頭に感じる金属の質感。
心を蝕む絶望。感情を、意識を、自我を放棄して佇む。そうする他なかったから。
そして躊躇なくトリガーが引かれ............はしなかった。
「やあやあ。魔王少女アリエルちゃん、美幼女の危機に華麗に参上!」
場違いでふざけた声に、空気が凍りつく。
一先ず目の前の女の注意はそっちに向いた。
「アリエル..................か??」
「そうだって言ってるじゃん。なんで語尾が疑問形なの?」
フードの女と変な女が対峙する。
配下たちは上の指示を仰ぐが、返答は『無視』だった。
「ふむ。この体では鑑定が使えないのが痛いな。本物なのか、偽物なのかがわからん。」
「本物ですー。むしろ他人の体使ってる偽物に言われたくないですー。」
「これは耳が痛いな。」
フードの女と変な女の間で動きがあった。
「でさあ、ポティマス君、いや、今はちゃんか。どうして君ここにいるの?」
「さて。なぜだろうな?」
フードの女が惚けた瞬間、明確に空気が変わった。
「──さっさと吐け。」
何が起こったのか、理解できなかった。
突如轟音と衝撃が吹き荒れ、咄嗟に目をつぶった。
次に目を開けた時には配下は全滅していて、血の染みだけがそこにあった。
「本物か。」
「最初からわかってるでしょ? さあ、吐け。」
「どうやら、根幹は変わっていないらしい。どういう風の吹き回しであのような阿呆を演じているのか知らんが。これはいささか分が悪いな。」
「分かったなら無駄な抵抗なく目的を吐いてもらおうか? それとも強制的に吐かされたい?」
「どちらも断る。」
次に起こった出来事は私の想像を超えていた。
フードの女が自らの頭を魔法で吹き飛ばしたのだ。
頭部が粉砕され、路傍に転がるデュラハン状態の女の死体。
「チッ! 他人の体だからって好き勝手やりやがって。」
変な女が吐き捨てる。
けど、こちらを振り向いた時には、その強烈で恐ろしい存在感は既に霧散していた。
「さて────無事かい?」
気軽に話しかけてくる変な女。
いつの間にか回復していたメラゾフィスが立ち上がり、スッと私を守るように立ち塞がる。
「ああ。別に警戒しなくていいよ。そもそも警戒するだけ無駄だし」
その言葉の途端、なんだか甘い香りがしてきた。
同時に、眠気が襲ってくる。
慌てて息を止める。
これ、眠りに誘う魔法だ......!!
私は状態異常耐性の効果で耐えられたけど、メラゾフィスは耐えられずに路面に倒れこんだ。
でも耐えられるのもほんの僅かな時間だけ。
襲いかかってくる眠気で、力が抜けていく。あぁ......。
《熟練度が一定に達しました。スキル『状態異常耐性LV3』が『状態異常耐性LV4』になりました》
スキルのレベルが上がり、持ち直す......かと思われたが。
そんな小細工にもならない抵抗では抗いきれず、結局意識を失った。
あれから色々あった。目覚めたら森の中で、落ち着く余裕もなく色々と教えられた。
あの蜘蛛の魔物の正体が若葉姫色──今は白織──だったり、変な女ことアリエルさんは魔王だったり、転生者ってことがメラゾフィスにバレたり。それだけで十分すぎるほど大波乱だけど。
その後は......寝落ちしてしまったようだ。
目が覚めた私は眠っているメラゾフィスを起こさないようにそーっとテントから出て、朝日もまだ出ていない空を眺めながら伸びをする。
ふぁ............
するとスキル『睡眠無効』によって夜通し番をしていたアリエルさんが、私が起きたのに気づき質問タイムを設けてくれた。
気は進まないけど聞かなきゃいけない。
そう覚悟はしていたものの、回答はやはり悲しい現実だった。
街はオウツ国、というか神言教に占拠され、多くの人が死んだ。
その裏にいた転生者を狙う2つの勢力。片方は女神教を敵とし憎む神言教、もう片方はエルフ。
どうやらエルフは私のイメージのような神聖なものじゃないらしい。
少なくともアリエルさんは大嫌いみたいだ。
腐りきった碌でもないドクズ、世界の害悪だと断言してたし。
でも問題はそこじゃない。
その後アリエルさんが言った、神言教もエルフも転生者を狙って襲ってきた可能性があるという言葉に私は凍りついた。
だってそれって、街が襲われたのは私のせいってことじゃない......!?
「わたしの、せい........................」
「うーん......気にしないでって言っても難しいだろうけど、今回のことは世界規模の話。そんな大きなことを変えるなんて君にはできない。人間、出来ることとできないことがあるんだし、今回のことはどうしようもなかったって諦めたほうがいい。」
(そう簡単に、割り切れるものじゃない......)
私のせい。その言葉が頭の中でなんども反響する。繰り返して繰り返して繰り返して繰り返す。
......だって。だって!
目の前で、多くの人が血を流した!私の為に死んだ!
命が、失われて、父の、母の、友達の命を犠牲に!私なんかが!ああ......!
混乱。というか狂乱。体が、頭が震える。恐怖で、自責で、震える........................っ!
そんな私をみて、アリエルさんがゆっくり瞑目。それから一息ついて、言った。
「重要なのは、それからどうするか......だよ。今回はどうしようもなかった。起こったことは変えられない。じゃあ、同じようなことが起きた時、今回と同じ結果になるのをただぼーっと見てるだけなのか、それとも抗うのか。君なら............どっちを選択する?」
(抗います!)
即答する。
そうだ。
こんな理不尽なこと、もう繰り返させない。
「じゃあ、抗うためにどう行動する?今のままじゃ、結果は同じ。そのどう行動するかこそが、重要なんだよ。落ち込んでもいいし、悩んでもいい。ただ、抗うと決めたのなら、立ち止まってちゃいけない。」
そうだ。
その通りだ。
いつまでも立ち止まってなんていられない。
殉じたみんなに誇れるように、前へ進もう。
朝日が昇ってきた。
眩しい。吸血鬼は日光が弱点だ。だからこうして涙が滲むのも、朝日のせい。
目元をそっと拭う。
決意がみなぎった。