結局、発動したら自爆するようなスキルでもないようだし、特に不利益がない以上考えても仕方ないと結論づけ、一旦謎のスキルのことは忘れて世界への適応を優先させることにした。
それから更に時が過ぎ......
今の私の身体は1歳くらいだ。
不完全ながらも言葉を話したり立って歩くことができるようになり、かなり人間らしさを取り戻せた気がする。
身体、特に脳の発達が早かったのだろうかなどと思ったりもしたが、真偽は不明だ。
そして、散歩と称して外を出歩けるようになった。
これにより人と交流することができるようになり、結果かなりの知識がついた。
どうやら私はサリエーラ国ケレン領という場所に生まれたらしい。
生まれてから少しも移動していないため必然的に現在地はそこになるが、なんだか貴族の住む街という感じでよさげな土地に見える。一歩街の外に出れば魔物が跋扈する治安ではあるが、だからこそ辺境の村などよりも、しっかりした防衛機構のある街で良かったと思う。
また、この国では女神教という宗教が根付いており、この街の誰もがその信者だ。
教義は「スキルを捧げよ、さすれば救われる」というもの。
「スキル消去」というスキルを使って自分の力を女神に捧げると、女神が救済を齎してくれるらしい。理解しがたいが、宗教なのだしそういうものだろう。
なにより、1年間様子を見て聞いていれば嫌でも慣れる。それに、宗教と聞いて抱くイメージほどヤバい人々が集まっているわけでもない。まぁ考えてみれば仮にも世界的な宗教、元の世界の怪しいカルトなんかとは違うということだろう。
最近はその女神様の使いの神獣が現れたとかで、一騒ぎあった。
そんなことはどうでもいい。
今大事なのは、この領地を統括している真面目で頼りになるケレンという貴族。
その家にいる私と同年齢の娘が転生者の可能性があるということだ。
荒唐無稽かもしれないが、根拠はある。どうやらその娘は天才で、生まれた時から鑑定を使っていたと。更に、おとなしくて育成に手がかからず、加えて昼に寝て夜に起き、そして本が好きで読み漁っていると。いくら世界が違うとはいえ、1歳の赤子にそんな天才的能力があるだろうか?それも複数。特に、医者を呼ぶレベルの鑑定酔いになる程鑑定を発動していることに関しては情報を求めている私と状況が似ている。
そんなこともあり、かなり気にかけていた。
なのでどうすれば接触の機会を得られるか考えていたのだが............
はい。現在、目の前にケレン娘(仮称)がいる。
急遽連れ出され、着いた先が伯爵の屋敷だった時はとても驚愕したのだが、どうやら家族間で話し合いがあったらしい。
どちらから働きかけたのかは不明だが、同年齢の子供同士で交流をさせたいと。
私の家は身分が高いわけでもないので政略結婚みたいな政治的意図は考えにくいし、あの親の溺愛っぷりを見るに純粋な好意だと捉えておく。
その方が余計なことを考えないで済み、精神衛生上いい。
さて、そんなことを長々と説いたのは現実逃避のためだ。
先程からお互い無言のままじぃーーっっっと見つめあい、気まずい時間が流れている。
埒が開かないと思い、意を決し口を開きかけ......相手の口が動くのが見え、慌てて口を噤んだ。
それは相手もそうだったようで、再び訪れる沈黙。
もうおわかりだろう。明らかに1歳の子供ではない。
「お、ぅおしゃきにどうじょ......」
先手を譲る。怖気付いたわけでは断じてない。
「ざ............そっとくに、ゆーわ............」
相手が言いかけてまた黙る。
子供の身体ではうまく呂律が回らないことに気づいてしまった。
これではうまく会話ができない。
......仕方ない、存在だけは知っていたあのスキルを使おう。
うまく使えるといいが......
《現在所持スキルポイントは38200です。
スキル『念話』をスキルポイント400使用して取得可能です。
取得しますか?》
取得する、を選択。
《『念話』を取得しました。残りスキルポイント37800です》
早速念話を繋ぐ。
(こ、こんにちは......)
(うわぁ!?なにこれ!?)
脳内に声が響く。轟く。つんざく。
お、音圧がすごい......!
(スキルを使って念話を繋ぎました。テレパシーみたいなもの、です。)
(テレパシー......?そんなバカな、ってまぁ魔法とかあるし今更か。)
目を白黒させていた娘(仮)は落ち着きを取り戻し、先ほど問おうとしていた疑問を投げてくる。
(気を取り直して単刀直入に訊くわ。あなた、転生者よね?)
突如視線が冷たくなる。目を細め睨まれる。圧がかかる。
(一体誰なの?前世の名前を言いなさい!)
(私は平紫月......です。ええと、あなたは......?)
「あぁ......なんだ、平か......」
彼女は小さな声でなにか呟き、息をつく。
そして少し力なさげに言った。
(私は......根岸彰子。びっくりでしょう?)
根岸彰子。
その名前は驚きだった。あのいじめられっ子が貴族令嬢に転生するとは。
私は瞑目し、彼女が今度は良き人生を歩めることを祈る。
にしても......やはり、他のクラスメイトも転生していると考えて良いのだろうか。
ここは過酷な世界だ。大丈夫だろうか......転生したとしても、すでに死んでいる可能性も............
いや、今は懐かしき出会いに注目すべきだ。
不安を振り払い、先ほどの言葉に返答する。
(はい。驚きました......とても。)
(......中身があんたでよかったわ。)
(それは、どういう......?)
(......ふん。そんなことより、どう、この世界。)
(そうですね......)
こうして、私たちは他愛のない話や情報交換をして過ごした。平穏で楽しい時間だった。
ソフィアさんも元気そうに過ごしているのを見て安心した。
あ、この呼び方は本人から「絶対前世の名前で呼ばないで」と強く希望されたのでそうしている。追加で敬語を外すことも頼まれたのだがそれはできない頼みだ。
他のクラスメイトもいるのならいつか会いたいものだ......。
どうやら転生者には例の文字化けスキルが付与されるらしいので、今後は積極的に探していこうと思う。
遭遇は偶然、転生者だと気づいたのは赤子らしからぬ挙動から。