ってきていたヒッチがライナーの手紙を手に取っていた。

 

 流石にいきなり手を出すのはやめて欲しい。正直心臓に悪いし、人の手紙を勝手に見ようとするのもいかがなものかと思う。

 

「何だとは何よ。っていうか、この手紙つまんないわねぇ。こんなの送ってくるようじゃモテないわよ絶対」

 

 そう言ってヒッチは手紙を机の上に雑多に戻し、続いて私の手にあるもう一通の手紙に目を向けた。

 

「で、そっちは誰から?」

 

「グラント・ベルツァー。さっきのライナーと同じ、訓練兵団の同期だよ」 

 

 実はさっき驚いたのは、ヒッチが急に現れた以外にもう一つ理由があった。グラントの名前を見たからだ。

 

 何せ訓練兵団を卒業してから今まで、私はライナー以外の同期と連絡を取ったことさえない。手紙だってそう。

 

 だから驚きは殊更強かった。何故今グラントは手紙を寄越したんだろうか。

 

「えーっとどれどれ・・・・・・

 

『久しぶりだな、アニ。いきなり何だと思ってるだろうけど、実は次の壁外調査の関係でカラネス区に来てるんだ。しかも明日は非番でストへス区に行くんだが、もし良かったら会わないか?』

 

 って、これマジ!?デートのお誘いじゃない!!」

 

 

 ヒッチは横から手紙を読み上げると、それまでとは打って変わって嬉しそうな表情で騒ぎ始めた。

 

 一方で、私はその内容に驚きを隠せない。

 

 会わないか、だって? どうして急にそんなことを。まぁ、誘ってくれる事に悪い気はしないし、アイツのことは嫌いじゃないけど……。

 

 いや、本当にただ会いたいと思ってくれているだけかもしれない。それなのに疑ってかかるのも良くないか。

 

 

「アニ、ほらこれ」

 

 突然、ヒッチが差し出して来たのは香水瓶や口紅などの化粧品だった。こういう嗜好品ってかなり値が張ると思うんだけど、何で私に……?

 

「男と会うなら化粧くらいしないと駄目よ。アンタそれ以外の服持ってないだろうし、せめて顔くらいは飾らなきゃ」

 

「いや、まだ会うと決めた訳じゃないんだけど」

 

 手紙の最後には「公務とかで難しければ無視してくれ」とあるから、まだ選ぶ猶予がある。

 

 

「え~、そんなこと言って実は喜んでるんじゃないの? わざわざ手紙を書くなんて、脈があるとしか思えないわよ」

 

 そんなまさか。訓練で組み手をした時も、食堂で夕食を一緒に食べた時も、座学を隣の席で受けた時もそんな様子はなかった筈。

 

 というか、思い返してみると私ってグラントと一緒にいる事が多かったんだ。

 おそらく開拓地から一緒にいたから、他の同期よりは気を許してたのかもしれない。

 

 それにアイツは一度も私の過去を詮索しようとしてこなかった。今に至るまで一度も。

 

 そのグラントが私を・・・・・・。

 

 

 「あらぁ?やっぱり満更でもないんでしょ?」

 

 「待って、それってどういう」

 

 「どうも何も、アンタ今顔真っ赤よ」

 

 「っ!?」

 

 

 ヒッチに指摘され、一気に顔が熱くなる。

 

 まただ。

 

 訓練兵だった頃と同じ。何でアイツの事を考えると、こんなにも変な気持ちになるんだろう。

 

 「へぇ、アニも意外と可愛い所あるじゃない。折角の機会だし、思い切って告ってみたら?」

 

 「だから、私は、別にそういう訳じゃ」

 

 

 慌てて否定してしまったが、案外悪くないかもしれない。ここでハッキリさせて迷いを無くせば、いざ殺すことになっても躊躇わずに済むだろうし。

 

 何よりこんな中途半端な状態じゃ、任務に支障が出る。

 

 私は、戦士なんだから。

 

「……いや、ありがとう。ヒッチ」

 

「何よ。急に素直になっちゃって」

 

「グラントに会いに行くか迷ってたけど、行くことにする」 

 

「そう。なら応援してるわ。上手くいったら絶対教えてよ?」

 

 ヒッチの言葉に頷いて返しながら、私は部屋から出ようと扉へ近づく。

 

 ……が、途中で立ち止まった。本題を伝えるためだ。

 

 

 

「そうだ、一つ頼みがあるんだけど」

 

「何よ?」

 

「明日の公務、私は病欠ってことにしておいてくれない?」

 

すると、ヒッチは考えるような素振りを見せたと思いきやニヤリと口元を緩めてこう提案してきた。

 

「アニって意外と気が早いのね。まぁいいけど、タダでってわけにはいかないかなぁ」

 

 そう言って、彼女は机の引き出しから取り出した一枚の写真を見せてきた。

 写っていたのはウェーブした金髪の女性で、見た所二十代半ばって所だろうか。

 

「マルレーン商会ってとこの会長の娘が行方不明らしくってね。先輩から私にお鉢が回ってきたんだけど、ちょうどいいから代わりに探してくれない?そしたら明日病欠にしといてあげる」

「なるほど、交換条件ってことか」

 

「そうそう。まぁでも、別にマジメに探すことないわよ。彼と会うついでに軽く聞き込みして、後は見つかりませんでしたって報告を上げればいいだけだから」

 

「それならヒッチがやってもいいんじゃないの」

 

「やらないなら無断欠勤になるだけよ。そしたら本部に記録残っちゃうし、破格の条件だと思うけど?」

 

 実際ヒッチの言う通りだ。要は娘を見つけられなかった責任の所在が私になるだけで、明日の不在を怪しまれにくくなる。

 断れば記録が残る上、後で何かしら借りを返すとしても任務の結果次第で憲兵に戻れなくなるかもしれないから、ここで断る選択肢はない。

 

