進撃ロスのサラリーマン、転生し超大型巨人を継承する 作:ダブドラ
こちらは後編になります。
書きたいことを詰め込んだ結果8000字を超えてしまったので、時間がある時に読まれることを推奨します。
◇◇◇
「どうして・・・ここに・・・」
俺の胸にもたれ、呼吸を荒くさせながらアニは尋ねてくる。その顔は濃いクマがあり、血色も悪い。こんな状態で今まで戦っていたのか。
「偶然近くを通りかかってな。路地で誰かが争ってるのが見えたから来たんだ」
そもそも、事のきっかけは今から二日前に遡る。
壁外調査の為にカラネス区に来ていた俺に、ミケさんが前日くらいは羽を休めろと休暇をくれたんだ。
もちろん最初は言われた通りゆっくりしようかと思ったんだが、ナナバさんの一言がきっかけで俺はストヘス区へ行く事を決めた。
それはミケさんと話したすぐ後。ゲルガーさんも含めた三人で馬の世話をしていた時、ナナバさんが何か思い付いたような表情でこう言ってきたのだ。
「明後日の休暇だけど、ストヘス区にいるっていう同期の子に会いに行ってみたらどうだい?ここからなら、時間もそんなに掛からないし」
盲点とは正にこの事だと今でも思う。
元々壁外調査中に接触する事だけを考えていて、それ以前に動きを起こすなんて思いつかなかった。
この世界の馬は前世とは比にならないほどの速度と持久力を持つので、カラネス区からストヘス区までなら2時間もかからない。充分余裕を持って行って帰って来られるだろう。
とはいえ、いざ会っても流石に巨人の力の事をカミングアウトする訳にはいかない。言える事だって限られるが、それでも何か伝えられることはあるはずだ。
そう信じて俺は手紙を出す事にした。
内容はあくまで訓練兵時代の同期からの誘い。綴るのは余計な部分を省いた最低限の事だけ。
それと最後に、もし無理なら無視してくれという文言を付け加えた。手紙の返事は言うまでもなく間に合わないからな。
そして今日。朝早い時間から馬を走らせて、俺はストヘス区へやって来た。
でもまだ指定した待ち合わせの時間には早いからと、俺は街を少し見て回ることにしたんだ。
アニの姿を見かけたのは、その最中のこと。
商店街を抜けて、でかい屋敷が立ち並ぶ通りに出た時にふと路地に目をやったんだが、そこで見てしまったんだ。路地で男が女性の首を絞めている所を。
少し遠くて顔までは見えなかった。でも女性が兵服を着ていると分かって俺は駆け出していた。
同じ兵士なら無視なんてできないから。
「ふッ!」
犯人の男に気づかれないよう、声を出さずに距離を詰めて左脇腹へ拳を叩き込む。
全力で振るった左の拳に伝わってくるのは、骨が砕けるような感触。男の顔は苦悶に歪み、首を絞めている腕の力が緩んだ隙に俺はアニの手を引く。
そのまま彼女を左腕で抱き留め、直ぐに男の方へ向き直った。
こうして、今に至るという訳だ。
ちなみに現在、男は小さく呻きながら蹲っている。肋の辺りを本気で殴ったので当分動けない筈だ。
それより早くアニを運ばないと。
「アニ、動けるか?」
「・・・・・・大、丈夫」
質問を肯定し俺から離れようとしたアニだったが、その足取りはかなり覚束ない。このまま歩いてもらうのは危険そうだ。
「悪いがおぶるぞ」
「え、ちょっ!?」
返事を待たず、俺はアニの両手を自らの肩にかけておんぶする。さっき抱き留めた時もそうだったが、触れた限り熱っぽさは感じなかった。
それでも万が一があるから油断はできないな。
「憲兵団の支部に着くまで寝ててくれ。その顔からしてあんまり寝れてないんだろ」
「・・・わかった」
よし、なるべく起こさないように向かうとしようか。
◇
歩き始めて十数分。路地を抜けて、人々の視線を感じながらもどうにか支部まで辿り着く事ができた。
早速中に入ってみるか。
───と思ったその時。
「アニ・・・・・・?」
横から、妙に聞き覚えのある声がした。
まさかと思いながら首だけを動かしてみると、そこにいたのは俺もよく知る人物だった。
「なぁアンタ! アニに何があったんだ!?」
血相を変えて迫ってくる彼はおかっぱ頭が特徴的で、憲兵の制服に身を包んでいる。ここで
「今は寝てるだけだ。詳しいことは後で話すから、一先ずアニをベッドに運ばせてくれないか」
