進撃ロスのサラリーマン、転生し超大型巨人を継承する 作:ダブドラ
まずは3000UA&お気に入り80突破ありがとうございます。
思っていたより沢山の方に読んでいただけて嬉しく思います。
今回も構成の都合で短いですが楽しんでいただけたら幸いです。
「うおおおおッ!!」
木製の短刀を片手に持ち、雄叫びを上げながらライナーはこちらへ突っ込んでくる。
対する俺は、それを迎え撃つべく構えを取った。
軽く握った左手を前に突き出し、握り拳にした右手を胸の前に置く。
俺が一番手を出しやすい構えだ。
今、俺達104期は対人格闘訓練の真っ最中。
内容はシンプルで、二人組がならず者と兵士の役に分かれて組手をするというもの。
そして俺はというと、ライナーに誘われて早速組手をしている所だ。
「はあッ!」
ライナーは俺の眼前まで迫ると、右腕を引きナイフを突き出そうとする。
いや、ブラフだ。
直後、ライナーは腕を引いた姿勢のまま、左足を軸に体を傾けてタックルを仕掛けてきた。
もしここで短刀を奪い取ろうとしていたら、俺はまんまと餌食になっていただろう。
だがそうはいかない。
俺は上体を左に捻ってそれを避け、ガラ空きの脇腹目掛けて固く握った右の拳を捩じ込んだ。
「がっ・・・・・・!?」
するとライナーは苦悶の表情を浮かべる。
俺はすかさず背後に回り、首を掴みながら足を引っ掛けて押し倒す。そしてうつ伏せ状態のライナーから短刀を取り上げるのだった。
「悪い、つい力が入り過ぎた。大丈夫か?」
「ゲホッ、・・・・・・ああ。にしても驚いたぜ。お前がこんなに強かったなんてな」
「そりゃ俺だって鍛えてたんだ。果たさなきゃいけない約束があるから」
◇
約一年。
訓練兵団に入団するまで、俺はリコさんに鍛えてもらった。
流石に格闘技の経験がない素人相手にいきなり組手、という訳にもいかないので、初めは体力づくりからだったが。
座学と並行しての筋トレをこなし、ある程度身体が出来上がってからは徹底的に組手を繰り返した。
リコさんはそれはもう強かった。
本人は謙遜していたが、俺からすればそんな事はまるでない。
その証拠に俺は何度も殴られ、蹴られ、投げられて常にボロボロになっていた。
「立て、グラント。 兵士の訓練は比にならん程に過酷なんだ。私の特訓を乗り越えられない様じゃ、直ぐについていけなくなるぞ」
泥だらけで地べたを這う俺に、リコさんは容赦なく言葉をぶつけて来る。
それでも俺は立ち上がった。倒れる度に何度も、何度も。
「良いぞ!そうだ、その動きだ!」
次第に俺は背が伸び、投げられる回数も少なくなっていた。リコさん相手でも徐々についていける様になったのだ。
そして、訓練兵団に入団する数日前。
リコさんから、公務の事情で一時的にトロスト区を離れる為、特訓に付き合えるのは今日が最後だと告げられた。
俺はその日が来てしまった事を名残惜しく感じ、それが顔に出ていたのかもしれない。
やれやれ、とリコさんは俺の肩に手を置くと、呆れ混じりの笑みを浮かべたのだ。
「全く、そんな顔をするな。さっき言っただろ、一時的に離れるだけだ」
リコさんは肩から手を離すと、 腕を組み右手を顎に当てて言った。
「だからまた会えるさ。・・・・・・そうだな。その時が来たら、立派な兵士になった所を見せてもらおうか」
リコさんからすれば俺を励まそうとして言っただけかもしれない。だがその一言が、俺にとって最初に果たさなくてはならない目標となっていたんだ。
◇
「・・・グラント?」
「ん、ああ悪い。ちょっと昔を思い出してた」
いかんいかん。ついあの時の事を考えてボーっとしてしまった。
「そうか。それより見てみろよ」
我に返った俺に対し、ライナーは肩を組んでとある人物を指差す。
それはアニだった。
他の同期たちが訓練に取り組んでいる中で、その間を縫うように一人で歩いている。
「アニの奴、上手く教官の目をやり過ごしてるぜ」
「あれで良くバレてないな」
「感心はするが、不真面目な奴を放っておく訳にもいかんだろう」
「おいライナー、何する気だ?」
俺が問い掛けるも、ライナーは何も言わず、ニヤリと笑ってアニの方へ行ってしまった。
