響き渡る爆音。燃え上がる家屋。
吹き荒れる爆風とつんざく悲鳴。
平穏が崩れ落ちる光景が目に焼きつく。平穏が砕け散る音が耳に残る。
決して脳から離れない非情で残酷な現実。
私は初めて、本当の地獄絵図を目の当たりにしていた。
どうして、こうなった。
きっかけは少し前に遡る。
ある日、とあるおじさんが現れた。
そのおじさんは隣のオウツ国の貴族で、頻繁に暴言を吐くし自分のことを棚にあげるし、いかにも傲慢な貴族という様子だった。
正直不快なことこの上ないが、如何せん権力と金だけはあってどうしようもない。
街の皆もとても迷惑しているが、何も文句を言えない状態が続いた。
できることといえば、遠くから冷ややかな目線を浴びせつつさっさと帰るのを祈ることだけ。
しばらくして、そうしてやりたい放題していたおじさんが死んだ。唐突に。
勿論街はその噂で持ちきりだった。
話を聞くと、聖獣の逆鱗に触れた天罰らしい。
聖獣というのは1年前くらいにこの街に現れ住み着いた非常に強力な蜘蛛の魔物のことで、人語を解し、果実と引き換えに救済を施す女神の遣いらしい。知性を持つ魔物。危険な気もするが、実際に多くの人が治療をしてもらっている上に今までこちらに危害を加える様子がない以上非難できない。
実際スキルだとか転生だとかが存在するし、神も本当に存在する可能性がある。
そう考えると、女神の使いでもおかしくはない。
......話が逸れた。
その蜘蛛の魔物に対して、不遜にもちょっかいをかけていたおじさんは怒りを買い死亡。
それだけなら自業自得なのだが、問題が1つ。
それは、おじさんが他国の貴族だったこと。
他国に外交に向かわせていた貴族が殺されれば、外交問題だ。
そして、長らく敵対してきた国同士の間で外交問題が勃発すれば、最終的に行き着く先は戦争だ。
戦争の噂が立ち、もう止められなくなっている。
不安と怒りが伝染し、既に町中、国中が戦争ムードだ。
多くの軍人が頻繁に領主宅に出入りしている。
ああ、戦争が始まるんだ。その事実がわかっていても、実感が湧かない。
そんな私はその後の怒涛の展開に置いていかれた。
まず例の神の使いが殺された。
そのすぐ後、女神教と長らく敵対している神言教が全世界に向けて発表した。
サリエーラ国に根付いた偽りの神獣を討伐した、と。
本当に?
あの怪物を討伐できるものなのだろうか。
あれを倒せるって、英雄とか勇者とかのレベルの存在だと思うのだが。
これが世界最大の宗教の力か。だとすると、あまり敵対したくないな。
ともかく、神言教のそんな罰当たりな行動を女神教が許すはずもない。
国内での無断の武力行使、国が保護する神獣の殺害。
宗教敵のあまりの所業に、怒りを示したサリエーラ国は強く抗議、賠償を請求した。
それに対しての返答はなんと「悪しき魔物を討伐したのだから報酬を寄越せ」。
あまりにも傲ったものだった。
怒りが限界に達した女神教ことサリエーラ国は宣戦布告。
オウツ国とサリエーラ国、神言教と女神教の宗教戦争が勃発した。
早速冒険者や国の兵士などが戦争に駆り出された。
ちなみに神獣様の敵討ちということで士気は高い。
街の住民も、戦える者は皆ケレン伯爵率いる軍団となって出陣していった。勿論父もだ。
不安と恐怖を抱きながらも、私は母に手を引かれ彼らを見送った。