「そうだったのか・・・・・・。大きい声を出して済まない。案内するから着いてきてくれ」
「ありがとう。助かるよ」
それから、彼の案内で支部の休憩室に向かった。曰く寮の部屋にも入れるが、勝手に入るのは不味いだろうとの事。
ちなみにアニはよっぽど寝れていなかったようで、今も俺の背中ですやすやと眠っている。
「ここだ。」
部屋に入り、ベッドにアニを下ろす。上着は脱がせたから、後は布団をかけてやれば一先ず大丈夫だろう。
それから俺は脇にあった椅子に腰かけ、彼と向かい合った。ここからは事情を説明するお時間だ。
「改めて、憲兵団ストヘス区支部所属、マルロ・フロイデンベルクだ」
「ああ。俺はグラント・ベルツァー。見ての通り調査兵団の所属だよ」
俺は名乗りながら、羽織っている兵服に縫い付けられた自由の翼を見せる。マルロはそれを数秒見つめて、すぐに口を開いた。
「本題の前に聞くが、グラントはアニとどういう関係なんだ?」
「開拓地から一緒だった訓練兵時代の同期だよ。今日は壁外調査の前日だから会って話がしたくてな」
「そういう事だったのか。アニが良く話してた同期ってのは、グラントのことだったんだな」
「待った。良く話してたって?」
「ああ、俺たちの同期にヒッチって奴がいるんだが、アニをよくからかっててな。そこで同期に仲のいい男がいるとか、そんな話が出てたんだ」
あのアニがそんな事を? 嬉しいが何というか信じられないな。
・・・・・・でも何故だろう、原作を知っている身としてはヒッチが喜んでる姿が簡単に想像できてしまう。
「それじゃあ、何があったか教えてくれないか」
「ああ。順を追って話すよ」
それから、俺はこれまでの事を説明した。非番でストヘス区に来てからアニをおぶってここに来るまでを端的に。
「まさか、そんな事が・・・・・・」
「顔を見てもらえばわかると思うが、精神的な疲労も相当溜まってたんだと思う。じゃなきゃゴロツキに後れを取る事もなかった筈だ」
「・・・・・・」
マルロは黙っていた。両の拳を力強く握り、険しい表情のまま。
「マルロ?」
「あぁ、自分が情けなくてな。同期がこんな状態になっていることに気づけない自分に、心底腹が立つよ」
自分自身への怒りか、何ともマルロらしい。
そう考えるとストヘス区に来てよかった。もし知らずのうちにアニが倒れたなんて知ったら、きっと後悔していただろうから。
「だから、ありがとう。アニの事を助けてくれて」
「礼には及ばないよ。俺にとっても、アニは大事な仲間だからな」
「・・・・・・っ」
「「アニ!」」
すると、ずっと眠っていたアニが目を開けた。一時間でも寝ったお陰か、路地で見た時より血色はマシに見える。
「ここは・・・」
「憲兵団支部の休憩室だよ。マルロが案内してくれたんだ」
「マルロ?」
「ああ。入り口の前で、偶然お前を背負ったグラントに会ってな。本当に無事でよかった」
マルロの言葉を聞いたアニは、俺を一瞬見てから俯いた。その手は強く布団を握り締めている。
まるで、何かを堪えているかのようだ。
「グラント」
「ん、どうした?」
「・・・・・・ありがとう。その、助けに来てくれて」
「あ、ああ」
平静を装って答えたが、実は内心驚きが勝っていた。
いつものアニからは想像できない程弱々しい声、それに紅みを帯びた頬。こんなにしおらしい彼女を見るのは初めてだ。
「無理はするなよ?」
「体の調子なら大丈夫。今の今まで寝てたし。所でマルロ、ちょっと良い?」
「ああ、何だ?」
「調べて欲しいことがあるんだけど」
そう言って、アニはマルロに何やら説明し始めた。どうやら人探しをしていて、その人物が過去に職質されたかどうか知りたいらしい。
待てよ、そういえば原作でそんな話があったような。あれは確か・・・・・・そうだ、アニが主役のスピンオフだ。内容も今聞いた話と一致する。
ただしアニがゴロツキの方から絡まれることはなかった筈だから、流れは変わっているとみるべきか。
「なあアニ、記録を調べるのは俺も資料室に用があるから構わんが、まさかその体で探しに行くんじゃないだろうな?」
「そのつもりだけど」
「駄目だ! もし倒れたらどうする!?」
平然と言い切ったアニに、マルロが声を荒げる。