・・・・・・原作通りならば嫌な予感がするぞ。
とはいえ、この場に留まってもシャーディス教官に怒鳴られる未来しか見えないし、ついて行った方が良いな。
「アニ、何やってるんだ?」
「・・・別に何も」
「そりゃそうだ、サボってるんだもんな」
俺が追いついた時、既にライナーはアニへ声をかけていた。そして案の定というべきか、不機嫌を前面に出してアニはライナーを睨みつけている。
「サボってない」
「いやどう見てもサボって・・・・・・うおっ!?」
すると、アニはライナーに反論しながら自らの後ろを指す。見るとそこには、ひっくり返ったエレンの姿があった。
驚くライナーの横で、俺はエレンに話しかける。
「エレン、一体何があったんだ?」
「グラント・・・気をつけろ、アニの奴マジで強いぞ」
「お、おお、そうなのか」
「ああ。まるで歯が立たなかった。気がついたら投げられてたよ」
エレンは真剣な顔で言うが、一貫してひっくり返った姿勢のままなので絵面が何ともシュールだ。
危ない、笑うな俺。
「というか、何でエレンがアニと?」
「元々は別の奴とやってたんだが、偶々アニが組手してる所を見かけたんだ。そしたらすげぇ技術だったから教えて欲しいと思ってな。挑んだ結果がこのザマだ」
「アニ、お前ちゃんとやってたのか」
「だから言ったでしょ。まぁ厳密には絡んできた男を投げただけで、組手をしてたって訳じゃないけど」
エレンの話を聞いてライナーは発言を訂正し、アニはため息混じりに言い返す。
あのアニに絡みに行く輩なんていたのか・・・・・・。
「そういや、お前らもアニに挑みに来たのか?」
「え、いや俺は」
「その通りだ。不真面目なアニに兵士の責任って奴を教えてやろうと思ってな」
俺が否定しようとした所を遮り、ライナーは堂々と言い切ってみせる。ちなみに、アニは相変わらず不機嫌そうだ。
「へぇ、なら教えてよ。その責任ってのを」
「ああ良いぞ。俺がならず者をやる。合図をしたら襲いかかるからな」
「本当にやるのか? ライナー」
一応、無駄とわかった上で聞いてみる。おそらく今のライナーであればここで引くなんてしないだろうが。
「良いかグラント。兵士にはやらなきゃならない時がある。
────今がその時だ!!」
そして、威勢良く言い放ったライナーの大きな身体が、宙を舞った。
「食い気味にいったな・・・・・・」
エレンの隣で同じ様にひっくり返るライナーに目を向けながら、俺は呟く。
アニの動きは正直見惚れる程の素早さだった。何をどうやったのか辛うじて見えたレベルだ。
「アンタは?」
「え?」
「やらないの?遠慮しなくてもいいよ」
「・・・・・・なら手合わせ願おうかな」
ふと放たれたアニからの問いかけを俺は承諾してしまった。本当はそんなつもりじゃなかったが、倒れている二人の視線が断れない空気を生み出していたからだ。
後は正直、少なからず興味もあった。今の俺がアニに何処まで通用するか試してみたいと思ったんだ。
「じゃあ、はい」
するとアニが短刀を投げ渡してくる。どうやら俺がならず者をやれ、と言うことらしい。
まぁ、流れからしてそうだろうとは思っていたが。
おっと、言い忘れていたがこの訓練には勝利条件が設定されている。
兵士側は原作でも出ている通り短刀を取り上げる事。対してならず者は兵士を組み伏せて短刀を突きつける事だ。
当然だが、そもそも兵士を鍛える訓練なので最終的には兵士側に勝たせているペアが多い。本気で勝負しているのは一部の真面目な連中だ。
・・・・・・今回は真面目な方に入るだろうな。
俺が短刀を構えて向き直ると、アニは既に構えていた。
両手を顔の横に上げて、右足を後ろに引き、いつでもどうぞと言わんばかりにこちらを見ている。
「いくぞ!」
俺は右手に短刀を握り締めて駆け出した。
そしてある程度距離が詰まって来た瞬間、アニが動き出す。上げていた左手で殴ると見せかけてローキックを放ってきたのだ。
俺はそれが当たる寸前に右足を引いて躱し、再び踏み込んで右の拳を真っ直ぐ振るう。しかしアニの左腕で防がれ、逆に腕を掴まれた。
ぐっ、やっぱり速い・・・!
