進撃ロスのサラリーマン、転生し超大型巨人を継承する 作:ダブドラ
俺の告白によって、沈黙に包まれる執務室。
当然だ。新兵がいきなり自分が超大型巨人の正体だ、なんて言い出して驚かない訳がない。
その証左としてエルヴィン団長達はおろか、リヴァイ兵長まで目を見開いて固まっている。
「えーっと・・・・・・冗談、じゃないんだよね?」
「ええ。紛れもない事実です」
「というかそもそも、冗談を言うためにわざわざ公務を抜けて来ると思います?」
どうにか言葉を絞り出したハンジさんだったが、アニの少々キツめな指摘に苦笑いを浮かべている。
言ってる事はもっともなんだが、仮にも上官なのに全く容赦ないな・・・・・・。
「一応、証拠をお見せします」
そして俺は手っ取り早く証拠を見せるため、懐からナイフを取り出し掌に傷をつける。
アニにも同じくした後、俺達はそれぞれの傷を瞬時に再生してみせた。
団長達の反応は想像通り。
先程まで黙っていた四人は一斉に視線を掌の傷に送ったが、然程驚いているようには見えなかった。実際エレンという前例があるから当然といえば当然だ。
「リヴァイ」
ふと、団長がその名を言い放つ。
それとほぼ同時、と言える程の目にも止まらぬ速さで兵長が動き出し、俺は持っていたナイフを奪われその刃先を喉元に突きつけられた。
「グラント・・・っ!」
「動くな。超大型だろうが女型だろうが、巨人化しようとした時点でコイツの首を切る」
咄嗟に動こうとしたアニに合わせるように、ナイフの刃先が俺へ近づけられる。
要するに人質ってわけだ。実際の所無理やり巨人化することはできるが、した所で俺達に得は何一つない。
となれば今は、両手を上げて大人しくしよう。
「手荒な真似をしてすまない。だが我々は、まだ君達を信用する事ができないんだ」
団長は俺たちの方へ眼を向ける。それは疑念のこもった眼。俺とアニの事を見定めようとしているかのような目だ。
信用する事ができない、か。だったら信用を勝ち取るしかないな。それができなければお終いなんだから。
「分かりました。でしたら、俺に話せることは全てお話しします」
「・・・・・・そうか。では早速聞かせてくれ。君の話を」
俺は頷き、転生してから今日までの事を嘘偽りなく話した。もちろん転生や原作知識の事は伏せて。
その間、ひたすら手帳にペンを走らせていたハンジさん以外は皆表情を変えることなく時が過ぎていった。
「───以上が、今日までの俺の行動です」
やがて一通り話し終えると、団長が一瞬だけ目を瞑り、ゆっくりと口を開く。
「やはり、人類は滅んでなどいなかった・・・・・・」
そう呟く団長の口元には、深い笑みが段々と広がっていた。
今まで見たことが無い、好奇心に満ちた子供のような表情には隣のアニも驚いている。
「オイ、何笑ってやがる」
「ああ、すまない。長年探し求めていた答えが見つかって思わず・・・・・・な」
兵長の言葉で我に返ったのか、今度は穏やかな微笑みを浮かべて団長はある一点を見つめる。
あれは・・・本だ。
隙間なく詰まった本棚の中に一冊だけ、明らかに装丁が違う本があった。
「歴史書、ですか」
訓練兵時代に見覚えのあった、その本の名を口にする。
座学でみっちり聞かされたっけな。俺達の先祖がどうやって壁を築き、今の社会構造を作り上げたのか。
「ああ。だがその内容は偽りだった。君の話を聞いて分かったよ。父の仮説は正しかったのだと」
すると、団長はゆっくりと立ち上がり、本棚から歴史書を取り出した。
そして表紙をこちらへ見せながら、目を輝かせて再び口を開く。
「この本にはこうある。壁内に逃れた人類以外は皆、巨人に殺されたと。・・・・・・妙だとは思わないか。一体誰がどうやってそれを確かめたというのか。だから私は父にその事を尋ねたんだ。そして帰ってきた答えが、『人類は記憶を改ざんされているのではないか』というものだった」