俺は顔を見ただけだが、一時間と少し寝ただけで快復するような状態ではなかった。だからこそ心配になるのも頷ける。
とはいえアニも引く気は無さそうだ。理由を考えれば尚更か。
こうなったら仕方ない。
「ちょっと待った。そういう事なら俺が一緒に行くよ」
二人の会話を遮るように、手を挙げて提案する。
正直介入してよいものか悩まないわけじゃないが、現状他にこの場を収める手はない。
そもそもここまで来て部外者というのも厳しいだろう。
「グラント……だが、良いのか?」
「ああ。非番だから時間はあるし、そうすれば万一アニが倒れてもまた担ぎ込める。まぁどうするかは本人次第だけどな」
「アンタは嫌だって言ってもついてくるんでしょ。それに、私もこのまま中断されちゃ寝覚めが悪いから」
「じゃ、決まりだな」
すると、俺とアニのやり取りを聞いていたマルロがため息混じりに立ち上がった。
「……わかったよ。とりあえず、俺は用事のついでに資料を探してくる。二人はここで待っていてくれ」
仕方ない、とでも言いたげな声色に反して微笑みながらマルロは休憩室を後にした。
そして二人きりになった休憩室。俺は沈黙が流れる前に、アニへ話しかける。
「その、久しぶりだな。トロスト区奪還作戦の後処理以来か」
しかし、アニは何も返してはくれなかった。再び沈黙が部屋を侵食し始める中、一貫して無表情のままだ。
と、思っていたその時。
「・・・・・・ねえ」
ぽつり、とアニが呟いた。
「何で、助けに来てくれたの」
「偶然だったとはいえ、知り合いが襲われてるのを見て見ぬふりなんて出来るわけないだろ?」
俺が答えると、アニは訝しげにこちらを見つめてくる。
「本当に偶然?」
「いや分かってたら逆に怖くないか⋯⋯?」
疑うのはわからなくもない。俺だって、まさか現場近くを通りかかるなんて夢にも思わなかった。
こんなに都合の良いことがあるか、と俺も思う。
「運が良かったんだよ。きっと」
「⋯⋯腑に落ちないけど、今はそういう事にしておく」
「まぁ何にせよ本当に良かったよ。アニが無事で」
そんな疑いを持っているような言い方とは裏腹に、アニの表情は何処か、穏やかに見えた。
すると、休憩室のドアが開きマルロが戻ってきた。見ると右手には革製の手帳が握られている。
「アニ、お前の予想通り記録が残ってたぞ。だが資料を外に持ち出す訳にはいかないからな。コイツに書き写しておいた」
そう言いながら、マルロは手帳のページを千切ってアニへ差し出す。
「ありがとう、マルロ」
メモを受け取って、アニはゆっくりと立ち上がる。
その両足にはそれまでの様なふらつきは無く、しっかりと床を踏みしめていた。
俺も続いて、ベッド脇の机に置いていた彼女の上着を手に取り椅子から立つ。
「もう行くんだな?」
「寝てる暇は無いから。所で、私の上着を脱がせたのってアンタ?」
「ああ、流石にそのまま寝かせるのもどうかと思って」
「⋯⋯そう」
アニは意味ありげに呟き、俺から受け取った上着を羽織って部屋を出ていった。
まさか今の、変な風に思われてたりしないよな⋯⋯?って考えている場合じゃない。とにかく俺も行かないと。
「グラント、アニを任せたぞ」
そして、部屋を出る間際に放たれたマルロからの一言に頷いて応え、俺は部屋を後にするのだった。
◇
あれから十数分後、俺達はアニが探していたカーリーという女性が職質される前に居た、という酒場にやって来た。
掲げられている看板にはピット・リドーズと書かれていて、少し古びた店内はガラの悪い男が4人でテーブルを囲む以外は空席。
まぁ人けのない路地にある上、昼間だから無理もない。
ちなみに男共はアニへ下衆た目を向けていたが、俺の姿を見た途端に白けたような表情へ変わった。
その御蔭ですんなり情報収集できたし、連中を捻り上げる手間もなくなったしで結果的に良い事ずくめだったな。
主目的の聞き込みに関しては、酒場のマスター曰くカーリーの恋人なら何か知ってるかもとの事。
名前は、確かウェイン・アイズナーだったか。
スピンオフのアニメじゃ違う名前だった様な気がするが、ただでさえ内容もうろ覚えだし気の所為かもしれない。
そして店を出る前、アニが今日のお礼だとライムエードをご馳走してくれた。