「わかった。行ってくるよ」

 

「交渉成立ね。それじゃよろしく~」

 

 間延びした声で言いながら手をヒラヒラと振るヒッチに、私も手を軽く上げて返し、写真を手に寮を出るのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 あれから一時間後。

 私は早速マルレーン商会に向かい、会長のストラットマン氏に話を聞いていた。

 

 自分でも不思議だ。ヒッチの言うとおり適当にやり過ごせばいいものを、真面目に探そうとしているなんて。

 

 でも何かしている方が任務までの時間を忘れられるし、いっそやれるだけやってみるのも悪くないかもしれない。

 

 ちなみにストラットマン氏からはそこまでの情報は得られなかった。

 分かったことといえば、娘の名前が『カーリー・ストラットマン』であることと、ストラットマン氏は彼女が何をしようと干渉しないってことくらいだ。

 

 でも手掛かりはあった。エリオット氏の言い方からしてカーリーが遊び歩いていることは間違いない。ということは、憲兵に職務質問されている可能性がある。

 

 だから記録を確かめようと支部を目指していたんだけど……。

 

 

「へっへっへ。大人しくしてろよ姉ちゃん?」

 

 まさか絡んでくる奴がいるとはね。

 

 グラントと会う前に、記録の確認を済ませようと近道したのが裏目に出るなんて。全く、あと少しで通りに出られたのに運が悪い。

  

「で、何のつもり」

 

「そんなもん、言わなくても分かるだろ?ちょっと付き合ってくれりゃいいんだよ」 

 

「……はぁ、私が憲兵だって分かって言ってるの? もし何かあったら本部が黙ってないよ」

 

 憲兵という単語を出しても、連中のへらへらした表情は変わらない。まぁそうでなきゃ私に声を掛けたりなんてしないか。

 

 ならとりあえず、痛い目にあってもらう事にしよう。

 

 

 

「気が強い姉ちゃんは嫌いじゃないぜ。さあ来てもらおごぉっ!?

 

 

 手始めに、こちらに手を伸ばしてくるリーダー格の男の脛を横から蹴る。そのまま下がった頭を両手でつかみ、追い打ちの膝蹴りを当てる。骨が割れ、肉が抉れるような音がするくらい思い切り。

 

 

「くっ、この女!」

「やっちまえ!!」

 

 あっさり倒れた男を見て、固まっていた周りの奴らも襲い掛かってきた。 

 

 私はその場から動かず、二人目のゴロツキが振るってきた木の棒を上体を反らして躱す。それから棒を持つ手をつかみ、脇腹へ膝蹴りを入れると男は呻きながら崩れ落ちる。

 

 続けて殴り掛かってきた三人目の拳も首をひねって躱し、勢い余ってよろけた隙にガラ空きの頭へ右足を振り下ろす。

 

 「ごっ……!?」

 

 足に骨の軋む嫌な感触が伝わるが、構わず振りぬいて男を地面へ叩き付けた。

 

 よし、後二人。

 

 片方は道端に転がっていた石をこちらへ投げ、もう片方は石を手に持ったまま迫ってくる。私は飛んでくる石を紙一重で躱し、もう一人を迎撃しようと回し蹴りを放つ体勢をとった。

 

 そして、石を振りかぶる男目掛けて足を振り上げ──

 

 られなかった。

 

「うっ!?」

 

 

 突然めまいに襲われ、よろめいてしまう。

 どうやら、私の体は自分で思っている以上に酷い状態だったらしい。 

 

 振り下ろされる石を紙一重で躱し、何とか持ち上げた右足で腹へ蹴りを入れる。それから腹を抑えて蹲る事で下がった男の顔を、間髪入れずに横から蹴り抜いた。

 

「……はぁ、後、一人だね」

 

 そう言って前髪を脇に流しながら、最後の一人の方を見る。

 

 けれど、視線の先には誰もいなかった。

 

「逃げた?……ぐっ!?」

 

 その代わりに、背後から回された手によって首を絞められる。次第に呼吸が苦しくなる中、何とか抜け出そうと肘打ちをしたり足を踏もうとするが力が入らない。 

 

 ダメだ。このままじゃ意識が飛んでしまう。

 

 抵抗虚しく視界がぼやけ、握っていた拳は解けて力なく垂れ下がる。辛うじて倒れているゴロツキ共の姿は見えるけど、もうじきそれも見えなくなるだろう。

 

 声ももう出ない。人を呼ぼうと口を開いても、ヒューヒューという空気の音が出るだけ。

 

 

 そろそろ、限界だ……。

 

 まだだ、まだこんな所で終われない。何も果たせていないのに。故郷に、帰らなきゃいけないのに。

 

 誰か、助けて……!

 

 

 

 

 

 「うぶっ!?」

 

  

 次の瞬間、微かに聞こえた人を殴る音と呻き声。同時に首を絞めていた腕が緩み、私の体が勢いよく引っ張られる。

 

 「ゲホッ、ゲホ、ゲホッ!!」   

 

 急に酸素を取り込んだことでせき込みながら、私はまだぼやけた目で背後を見る。

 

 そこにいたのは。

 

 

「ギリギリだったな、アニ」

 

グラン、ト?

 

 

これから会おうとしていた筈の、私の同期だった。

 

 

 

 

 

 





 お読み頂きありがとうございました。

 後書きは後編で纏めて書きましたのでここでは二点だけ。

 今回の物語はOVAの「Wall sina Goodbye」の中で起こった話というイメージです。
 また、時期は未定ですが本編22話の更新後に、番外編の位置を物語の時系列に併せて変更予定です。
 
 
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