「記憶の、改ざん・・・」
「壁内に逃げ延びた人類がいたのなら、彼らが残した外に関する記録がなければおかしいだろう。だがそんなモノは私が知る限り残っていない。そして私が今の話を外で口にしたせいで……父は死んだ」
団長が声色を変えずに言い切ると、部屋の空気が一層張り詰める。
その疑惑ももっともだ。流石に団長もハッキリと明言はしていないが、憲兵に殺されたとあっては不信感を抱いて当然だろう。
「だから、答えを探し求めていたんですね」
「そうだ。それが私の戦う理由だからな」
すると団長は本を棚に戻し、今度はアニの前に歩み寄っていく。
「アニ・レオンハート」
名を呼ばれ、アニは腰の後ろで手を組み団長へ目を向けた。
「改めて問う。君は……何者だ」
それは、俺たちが兵士になった日にされるはずだった質問。免除という形で答えることのなかった問いが、今投げかけられた。
「私は、」
そう言いかけて、アニは俺を一瞥し僅かに目線を下げる。
「───私は、座標を奪還し壁内人類を滅ぼす為に選ばれた戦士……のなり損ないです」
言い切った。
アニは自身の正体を打ち明けたのだ。その立ち姿は堂々としていて、二人きりで話していた時の迷いは微塵も感じられなかった。
「なり損ない、とは?」
「与えられた任務を果たせず、更には仲間を裏切ってここへ来た自分を戦士とは呼べないので」
顔色一つ変えずに答えるアニを、団長もまた無表情のまま見つめる。
「そうか」
そう短く一言呟いて、団長は自らの椅子へ再度腰掛けた。
すると今度は机上にある手帳を開き、羽ペンを手に取って顔を上げる。
「では、改めて話を聞かせて貰おうと思う。────但し、私が聞いた事にのみ答えて欲しい」
「…はい」
それから十数分間、アニへの聞き取りが行われた。
座標とは何なのか、なぜエレンを狙うのか。
ウォールマリア陥落時の事やトロスト区奪還作戦の事などその内容はかなり断片的で、アニの答えからさらに掘り下げた質問をすることは一切なかった。
「では最後に、前回の壁外調査の事でいくつか聞かせて貰う」
そう告げながら団長はアニと俺へ順に目を向ける。
「……だが、その前に話しておかなければな。あの時、巨大樹の森で何が起きたのか」
有り難い。元々この場で聞くつもりだったが団長の方から話してくれるとは。
・・・・・・ん?
ふと隣に目をやると、アニが何故か気まずそうに目を伏せていた。
その姿はまるで、何か後悔をしているかのように見える。
まさかあの後……いや、話を聞けばわかるか。
「まず前回の壁外調査の目的について、表向きにはシガンシナ区奪還における移動経路の確保だと伝えていたが、実際は兵団に潜り込んだ敵を誘い出し捕らえる事だったのだ。」
団長が言い切ると、隣のハンジさんが表情をわずかに曇らせながら前に出てくる。
「その為の捕獲装置も私の分隊で用意していたんだけど、グラントも知っての通り壊されてしまってね。エルヴィンの作戦通り誘い込めてた筈が、まさか対応してくるなんて思わなかったよ」
「対応って、一体何が」
気づいた時にはそう尋ねていた。これは純粋な興味もあるが、一体どうやってあのワイヤーの雨を搔い潜ったのだろう。
「そいつは俺が話す」
すると、俺の後ろにいた兵長が口を開いた。ナイフは依然として俺の首に宛がわれたままだ。
「俺の班は女型を誘い込む囮の役だったんだが、逃げる途中で確認した女型の様子が妙でな」
そこまで言って兵長は一度口をつぐむ。
俺は一瞬、アニの方へ顔を向けた。さっき兵長が睨んでいたように見えたから。
見えた限りではそこまで顔色が悪いという事はなかったが、決していいとはいえなさそうだった。
一応、気にかけた方がいいだろうな。
「女型の目は俺たちを見ていなかった。グラントの話を信じるならエレンの誘拐をやめて逃げる方に切り替えたんだろう。その証拠にいきなり加速しやがったからな」
