あれから、私は赤ん坊としての生を謳歌していた。
言語や文化、制度を本や会話から勉強した。
その過程で、襲撃されたり蜘蛛の魔物に遭ったり自分が吸血鬼であることに気づいたりしたりと、波乱が色々あったけど、なんとか頑張ってこれた。
そうした日常のある日。
父から、前々から噂になっていた子供と会うことになったと聞かされた。
その人物は私と同年齢、聡明で既に簡単な会話はできるそうだ。
加えて優秀で手がかからないとか。鑑定を持っているなんて話もある。
まさか、転生者?
いやいや、流石に妄想が飛躍しすぎよね。
はい。現在、目の前にその子がいる。
同年齢の子供同士で交流をさせたいという掛け合いがあったらしく、うちの親も好意的でこうなった。えぇ......?
さっきからお互い無言で見つめあってるんだけど......これ、どんな状況よ?
このままじゃ埒が開かない。仕方がないから話蹴ようと口を開き......相手の口が動くのが見え、慌てて口を噤んだ。それは相手もそうだったようで、再び訪れる沈黙。
これ、絶対1歳の子供じゃないわ............確実に転生者よね?
「お、ぅおしゃきにどうじょ......」
ターン譲ってきた!?まずいコミュ障がががって、そんな場合じゃない!
仕方ない。率直に問いただそう。そんでもって前世を知ってる奴だったら家の力で叩きのめす。
「ざ............そっとくに、ゆーわ............」
あっ。
そりゃそうだ、子供の身体で前までと同じように話せるわけがない。
これじゃ会話どころじゃない。
どうしたものかと考えたその時。
唐突に見知らぬ声が何処かから聞こえてきた。
驚いた私は、目を白黒させる。
(こ、こんにちは......)
(うわぁ!?なにこれ!?)
あ、目の前の子が顔を顰めている。どうしたんだろう。
(スキルを使って念話を繋ぎました。テレパシーみたいなもの、です。)
(テレパシー......?そんなバカな、ってまぁ魔法とかあるし今更か。)
少ししてなんとか落ち着きを取り戻し、先ほど問おうとしていた疑問を投げかける。
答えによっては許さないと圧をかける。
生まれ変わったのだ。もう前までのパワーバランスではない。
(気を取り直して単刀直入に訊くわ。あなた、転生者よね?)
(一体誰なの?前世の名前を言いなさい!)
少し弱々し気な返答が返ってくる。この感じ......!
(私は平紫月......です。ええと、あなたは......?)
「あぁ......なんだ、平か......」
無意識に、息をつく。
よかった。彼は信頼できる。前世の悪評を言いふらしたり、危害を加えてはこないはずだ。
安心し余裕を取り戻した私は自分も名乗ろうとして......迷う。言ってもいいものか。
でも転生者の存在を知っているとバレている以上、後に引けないし..................
一瞬だけ悶々とし、結局信頼もあって前の名前を告げた。
......あれ、思っていたよりも力無い感じになってしまった。
誤解されないだろうか............まあ平なら大丈夫か。
そう思い会話を続ける。
(はい。驚きました......とても。)
(......中身があんたでよかったわ。)
(それは、どういう......?)
(......ふん。そんなことより、どう、この世界。)
(そうですね......)
こんな感じに、他愛のない話や情報交換をして過ごした。平穏で楽しい時間だった。
平も普通に過ごしているのを見て安心した。転生したというのに平常運転すぎて怖いくらい。
結局転生直後の考えは伝えられず仕舞いだったけど。いずれ近いうちに言っておこうと決意。
あと、前世の名前で呼ぶことを固く禁止した。
追加で敬語を外すことも頼んだのだがそれは断固拒否された。なんで?
所で、この邂逅によって、他のクラスメイトもいる可能性が出てきた。
つまりは前世を知っている人間が他にも......非常にまずい。折角やり直せると思った矢先にこれだ。平はとんでもない善人だったからよかったけど......他の人の場合、なんとか黙らせないといけないわね。
少々不穏なことを考えながら、また幸せで平穏な今日を終える。
明日も同じように平穏があり続けると信じて。