「皮肉だと思わない? 巨人から離れる為に巨人を殺す術を磨いてるなんて」
「・・・っ!」
俺はアニの言葉を聞いて、一瞬だが動きが鈍った。それを見逃さなかったアニは俺の首に左手を引っ掛けて背後に回る。
二人と同様に俺の事も投げるつもりか。
どうする?このままじゃライナーの二の舞だぞ。
何か突破口は無いかと考えたが、首をガッチリと抑えられていて動かない。何か、何かないのか・・・!?。
すると、不意に地面を踏む音と体重が乗せられる感触がする。おそらくアニが足を振りかぶったんだ。投げられるまでもう数秒もない。
やがて俺の身体が後へと倒れていく最中、とある考えが脳内を巡った。
俺は迷う事なく掴まれた腕でアニの肩を前から掴み、左斜め前に体を傾けながら大きく前に左足を踏み出す。
そしてそのまま自身の右太腿にアニの体を乗せる様に引っ掛け、前方へ投げたのだった。
地面に背をつけたアニに対して、俺は残心のつもりで兵服の上着を掴んでいた手を離し、左手に持ち替えていた短刀を突きつけた。
「・・・・・・」
すると、アニはぽかんと口を開け目を見開いており、衝撃を受けているように見える。
「アニに、勝った・・・」
目の前の光景にライナーはそう零し、エレンは無言でこっちを見ている。
一先ず俺はアニから手を離して立ち上がると、アニもまたゆっくりと立ち上がった。
「俺の勝ち、でいいのかな・・・?」
「良いと思うよ。私に短刀を突きつけたんだから」
アニの発言が、俺は正直意外だった。
思っていたより潔く負けを認めたからだ。その表情はずっと真顔であるため本心までは分からないが。
あのアニ・レオンハートに勝った。
そう心の中で言い聞かせても実感は湧いてこない。作中トップクラスの近接戦闘力を持つアニに勝っただなんて。
「まさか先に投げられるとは思ってなかったよ。それに初撃の蹴りも避けられたし、今回は私の負け」
「俺も上手くいくとは思ってなかった。それに策が浮かんだのはあの二人のお陰だ。先に戦ってくれた事でアニの技を事前に見られた」
「・・・・・・そう」
「あ、所で“今回は”って」
話の流れで俺は、一点引っかかった箇所を指摘する。するとアニは表情を変えずにこちらへ近寄りこう言った。
「次の対人格闘訓練でまた相手して。今度は勝つから」
俺はその一言に、これまでで一番と言ってもいい程の衝撃を受けた。
アニって、案外負けず嫌いなのか・・・・・・。
「グラント!!」
それからその場を去っていくアニの背中を目で追っていると、横から大きな声でエレンに呼ばれる。
「お前凄ぇな!アニに勝っちまうなんてよ! あの投げなんてどうやったんだ?」
キラキラと目を輝かせながら詰め寄ってくるエレン。ちなみにライナーは後で気圧されていた。
「運が良かったんだよ。最初とか二番目にやってたら勝てなかった」
「要するに俺達が体を張ったお陰でもあるって事だな」
「ははっ、実際その通りかもな。ありがとうライナー、エレン」
「おい止せ、そこはツッコむ所だろう。肯定されるとは思わなかったぜ」
「そんな事より投げだ投げ! さっきグラントがアニにやってたやつ、俺にも教えてくれよ!」
そんなこんなで質問攻めにされながら、俺は訓練を終えた。
この後、食事中にエレンから弟子入りをせがまれたり、エレン経由で事情を知ったアルミンから再び質問攻めにされたり、揉め出したエレンとジャンを制圧したり。
色々とあったが充実した一時だった。
その日はもうアニとは顔を合わせる事もなかったが、エレン曰く『負けたことを気にしているのかもしれないぞ』と言ったライナーの脛を思い切り蹴っていたらしいので大丈夫だろう。
ただ手合わせの最中、『皮肉じゃない?』と話し出したアニの何処か悲しげな表情が、俺の脳裏から離れなかった。
アニの格闘技文字に起こすの難しい・・・。
次回は全編アニとライナー視点になります。
また、次回の後書きでシャーディス教官のオリ主に対する評価を公開するのでお楽しみに。