俺は思わず安堵した。
あの場にアニが来てくれた時点でわかってはいたが、そう思わずにはいられない。確かに俺の言葉が届いたんだと。
「合流地点を過ぎた時、作戦通りエルヴィンは合図を出した。だが女型は捕獲装置のワイヤーを硬質化で防ぎ切り、逆に装置をぶっ壊して逃走した。そいつを追いかけようとしたエレンを俺が気絶させた事で、あの光景が出来上がった訳だ」
「なるほど、そういう経緯が・・・・・・」
まさか防ぎ切ったとは。俺と何度も手を合わせた事もあるのか原作よりずっと強いじゃないか。
「あの、何故兵長はエレンを止めたんでしょうか。俺が言うのもどうかと思いますが、あの時はアニを逃がす訳には行かなかった筈です」
俺は早速説明されなかった所をつつく。
今までの話から想像は付いてるが、俺からそれを言うのも気が引けるからここは兵長の口を借りよう。
「簡単な事だ。エレンが狙いだと思っていた女型がそのエレンを無視した。ここから何が起きるかもわからん状況で深追いさせるわけがねえだろ。それにエレンの奴は我を忘れていた。その状態で戦っても勝てんと判断したからだ」
「エレンが我を忘れていた、というのは?」
「・・・・・・殺したからだ。女型が、てめぇを足止めしようとした兵士を」
そうじゃないかとは、思っていた。
女型が加速したなら、当然少しでもその足を止めさせようと動いた兵士がいた筈だ。彼らがその命を散らす姿を何度も目にしているだろうし、エレンなら無理もない……が、我を忘れるほどだろうか。
「後から分かったことだけど、殺された兵士の中にエレンや君達と同じ104期の子がいたんだよ。どうやら彼は、エレンの知り合いだったらしい」
「そう、だったんですか」
ハンジさんの補足に俺は一瞬血の気が引いたが、最後まで聞いて思わず溜息が漏れた。
言い方から察するに、俺が知る「皆」の中に犠牲者はいなかったという事だ。
正直、良かったと思ってしまった自分が憎い。仲間が死んだ事に変わりはないのに。
「説明が済んだ所で、早速質問に入ろう」
俯く俺を横目に、エルヴィン団長は淡々と話を進めていく。
それからまた数分間、投石の事や俺と戦った時の事など、質問というより事実確認程度の問答が続いた。
俺はその間、淡々としながらも明らかに顔色が悪いアニの姿に目を離せなかった。まるで言わなかったことを後悔しているかのような、悲痛な表情をしていたから。
だから、途中でアニはこちらを一瞥した時、俺は出来る限り優しく微笑んでみせたのだった。
「これで質問は以上だ。協力に感謝する」
すべての質問が終わり、団長はその言葉と共に開いていた手帳を閉じる。そして三度立ち上がり、俺たちの目の前に立った。
「リヴァイ、ナイフを離してやってくれ。もう警戒することはない」
「……了解だ」
すると、兵長はどこか不服そうに俺から離れる。この場を乗り切れたという達成感からか、ふと体の力が僅かに抜けた。
「君達の今後についてだが、私から一つ提案がある」
その言葉を聞いて俺とアニはほぼ同時、早く続きを言えと言わんばかりに団長の眼を見た。
「我々調査兵団の、次の作戦に協力してほしい。結果次第で君達の身の安全を保障しよう」
「身の安全……」
「そうだ。作戦が終われば君たちは裁判にかけられる事になる。そこでエレン同様、我々の下で身柄を預かれる様に動くと約束する」
協力してほしい、と言うがそもそもその為に来ている俺達に選択肢なんて物はない。
アニに頷きながら目配せしつつ、俺は握り締めた右拳を左胸に当てる。
「──ありがとう」
それを見た団長は、ほんの僅かに口元を緩めていた。
大変長らくお待たせし申し訳ありません。
本当はウトガルド城編の触りまで書きたかったのですが、ボリュームを考えた結果ここで切ることにしました。
この先はある程度プロットが仕上がってるので早めに更新できる見込みです。