転生してから初めて飲んだそれは酸っぱくて、それでいて入っているであろう砂糖の量以上に甘かった。
理由は……何でだろうな。
◇◇◇
グラントに助けられてから数時間後、私はマルロにもらったメモを元にカーリーが通っていた酒場へ赴き、そこで得た情報を元に馬車を走らせて彼女の恋人の家へやってきていた。
あの時はまさかグラントが助けに来るなんて思ってもみなかった。
でも、そのお陰で私は今ここに立てている。
「よし、アイズナーの家はこの奥だったよな。早速調べに行こう」
そう言って先導するグラント。
……不思議だ。支部の休憩室で目覚めた時、私にはマルロの言う通りカーリー探しを止める“選択肢”があった。なのに断固としてそれを拒み、こうして今も兵士ごっこに興じているなんて。
それも、マルロを納得させるためにグラントまで巻き込んで。
厳密には本人が一緒に行くと言い出したんだけど、実際私のせいなんだから巻き込んだことに違いはない。
勿論悪い事をしたと思ってる。だって、折角の休みを私のせいで潰したんだから。だからこそ、ここを調べたら後は一人でやると、そう伝えよう。
それで最後にするんだ。”同期の仲間”として接するのは。
「おーいアニ! 大丈夫か?」
「大丈夫。ちょっと考え事をしてただけ」
すると、先に行っていたグラントが声を掛けてきたので歩きながら返す。そして隣に並び立ち、アパートの階段を登るのだった。
そうして私たちはアイズナーの家の前にやってくる。早速扉の取っ手に手をかけると、なんと鍵が掛かっていなかった。
その事実に嫌な予感がしながらも、私は部屋の中へ足を踏み入れる。
結論から言うと、その予感は当たっていた。
「……っ」
「どうりで、鍵が開いていた訳だ」
ウェイン・アイズナーは死んでいた。ベッドの下で、何かに怯えたように自らの体を抱き締めたまま。
それを見つけてしまった私は驚いて声が出なかったが、グラントは対照的に冷静なまま死体を調べている。
その後も結局、カーリーの居所につながる手掛かりは出てこなかった。けれど何もなかったわけじゃない。クローゼットの中から、丁寧に梱包された白い錠剤が大量に収められている箱が出てきたんだ。
これは確か、上官が以前言っていたコデロインとかいう薬物。最近ストヘス区内でも流通し始めているそうだけど、まさかアイズナーがその売人? ということは、カーリーも何かしら関わっているかもしれない。
とはいえこれ以上は何も無さそうだから、私達は部屋を出ることにした。
◇
「待った」
部屋を出た後、馬車の手前にある曲がり角でグラントが私を引き留めた。一瞬何故かわからなかったけど、過度の先を見て理由が分かった。
誰かが馬車の傍にいる。
白いスーツの男と赤いシャツの男の二人組だ。しばらく様子を見ていると、白スーツの男だけが馬車へ乗り込んだ。どうやら待ち伏せするつもりらしい。
「まさか、尾けられてたのか」
「でもそれなら何か知ってるかも。無関係でここまでするとは思えないし」
「だったら聞き出すまでだな」
そう言って、グラントは馬車へと歩き始めた。
私も続こうとしたけど、突き出された右手を見て足を止める。
「俺が先に行って奴らを外に出す。アニは隙を見て奇襲を仕掛けてくれ」
「わかった。気を付けて」
「そっちもな。無理はしないでくれ」
私は小さく頷いて、曲がり角から様子をうかがう。
「ストラットマン家まで、送ってもらえますか」
すると、グラントが行き先を告げると同時に馬車の扉が開き、中にいた白スーツ男がナイフを突きつける。更に横から赤シャツ男もナイフを持って現れた。
二本のナイフを突きつけられながらも、グラントは何やら話し続けている。
聞こえる限りだと待たせすぎて馬車がいなくなってしまう前に引き留めに来たとか。あの状況でよくこうも口が回るものだ。
そんな風に思っていると、白スーツ男が馬車から降りた。私を探しに戻ろうとしているのだろうか。でもこれはチャンスだ。
少し待って馬車と三人の間に距離ができてから、私は地面を勢いよく蹴る。
次の瞬間、白スーツ男と目が合う。それと同時にグラントが赤シャツ男の首を抑え、そのまま壁へ叩き付けた。
そうなると当然、空いたグラントの背中を奴らが見逃すはずはない。隙ありと言わんばかりに白スーツ男がナイフを振り上げている。
でも、惜しかったね。
「私の方が速い」
そう呟きながら、白スーツ男の腕を掴んだまま背後に回り両ひざの裏を蹴り上げる。父さんから教わった得意の投げ技だ。
その勢いでひっくり返るように倒れた男へのしかかり、ついでに奪っていたナイフを突きつけ返して動きを封じる。
すると、グラントが私に笑顔を向けていた。
「作戦成功だな」
「でも、まさかあんな無茶をするなんてね。私が間に合わなくてもし刺されたらどうするつもり?」
「それくらいじゃ死なないさ。でもまぁ無茶は無茶か。・・・・・・すまん」
申し訳なさそうにするグラント。刺されたくらいじゃ死なないって・・・・・・まさかね。
「それじゃ、色々聞かせて貰おうかな」
そして、二人へ尋問と称して知る限りのことを吐かせた。
話によると、二人は何でも屋だという。
なんでも彼らもストラットマン氏の依頼でカーリーを探していて、彼女を見つけた後にアイズナーと結託。逆にストラットマン氏を脅し身代金を取ろうとしていたようだ。
その上で同じくカーリーを探していた私が邪魔だったためにここで襲おうとした、とリーダー格らしい白スーツ男が言っていた。
最後にカーリーの居所も聞き出して、尋問はひと先ず終わり。
「それじゃ、早いとこカーリーを助けに行くか」
二人を拘束しながらいうグラントに、私は首を横に振る。
「ここからは、私一人でやる」
「何だって?」
「ここまで来たら後は私だけで大丈夫って事。それにもう直ぐ日が暮れるから、早めにカラネス区に戻った方がいいでしょ。壁外調査があるんだし」
「だが・・・・・・」
思わずため息が出そうになる。
そうだ。グラントはこういう男なんだ。訓練兵の時からそうだった。一度決めたらそれを曲げない頑固な男。
でも、もう良い。兵士ごっこはもう十分だ。さっさと終わらせて”戦士”に戻らないと。
「私は大丈夫。その代わりと言ってはなんだけど、その二人を憲兵に引き渡してほしい。支部によるように馬車にも言うから」
「そういう事なら仕方ない。もしまた会えたらマルロにもこの事は話しておくよ」
「じゃあ、早く乗って」
そして、私たちが乗った馬車は憲兵支部へと向かう。
程なくして馬車が止まった頃には、外は夕日で茜色に染まっていた。
「それじゃあ、気をつけてな」
「アンタも。その、今日はありがとう」
「礼を言うなら俺もだ。憲兵団の仕事を手伝うなんて調査兵の身じゃまずできないからな。それにアニともまた話せた。来てよかったよ本当に」
まただ。また顔が熱くなる。
でもそれも最後だ。もう仲間ではいられない。
だから、これだけは伝えよう。
「グラント」
馬車が出る寸前、呼び止めようとしたら思ったより大きい声が出てしまった。
相変わらず穏やかな顔で、グラントの目線がじっとこちらに向けられている。
「次、また会えるかわからないから言う。一緒に組み手をしてくれて、隣で座学を受けさせてくれてありがとう。グラントと一緒にいる時間は、嫌いじゃなかった」
言った。ヒッチにみられてたら間違いなくからかってきそうなことを、正直な気持ちを。
その間グラントは驚いたように目を見開いていた。
けど最後にはまた、微笑んでいた。
「ああ、俺もだ! 本気で組み手をしている時間が、俺も好きだったよ。だから、また、また会おう」
その言葉に、私は答えられなかった。
何も言えず、ひっそり御者へ合図を出して扉を閉める。
そして、私だけを乗せた馬車が再び走り出した。
これでいいんだ。言いたいことは言えた。
後悔は、してない。
迷うのは、もう終わり。後はまっすぐ進むんだ、故郷へ帰るための道を。
ふと、車窓から覗いた景色。今までずっと目にしてきた筈の世界が、今日この時だけは、
────どうしようもなく、綺麗だった。
番外編 Lost Girl ~完~
番外編第一弾はこれで完結になります。
今回はあくまでOVAの間の話、なので途中で幕引きとなります。(実際はこれ以降の展開が原作とまるっきり同じなのでカットした形になります)
そもそもアニの話として書きたかったので、前編を丸ごとアニ視点にして、グラントの出番を後半の序盤に持ってくる形にしました。
という訳で改めて、ここまでお読み頂き本当にありがとうございました!